86.【兎仮面再び】
ある日の夢は……
アッチノ世界にある学校の教室から始まった。
教室には生徒がたくさん座っている。
アタシも自分の席に座ろうとしたら、なぜか机がボロボロになっていた。
脚は錆びていて板はカスカス。
机が年老いたような、枯れたような…。
そんな状態になっていて驚いた。
「もうすぐ全校集会があるから、その前に一緒にトイレに行こう?」
教室にいた女子達に誘われた。
学生時代によくあるお誘い。
女子達について行くと、トイレは廊下に人が溢れ出すぐらい混んでいた。
近くに他のトイレがあったような……。
そう思って、すぐ近くの廊下を歩いていくと真っ暗なトイレがあった。
暗い場所、暗いトイレは絶対に怖そう。
何かあるのを覚悟で勢い良く扉を開けてみると、トイレの中には水着を着た女子がたくさんいた。
奥にトイレが見える。
トイレでもあって、更衣室でもあって、シャワー室でもあるような。
そんな場所だった。
ボーっとしながら待っていたら、部屋の中を行き交う女子の中に71.【真っ赤な口の兎仮面】の夢で見た兎仮面がいた。
――と思ったらいない。
兎仮面が立っているように見えた場所には、中学の時の後輩がいた。
後輩はアタシに気がつくと近づいてきた。
「先輩、何してるんですか?」
偽物みたいな笑顔を向けてきた。
「ここはアタシの夢の世界。だから色々見てみようと思って」
そう答えると後輩は不自然に首をかしげながら、アタシの背後をじっと見た。
振り返ると、なぜか外に立っていた。
学校の校舎の中にあったトイレも外にある。
扉の前にはフェンスがあって、その奥はアッチノ世界の一部が見渡せた。
崖上みたいに高い場所にいるから、見えた青空が綺麗だった。
「ここは先輩の夢の世界なんですか?」
後輩が小さく呟いた。
「そう。端から端までアタシの夢の世界。ねぇ、そういえばトイレの中に兎の仮面をつけた男の人がいなかった?」
そう聞いてみると――
「あれは先輩を追いかける存在。先輩を観察する存在」
後輩は首をかしげたまま不自然に笑った。
それが何だか怖くて、アタシは学校の外に出ようと思った。
トイレの近くに柳のような木があった。
アタシは垂れ下がったやつを掴んで、ターザンのように勢いをつけて木から木へと飛び移ってみた。
そのまま建物の屋根に登ったら、冬の空気の匂いがした。
アッチノ世界はもう冬なんだ……。
ぶら下がりながら、そんなことを思った。
「先輩ー! 集会は出ないんですかぁー?」
下で後輩が叫んでいる。
「出なーい! アタシの夢の世界だから探検してくる。そうみんなにも伝えておいて」
そう言いながら振り返ると……
後輩がいた場所には、兎仮面が首をかしげて立っていた。
後輩だと思っていたから、慌ててアタシは逃げた。
でも、自分の行きたい方向には建物がいくつも隣接していて、何度よじ登ったり飛び越えても学校の外へは出られなかった。
移動している途中に、一部分だけ屋根のない建物があった。
何かの発表会とか、外国人が選挙演説とかをやりそうな小さなホールが屋根の隙間から見えた。
アッチノ世界が隠している秘密の場所、特別な場所。
なぜかそんな気がした。
もっと知らない場所を見つけたい。
そう思って、あちらこちらと見渡していたら目が覚めてしまった。
兎仮面はやっぱり何か怖い。
そう思った夢でした。