46.【黒羽根さん : 読書男子と左消して!】
ある日の出来事。
部屋に突然、兄が来た。
「そうそう! Tくん。ちょっと前にね、怖い夢を見てTくんが出てきたんだよ」
アタシはパソコンで作業をしながら
44.【ゆらゆら : 仮面道路】の話をしてみた。
「そんな怖い夢に僕が出てきたんだ? 不思議だねぇ」
そう言いながら兄はガサゴソと何かをやっている。
アタシの部屋は小さめなので、ロフトタイプのベッドを使っていて、その下に洋服をかけたり物を置いたりしている。
その洋服の奥、パイプベッドと部屋の角辺りに人一人が入れるか入れないかぐらいのスペースがあるのだけど……
兄はそこに入っていく。
「ねぇ、何してるの?」と聞くと
「ちょっとねぇ……」と言い残して兄が消えた。
え? なんで?
慌てて兄がいた場所を見ると、下へ繋がる小さな階段があった。
アタシの部屋にそんな階段はない。
そう。
現実だと思っていたこのやり取りは夢。
夢だったかー! と悔しさを噛みしめながら、恐る恐る狭い階段を下りていくと、すぐ壁にぶち当たった。
真っ暗闇の中を何かないかと手探りしていると、目の前の壁が突然開いて、前に転がるように倒れてしまった。
「やだぁー。Aちゃん何してるの?」と笑う声が聞こえてきた。
慌てて起き上がると、学校の教室みたいな場所にいた。
兄の姿はなく、振り返ると掃除道具を入れそうなロッカーの扉が開いていた。
多分、ここから出てきたんだと思うけど。
そうじゃなかったらイジメにでもあっていたんだろうか。
そんなことを考えながら教室を改めて見渡すと、壁や床だけじゃなく机や椅子も全部真っ白。
左側には大きな窓があって、外の光が入り込んだ教室は全体的に眩しかった。
席に座っていた何人かの女の子達がアタシを見てまだ笑っている。
知らない教室、知らない友達?
警戒モード全開で体育座りでいると、一人の女の子が立たせてくれた。
立ち上がると、教壇の左側に円形の小さなソファーと本棚が置いてあるのが見えた。
そのソファーに誰か座って本を読んでいると思ったら、黒羽根さんっぽく見える。
でも、また雰囲気が違う。
39.【未来ビル:メガネ男子】の夢に出てきたメガネ男子みたいな格好をしている。
メガネのレンズが陽の光に照らされていて、ここからじゃ顔がよく見えない。
似ているだけで、黒羽根さんじゃないかもしれないと思った。
それでもやっぱり読書男子に話しかけたくなって行こうとしたら……
起こしてくれた女の子がアタシの肩を強く掴んだ。
「Aちゃん、何してんの? 次の授業は移動だよ」
凄い腕力で教室の外へ出されてしまった。
背中を押されるまま廊下に出ると、すぐ横に階段があった。
その階段を下りて行くと、突然目の前に電化製品売り場が現れた。
え? なんで急に?
電化製品が売ってそうな場所って……
マネキンショッピングセンター?
そう思って振り返ると、下りてきた階段も一緒にいた女の子も消えていた。
見えるのは売り場とマネキン人形ばかり……。
やっぱりこの場所はマネキンショッピングセンターだった。
どうにかして、あの読書男子がいる教室に戻りたい。
そのことで頭がいっぱいになっていたアタシは、売り場の中を行ったり来たりしながら階段を探した。
でも、フラフラし過ぎて怖い夢になったら?と思った途端、動けなくなってしまった。
動くこともできないけど、ずっと立っていることもできなくて、見つけたベンチに座って動くマネキン人形達をボーッと見ていた。
すると、浴衣を着た女の子がアタシの前を通過した。
急いで追いかけると気付いてくれた。
「あれ? アナタまだ浴衣着てないの? もしかして会場がわからない? 教えてあげる」
このまま一人で座っているよりはマシな気がして女の子について行くと外に出た。
近くに体育館みたいな建物の入り口が見える。
もしかして、また学校に繋がっているのかも?
そんな期待を胸に中へ入ると、建物の中は体育館ではなく外だった。
室内なのに大きな木がたくさん植わっている。
床は室内スキー場みたいに丘になっていて、枯れた落ち葉がいっぱい敷き詰められていた。
体育館の中は夜なのだろうか。
真っ暗の中、教室にいた女の子達が落ち葉の上に座って何かを見ていた。
一緒になって覗いてみると、和風な色の名前と花の柄が書かれたボードがあった。
どうやら浴衣の色と柄を選んでいるようだった。
それも気になりつつ、アタシは教室にいた読書男子を必死に探す。
でも、この場にいるのは女の子ばかり。
ちょっとテンションが下がってしまって、いじけるように落ち葉を踏みしめていたら……背後から何か音がした。
振り向くと、丸刈りで小デブなオッサンがいた。
カメラ片手に近づいてくる。
「後で写真に写る時の練習しなきゃねぇ」
そう言って近づきながら写真を撮りまくるオッサン。
ボードを見ていた女の子達が逃げるように、一斉に丘を駆け降りていった。
アタシも慌てて下へ行くと、上は真っ暗なのに下は昼間のように明るかった。
昼間の暖かい風に吹かれて、落ち葉がブワッと飛んできた。
外国映画のワンシーンみたいだなぁ……。
なんて思っていたら、周りを見ると大勢いたはずの女の子達がどこにもいない。
アタシ一人だけが取り残されていた。
「そうそうそうそう! そのままの立ち位置で顔の左消して! 顔の左!」と言いながらオッサンが近づいてきた。
思わず後ずさると
「おっと。そこもいいねぇ! でも、もうちょっと顔の左消して? もうちょっとでいいから……」ってそれしか言わないオッサン。
顔の左消すってどういうことじゃ!
なんてイラッとした瞬間、目が覚めた。
顔の左消して! とはどういう意味だったのだろうか……。
そんな夢でした。