窓の向こう
感想ください。
誤字脱字、改善点などがあれば教えて下さい。
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H.W.一一八年 六月一二日 一○時○○分
ヴィークネーク駐屯地 即応作戦群群長室
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洞窟での件から三週間が経過した頃。
群長室に設置されたテレビに、ブラウン管の中で女性キャスターがニュースを読み上げていた。
『警察は本日、山岳地帯で活動していた武装犯罪組織を制圧したと発表しました。現場からは複数の女性が保護されており、警察は人身売買との関連も視野に捜査を進めています。』
執務室で書類仕事をしていたセシルは、聞き覚えのある内容に書類から顔を上げた。
報じられている内容はかなり曖昧であり、アカデミーの名前も出てはいなかった。
コンコンコン、と扉がノックされる。
「どうぞ」
言ったセシルに、入ってきたのはシェリーだった。
「放送されましたか」
来客にテレビを消そうとしたセシルに、消される前にニュース画面を見たシェリーは呟く。
「あの組織はアカデミーだったのか?」
「はい。もちろんメディアには公表していませんが」
「ふーん。それで今日はどうしたんだ? また厄介ごとでも持ってきたのか?」
セシルは、椅子にもたれかかると尋ねた。
「いえ、時間ができたので少し遊びに来ました」
「遊び?」
「はい。と言っても前回の任務の報告も兼ねてですが」
シェリーは、群長室の良い意味でも悪い意味でも常連であり、どこに何があるのかは大体把握していた。
「コーヒー飲みますか?」
「頼む」
尋ねるとその返答に、棚からカップを用意すること二人分のコーヒーを淹れる。
「どうぞ」
「ありがとう」
セシルは、机に運ばれたカップにコーヒーを一口飲んだ。
「報告の前に初には感謝をしないといけません」
「ああ、投降したやつを確保していた件か」
祭壇での戦闘後、リレアにシーナ、キリエ、エリシーは投降したアカデミーのメンバーを牢屋に拘束していた。
「はい。おかげで調査がだいぶ楽になりましたから」
シェリーは、コーヒーを一口飲むと判明している事項から話始めた。
「組織についてですが、あの組織はアカデミーで間違いありませんでした」
セシルは、それについては初からの作戦の報告書で分かっていた。
シェリーもそれは分かっていたのか簡単に流す。
「それと洞窟には警備結界は張られていなかったそうです」
「術者が死んだとかではなく?」
「はい」
「だから負けるんだ」
それは現地を調査して分かったこと。
術者が死亡すれば魔法は切れる。だが、警備結界のような重要な魔法に関しては術者の生死に依存しない仕組みが確立されている。
始まった戦争に、戦場は鉄に支配されるようになっていた。しかし、戦場から魔法が消えたかというとそうではない。むしろ逆で、増え続ける死傷者や視界外から攻撃を仕掛け来る敵に、治癒魔法や索敵魔法の需要はむしろ高まっていた。
アカデミーとは、それを軽視し時代についていけなかった者たち。
「それで?」
促したセシルに、そこからは初の報告書にはなかった内容だった。
「アカデミーは洞窟内で処女の血を使って攻撃魔法の研究開発を行っていました」
「処女?」
初の報告書でもアカデミーが女性の血を使い魔法を発動しようとしていたことまでは分かっていた。
しかし、予想もしていなかった単語が出て来たことにセシルは思わず訊き返していた。
「はい。どうやら普通の血では満足のいく結果が得られなかったらしく、そこで処女の血を使用し始めたそうです」
アカデミーも最初は女性の血を使っていた。しかし、それでは理想の威力が得られなかったことに処女の血を使用しての研究開発に移行していた。
女性の血というだけでも良い趣味をしているが、更に処女の血ともなればそれを通り越して嫌悪感を抱く。
「気持ちの悪い連中だな」
「同感です」
セシルの口を衝いて出た言葉にシェリーも共感する。
「それで威力は上がったのか?」
「それについてはわかりません」
「なんだ」
興味本位で尋ねたセシルは、その答えに落胆する。
「ですが魔法は完成していたようです」
言ったシェリーに、セシルはそれよりも別のことが気になっていた。
「それでどうやって……いや、戦争のせいか」
女性が何人も行方不明になればニュースになりそうなものだが、テレビを見ていた限りそのような事件が報じられたことはなかった。
どうやって表沙汰にもならず処女を集めたのか、尋ねようとしたセシルはそこで思い至る。
この戦争で何人の子供が親を亡くしたのか。
「はい。そこについてはイアースが関係しています」
「あのスパイが?」
「はい。イアース、本名フリッツ・バウマンはNCIAからの指示でアカデミーに女性を配達していたそうです」
バウマンは、黒のローブの集団がアカデミーであると知っていた。というよりもアカデミーだと知ったうえで接触していた。
それはNCIAの命令から。
敵の敵は味方なのだ。アカデミーは帝国に攻撃魔法を放つテロ組織であり、利用できると考えたNCIAは局員にコンタクトを取らせると人身売買という形でアカデミーの研究を手伝っていた。
NCIAの目的はアカデミーに帝都に攻撃魔法を放ってもらうこと。
「最後に、これが遊びに来た目的なのですが、アカデミーの魔法は完成していたと言いましたよね」
「ああ」
「その魔法の名前はアトミックというそうです」
「……」
セシルは、口から出そうになった言葉を飲み込む。
アカデミーがどこまで知っていたのかは、セシルには分からない。シェリーであれば知っているのかもしれないが、シェリーも同じことを思ったのだろう。
「それを知っておきながら魔法を信仰出来るとは驚きだ」
「同感です」
きっとアカデミーは信仰と言う名の魔法に掛かっていたのだろう。
嘲笑するように言ったセシルは、タバコを取り出すとライターの蓋を開けると火をつける。
「私も貰えますか?」
「禁煙しているんじゃないのか?」
「普段は吸っていないだけです」
シェリーは、タバコを受け取ると一緒に渡されたライターで火をつける。
タバコを咥えると窓の外に目をやったセシルに、シェリーも目を向ける。
青い空に広がる街の景色。だが、それらの光景は二人の目には映らない。
もっと遠く。地平線の更に向こう。
二人の目はここから何千キロと行った先に聳え建つエリシアを向いていた。




