29 お米協奏曲
エレナ視点ラストです。
ちょっと長くなりました。
私は感極まって泣いてしまった。
お米を探し出してくれた、ユリウスさんの気持ちが本当に嬉しかった。
私がえぐえぐ泣いている間、いつの間にか現れたアレン先生とユリウスさんが険悪な雰囲気に?違うか。ユリウスさんが怒られているようだ。
しゃくりながらお米を握る私を見て“お父さん”が、胸をトントン叩いて落ち着かせようとする。
私は目を見て「おとーしゃん、ありがちょー」と言った。ものすごく恥ずかしかったけど、やっと言えた。
お父さんは口元を緩ませ私を撫でながら「いいんだよ。早く良くなれ」と言ってくれた。
そのやり取りを見て、何か納得して病室を出て行くアレン先生。
その後は、どうやって食べるのかを聞かれた。売ってくれた人も知りたがっていると言う。
まず玄米から白米にしたい。ガラス瓶にいれてひたすら突くしか無いだろう。
精米機が欲しい。切実に。
白米になったら土鍋で炊きたいが、説明が難しい。実演の方が楽だ。
ならば、お粥ならいけるかも。
結局お粥までの作り方を説明した。
拙い言葉で理解してくれたお父さんは「また後で来るからな。大人しくしていろよ」と、麻袋を持って行こうとしていた。
私は咄嗟に袖を掴み「おとーしゃんもちゃんとちゃべてね」と伝えた。
多分、今日はまだ何も食べていないと思ったのだ。私の朝食も忘れたし。
「ありがとう。ちゃんと食べるよ」と顔を綻ばせて病室を出て行った。
一人になった私は、ずっと考え事をしていた。
(お米、流通してないじゃん。私が認めたからお米の存在が明らかになったって事でしょ?誰も知らなかったのかなぁ〜。なのに3歳の子供が知ってるっておかしいよね?これは何か言い訳を考えた方が良いかも知れないな…)
昼食のミルク粥を食べ、私はウトウトするうちに眠ってしまった。
新たな体でも、お昼寝は必要なようだ。
そして、体を揺すられて目を覚ました。お父さんだ。
◆◇◆◇◆◇
窓からは夕日が差し込んでいた。
「エレナ、コレ見てみ?」とローブの中からお椀が出て来た。
私は体を起こし、目を擦りながらスプーンで掬われる物を見た。
信じられない…。
「あー、こりぇ〜……」
完ペキなお粥だった。お父さんがんばってくれたんだ。私は目を見て微笑んだ。
「オカユで合ってるか?だいぶ冷めちゃったけど食べるか?」
もちろん、食べますとも。
「あちゃちゃめなおちてほちいな」私がそう言うと、お父さんは笑顔でウンウンと頭を振り、病室を出て行った。
ひたすらお米を突っついてくれたんだ。気持ちもその行動力も、私の為なんだと思うと本当に嬉しい。
私は体を起こしたままでいた事も忘れ(早くお父さん戻って来ないかなあ〜)と考えていた。
多分5分ぐらいで戻って来たと思う。それでも私には、一日待っていたかのような長さだった。
ベッドから体を起こして、ニコニコしている私を見たアレン先生が「どうした?ご機嫌じゃないか」と病室の入り口に立っていた。
すると「先生、娘が食べられそうな物を持って来たんです。食べさせても良いですか?」と、お父さんの声がした。
「おうおう、構わないぞ。ワシも見ていて良いか?」
「どうぞどうぞ」
二人の会話が終わり、病室に入って来る。
「駄目じゃないか、寝てなきゃ!」起きて待っていた私をお父さんは叱った。
焦った様子でマジックバッグから私用の厚手の上着を出して、肩に掛けてくれた。
いつの間に用意したんだろう。
上目遣いで「うれちくてちゅい…ごめんなしゃい」と謝った。
お父さんは椅子に腰掛け、マジックバッグからお椀とスプーンを取り出す。
一口掬ってふーっふーっと冷まして、私の口元に持ってくる。
「あ〜ん」と言いながら差し出されるスプーン。自分で食べられるのにぃ…と恥ずかしくなってしまった。
だが、大口を開けて食べさせてもらう。
「あ〜、おいちい〜」本当に美味しい。久しぶりのお米。すっと食べたかったお米の味は、格別に美味しかった。
私は両手を頬に当て感動していた。
「美味しいか?良かったな」と、お父さんも笑っている。
モグモグと沢山食べた。
あと少しで完食と言う所で、私のお腹がいっぱいになってしまった。
「なぁ、ワシにも食べさせて貰えるか?」とそれまで存在を忘れていたアレン先生が、お父さんからお椀をひったくり、一口分ぐらいしか無かったお粥をパクりと食べた。
「コリャ美味いな。病人にも怪我人にも食べ易いぞ。コレ何だ?」と、アレン先生が質問して来た。
お父さんが私と目を合わせ「どうする?」と聞いてくる。
私は世界にお米が広まって欲しかったから頷く事で了承し、後はお父さんにお任せした。
お父さんは言葉巧みに誘導していたようだった。
「その料理はオカユと言います。オコメと言う穀物から作ります」そこから説明するんだ。
「オカユかぁ〜。そのオコメ?とやらはどうやって手に入れた?ワシは見た事が無いぞ?」やっぱり見た事無いんだね…
「滅多に手に入らないんですよ。これが最後かも知れません…」と肩を落として俯いて見せた。ウチの父は策士なり。
アレン先生が慌てふためき「おいっそう言う事は早く言ってくれよ!ワシ食っちゃったじゃないかっ!あ〜、ごめんよ、エレナちゃん…」と謝って来た。
「イイエ〜、美味しい物は皆で食べた方がより美味しくなりますから。なぁ、エレナ?」と急に話を振られ、私はコクコクと頷くしかなかった。
「ここじゃあ何ですので…」と私は寝かしつけられ、そのまま眠ってしまった。
◆◇◆◇◆◇
あれから二人は、何の話をしたんだろう?
私は何も聞かされなかった。ただ、残念な事に新たなお米が手に入らず、お父さんも残念がっていた。
私はやっと熱が下がり、安定した体調を取り戻したと思っている。
だが、アレン先生が「まだ細過ぎる」と言って退院を許可してくれない。
ベッドから降りて、少し歩き回る事は許してもらった。ゆっくりと、病室の中だけ。
早く新たな身体を試してみたい。もっと食べて太らなければ。
創造神様にも早く魔法陣を壊せと言われているし、黒木の情報も全く確認出来ていない。
それに、お父さんとも話がしたい。
私は気持ちだけが焦っていた。
◆◇◆◇◆◇
お父さんはそれから毎日、森へ行って薬草採取や魔物を斃しているそうだ。剣の鍛練や体力作りをしていると言う。
前より顔の艶も良くなったし、肉付きも良くなったもんね。
そんなこんな毎日を私は過ごし、アレン先生とおやつを食べていたら「そろそろ退院しようか?エレナちゃん」と、急に言われた。
「退院したら、ウチの息子と友達になってやってよ」ニヤリと笑い私を見た。どうやらこっちが本命のようだ。
今の私には、子供と遊んでいる暇は無いのだ。なので無難に「おとーしゃんに聞いてみましゅ」と答えておいた。完ペキだ。
我ながら小賢しい答えをしたな。フッ。
「そうかそうか。そりゃ楽しみだなぁ」とアレン先生が私の頭を撫でた。
アレッ?何故喜んでおられるのでしょう?多分断られると思いますよ?
◆◇◆◇◆◇
そしてその日の夕方、お父さんがまたお米を買って来てくれた。どこかのお店が入荷したんだ。良かった。
顔がニヤけてしまう。
「一緒にオカユ作ろうか」と、お父さんが言う。
アレン先生が「歩かせるな」と言うので、私は毛布に包まれて抱っこされてしまった。
歩きたかったのに、仕方ない。
共同キッチンに行き、私は椅子に座らせられる。お粥を作る為にお米と鍋を出してもらうと、お米がずい分砕けていた。
コレ、三合ぐらいあるね?お父さんも食べるだろうから大丈夫ね。
お米を洗って鍋へ入れてもらう。水を入れ「兎肉と野菜も入れようか」とお父さんが言うので、細かく切って入れてもらう。
「生ちゃまごをほぐちて入れてもおいちいにょよ」と教えて上げる。
「今度やってみような」と私に微笑んでくる。相変わらずイケメンだわぁ〜。
コトコト煮込んで結構な量になった。
キッチンを片付けて、マジックバッグに鍋ごと仕舞い病室に戻った。
お粥をお椀に移し食べようといたら、アレン先生が覗きに来た。
お父さんはアレン先生の分もよそって皆で食べた。久しぶりにお父さんと同じ物を食べている。美味しさも倍増だ。
私は口いっぱいにお粥を頬張った。
「おお、エレナちゃん沢山食べてえらいなぁ。これから毎日それぐらい食べられればもう安心だな。うんうん」とアレン先生が言う。
「明日退院で良いけど、毎日ワシの所に来るように。このぐらいの子はすぐに体を壊すからな。いいな?」とお父さんの顔を指さした。
私は創造神様の加護を頂いたから、もう病気にならないのよ、と言いたいがこれは内緒だ。
「良かったなぁ〜エレナ」お父さんが嬉しそうだ。私も嬉しい。
お粥は綺麗に無くなった。あれだけあったのに。アレン先生もお父さんも満足そうだ。
私もお腹いっぱいに食べたので、明日の為にも早く寝ようっと。
この夜、お父さんと創造神様の交信があったと、後で教えてもらった。




