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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十八章 太夫とサカバヤシ流

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第874話


 トミヤス道場。


 カゲミツの依頼で、イザベルが久しぶりに代稽古に来た。

 カオルも連れて・・・

 イザベルはカゲミツの前で頭を下げ、


「大殿様! 久しく代稽古に来られず申し訳もございません!」


「おはようさん! 聞いてるよ。馬、集めてたんだって?」


「は!」


「乗ってきてくれた?」


「は!」


「よーし! 見せてくれよな! カオルさん、今日も頼むぜ!」


「あ、いえ。申し訳もございませんが、私、本日はイザベル様の稽古を受けたく同行して参りました。まだまだ馬術は未熟ですゆえ」


「おほー! へーえ!」


「イザベル様の稽古を受けること、お許し願えましょうか」


「勿論! 好きなだけやってけよ!」


「ありがとうございます」


 カゲミツがにやにや笑う。

 あの稽古をカオル相手にするのか。

 イザベルも中々腹が座っているではないか。


「なあ、俺も見に行っていいか? カオルさんの馬術の腕、見てみたいな!

 カオルさんはサクマさん仕込みなんだろ」


「恥ずかしながら」


「いいねえ! イザベルさんの仕込みも入れたら伸びるぜ!

 騎士の馬術と軍の馬術、両方習えるってすげえよな!」


「はい。私も楽しみで」


「俺も運が良いぜ。ほんと、ここに道場構えて良かったよ」


 たらたらたら・・・

 イザベルの額を汗が落ちていく。

 カゲミツがそれを見てにやにやしている。


「よっしゃ! 行くか! イザベルさん、馬術のやつは向こうで待ってるぜ。

 あんたが来てない間も真面目に練習してたから、見てやってくれ」


「は!」



----------



「おお・・・」


 カゲミツがイザベルの馬を見て口を開ける。

 なんと派手な馬だろうか。

 朝日を照り返し、少し動くときらきら輝く。


「す、すげえな・・・これ、なんて馬?」


「黄金馬という品種で」


「まんまじゃねえか。初めて見るな」


「西方の砂漠地帯の馬でありまして、あまり外に出ないのです」


「ほう」


「あの辺りは戦も多く、軍は軽装軍馬が中核でありますし、ほとんど徴用されてしまうのです」


「それでか」


「偶然群れを見つけまして。この地方にはおらぬ品種ですゆえ、おそらく昔にキャラバン隊から逃げたと思うのですが」


「ふーん・・・ほおーう・・・」


 じろじろ・・・


「大殿様、さすがにお譲りはちとご勘弁を願います。

 私、他に馬を持っておりませぬゆえ・・・」


「あ、そんなんじゃねえよ。貴族連中、好きそうだなって」


「はい。それを商売にしようと、オリネオの外に繁殖牧場を作りました」


「何い? 牧場だって? こんなのがいっぱいいるのか?」


「それなりに。よろしければ一度お運び願いたく。遊ぶのはタダでありますし」


「おお、行く行く! 見てえな!」


「騎乗技術者も我が家から送られて参りますので、折あらば」


「おおー! ファッテンベルクの騎乗技術者か! いいねえ!」


 ぽん、とシトリナの首を叩き、


「よおし! 行こうぜ!」


「は!」



----------



 ぱしん・・・ぱしん・・・


「休め!」


 ざざざ! と門弟達とカオルが休めの姿勢を取る。

 イザベルが鞭を手に当てながら、門弟達の前を歩く。


「蛆虫共。久方振りであるな。所用で来れなんだ事を詫びておく」


 ぱしん・・・ぱしん・・・


「大殿様より聞いた。我がおらぬ間も真面目に稽古しておったとか・・・

 代稽古役として、嬉しい限りではある。あるが・・・」


 ぴたり。

 端の門弟の前で足を止める。


「貴様。無駄な稽古をしておらぬか? 道楽で走らせておらぬであろうな?」


「しておりません! 先生!」


「結構。それが嘘でないかは見れば分かる。後でしかと見せてもらう。

 で、本日はカオルというクソ虫も我の稽古を受けたいと申してきた。

 蛆虫共。許してやれ」


「「「はい! 先生!」」」


 びし!

 イザベルが鞭をカオルに向ける。


「で! このクソ虫様は一丁前に自前で馬を用意してきてくれた!

 ありがたい事よな! 既にサクマ殿よりお教えを受けておると鼻高々よ!」


「・・・」


「おい。クソ虫」


 つかつかつか。


「貴様の事だ! 名を呼ばれたら返事をしろ!」


 ぶん! ぱし!

 振られた鞭をカオルが手で止めた。


「はあん・・・そうか。我の愛の鞭はいらぬか。

 クソ虫様。我の教えなどいらぬであれば、もう帰ってくれませぬか。

 こやつら蛆虫への教えでも手一杯なのであります。さあ帰れ」


「申し訳ありません!」


「結構!」


 すぱしーん!

 さすがに顔を回して流し、吹っ飛ぶ事はなかったが・・・


「貴様! 我が愛の鞭を顔を回して流したな!」


「申し訳ありません!」


 すぱしーん!

 カオルが吹っ飛んで転がる。

 つかつかつか。


「立て! クソ虫!」


「は!」


 返事をしてカオルがさっと立ち上がる。

 さすが門弟とは違う。


「教官から愛の鞭を頂けたのだ! 光栄に思え! 礼はないのか!」


「ありがとうございます!」


「その汚い口を開く時は先生とつけろ! 覚えたか!」


「は! 先生!」


「結構! 並べ!」


「は! 先生!」


 さ! とカオルが並ぶ。


「よし! 蛆虫共! 練習の成果を見せてもらおう! 騎乗用意!」


 ざざざ!

 カオル以外が馬の横に立つ。


「騎乗せよ!」


 しゃ! くる! ぴた!


「これは驚いた! まともに騎乗出来るようになったぞ! 下馬せよ!」


 ざざざ!


「よし! 貴様らを蛆虫からカメムシに昇格する!」


「「「ありがとうございます! 先生!」」」


「うむ。蛆虫がいなくなり嬉しい限りだ。だがクソ虫が残っておったな。

 おい! そこのクソ虫!」


「は! 先生!」


「サクマ殿のお教えを見せてみろ! 騎乗用意!」


「は! 先生!」


 カオルが白百合の横に立つ。


「恥ずかしい騎乗をして栄光あるサクマ殿の名を汚したら許さんぞ!

 良いと言うまで裸で村を走ってもらうからな!」


「は! 先生!」


「騎乗せよ!」


 しゃ! くる! ぴた!


「下馬せよ!」


 さ!


「見たかカメムシ共! 驚いた事にまともに騎乗も下馬も出来るぞ!

 クソ虫をここまで育て上げるとは、さすがサクマ殿である!

 よし! 貴様もクソ虫からカメムシに昇格! 2階級特進だ!」


「ありがとうございます! 先生!」


「良い返事だ! では今回から馬を歩かせる! 全員騎乗せよ!」


「「「「はい! 先生」」」」


 ばばば! と全員が騎乗。


「宜しい!」


 イザベルが懐から糸玉を出す。

 カオルに放り投げ、


「帯に結べ!」


「はい! 先生!」


 端を取ってくるりと帯に回し、きゅっと結ぶ。


「よし! 隣に渡せ! 糸を切るなよ!」


「はい! 先生!」


 隣の門弟に渡し、


「帯に結べ!」


「はい! 先生!」


 と、全員の帯に糸を繋げて結ばせる。

 最後の門弟の所で糸玉を受取り、ぷちっと切って懐に入れる。


「1人でもその糸を切ったら全員で腕立て20回だ! 聞こえたか!」


「「「「はい! 先生!」」」」


「宜しい! では手綱の扱いの練習から始める!

 貴様らの汚い手で乱暴に手綱を引くな!

 馬は手綱を握るだけで言う事を聞いてくれる!

 左手を握れば左に向く! 右手を握れば右を向く! 分かったか!」


「「「「はい! 先生!」」」」


「念の為に確認する! 右と左は分かるな! お箸を持つ方が右だ!」


「「「「はい! 先生!」」」」


「宜しい! では馬を右に向ける! 手綱は握るだけだ! 右向け、右!」


「「「「はい! 先生!」」」」


 慣れたカオルは何とか手で握って白百合を右に向ける事が出来た。

 が、門弟たちはいきなり出来るわけもなく、ぶちぶちと糸が切れる。


「出来たのはこのカメムシだけか! 全員下馬せよ! 腕立て用意!」


「「「「はい! 先生!」」」」


「1!」


 ば!


「2!」


 ば!


「3!」


 ば!


 腕立てするカオルと門弟。

 数を数えながら、ぱしん、ぱしん、と手に鞭を当てながら歩くイザベル。

 その様子を、カゲミツがにやにやしながら見ている。


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