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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十八章 太夫とサカバヤシ流

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第872話


 早朝、魔術師協会の庭。


 土下座して地に額をこすりつけるジンノジョウ。

 真っ青な顔をしているマサヒデ達。

 ひとり笑うはシズクだけ。


「あはははは!」


「シズクさん! 笑い事ではないのです!」


 カオルが怒鳴った時、すっと廊下の向こうからマツが出て来た。


「おはようございます。うふふ。朝から賑やかですね」


「マツさん!」「奥方様!」


 助かった!

 マサヒデ達がマツに顔を向ける。


「サカバヤシさん! マツさんです!」


 ばばば! とジンノジョウが縁側の前に来て、


「おはようございます!」


「あら。お客様でしたか。おはようございます」


 ジンノジョウが刀と柄を差し上げ、


「この刀を直していただけませんか!

 どうか! 平に! 金は一生かかっても払います!」


 マサヒデも駆け寄って、


「マツさん! 頼みます!」


「はあ。はい。構いませんよ」


 す、と縁側に座って、ジンノジョウの刀に手を差し出す。

 すう、と柄と刀がぴたりと戻る。


「どうぞ、ご確認下さいませ」


「ははーっ!」


 ジンノジョウが懐紙を出してぴっと口に咥え、すらりと抜く。

 くる、くる、くる、と回したり横にしたり立てたり・・・

 マサヒデ達も、緊張してそれを見ている。


 ジンノジョウがすうっと刀を納め、咥えた懐紙を懐に入れ、


「ありがとうございましたー!!」


 と、地に額をこすりつけた。

 はあっ、とマサヒデ達からも安堵の息が出る。


「そんなに大事なお刀でしたか」


「はい! 感謝の極み!」


「あらあら。そんな大げさな」


 くすくすとマツが笑う。

 シズクが歩いて来て、


「良かったね! サカバヤシせーんせ!」


「助かったよ・・・俺、これで殺されないで済むよ」


 え? とマツが驚いて、


「そんなに大事なお刀だったのですか?」


「はい。これ、私の先祖の愛刀でありまして」


「あ、ご先祖様の。それは大変でしたね」


「いや、その、私の先祖、居合の生みの親というとんでもないお方で・・・」


「まあ! そんな大事なお刀でしたか。うふふ。マサヒデ様みたい」


 シズクがにやにや笑いながらマサヒデの方を見て、


「マサちゃんもそんな刀使ってるもんねー。ね?」


「ちょっと、それは」


「げ! あれ!?」


 ジンノジョウがびくっと顔を上げて、マサヒデの方を見る。

 昨日の立ち会いの際、思い切り柄に叩きつけ、鍔にがつんと・・・


「すみませんでしたー!」


 ジンノジョウがマサヒデに頭を下げる。

 マサヒデが慌てて、


「あ、いいんです! しー! しー! シズクさん!」


「いいじゃん。教えてあげたって。これから道場に来てくれるんだし」


「・・・」


 マサヒデが渋い顔で縁側から居間に上がって、刀架から雲切丸を取る。

 違い棚の下の地袋(低い押し入れのような所)を開け、目釘抜きを出す。

 はあっ、と息をついて、縁側に座り、


「サカバヤシさん、ここに座って下さい」


「お? おう・・・なんだ、もしかしてそれ、称号とかか」


「違います。これ、秘密ですよ。誰にも言わないで下さい」


 雲切丸と目釘抜きを差し出す。


「茎、見て下さい」


「なんだ、とんでもねえ作なのか?」


「そうです」


 ジンノジョウが怪訝な顔で雲切丸を手に取る。


「古刀だよな。それもかなり古い形だ。銘があるのか」


「はい」


「珍しいな・・・んん・・・」


 こんこんこん・・・くい。

 目釘が抜けた。

 そっと柄を抜いて・・・


「いっ!?」


 すすす・・・と柄を戻して、


「ふ、ふふ。俺、寝ぼけてるのかな。早起きしちゃったし」


 ぐいぐいと目元を押さえ、懐紙を出して、ぺたぺた額の汗を拭う。

 すすす・・・


 コウアン。


 はっきりと銘が切ってある。

 目がくらくらしてきた。


「すーっ・・・ふうーっ・・・」


 そっと柄を戻して、目釘を入れる。


「秘密ってことはだ。つまり。これ、贋作じゃないってことね?」


「はい。今の刀剣年鑑にはないですけど、古い年鑑には載ってます」


「まじで」


「それ、酒天切コウアンの兄弟刀です」


「まじで」


「はい。ちょっと貸して下さい」


「どうぞどうぞ」


 くいっと鯉口を切って、少しだけ抜く。

 ジンノジョウが「がば!」と顔を近付け、


「うおお!? すげえ! これがっ・・・」


「・・・」


 マサヒデが何も言わず、懐紙を乗せる。

 はらり・・・

 まっぷたつ。


「うお・・・おいっ・・・まじかよ・・・」


 マサヒデがぷちっと髪の毛を抜く。


「おいおい・・・」


 す・・・ふわり・・・


「・・・」


 シズクがずいっと顔を突き出し、


「あーはははー! やーっぱビビったな! その顔見るのが楽しいんだ!」


 マサヒデはシズクを手で止め、すっと雲切丸を納めて、ふ、と息をつき、


「口外無用でお願いしますよ。

 バレたら二束三文で文科省に取り上げられてしまいますので」


「ああ。言わねえよ。刀直してもらったし、絶対に言わねえ。

 カゲミツ様にもらったのか? 俺みたいにかっぱらってきたのか?」


「いえ。無人の貴族の屋敷から出てきたんです。偶然見つけました。世間には勇者祭の相手の得物をもらったという事にしてありますので、言わないで下さいよ」


「ああ・・・あ、あれか! すげえ武術家30人とやりあったって!」


「ええ? そんな話になってるんですか? 違いますよ。

 まともな使い手は1人でした。後は適当なのが5、6人です」


「噂って怖いな」


「全くですよ」


 マツがにこにこしながら2人に茶を差し出す。


「朝餉は食べていかれますか? マサヒデ様、宜しいですよね?」


「ええ。食べていって下さい」


「じゃあ、ご馳走になるよ」



----------



 朝餉が用意された。


 この魔術師は膳が並ぶ音でぴたりと起きてくる。


「おひゃようございますうー」


「クレールさん。お客様です」


「あっ!」


 ぱたぱたぱた・・・

 ぱちゃぱちゃ・・・

 ぱたぱたぱた・・・


「おはようございます! 魔術師協会オリネオ支部にようこそ!」


 ジンノジョウがクレールを見てにっこり笑う。


「どうも! お邪魔してますよー!」


 マサヒデがにやりと笑って、


「サカバヤシさん。その方の髪の色、何か心当たりありませんか」


「うーん! 綺麗だねえ!」


「えへへ・・・」


「目の色、心当たりありませんか」


「うーん、綺麗だね・・・んん? んんー?」


 輝く銀の髪。

 ルビーのような赤い瞳。

 まさか!


「・・・ワインの人?」


「ははは! そうです」


「失礼致しました! 手前、ジンノジョウ=サカバヤシと申します!」


「クレール=トミヤスでございます!」


「クレールさん、旧姓は?」


「フォン=レイシクランです!」


「ははあーっ!」


 くすくすと皆が笑う。


「さ、クレールさんも席について、食べましょう」


「はい!」


「いただきます」


 マサヒデが言うと、皆も「いただきます」と箸を取って食べ始める。

 ジンノジョウもおずおずと頭を上げ、肩を狭くしてちまちまと食べる。

 こんなに緊張する食事はない。


「サカバヤシさん」


「はいっ!?」


「サカバヤシ流って、3尺3寸って聞きますけど、その刀」


「あ? ああ」


 ジンノジョウはひらひら手を振り、


「ないない。3尺3寸は稽古で使うんだ。普段は普通の刀だって。

 そんな長いの差してたら、歩くにも邪魔だろ」


「実際、どんな稽古するんです?」


「どんなって、まあ、最初は簡単だよ。壁の前に座って抜くんだよ」


 3尺3寸(約1m)もある刀を壁に向かって座って抜く。

 長いと言われる雲切丸でも2尺7寸。

 カオルもイザベルも驚いている。


「・・・それって、簡単ですか?」


「そりゃまあ、最初は出来ねえけど、慣れれば出来るよ。

 で、縦横200回、壁にぶつけずに抜けるようになったら、相手つけて。

 片膝立ちで、膝と脛くっつけて、抜き打ち勝負だよ」


「居合で相手つけるんですか? それって珍しいのでは」


「みたいだな。でも壁に200回抜ける頃にゃ寸止めも出来るよ。

 で、最終的には雷の速さで抜くんだ。電光石火ってやつ。

 ま、俺はまだまだだけどな」


 シズクが疑わしげな目を向けて、


「まだまだって、それほんと? 全然見えなかったよ? カオル見えた?」


「いえ。全く」


「まだまだどころか、全然だな。カゲミツ様にゃ鼻で笑われたぜ。

 抜き打ちなら少しはと思ったけど、抜く前に柄が転がってた。

 刀に手え掛けたら手が落ちて、あれっと思ったら柄が下に落ちてたんだ。

 あれにはビビったぜ。うちの親父より速いんじゃねえのか?」


 はあ、とジンノジョウは溜め息をついて、飯を口に運ぶ。


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