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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十八章 太夫とサカバヤシ流

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第869話


「かゆいわあーッ!」


 イザベルの声が響く。


「そう言われましても・・・」


 百姓の困った顔。


「けえい!」


 稲の束を掴んで次々に放り投げる。

 百姓がそれを並べて干していく。


「まだあるか! ちぇい! ちえーい!」


 ばさり。ばさり。


「くそう・・・値に釣られたわ」


「そう仰られますな。米俵運びになりますれば、これが」


 百姓がにやっと笑って親指と人差指で輪を作る。


「む、それもそうよな」


「この束から、その米が取れて、米俵が出来ますわけで」


「ううむ・・・かゆいが我慢する」


 ぼりぼりぼり・・・

 つなぎに手を突っ込んで掻きむしるイザベルを見て、百姓が首を傾げる。


「しかし、不思議ですなあ」


「何がだ」


「イザベル様は狼族でござんしょう」


「そうだが、何か不審か」


「いや、狼族っちゃあ、人族よりも遥かに丈夫だと聞きますが。

 素人が刃物振り回した程度じゃ、傷もつかねえなんて」


「と思うぞ。素人に斬りつけてもらった事はないが」


「そんだけ丈夫なのに、なんで痒くなるんですかね?」


「知るか!」


「髪の毛なんかも丈夫なんですかい?」


「む? 髪か・・・言われてみれば気になるな・・・髪はどうなのであろうか。

 少なくとも、はさみでは切れるが」


 ぷち。

 髪を1本抜く。


「おい。髪を1本くれぬか」


「へい」


 ぷち。

 受け取った髪の毛をまじまじと見て、指を滑らせる。


「お前、もう少し髪を気にせよ。がさがさではないか」


「あたしら百姓にそんな余裕ありませんよ」


「ハゲるぞ」


「げ! そいつぁ勘弁だなあ」


 ぷちっ。


「ふんふん。このくらいか」


 ぷちっ。


「ううむ、さして変わらん・・・

 差はあるが、これは我とお主の髪のキューティクルの差であろう」


「何が違うんですかね?」


「爪は違うな。多分、人族の物では良く切れぬと思う。

 結構強い物でないと切れぬ」


「ふむむ」


「そう言えば、目玉は大体の種族が大して変わらんはずだ」


「目玉?」


「うむ。例え鬼族であろうが、目玉に剣を突き込めば勝てる。

 そのまま、目の奥の脳を引っ掻き回せば勝ちだ。

 突き込むまでが大変であるが」


「うえ! えぐい話ですな」


「これは我の仮説であるがな」


「なんでやしょう」


「この世のありとあらゆる物に、魔力があるというのは知っておるか」


「そうなんですかい?」


「そうなのだ。で、その魔力の流れ方というか、付き方というか。

 魔術師が魔力を持っているのとは違うぞ。

 こう、流れ方というか・・・なんというか。量ではなく、付き方とか。

 とにかく、そういうのが違うから、違いが出てくると思うのよ」


「へーえ。そりゃまた何でです」


「例を出そう。シズク殿を見た事はあるか」


「あの青鬼さんですな」


「シズク殿は体格を遥かに超える凄い体重だ。

 同じ体格の人族の倍は軽く超えよう。

 筋肉も骨も、まるで鉄のように詰まっておる。

 マサヒデ様かハワード様くらいの腕でないと斬れはせん」


「でしょうなあ」


「それでは、あの強さも当然であるな」


「ですわな」


「さて、我はどうか。人族と体重はさして変わらぬ。

 だが、力は大きく違うし、頑丈でもある。何故であろうか。

 シズク殿のように筋肉の塊でもなし。

 ほれ、この腕はお主より細いではないか」


「確かに・・・」


「我がおかしいのではなく、人族が体格に対して弱すぎるのやもしれぬ。

 そうなると、基準は一体どこなのだ?

 お主のその体格であれば、どのくらい力があるのが普通なのであろう?」


「どうなんでしょう・・・もう訳が分かんなくなってきましたよ」


「我もさっぱりよ。というわけで、自然の魔力がこう、流れ方が違うような。

 こういう仮説で、我はぶん投げて片付けるのだ。

 全て魔力のせいにしてしまうのよ」


「ふうむ」


「も少し医学が進んだら分かるであろうか。

 この謎が解ければ、人族も鬼族とは言わずとも、獣人族くらいになれようか。

 新しいトレーニング法なども見つかるやもしれぬな」


「そいだけ力持ちになれりゃ、畑仕事もかなり楽になりますな」


「しかし、魔族にはもっと大きな謎がある」


「なんです」


「分かりやすい話でいくと、クレール様。レイシクラン一族」


「霞になるってやつですね」


「それもある。それより、なぜあれだけ食える。体重を超える量を食うのだ」


「本当すかい!? すげえ胃袋だ! あれか、鉄の胃袋ってやつか!」


「されども、食っても体重が増えぬのだぞ。これはもうさっぱり分からぬ。

 種族が違う云々という問題ではないぞ。

 体重が増えぬということは、物理的に消えておるのだ」


「おっとろしいもんですね・・・」


「全くだ。この田んぼの米も、クレール様であれば全部食えるのではないか」


「イナゴみてえだ」


「滅多な事は言うな。首が飛ぶぞ」


「ひえー! ご勘弁をー!」


「ははは! しかし、食う時はそれだけ食うのに、普段は1汁1菜なのだ」


「どうなってんです、それ」


「我もクレール様には遠く及ばぬが、食う時は食う。

 しかし、少しは増えるが、食った量に比べるとやはり体重が増えておらぬ。

 我らの胃はどうなっておるのだ? 自分でもさっぱり分からぬ」


「さっぱりですな」


「全くだ。と、そういうわけもあり。

 その辺りは魔力となって、目では見えぬ力と変わるのではないかとな。

 ふふふ。さて、この米がクレール様に見つかる前にやるか」


「そうしやしょっと!」



----------



 オリネオ黄金馬牧場。


 小赤が口を開けて馬を見ている。

 クレールが是非にと連れて来たのだ。

 クレールは遠くで草を食んでいる黒影を指差して、


「あっちにものすごく大きな馬が居ますよね」


「ええ」


「あれが黒影っていう馬で、カオルさんの馬です。

 それでー、あの白くてちょっと大きいのが、白百合」


「ちょっと? かなり大きく見えるわ」


 小柄な黄金馬と並ぶと、白百合も頭が飛び抜けて見える。

 黒影は尚更だ。


「そうです! 皆さんの馬は大きいんですよ!

 でー、あの黒い大きいのが、黒嵐って言って、マサヒデ様の馬。

 すごく怖いですけど、暴れるっていうんじゃなくて、威厳があるというか」


「馬に威厳ってあるの?」


「ありますよ! 小赤さんも獣人族ですから、すぐ分かります!

 この馬はやばいー! 怖ーい! って。

 黒嵐はお父様よりも怖いんですよ」


「私、父親の事はよく覚えてないの」


 しまった。

 クレールがもじもじして、


「あっ・・・ええと、ごめんなさい」


「いいのよ。しだれ屋にいる子は、皆が親のことをよく覚えてないの」


「はい・・・」


 カオルが柵の中に入り、


「黒嵐を連れてきましょう。近くで見れば分かります」


「は、はい! そうしましょう! そうです!」


 すさ、すさ、すさ、と草を鳴らしてカオルが歩いて行く。

 黒嵐の首を、ぽんぽん、と叩いて、一緒に歩いて来る。

 近付いてくると、どんどん大きくなってくる。

 どんどん・・・どんどん・・・遠近感がおかしくなってくる。


「お待たせしました」


 小赤が口を開けて黒嵐を見上げる。


「大きい」


「でしょーう! でも、凄く綺麗ですよね!」


「綺麗。輝いているわ」


「黒嵐。この人が触っても良いですか?

 この人は、あと20年しないと、またここに来られないんです」


 黒嵐が少し首を下げる。

 はあ? と小赤がクレールを見る。


「私達レイシクランは、動物の声が分かるんですよ」


「そうなの? それで、私、触っても良いの?」


 のし、と黒嵐が柵に近付いて、顔を突き出した。


「良いんですよ! 好きなだけ!」


 さわさわ・・・さらさら・・・するする・・・


「すごい。動物なのに、どうしてこんなに毛が綺麗なの?」


「ここの馬達は特別に綺麗なんです!」


「そう・・・椿油はいらないのね。羨ましい」


 じんわりとクレールの目が潤んできた。

 ハンカチを出して、つ、つ、と目を押さえる。


「どうしたの?」


「黒嵐、あと、20年もしたら、生きてないからって・・・

 もう、今日しか、会えないからって・・・ぐしゅ」


「そう。ごめんなさい。私もまた会いたいけど、ごめんなさい。

 分かるわ。あなた、優しい」


 小赤がゆっくり黒嵐に抱きつく。

 黒嵐も、小赤に顔をもたれかからせる。

 ず、とシズクが鼻を鳴らした。


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