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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十八章 太夫とサカバヤシ流

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第867話


 マサヒデが治療室を出ると、クレールが駆け寄ってきて腰に飛びついた。


「ああ! 心配したんです! すごく!」


「この通りですよ」


「ご主人様。彼の者は」


「大事ないです。輸血して気分が治ったら、道場に行きます」


「マサちゃん、よく勝てたな・・・あいつの抜き打ち、見えなかったぞ」


「私もです。狙った所に来てくれなかったら、死んでました」


「死んでたの?」


 小赤が後ろで呟いた。


「ええ。そうですよ」


 マサヒデが笑って答える。


「なんで剣術やるの。あんなに血が出て、あなたも死にそうになって」


「なんでって、好きだからです」


「血が出るのが好きなの?」


「まさか! 大嫌いです」


「斬りたいの?」


「そんなわけないでしょう。辻斬りではありませんよ」


「じゃあ、どうして好きなの」


「何かを好きになるのに、理由なんてありませんよ」


「そう?」


「そうですよ。小赤さんは好きな物ってないんですか?

 美味しい物とか、お酒とか」


「美味しい物は好きだけど、お酒はあまり好きじゃないの」


「美味しい物、なんで好きなんです?」


「美味しい物だから」


「あなたが好きな美味しい物でも、嫌いな人、いるでしょうね」


「いると思うわ」


「そういう事です」


「よく分からないわ」


「ううむ、言葉に出来るものじゃないんです。

 好きな物は、ただ好きなんです。

 他の人が嫌いでも、好きな物は好きです。

 あなたが剣術は嫌いでも、私は好きです」


「私は剣術をやったことがないから、まだ好きか嫌いか分からないわ」


「ふふ。考えたって分かりはしませんよ。

 理由つけて好きになろうとしたって、なれやしません。

 それは好きになりたいであって、好きじゃないんです。

 とにかく、好きになったら好きです」


「全然分からないわ」


「次に好きな物が出来た時、分かると思います。

 じゃあ、美味しい物を食べに行きましょうよ。

 今日は三浦酒天に行きましょう」


「行きましょう!」


「マサちゃん! 勝利記念だ! 呑もうよ!」


「昼間から何を言ってるんです。駄目です」


 シズクが指を立てて、


「1本だけ!」


「仕方ないですね・・・小さい徳利1本だけなら良いですよ」


「小っちぇー方!?」



----------



 三浦酒天。


「かんぱーい!」


 ごくっ!


「・・・」


 ふりふり・・・


「終わったあー!」


 シズクが徳利を転がして、んー、と頬杖をつく。

 店員がくすくす笑いながら注文票を開く。


「さ、皆さん。好きな物を。酒以外で」


「天ぷら山盛りー」


「焼き魚定食」


「マッリー定食です!」


 小赤が顔を上げて、


「・・・油揚げ、ないの?」


「油揚げ? ありますよ」


「私、油揚げが食べたいの」


「色んな物に入ってますよ。味噌汁とか、鍋とか」


「焼いた油揚げが食べたいの」


 皆がぽかんとした顔で小赤を見る。

 さぞ高い物を注文するだろうと思っていたのだが。


「うーん、では、焼いてみますね。味付けは」


「醤油」


「醤油だけですか?」


「醤油よ」


「はい。分かりました。トミヤス様は如何なされます?」


「ううむ、今ちょっと食欲ないんですよ。

 そうですね、照り焼きだけでいいです」


「あら。お珍しい」


「さっき、斬り合いしましてね」


 ぎょ! と店員が目をむいた。


「ええっ!?」


「血が結構出てしまったもので、あまり食欲が」


 小赤以外がマサヒデをじっとり見つめる。

 さらっと斬り合いをして血が流れた、などと・・・


「水、もっともらえますか。あと塩を小皿で」


「あの、あの、大丈夫なんですか? お怪我は?」


「治癒の魔術をかけてもらったので、全く平気です」


「はい・・・」


 少し顔色を悪くした店員が下がって行った。

 カオルがマサヒデをじとっと見ながら、


「ご主人様」


「なんです。その目」


「斬り合いをしたなどと」


 マサヒデはひらひら手を振って、


「構いやしません。やったのどこだと思ってるんです。

 たくさんの冒険者さん達の目の前でですよ。

 どうせ今日中に隣町まで広まってしまいますよ」


 シズクがぽんと手を叩き、


「あ、そうか! マサちゃん頭いいな!」


「それに、そこの」


「ああーっ!」


 入って来た客がマサヒデを指差した。

 ばたばた駆け寄ってきて、


「トミヤス様! 見てやしたよ!」


「あ、やっぱり放映されちゃったんですか」


「ありゃあ凄かったですね! 相手の野郎の抜き付け、見えやしなかった!

 それをがつんと止めてのぐっさり!」


「あれ、運だったんです。私にも全く見えませんでした。

 こうやって刀を出した所にこなかったら、腕が無くなってました」


「ひえー! トミヤス様にも見えねえって、えれえ使い手だったんだ!」


「そうですとも。まともに立ち会ってくれたから、運で勝てたんです。

 はっきり言って、実力は向こうの方が遥かに上です」


「またまたあー」


「冗談じゃありませんよ。あの人、居合世界一の流派の次期宗家ですよ。

 私なんかがまともにやりあったら、逆立ちしたって勝てる人じゃないんです」


「ええっ! 居合世界一の!?」


「そうです。だから、あんな変なやり方したんです」


「ひゃあー・・・えれえこった・・・」


「本当に危なかったんです。準備して、あの人の所に行く時、首切り役人の所に行く囚人の気分ってこんなのかって思いました」


「トミヤス様が、そんな腹あ括るくれえの奴だったんですね」


「そうですよ。とんでもなく凄い使い手なんです。

 それが、勇者祭なのに、正々堂々向かい合って、1対1で戦ってくれたんです。

 私はあの方を心から尊敬しますよ」


 うんうん、と客が頷く。


「あのご浪人もちゃんとした剣客だってことなんですね」


「ちゃんとした剣客って言うか・・・まあ、そうですね」


「実際の所、あのご浪人、どうなんです」


「抜き打ちの勝負だったら、父上と良い勝負するんじゃないですかね。

 そのくらいの方です」


「げえっ!? カゲミツ様と!?」


「多分。私とは天地の差があるって事です。

 あの時、私は抜き打ちしませんでしたよね」


「ええ・・・」


「絶対に勝てないんですよ。抜き打ちでは。

 向こうは正々堂々、抜き打ちで来ました。

 私はそんな方に変な手を使って、運だけでぎりぎり勝ちました。

 分かりますよね。それだけの差があるって事です」


「かあーっ! やっぱりトミヤス様は凄え!」


「ええ? どこがです」


「負けた相手を認めるって、中々出来ねえと思いやすぜ。

 勝った。俺は強え。あいつは弱え。そうなっちまうもんだ」


「そうですかね?」


「見てた俺達もそうなんだ。中々出来ねえと思いやすぜ」


「ふふ。ありがとうございます」


「いやあ、いい勝負だった! 話聞いたらまた凄え!

 うーん、良いもん見れたぜ! トミヤス様、次の勝負、楽しみにしてますぜ」


 興奮してうんうん頷きながら客が引いて行った。


「と、言うことで」


 マサヒデが広場の方を指差して、


「という事で、そこで放映されちゃったんですよ。

 私もそこそこ注目度は高い。サカバヤシさんは次期宗家、当然高い。

 勿論、立ち会いは放映されますよ。

 見てた人は、皆、この勝負知ってるってわけです」


 クレールが口を開いて、


「では、もう世界中に広まってしまったんですか?」


「そういう事です。今更、斬り合いした事を黙ってたって無駄です」


「ひぁー・・・」


「あの」


 小赤が口を開いた。


「なんです」


「あなたの名前、世界中に知られてるの?」


「まあ、本当に世界中って事はないでしょうけど・・・

 知っている人はそこそこいるんじゃないですか」


「そう。有名なのね」


「名が売れるって、面倒なものですよ。

 小赤さんも売れっ子なんでしょう?」


「分からないわ。そうなの?」


「私は今まで遊廓に行ったことがなかったので、知りませんでした。

 でも遊廓に行った事がある人は、皆があなたの事を知っていましたよ」


「そうなの?」


「ジョージさんも、あなたはしだれ屋の宝だって言ってましたよ」


「私が宝?」


「そうですよ。だから、本当は出てはいけない歓楽街からも出してまで、私達に守って下さいって頼んできたんです」


「私って、そんなに大事?」


「そうです」


「自分では良く分からないけど・・・それで、あなたが守ってくれるのね」


「私だけではありません。私達が、ですよ。

 ここには居ませんけど、マツさんも、イザベルさんも」


「じゃあ、私、皆に抱かれたいわ。皆で身請けしてくれる?」


「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」


「駄目なの?」


「クレールさん、頼みました」


「ええーっ!?」


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