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勇者祭  作者: 牧野三河
第五十五章 三人の忍

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第859話


 遊廓、しだれ屋。


 この2階の大部屋で、マサヒデと忍の立ち会いが始まろうとしている。


「恨みっこなしだぞ」


 赤忍者がこよりを握って皆の前に突き出す。

 すっ。


「はずれたぁー!」


 青忍者が頭を抱えて座り込む。


「私はね・・・これだっ!」


 すっ。


「もーう!」


 桃忍者がぶんぶん腕を振る。


「俺だな」


 黒忍者が手を伸ばす。

 すっ。


「く! くそっ! お前、当たり入れてないだろ!」


 赤忍者が手を開き、


「ちゃんと入ってるよ! ほら!」


「く! ううん! 仕方ねえな!」


 わしゃわしゃ。


「ほら。黄忍者、どっちかだ」


「よし・・・」


 すっ。

 こよりの先に赤。


「あっ! やった! 当たった!」


「うお、お前なあ! 空気読めよ! こういう時は赤が出るもんだろ!?」


「知らねえよ! 当たったもんは当たったんだ! 俺だよー!」


「ちっ! 仕方ねえなあ! くそ、恨みっこなしだからな・・・」


 くじを引く5忍者を、皆が微妙な顔で見ている。

 ある意味これも見世物だが、実に妙な光景だ。

 えふん! とアルマダが咳払いして、


「それでは、今回の立ち会いに際しての規則の説明です」


「はい!」


「周りに関係ない人もいますから、毒などの粉を撒くのは禁止。

 勿論、火薬や油などの火の類も厳禁ですからね」


「はい!」


「皆さんがいる所に入ってしまったり、廊下に出たりは場外負けとします」


「はい!」


「手裏剣なんかの飛び道具はありです。

 窓は閉めましたし、向こう側に飛んだのは、カオルさん達が処理します。

 鎖なんかの武器も良いですが、派手に部屋を壊すと修理費が大変ですよ」


「はい!」


「マサヒデさんは真剣しかないので、今回は寸止め1本とします。

 一応、死にさえしなければ、傷痕なく四肢切断も治せる治癒師がいます」


「ホルニコヴァ殿ですね!」


「そうです。マサヒデさんの得物は、刀、脇差、棒手裏剣だけです。

 鉄砲もありますが、流石に銃弾は止められませんので、今回は使用禁止。

 以上ですが、何か質問は」


「ありません!」


「では、はじめ!」


 しゃ! と黄忍者が刀を抜いた。

 お? とマサヒデとアルマダが少し驚く。

 前に抜かず、ほとんど真横に抜いた。

 これは密着していても抜ける抜き方だ。三傅流に少し近いものがある。

 切先はぴたりとマサヒデにつけられている。


(流石だ。言うだけはある)


 少し気抜けしていたマサヒデが、顔を引き締める。

 これは生半な相手ではない。

 5人で一斉に掛かられたら、1人では絶対に勝てまい。


「・・・」


 黄忍者がやや前屈みで、じり、と前に出る。

 マサヒデは抜かない。


 ちゃり。


(む)


 小さな金属音。

 右手は刀を持っている。

 左手に何か持っている。

 だが、今の音は左への誘いだろう。

 これ程の腕の者が、ご丁寧に左に何か隠してます、と教えてくれるものか。

 気を取られたら、ぶすり。

 かと言って、完全に無視していると、何か飛んでくる。


 もうすぐ間に、という所で、すう、とマサヒデが右足を引いた。

 ぴたりと黄忍者が止まる。


(なんという一重!?)


 黄忍者に対し、真っ直ぐ真横に向いてマサヒデが立つ。

 寸分の狂いもなく、この動きだけで恐ろしい腕前と分かる。

 すっとマサヒデが前手の左手を上げた。


「む!」


 思わず声が出た。

 ぴたりと移動の線を取られている。

 左右に重心を微妙に崩してみる。

 綺麗に手がついてくる。


「く、く、く」


 じりじりと黄忍者が間を開けようとした時、奥手の右手の袖がちらりと動くのが見えた。


(手裏剣か!)


 左手で見事に動きを止められ、隠れた右手に手裏剣を用意していたのだ!

 マサヒデの右手が動いたと見え、ぱ! と横に跳ぶ。

 やはり手裏剣!


「は」


 ふわりと投げられた棒手裏剣が浮いている。

 目がゆるっと飛んできた棒手裏剣に向いた。その刹那。

 マサヒデが跳び込んで来て、左手を脇で抱えるように絡め取られた。

 マサヒデの左手は浮いた棒手裏剣を取っていて、首に突き立てられた。


 ぷつりと首に浅く刺さった感触。

 目の前にぎらりと光るマサヒデの目。

 う、と黄忍者が頭を仰け反らせた所で、


「一本!」


 アルマダの声が響いた。


「おおー!」


 ぱちぱちぱち、と拍手が上がった。

 極められた左手から、じゃらりと鎖分銅が落ちた。

 よ、と取った左手を離し、棒手裏剣を納めて、落ちた鎖分銅を拾う。


「ううむ、こんな物を・・・危なかった」


「参りました」


 マサヒデが鎖分銅をくるくる回し、


「いやいや、これ寸止め出来ます? 当たったら大変じゃないですか」


「足に投げるだけのつもりでした。頭に当たったら死にますし」


「ですよね。いや、流石は忍です。怖い得物を使いますね」


 じゃ! とマサヒデが両手で納め、黄忍者の手に乗せる。


「この得物、ご存知でしたか」


「まあ、大体の物は、父上に見せてもらったり教えてもらったりしました」


 黄忍者は懐に鎖分銅を入れて、


「ううむ、流石は武聖とも呼ばれるカゲミツ=トミヤス様、あらゆる武器に精通しておられるということですな」


「父上も知らない武器はありますよ。最近知ったものもいくつか・・・

 おっと、今のは秘密ですよ。父上が怒るかもしれませんし」


「決して」


 くるりとマサヒデが振り向いて席に戻ると、5忍者が前に並ぶ。

 ば! と頭を下げて、


「ありがとうございました!」


「あ、いえいえ。5人で掛かられたら、私、間違いなく死んでましたし」


「ご謙遜を。抜きもせずに」


 マサヒデが顔の前で手を振って、


「本当ですよ。自分がどの程度かは、良く分かっているつもりです。

 大体、今回は使える得物も限られていましたしね。

 これでは、黄忍者さんも実力の半分も出せなかったでしょう」


「有難きお言葉。されば、我らはこれにて。

 此度はせっかくの場をお騒がせ致しまして、大変失礼致しました」


「いえいえ。お師匠様に叱られないよう、気を付けて下さい」


「ははっ!」


 ばばば! と5忍者が浪人姿に変わり、ぞろぞろと部屋を出て行った。

 代わって、禿の2人がマサヒデの前に座る。


「どうしました」


「トミヤス様、お見事でござんした」


「わっちら、トミヤス様に惚れんした」


「ははは! マサヒデさん、また妻が増えますか!」


 アルマダが笑いながら横に座って、


「悪い事は言いませんから、お友達にしておきなさい。

 マツ様に死体もなく消されてしまいますよ。

 マツ様は元王宮魔術師で、大魔術師ですからね」


「ううん、では、お友達になってくりゃさんせ」


「構いませんよ。あなたは高之さんでしたね。あなたは?」


「わっちの名は三芳でありんす」


「マサヒデ=トミヤスです。宜しくお願いします」


「ありがとうござりんす」「ありがとうござりんす」


 禿2人が綺麗に頭を下げた。

 顔を上げてにっこり笑い、ぱたぱたと小赤の横に戻って行った。


「マサヒデさん、年齢関係なくモテますね」


「ははは! 見世物で面白かっただけですよ!

 3日も経てば忘れてますって」


「ふふ。だと良いですけどね。5年もした後、何で店に来ないんだって包丁を持ってくるかもしれませんよ」


「そこは手紙にしといて下さい」


「それは彼女達に頼みなさい。私はもう知りませんからね」


「何言ってるんです。高之さんはアルマダさんのお友達でしょうに」


「恋愛沙汰でマサヒデさんに何しようと、知りません。

 私はそういうのには首を突っ込みません」


「私達も友達じゃないですか。助けて下さいよ」


「ははは! 知りません!」


 マサヒデは湯呑を取って一気に茶を飲み、


「ところで、あの5忍者、気になる事を言ってましたね」


「気になる事?」


「ハンゲツ。道場。高弟。どこかの忍の流派でしょうか」


 アルマダが顎に手を当てて首を傾げ、


「ふむ。ハンゲツ流など、聞いた事もありませんが・・・

 この国だと、イノカシ、コウノカシ、ブデンの3派。他国の忍でしょう。

 しかし、道場というのは気になりますね」


「忍の道場なんてありますかね?

 ああいうの、軍とか政府が仕切ってしまってるんでしょう?」


「そのはずですが・・・ああ、きっと彼らの国の養成機関は道場って言うんでしょうね。この国でも養成学校を里とか言いますし」


「あ、そういう事か。なるほど」


「本当に道場があったら行ってみたいですよね。

 どんな稽古をしているんでしょう」


「あ、前にカオルさんの稽古を少し聞きましたよ。

 バケツに砂利を入れて、手刀をぶち込むんですって」


「部位鍛錬ですか」


「それはおまけとしてついてくるだけで、本来は痛みに耐えていると、丹田が鍛えられるという。丹田の稽古法ですね」


「ほう」


「似たようなので、鉄の棒で、自分で自分を殴るとかするらしいですよ」


「ううむ、想像を絶しますね・・・」


「滝行とか、断食もするそうです」


「良く分からなくなってきますね。それって忍に必要な稽古なんですか?」


「さあ・・・」


 2人が天ぷらをかじるカオルを見る。

 そんな荒行に耐えてきたのか、とアルマダのカオルを見る目が少し変わった。


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