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勇者祭  作者: 牧野三河
第六章 試合準備編

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第40話

放映機材のテストの為、機材を前にマサヒデとアルマダが立ち会う。

本気で撃ち合う彼らを前に、冒険者達の称賛の声。

立ち会い、3本目。


 立ち会い、3度目。


 1度目、2度目と同じように、2人は離れて向かい合う。


「ではー! 始めますよー!」


「はーい!」


 同じように、アルマダが大声で知らせ、マツから返事。


「お願いします」


「お願いします」


 と、互いに礼。


「じゃあ・・・走り回って行きますよ!」


 アルマダがすごい勢いで向かって来た。


 駆け抜けながら、剣を横薙ぎにぶつけてくる。

 だが、ただの勢い任せではない。正確だ。

 これは一戦目で飛び跳ねていた時とは違う。


(!)


 マサヒデはぎりぎりで上に流し、アルマダが走って来た方向に走り出した。

 走りながら、マサヒデは驚愕していた。


(これは一体!?)


 道場で練習していた時とは、全く違う。

 十分な広さがなかった道場では、このような戦い方は出来ない。

 この広い場所での戦いが、アルマダに合った、本来の戦い方なのだ。


 最初の横薙ぎの一振りで、寒気を感じた。

 一戦目、二戦目は、これまでの道場の稽古と、同じようにしていただけだ。

 本人も気付いていないに違いない。


「くっ!」


 少し走って、マサヒデは振り向く。

 アルマダが向かってくる。

 マサヒデも走る。


(受けてみせる!)


 流す気はない。

 この友の本来の剣を正面から受けなければ。


 がん! と音が訓練場に響き、2人の剣がぶつかる。


「ぐ・・・」


 ぎしぎしと、鍔迫り合いになった木刀が音を立てる。

 ぎり、とアルマダの歯の音がする。


 ほんの少しだが、アルマダの剣がマサヒデの剣を押した。

 数ミリにも満たない、ほんの少し。


(死ぬ!)


 マサヒデは死を感じ、本能的に身体が動いて、アルマダの剣を流した。

 そのまま、ざざざ、とまた2人は駆け抜けて、互いに振り向き、向き合った。


 マサヒデもアルマダも、大きく肩で息をしている。

 次で決着だ。そう感じた。


 アルマダが走り出す。

 一瞬後、マサヒデも走り出す。


(決める・・・!)


 すれ違いに、アルマダが剣を横に薙いだ。

 マサヒデは地を滑り、足を薙ぐ。踵を地に埋め、ぐっと膝を曲げて、勢いを溜めて止まる。

 アルマダが小さく飛んで、足薙ぎを避ける。


 刹那、マサヒデは曲げた膝を延ばし、地を蹴ってアルマダの背に向かって飛び、思い切り突きを入れた。


「がっ・・・」


 アルマダが声を上げて吹っ飛び、どさっ、と地に落ちた。


 はあ、はあ、と肩で息をしながら、マサヒデは地に落ちたアルマダを、呆然と見つめていた。


(足薙ぎ・・・)


 好んで使う者は、あまりいない。

 禁止されてもいないし、むしろ有効ではあるが、何となく卑怯な感じ。

 マサヒデもそう感じていて、ほとんど使ったことはない。

 トミヤス流は実戦派だが、それでも、道場で使う者は滅多に見られなかった。


「参りました・・・」


 アルマダが小さく声を出し、はっ、とマサヒデは我に返った。

 駆け寄ると、アルマダは苦しい表情で、手を上げた。


「すみません・・・手を・・・」


「は、はい」


 手を貸して、アルマダを立たせたが、まっすぐに立てないようだ。

 肩を貸し、大声でマツを呼んだ。


「マツさん!」


 マツが駆け寄ってきて、アルマダの背にそっと手を差し伸べると、アルマダは「ふう」と息を吐いて、座りこんでしまった。

 わあ!、と声が上がって、見学組から拍手が上がった。

 マツが「私の夫はどうだ!」という顔で、鼻高々に見学組を見ている。


「いやあ、参りました。やはり、マサヒデさんには、かないませんね」


「いや・・・今回は・・・」


「またまた、ご謙遜」


「足薙ぎ・・・出てしまいました」


「? なんです? 禁じ手でも?」


「いえ、そうではありませんが・・・ここまでやらないと、勝てなかった」


「ここまで、とは・・・?」


「アルマダさん、あの鍔迫り合いの時・・・私、はっきりと、死ぬ、と感じました」


「? ・・・ふふ、あなたをそこまで押せたなら、私も少しは成長したでしょうか」


「成長なんてもんじゃありませんよ。まるで別人ですよ・・・」


「トミヤスの神童に褒められて、光栄です」


 アルマダは笑ったが、マサヒデはまだ呆然としていた。

 そこにマツが声を掛けてきた。


「さ、お二人とも、お疲れ様でした。これで機材の確認もできました。ありがとうございました」


----------


 準備室で服を変えながら、マサヒデはまだ考えていた。


(足薙ぎ・・・)


 嫌いなわけではないが、何となく避けてきた技。

 それが、自然と出てしまった。

 それほどの立ち会い。もし出なければ、死んでいたかもしれない・・・


「マサヒデさん」


「え? 何でしょう」


「食事、ここで頂きましょうか」


「ああ、そうですね。せっかくですから頂いていきましょうか」


「昨日頂いたんですけど、ギルドの食事って中々ですよ」


「それは楽しみですね」


 汗で濡れた道着を、準備室の洗い物のかごに入れ、廊下に出る。

 そこにマツが待っていた。

 少し下がった所に、先程のメイドが立っていた。

 目を逸し、心なしか青ざめて見える・・・


「あ、マツさん。どうでしたか」


「おかげでばっちりです。お二人とも、ありがとうございました。これで一気に進みましたよ。お二人の特訓の時間も、たっぷり取れそうです」


 マツが腕まくりをして、細い腕で力こぶを作るように腕を上げた。


「あとは防護の魔術なんですけど、あれは少し寝かせないといけませんので、また明日、出来れば午前中に試し切りに来てもらえますか? もし上手く行かなかったら、また寝かせないといけませんし」


「ええ。構いません」(魔術とは寝かせるものなのか?)


 そこで、はっ、とマサヒデは思い出した。

 明日といえば。

 そうだ。皆がマツに挨拶をしたいと・・・


「アルマダさん。明日は・・・」


「あっ・・・」


「?」


 マツは何だ? という顔を向けている。


「あの、マツさん。明日も、やはり色々とお忙しいでしょうか」


「? うーん、そうですね。午前中は。何か急な連絡でもなければ、午後は空いていると思いますよ」


「そうですか、午後は空いていますか・・・」


「あ、もしかして! お出かけのお誘いですか? それとも特訓?」


「いえ・・・その、実はですね。私の友人と、アルマダさんのお供の方々が、その、お祝いの言葉を、贈りたいと申し出てくれまして・・・」


「まあ! 本当に?」


 マツは手を合わせて、本当に嬉しそうにしている。

 この笑顔が、明日も続けば良いのだが・・・


「はい、お邪魔でなければ・・・」


「お邪魔だなんて! 光栄です!」


 目がキラキラしている。

 話してしまった。もう、後には引けない。

 こんなに嬉しそうにしているマツ。


 だが・・・

 もし、少しでも粗相があったら・・・

 もし、トモヤが何か冗談でも言って、それがマツの気に障ったら・・・


 マツモトから聞いた話が頭をよぎる。

 『文字通り、消えていました』


「私達を入れると8人にもなります。ギルドの部屋を、どこか、少しの時間お借りしましょうか」


「はい!」


「一応、マツさんはマイヨールという魔の国の貴族の出、と話してあります。ご出身は、また折を見て、ということにします。私の友人は口が軽い。もし、あの大声で喋ってるのを誰かに聞かれでもしたら、万が一マツさんの身の危険にも関わる事もあります」


 魔王の姫。人の国の中でも3本の指に入る大魔術師。身の危険などあるはずもないのだが・・・


「お気遣い、感謝致します」


「いや、自分のことを隠さなければいけない、マツさんのつらさ・・・鈍い私でも、少しは分かっているつもりです。申し訳ありません」


「そんな・・・マサヒデ様。お気になさらず。私も、もう慣れておりますから・・・」


「・・・」


「では、我々はこれからここで食事を頂こうと思うのですが、マツさんはどうします?」


「私は、今のうちに、もう少し詰めたい所があるので・・・申し訳ありません」


「いえ。少しでもお手伝いが出来て、良かったです。それでは」


 2人とメイドは廊下を歩いていき、マツは頭を下げて、2人を見送った。


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