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勇者祭  作者: 牧野三河
第五章 報告

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第37話

国王陛下、ご観覧! 御前試合と銘打っても良い!

この報告に歓喜するギルド長オオタ。多く人も集まり、町の売上も上がること間違いなし!


 皆のマツへの挨拶は、とりあえず明日に、ということにした。


 さすがに今日は、マサヒデもアルマダも忙しい。

 まずはギルドに顔を出し、先程の、国王が試合をご観覧される、という話をし・・・

 マツに訓練場で、実際にマサヒデが動く所を見てもらって、機材の調整をしてもらって・・・


 やることはいっぱいだ。


「さて、マサヒデさん。そろそろ参りましょう」


 アルマダが馬の準備を終え、マサヒデに声をかけた。


「はい。行きましょうか」


 2人は馬を引いて、がさがさと草むらを歩いていく。


 道に出てから、アルマダが話しかけてきた。


「今日はとても忙しいでしょうが、マツ様に稽古はして頂けるでしょうか」


「さあ、どうでしょうか。実際に、マツさんがどんな仕事をするのか、さっぱりで。

 魔術の放映の機材とか何とか、言ってましたが、その仕事次第でしょう・・・

 どんなものなんでしょうか?」


「私にもさっぱりですね。

 しかし、マサヒデさん。正直に言って、私、マツ様には腰が引けてしまいます。

 それでも、魔術師相手の戦い方、やはり必要だと思いますから・・・

 というのは建前で、実を言うと、マツ様の稽古、楽しみでもあるんですよ。

 胸が踊る、というんでしょうか。そんな気持ちもあるんです」


「私もです。マツさんは、人の国でも屈指の方・・・

 そんな方からの稽古、実は、もう楽しみで楽しみで」


「ふふ、それにしても、マサヒデさん。私、先程のマサヒデさんの話には、いたく感動しましたよ」


「まあ・・・何というか、思ったこと、そのまま言っただけですよ」


「マツ様は、マサヒデさんの・・・うーん、その、何と言いましょうか、まっすぐな所?

 そういう所を見抜かれたんでしょうね」


「どうでしょうかね? 自分では良く分かりませんが・・・

 恥ずかしいですけど、まあ、そのうちマツさんに、私のどこが目にかなったのか聞いてみます」


「ふふふ、それ、私にも教えて下さいますよね?」


「内容次第です」


「ははは!」


----------


 ギルドに着くと、昨日とは違う受付嬢が迎えてくれた。

 一晩閉まっていたはずだが、もう昨日と同じように、わいわいと賑やかだ。


「マサヒデ=トミヤスと、アルマダ=ハワードです。

 ギルド長のオオタ様か、依頼受付部部長のマツモトさん、いらっしゃいますか?

 おられなければ、その、我々の依頼が分かる方で」


 受付嬢は、は! とした顔をして、


「あの、マツモトは本日休みですが、オオタはおります。少々お待ち下さい!」


 と言って、パタパタと走っていった。


「オオタ様、昨晩はほとんど寝ていないのでは・・・」


「責任感の強い方でしょうからね。マツモトさんもそう感じますが・・・

 おそらく、オオタ様が強引に休みを取らせたのでしょう」


「さすが、といった所でしょうか。国王陛下のご観覧の話を聞いて、喜んで頂けたら・・・」


 そこで、オオタがどたどたと奥から走ってきた。


「や、これはこれは! お待たせしました!」


 昨晩ほどげっそりした顔ではないが、目の下にはっきりとくまが出来ている。

 声だけは元気だが、全然眠ることが出来なかったのだろう。


「お忙しい所、申し訳ありません。本日は、オオタ様が喜ぶ話を持ってきました。きっと驚きますよ」


「おお! それはそれは! お聞きするのが楽しみですな! さ、奥へ!」


----------


 昨日と同じ部屋に通され、3人は座った。

 部屋の隅にはメイドもいたが、昨日とは違う人だ。


 す、と茶を出す動きは、やはり洗練されている。

 このメイドも、何か得物を隠し持っているのだろうか・・・


「で。その、喜ばしいお話とは?」


「ふふふ、お喜び下さい。実はですね、今回の、このマサヒデ殿の力試し大会なんですが・・・」


 アルマダはそこで言葉を切り、少し言葉をためて、にやり、と笑った。


「なんと! 国王陛下もご観覧下さるそうです!」


「え!」


「昨晩、マサヒデ殿が通信で国王陛下からお言葉を賜った際です。

 陛下がこの試合、是非とも見させてもらう、楽しみにしている、と仰られたそうですよ」


 オオタは目を見開いて驚いている。


「つ、つまり、つまりそれは・・・御前試合になると!?」


「まあ、さすがに、こちらにおいで下さる時間はございませんようで、あの魔術の放映でご覧下さるそうです」


 ここで、マサヒデの追い打ちだ。


「確かに、お出でになられる時間はなく、直にご覧下さることは叶いませんが・・・

 なんと『御前試合と銘打っても良い』、とのお言葉も賜りました」


「お、おお・・・なんと・・・なんという・・・!」


「ふふふ、オオタ様。このこと、触れに出せば・・・」


「あ!」


 オオタが、ば! と顔を上げる。


「もう分かりますよね! そう! 身分関係なく、誰でも参加出来る御前試合!

 さあ、これはどれだけ参加者が増えることか!」


「そうだ! そうです! それだけではない! これは当ギルドの大きな名誉にもなる!」


「どうです。お喜び頂けましたか」


「素晴らしい! 実に素晴らしい話です! ハワード様! トミヤス様!

 ・・・このオオタ、もう、いくら感謝しても感謝しきれませんよ!」


「せっかくですから、もっと日限を延ばして、と行きたい所ですが・・・

 陛下にはお忙しい中、ご観覧のお時間を取って頂きます。1日2日ならともかく、あまり長くは。

 それに、日がずれるとなれば、王宮への連絡も必要でしょう」


「十分です! そうだ、それなら、近くの町のギルドに今すぐ連絡すれば・・・!」


「ふふ、他の町からもどっさりと」


「おお・・・」


 オオタが喜びのあまりか、震えだした。

 昨晩、マツの名を聞いた時の震えとは正反対だ。


「客足も多く増えましょうね。放映はこの町内の魔術放映ですから」


「そうだ! そうです! 商人ギルドにも連絡をしましょう! 今すぐ、町長にも連絡して・・・」


「とてもお忙しくなられてしまうと思いますが、いかがでしょう。悪くないかと」


「おお、何ということだ! 何と・・・!

 このオオタ、お二人にはもう、感謝の念しかありませんぞ!」


「お喜び頂けて、我らも光栄です」


 オオタは、ばっ! と立ち上がり、


「ありがとうございます!」


 と、頭を下げた。

 マサヒデは立ち上がり、オオタの両肩に手を置いた。


「オオタ様、これは、昨晩お騒がせしたお詫びだと思って下さい。

 それに、私はオオタ様の『トミヤスとして生きて行ける』という言葉に、救われました。

 私は、あなたに感謝と、そして尊敬の念を抱いております」


「トミヤス様・・・!」


 顔を上げたオオタは泣いていた。

 アルマダはそのオオタの顔を見て、にこりと笑った。


「オオタ様、我々の出番は、もうありませんね。少し、訓練場など見させて頂いてよろしいでしょうか」


「はい! ご満足頂けるまで、お周り下さい!」


「あ、そうだ。訓練場といえば、マツさんが訓練場に機材をとか言っていましたが、来ていますか?」


「はい。先程、お二人の到着する少し前に、訓練場の方へ」


「ありがとうございます。見てきますね」


「はい! 君! ご案内を!」


 ドアが閉められるまで、オオタは頭を下げていた。


----------


 廊下を歩きながら、


「マサヒデさん、喜んでもらえて良かったですね!」


「ええ、本当に。しかし、これでギルドはすごく忙しくなってしまいますよね。

 我々では、大したお手伝いも出来ないでしょうし・・・少し、申し訳ないですかね」


「ははは! そこまで気にすることはないですよ。

 それにこれで、商人ギルドや町内会にも大きな貸しが出来ます。我々としては願ったり叶ったりです」


 ロビーを通り抜け、訓練場の方の廊下へ入ると、いくつかのドアは開けっ放しで、メイドや冒険者らしき者たちが行ったり来たりしている。


「これは・・・思ったより忙しそうですね・・・」


「ええ・・・」


 先を歩くメイドが「お気を付け下さい」と注意を促す。


「まずは訓練場からですね。魔術の放映の機材って、どんなものでしょうか」


「マサヒデさん・・・ここはマツさんに会えることを喜ぶ所ですよ」


 ぎ、と扉を開けると、訓練場の中でもメイドや冒険者が走り回っている。

 長椅子を担いだ者、武器棚を担いだ者が「よいしょ、よいしょ」と歩いている。


 見渡すと、扉の横から少し離れた所にマツはいた。

 マツは真剣な顔で、腰くらいの高さの、何やら石の柱のような物をいじっている。

 あれが機材だろうか?

 つついたり、表面を指をすーと撫でるようにしている。

 その度に、懐からメモを出して、何やら書き込んで、柱とメモを交互に見たり・・・


「あれが、機材でしょうか? なにか、随分と小さいですね。もっと大きな物を想像していました」


「私もです。何か、小さな石の柱みたいですね?」


 マサヒデ達はマツに近付いたが、あまりの真剣さに、声をかけるのをためらってしまった。

 あのマツが、近付いても気付かないとは。

 余程、集中しているのだろう。


 少ししてから、マサヒデは声を掛けた。


「マツさん」


「あっ! マサヒデ様」


 マツが驚いて振り向いた。


「すみません。とても集中してるように見えましたので、声を掛けるのを躊躇ってしまって」


「いえ、こちらこそ気付かずに・・・早く終わらせようと思って、急いでおりましたもので・・・」


「これが、機材ですか?」


「はい」


「随分と小さなものなんですね。もっと大きな物を想像していました」


「ええ。ですが、この中にはぎっしりと魔力が詰まっているんですよ。

 お二人共、もし間違って壊してしまったら大変ですので、気を付けて下さいね」


「もし壊してしまったら?」


「ドカン! ですよ。このギルドの建物くらいは吹っ飛んでしまうかも・・・」


「え! それじゃあ、気を付けて戦わないと」


「うふふ、冗談ですよ。吹っ飛んだりなんてしません。お金はいっぱい飛んでいきますけど」


「驚かせないで下さいよ。まあ、どちらにしても気を付けないといけませんね」


「私の特性の防護の魔術を掛けますから、大丈夫かと思いますけれど」


「防護の魔術、ですか」


「はい。まあ、ものすごく丈夫な、薄いガラスのような、布のようなもので囲む感じです」


「へえ・・・?」


「あ、せっかくですから、少し見てもらいましょう。ついでに、お手伝いを頼みます」


「お手伝い? 私達は魔術は全くですが」


「防護の魔術が壊れてしまわないか、試してもらうだけです」


「はあ」


「まずはご覧下さい」


 マツが手をかざし、少しすると、石の柱が薄い透明な膜のようなものに包まれた。

 これが防護の魔術だろうか。

 なんとも頼りない感じだが・・・


「ではマサヒデ様、この膜、斬ってみて下さい。あ、念のため、柱に当たらないような筋で」


「はい。では」


 マサヒデは一歩前に出ながら、居合抜きに軽く斬ってみたが・・・


「お?」


 膜の表面で、刀が止まった。

 固いものを斬った感触はなく、かと言って、ぐにゃぐにゃした感じでもない。

 音もしない。


 驚いたことに、剣筋をそらされておらず、まっすぐ止まっている。

 普通、こんな止められ方をしたら「ガツン!」と衝撃が入るものだが、それが全くない。

 何とも言えない感触だ。


「こ、これは、一体・・・?」


「うふふ。これが私特性の防護の魔術です」


 刀を引いて、立てて見てみるが、傷ひとつ付いていない。

 不思議なものだ・・・


「マツ様、私も試してみてよろしいですか」


「ええ、どうぞ」


 アルマダが剣を抜き、ゆっくり振り上げて、怖ろしい速さで振り下ろした。

 これはマサヒデの軽い居合とは違い、本気だ。

 が・・・


「・・・? こ、これは!?」


 アルマダの剣も、膜の上で止められた。

 狐につままれたような顔をして、自分の剣と膜を交互に見ている。

 きっとマサヒデも、さっきはこんな顔をしていたのだろう。


 マサヒデも本気で試したいと思い、


「もう一度、試してみてもいいですか」


「どうぞ」


 逆八相に構える。最も力の入る形だ。

 集中して・・・


「ん!」


 斜めにまっすぐ振り下ろす。

 やはり止められた。

 が、今度は剣先が、ほんの少しだけ、膜の中に入っている。

 何か斬れたような感触は一切なかったが・・・


「あら・・・」


「・・・これは・・・斬れた、のでしょうか?」


「はい。自信はあったのですが・・・作り直しですね」


「マサヒデさん・・・私、こんな不思議なものは、初めてです・・・」


「ええ・・・」


 2人が驚いて顔を見合わせていると、


「あ、そうだ。少し早いですけど、ついでです。

 お二人に、もう一つお手伝いをしてもらってよろしいでしょうか」


 マツがにこにこ笑いながら、マサヒデとアルマダに話しかけた。


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