レーネと鈴音 4
そんな中、レーネの両目はみるみるうちに涙でいっぱいになっていた。
《……ごめんなさい、ごめんなさい、お兄様……っ》
ユリウスの問いに答えることはないまま、レーネは謝罪の言葉を繰り返す。
ぽろぽろと大粒の涙を流すその姿は、心からユリウスに対して罪悪感を抱いているようだった。
《全部、私のせいだったのに……お兄様のせいに、して……》
それは手帳に書かれていた通りの言葉だった。
けれど「できることなら謝りたい」と望んでいた彼女も、この形は望んでいなかったはず。
《……本当に思い出したんだね》
涙ながらに話すレーネの言葉の意味を、ユリウスは理解したらしい。
私は知らないであろう話だからこそ、目の前にいるのが過去のレーネだと確信したようだった。
《うっ……ひっく……》
レーネの涙は止まることなく、両目から落ちた雫は制服を濡らし、色を変えていく。
その様子を静かに眺めていたユリウスは、そっと椅子から立ち上がった。
《俺達は少し出てるから、落ち着いたらまた話そう。ゆっくりでいいから》
ユリウスは宥めるような、穏やかな声音でそれだけ言うと、レーネが頷いたのを確認し、動揺しているルカを連れて退室した。
部屋の中にはレーネの啜り泣く声だけが響いている。
「…………」
ずっと泣いている姿を見ているのも良くない気がして、私は再びテレビに触れると、メレディスに教えてもらった通りのやり方で、映す対象を切り替えることにした。
ユリウスの現在を見たいと強く念じると、パッと画面はユリウスの部屋へと切り替わる。そこではユリウスとルカが、ソファに隣り合って座っていた。
《…………》
《…………》
そんな二人の間に、言葉はないまま。ユリウスは膝の上に肘をつき、額を覆うように手をあてていた。
ルカはそんなユリウスの様子を心配げに窺いながら、形の良い唇を真横に引き結んでいる。
《……さっきのあれ、姉さんなんだよね?》
沈黙を破ったのは、ルカの不安げで子どもみたいな声だった。
《お前にはそれ以外に見える?》
ゆっくり顔を上げたユリウスの声音や表情は、どこか自嘲を含むものだった。
けれどルカの疑問だって、当然のものだろう。
《だって話し方も態度もいつもと違うし、なんていうか……昔の姉さんに戻ったみたいで》
《……実際、そうなんじゃないかな》
ユリウスはそう言うと、深く息を吐いてソファの背に体重を預けた。ルカは「どういう意味?」と眉を寄せる。
《まさか記憶を取り戻して、性格も昔の姉さんに戻ったってこと?》
《ああ。俺は記憶喪失になって以降のこと自体、覚えていないんだと思ってる》
ユリウスの言葉に、ルカの口からは「は」という弱々しい声が漏れる。
《じゃあ再会してからのことも、全部なくなっちゃったってこと……? だから俺にも、あんな十年ぶりに会ったような態度をとって、ルカって呼んでくれないの?》
不安げなルカに対し、ユリウスは何も言わないまま。
《そんなのやだ、絶対にやだ! 姉さんとの思い出が全部なくなって、姉さんが俺に言ってくれた言葉もみんなで一緒に過ごしたことだって、俺を助けてくれたことだって、全部……》
ルカの目には、じわじわと涙が溜まっていく。
ユリウスはそんなルカの頭に手を乗せると、自身の方に軽く引き寄せた。
《絶対に大丈夫だから、少し落ち着いた方がいい》
《何でそんなことが言えるわけ》
ルカの口調は問いただすようなものだったけれど、身体は大人しくユリウスに預けたまま。
ユリウスは落ち着いた態度のまま、ルカに視線を向けた。
《俺が昨日までのレーネを逃がすと思う?》
まさかの質問に、今この瞬間まで泣きそうだった私は涙がぴったり止まってしまう。
ユリウスは口元に誰よりも美しい笑みを携えていて、話題の張本人である私も逃げるつもりはなくとも「いえ、絶対に逃げられなさそうです」と思ったくらいだった。
ルカもユリウスの発言に目を見開いた後、呆れたように眉尻を下げている。
《思わない。だってお前、姉さんのこと好きすぎるもん》
《だから安心していいよ》
どうかしてる、と笑ったルカは脱力したように完全にユリウスにもたれかかる。先程まで不安でいっぱいだったルカの姿はもうなくて、ユリウスの優しさに胸が温かくなった。
二人はいつも喧嘩ばかりしているけれど、やっぱりお互いを大切に思っているのだろう。
結局、レーネは泣き疲れたのか、薬の影響なのか、再び眠ってしまった。
起きる様子がないのを再度確認した後は、私も少し眠ることにした。何かあった時にすぐ動けるように、体力は温存しておかなければ。
ベッドに入ると甘い優しい香りがして、やっぱり自分の家という感覚はしない。けれど不思議と落ち着いて、気が付けばぐっすりと泥のように眠ってしまっていた。
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