表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第四部:強欲若人は幸せを語る
602/602

第一章:四天王の華麗なる艱難-35

 


 ──初撃を見事に防いでみせたハント。


 しかし、彼の脳内はそんな成功体験に浸る余裕などなく。


 自身の得物である槌矛(メイス)から手刀と鍔迫り合いしているとは思えない甲高い金属音が鳴っている事実に混乱しながら。


(んッッだこの硬さッ!? アンデッドの防御力じゃねぇってッッ!? ぜってぇスキルで固くなってんだろッ!! ──って、今は取りあえず置いとけっ!)


 《思考加速》で引き伸ばされた思考で必死に次の手を模索する。


(さっき戦ったメイド長アンデッドは、暗器を使った白兵戦が主体の敵だった。初撃で手刀を使ってきたってことは、コイツも多分白兵戦メイン。ならまずはさっきの戦いを思い出しながら、強さを想定の三倍って仮定して──)


 そんな折、視界の端で何かが動く。


 それは自身の身体を死角として放たれた貫手であり、《思考加速》の中でギリギリなんとか捉えていて尚、既に十分に加速されてしまっている。


 盾はあるが、咄嗟に槌矛(メイス)を使って防御してしまったために両手は塞がり、かと言って片手で鍔迫り合い続けられるほど手刀の重さは軽くはない。


 飛び退こうにもあの長身痩躯のリーチは計り知れず、またアンデッドである事を加味するならば肩や肘関節を外し想定以上に伸びてくる事だって考えられる。


 詰み。初手でである。


 防げはした。しかし今にして思えばこの手刀はブラフで、本命はハントの腹部を貫かんと狙う貫手だったのかもしれない。


 未熟さが生んだ初動での判断ミス。そして加えて連戦からなる精神的な疲労が招いたミスだ。


 ここから脱する方法は──


「ハントっ! 飛び退いてっ!!」


「──っ!!」


 言葉に、躊躇(ちゅうちょ)なく飛び退く。


 次の瞬間、振り切られた手刀が触れていないにも絨毯と床に亀裂を走らせ、本命である貫手が(さなが)ら大蛇のようにハントを狙って伸びる。


 このままでは予想通りハントの胴体を貫くが──


「包み歪めろっ! ダークディスターブっ!」


 放たれた貫手に現出する、闇。


 光を全て吸収し一切反射しないそれは、直後本来辿るはずだった貫手の軌道をあらぬ方向に歪め、そのままハントの脇を掠めて通り過ぎる。


「あ? あ゛あ゛ぁぁ?」


 当たると確信していた貫手が目標を貫かず、執事アンデッドはまるで理性があるかのように小首を傾げる。


 それもそのはず。


 執事アンデッドとしては先程の一撃、一切の落ち度なく制御していたのだ。


 だがそれが直前になって突然制御を失い、結果ハントを仕留め損なった……。


 原因は勿論、ミレーがハントの急死に際して放った《闇魔法》の魔術による効果にあった。


「っっぶねぇ……。助かったミレー」


「う、うん。良かったよ。アイツにも効いてくれて」


 魔術「ダークディスターブ」。


 対処を闇で染めることで一部制御を塗り潰し、事前に付与していた命令を行使させる魔術。


 これによってミレーは執事アンデッドの貫手に通っていた魔力の制御を一部塗り潰し、その挙動を一時的に歪めた。


 クラウンが自身の《嫉妬》の権能である〝情報の書き換え〟から着想を得て開発した彼オリジナルの魔術であり。


 それを《闇魔法》の才能ならロセッティに次ぐものを持っているミレーに伝授した、()わば秘密兵器である。


 しかし──


「で、でも使えて、あと一回、かな。しかも使ったらボク使いものにならなくなる」


「マジか。気ぃ付けるわ」


 一見強力に思える魔術だが、当然効果に比例するように反動も大きい。


 消費魔力量は言うに及ばず膨大であり、要求される操作能力は精密作業の域。


 それをあのハントの身体を貫手が貫く直前の刹那に行わなければならなかったのだ。そう易々と連発出来るものではない。


 ……だが、男爵アンデッドは勿論執事アンデッドも、そんな事知る由もない。


(──今ので、コイツらはミレーの魔術を警戒するはず。アンデッドは人間と違って魔力で無理矢理体を動かしてるからより効果があるからな。さっきみたいな戦闘の理性があんなら注意は分散してくれる)


 ただ、相手はアンデッドだ。


 常識的な思考は期待出来ず、下手な負傷など考慮しない。


 相手を型に()め過ぎて油断を突かれる可能性は決して忘れてはならないだろう。現に──


「……はいえなガ何カシタカ?」


「……あ?」


「ワタシ達ノコノこっぷノ嵐ハ主ノ熊ガ踊ルッ!! ソレヲ貴様等ハ鳥達ノ帰巣ニ他ナラナイッ!! 寡黙ナ犬トナレッ!! ソレコソガ主ノ出発点ナノダカラッ!!」


「……はい?」


 先程まで、アンデッドながらも確かに意思疎通が出来ていた。


 多少の情緒の乱れはあったものの確かな理性も残しており、下手な精神疾患を患った人間よりも対話が成立さえしていた。


 だが、何かが外れてしまったのか。


 はたまたアンデッド化が進行してしまったのか。


 ただでさえ枯れ(しゃが)れ聞き取り辛かった彼の言葉は、最早ハントとミレーが理解出来るものではなくなっていた。


「ははっ! 所詮ハ驢馬(ろば)ニすぽんじけーきヨッ!! ソノ程度ノ弾丸ヲ噛ンデイテハ、ワタシノ山ハ動カセンワッ!!」


 文章の本来当てはめられている筈の単語が支離滅裂なものに変換され、それをまるで疑問にも思わず(まく)し立てる……。


 ギリギリ保たれていた人間らしかった部分は、虚しくも霧散してしまったのだ。


 こうなればもう、人間として見る事など出来はしない。


「言ってる意味分かんね──ッつわッッ!?」


 思わず反応してしまったハントに、執事アンデッドからの追撃が飛んで来る。


 しかし今度はしっかりと装備している小盾で手刀を封じ、反撃に備え槌矛(メイス)を斜に構える事が出来た。


(長期戦は悪手。次の攻防で決しなきゃジリ貧で負け確だっ! ダークディスターブへの警戒心がある内に何としてでも執事アンデッドをぶっ倒すっ!!)


 そして相変わらず手刀らしからぬ音を立てる攻撃に対し──


「でやぁっ!!」


 小盾の曲面を活かし手刀を滑らせ軌道を逸らし、次手である攻撃に注視する。


 すると体勢が崩れているにも関わらず、本来なら人間の関節の都合上、決して飛んでくる事が無い筈の角度から再び貫手が射出。


 だがその速度は無理な体勢と関節駆動から先程のものに比べれば数段劣り、反応出来るまでに余裕が生まれる。


 流石のハントも劣化した同じ手に掛かるほど初心者ではない。


 《思考加速》で引き伸ばされ漸く捉える事が出来た貫手に対し、ハントは槌矛(メイス)による打撃技《重破砕(メガクラッシュ)》を振り下ろす。


 このまま行けば槌矛(メイス)が執事アンデッドの貫手を粉砕する事が出来るが──


 ──ギャリィンッッ!!


「──ッ!?」


 槌矛(メイス)鎚頭(ヘッド)が貫手に激突した瞬間、衝突点から目眩がするほどの金属質の擦過音が鳴り響き、槌矛(メイス)を握るハントの手に強烈な反動が急襲する。


「ぐっ!!」


 その衝撃にハントは槌矛(メイス)から手を離しそうになったが、それを奥歯を噛み締めながらなんとか《剛体》と《不屈》でふんばり、痺れる手に力を込め直す。


「ナメんなっ!! ミレーッ!!」


「縛れっ!! 「ブラックハンティング」っ!!」


 呼応する形でミレーが魔術を発動。手の影から闇が伸び、執事アンデッドの元まで辿り着くと蔓が巻き付くようにして身体に這い上り、巻き付く。


「……っ?」


 ブラックハンティングは先程のダークディスターブ同様、対象の行動を塗り潰し変える魔術。


 しかしその制限力はダークディスターブに比べて極めて弱く、精々が動きを鈍らせる程度。逸らすなど到底出来はしない。


 代わりに影響範囲は広く、巻き付いた闇から浸透するようにして全身に働きかけ、(さなが)ら極度の倦怠感を味わうように体の動きを鈍らせる。


 次手。執事アンデッドが砕かれはしないまでも叩き落とされた貫手をそのままに身体を強引に捻り、片足を軸にして回し蹴りを薙ぐ。


 今までならばこの一撃も手刀同様に──いや蹴り技である事と回し蹴りとしての遠心力の分より強力になっている一撃に対して全力でガードしなければならなかったろう。


 しかし、その動きはブラックハンティングによって制限されている。


 全身のバネを利用している関係上、魔術効果に影響されてしまう箇所も多くなり、連動して威力は減少。


 結果──


「フンッ!!」


「──ッ!?」


 回し蹴りはハントに完全に軌道を読まれ、出迎えるようにして槌矛(メイス)のフルスイング──《薙打砕(ギガスイング)》を振るう。


 剛脚と槌矛(メイス)が衝突し、三度激しい響音が空気を震わせた。


(相変わらずカッッテェ……。でもっ!!)


「掻きむしれっ!! 「ダークディスターブ」っ!!」


 ミレーから放たれた、最後の魔術。


 真っ直ぐ放たれた闇の弾丸は、着弾すれば(たちま)ちその頑強な防御力を与えているであろうスキル効果を歪め、執事アンデッドの剛脚をただの朽ちた死体へと回帰させるだろう。


 そうなれば執事アンデッドの脚は脆く崩れ落ち、そのまま勝利する事間違いない。


 ……それが当たるならばの話だが。


「……」


 執事アンデッドはちゃんと機能しているのか判然としない目で飛来してくる闇の弾丸を見遣ると、即座にぶつかり合わせている脚を跳ね上げ槌矛(メイス)をいなし、闇の弾丸を更に身体を捻る事で辛うじて着弾を避けた。


「くっ……。ダメか──」


「もう一発っ! ダークディスターブっ!!」


「え?」


 間髪入れず、ハントの頬を掠めるように追加のダークディスターブが通過した。


「は、はぁぁッ!?」


「──ッ!?」


 執事アンデッドは既にアンデッドの肉体限界まで身体を捻っている状態。


 これ以上やれば肉体的損傷は無視出来ないところまで行き、最低限の動きすらままならなくなるだろう。


 つまり、この魔術は避けようがない。


「あ゛ぁ、あ゛ぁぁ……っ」


 見事、ダークディスターブは執事アンデッドに直撃。


 胸──一般的にアンデッドの魔力元とされる心臓に着弾し、身体に流れる魔力の流れそのものを歪ませる事に成功する。


 その結果どうなるか?


「──ッ!? くるとっ!!」


 男爵アンデッドが執事アンデッドの名前らしいものを叫ぶのとほぼ同じ。


 執事アンデッドはまともではなかった体勢を立て直せないまま重力に従い、転倒。


 なんとか立ち上がろうと(もが)くが、魔力の流れそのものが歪められているせいで腕一本動かすことすらまともに出来ず、ただただ蠢くだけになっている。


「お、おまえ……。もう撃てねぇんじゃ……」


 執事アンデッドの姿に動揺しながら、ハントは(おもむろ)にミレーに振り向き、困惑しながら頭に浮かぶ疑問について率直に問う。


「ごめん嘘吐いた」


「──っ! ……なんでだ」


「そこの男爵さん、会話出来たでしょ? だからもしかしたらボク等の会話も聞いてて理解してるかなって。ならブラフも効くかもしれないじゃん」


「そ、そうかもしんねぇけど……」


「実際さ。執事の方は戦闘に関しては少し理性的みたいだったし、多分男爵さんからも操られてるから綺麗に引っかかってくれたでしょ。その執事が証拠だよ」


 二人の視線が執事アンデッドに向く。


 執事アンデッドはこうして会話している間もひたすらに踠くばかりで一向に立つ事が出来ないでいる。


 アンデッドは余程に特殊な個体でも無い限り、その身には闇属性が宿っている。


 闇属性に染まっているアンデッド達は同じ闇属性である《闇魔法》の効果が浸透しやすく、溶け込みやすい。


 故にその魔術効果もより滲み、そして抜けにくいのだ。


 多少の無駄口を叩いたところで、執事アンデッドの復帰は遅々として進まない。


「ほらハント。トドメ刺さなきゃ」


「あ、え?」


「生かし──ってもう死んでるか……。このまま動ける状態にしてたら危ないよ。分かるでしょ?」


「……おまえって、そんなんだったか?」


「──っ! ……今は、関係ないでしょ」


「……そうかよ」


 まるで錆びた機械のように首を軋ませながら頭を(もた)げる執事アンデッドの胸部に、ハントは槌矛(メイス)を添わせる。


「……堕墜衝(ドロップインパクト)


 槌矛(メイス)鎚頭(ヘッド)が凄まじい勢いで執事アンデッドの胸に撃墜。


 先程の頑強さは何処へやら。いとも容易く胸部は弾け飛び、辺りに腐敗した血肉と体液が飛散する。


 直後、執事アンデッドは糸が切れたようにしてその全身を脱力。一瞬にして、アンデッドはただの腐肉と化した。


「……さて」


 二人は一斉に男爵アンデッドを見遣る。


 忘れてはならない。今回の任務の本命はこの執事アンデッドではなく男爵アンデッドであり、どれだけ苦労したとしても今からが本番だ。


 まだまともに喋れた時に語った話が本当ならば最早彼には魔力が残っていないらしいが……。


「……愚カ者ガ」


 そう小さく口にし、男爵アンデッドが机を叩く。


 するとそれだけで拳はアッサリ砕けてしまい、埃まみれの机に肉片が散る。


「……コウナレバッ!!」


 男爵アンデッドは無事な方の手に握る魔物化ポーション散布装置を掲げ、それに魔力を送り込み始めた。


「はぁっ!?」


「な、何をっ!?」


「我ガ残存魔力ヲ注ギ込ミィィィィ、新タナ核トシテくるとヲ呼ビ戻スッ!!」


「な……はぁっ!?」


「我ガ家族モ呼ビ寄セヨウッ!! サスレバ貴様等トテ最早敵デハナイワッ!!」


「ふざけんなッ!!」


 ハントが慟哭と同時に槌矛(メイス)を構え直し、男爵アンデッドを睨む。


「目の前でそんなもん、許すわけねぇだろッ!!」


 そして執事アンデッドの死体を踏み越え、男爵アンデッドに槌矛(メイス)を振り上げた──次の瞬間。


「ま、待ったッ!!」


「──ッ!?」


 突如としてミレーが槌矛(メイス)を構えたハントを手で制し、あろうことか男爵アンデッドを庇って見せたのだ。


「な、バ……アブねぇだろ何してんだッ!?」


 当然、それにハントが声を上げるが、そんな彼をミレーは無視し──


「男爵──エーミール男爵殿ッ!! どうかボクの言葉に一度だけ耳を傾けていただきたくッ!! 聞いては頂けないでしょうかッ!!」


「お、まえ……いきなりどうし──」


「黙っててっ!! 男爵どうか、一度だけで構いません。どうか……」


「……ナンダ」


 男爵アンデッドが散布装置を掲げたまま、ミレーの次の言葉を待つ。


「……男爵。ボク達と協力しませんか?」


「……ナニ?」

「……は?」


 その瞬間、一瞬だけ時間が止まったようにハントには感じた。




 ______

 ____

 __





 ──ティールが片付けた盗賊共は広場の一箇所に集められ、セオフィラス等領主達と町の各分野の代表者の前にて晒されていた。


 大半は降伏し後ろ手に縛られているが、十数名がティールの聖芸の指先(チマブーエ)と《色彩魔法》によってアートにされ、死んだ魚のような目で泣いている。


 側から見たら随分とカオスな絵面である。


「だ、旦那様……。こやつ等の処分、如何様(いかよう)に致しましょうか?」


 怒りと困惑が入り混じった声音でそう主人であるセオフィラスに(たず)ねる家令。


 本来なら処断一択である筈なのだが、如何(いかん)せん何故か芸術作品が紛れてしまっているからな。思わず判断が鈍り訊いてしまったのだろう。


 実際セオフィラス自身もどうしたものか、と混乱している。


「……ティール」


「な、なんだよ……」


「その……なんだ? お前が拵えたその芸術作品というのは……戻るのか?」


 流石は堅物。混乱を少しずつではあるが解き、取り敢えず最優先に聞く事を聞いた感じか。


「当たり前だろ。所詮は魔法の産物だからな。俺からの魔力供給が無くなれば元通りってわけだ」


「そ、そうか。……なら、罰にはならんな」


 少しの安堵の後、現実的な問題が浮上する。


 彼としてはこのまま元に戻らないのならば、一層のこと芸術作品として死ぬまで晒すのが罰になるのでは? とでも思案したのだろう。


 混乱しながらよくもまぁそんな打算的に頭を働かせる。


「一応は背後関係を洗い、その後に処断で良かろう。町民から要望があれば代表者だけでも公開処刑とし、他は適当に斬首だな」


 つらつらと、(さなが)ら夕食の献立でも組み立てるかのように盗賊共のゴールテープを貼るセオフィラス。


 まあ、妥当中の妥当、だな。


 さっきから盗賊共が虚しい嘆願を叫んでいる通り、コイツ等は(けだ)し戦力として数える事は可能だろう。


 だが散々に度し難い被害を出しておいて今更新たにハッタード領の領兵として働くなど虫の良い話この上なく。


 町民としても苦しめられた奴等に守られるなどと気が気ではないに違いない。


 かと言って放逐など論外で、牢にぶち込むには人数が多過ぎる。


 犯罪奴隷としても使い勝手は悪いだろうし。最早首を並べる以外に選択肢は無い。


 ……だがまあ──


「セオフィラス卿。私から宜しいですか?」


「──ッ!? な、なんだ……」


 そんな露骨に嫌な予感を感じなくともよかろうに……。


 まったく。嫌われたものだな。ふふふふ。


「この者等、私に預ける事は可能で?」


「……意図が分からん。私兵にでもするつもりか?」


 懸念は(もっと)も。しかし要らん心配だ。


「まさか。ティール一人に負けるような雑兵ですよ? 数だけ多く嵩張(かさば)る荷物など、わざわざ抱える趣味はありませんよ」


「では何故だ? 貴様に得があるような案件ではなかろう」


「そう難しい話ではありません。……ただその命を()って、社会貢献でもして貰おうかと」


「……ほう」


 何やら興味深そうではあるが、残念、全てデマカセだ。


「この度、我々ティリーザラは無事にアールヴと和平を結ぶに至りました。その結果、我々はエルフ族が保有する知識と技術を学び、利用可能となったワケです。まだまだ準備段階ですが」


「そ、そうか」


「まあ、有体に言えば〝人体実験〟です。その検体にしたく、ご了承頂けませんか?」


「──ッッッ!?」


 皆が一斉に私を凝視する。正気でも疑うような目だ。


 先程は無慈悲にも処断だの公開処刑だのと宣っていたクセしてまったく。


 実に人間らしい。


「具体的な内容につきましてはお話出来ませんがね。……それで? いかがでしょうか? セオフィラス卿……」


 セオフィラスに笑顔で(たず)ねる。


 (ねぶ)るように。嬲るように、()め付けながら。


「……好きにするが」


 それだけ呟き、(きびす)を返して歩き出す。


「セオフィラス卿」


「……なんだ」


「後程、また伺わせて頂きます」


「……分かった」


 一瞬だけ止めた歩みを再開させると、それに続くようにしてハッタード家関係者や町民代表者がこの場を後にし、最終的に広場に残ったのは……。


「……お前なぁ……」


 一々詳細を伝えていないティールが何かを察しているかのように呆れ笑う。


「んであんな嘘吐いてんだよ。心象悪くなるだけじゃねぇか」


「ああ言っておけば、興味本位で首を突っ込んでは来んだろう? 誰しも目に見えるリスクは回避したいからな。その先にあるものが大したモノでないなら尚更だ」


「まあ、父さんと母さんなら絶対やんねぇだろうけど……」


「他の連中もそう。わざわざ危ない橋は渡るまいよ。……まあ、突いたところで飛び出す蛇など居ないのだがな」


 未だに喚き散らす盗賊共を睥睨(へいげい)し、《魔人覇気》を使って黙らせる。


「お前達は、私の餌だ」


 《幻影魔法》の「イリュージョンカーテン」を使い広場一帯を擬装。他者から見る景色から私達を消す。


「雑兵とはいえ年月を鍛錬に捧げた兵士達。貴様等の才が昇華された時、果たしてどんなスキルに化けるかな?」


 《収縮結晶化》を発動。


 盗賊共を中心に魔法陣が展開され、四方に結晶が顕現する。


「諸君。存分に感情を吐き散らかせ。諸君等の全ては、私の物だ」


 四方の結晶が中央へ集結。一体化した結晶は盗賊共を内部へと巻き込み、その大きさを収縮させていく。


「うっっわ、グロ……」


「そう言う割に目を離さんのは、お前の気質を感じさせるな」


 数十人の盗賊共が、徐々に結晶として完成していく。


 そして掌サイズまで小さくなった瞬間、眩い光が放たれる。


「……綺麗だな」


「命と才能の光だ。当然だろう?」


 暫くして光が収まると、そこには宙に浮く三つの極彩色の結晶。


 例えどんな宝石だろうと見劣りしない美しさを湛えた三つの結晶は、ゆっくりと私の元に漂い来ると胸中へと吸い込まれる。


 そして──


『確認しました。補助系スキル《歩兵の矜持》を獲得しました』


『確認しました。補助系スキル《斥候の矜持》を獲得しました』


『確認しました。補助系スキル《守兵の矜持》を獲得しました』


『エクストラスキル《貪欲》の権能が発動しました』


『これにより追加でスキルを三つ獲得します』


『確認しました。補助系スキル《隊長の矜持》を獲得しました』


『確認しました。補助系スキル《参謀の矜持》を獲得しました』


『確認しました。補助系エクストラスキル《兵熟者(ソリドゥス)》を獲得しました』



 ──嗚呼、満足だ。




 __

 ____

 ______

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
久しぶりに強欲発動してるの見た気がする
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ