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強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第四部:強欲若人は幸せを語る
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第一章:四天王の華麗なる艱難-31

 


 アンデッドは基本、夜に行動する。


 太陽の光が悪き肉体と魂を浄化する──なんて事は別に無く、これは〝属性〟の問題。


 ──大前提としては、世界を構築するあらゆるモノには〝属性〟と呼ばれる性質が宿ってる。


 分かりやすいのだと魔法の段位にもある基礎五属性と中位二属性。


 この五つが基本となって世界の森羅万象に定まっていて、二属性以上が融け合う事で上位の属性へと昇華、新たな概念が構築されているという事らしい。


 魔法や魔術に頻用されている属性や概念の話も、これを前提として発見、実験が繰り返されてきた。


 ではここで何故アンデッドが陽の光の元で活動出来ないのかの話に戻ると、太陽の光はそのまま〝光属性〟を帯びているから。


 光属性の性質は〝押し広げる〟──つまりは拡散だ。


 故に魔力は太陽の光による属性の特性によってある程度は留まらず拡散され世界中で流動してくれるし、逆に光が届かない暗い場所──闇属性を帯び始めると特性の〝塗り潰す〟で魔力が滞りやすくなる。


 これは当然アンデッドにも通ずるものであり、肉体と魂のどちらかが著しく欠損し魔力が流出しやすいアンデッドにとって、魔力を拡散させてしまう陽の光は存在を維持出来なくする劇薬となりえるのだ。


 要は聖水──もとい魔力拡散薬と原理は同じ。


 陽の光がアンデッドの魔力を拡散させてしまうから、アンデッドは陽の光の元で活動出来ず、また暗がりでは魔力を留めておける。


 これが、アンデッドが暗所や夜に行動する理由。


 故に定石として、アンデッドの棲家を襲撃する場合は夜間を避け、万が一敗走しても陽の元に逃げ込めさえすれば助かるような時間帯にする。


 だからオレ達も陽が高い時間帯に屋敷に向かうつもりだったんだけど──


「え? 夜間のみ……ですか?」


「そうだ。それ以外の時間帯での攻略は許可出来ない」


 ──現在、男爵家の屋敷がある森周辺には、簡易的だけどアンデッド対策用の防護柵が建てられている。


 その防護柵の唯一の出入り口である扉の両脇には、モーカミルを守る衛兵ギルド「鸚哥(インコ)の防人」の衛兵が立っていて、アンデッドが柵を越えないよう見張っていた。


 んでオレ達はその防護柵の向こう側に用事があるから、その衛兵に挨拶一つして通してもらおうとした……その矢先に言われたのが、先の返事だ。


 因みに衛兵の二人には当然、オレ達が王都から派遣された魔物討伐派遣員だというのは通達されてる。にも関わらず、足止めされてしまった。


「……理由をお伺いしても?」


「市民の安全を第一に考えた末の対処だ」


「具体的に」


「……知っての通り、アンデッドは夜間や暗所にて行動する」


「はい。だからわたし達は陽のあるうちに──」


「市民は基本、正午に活動し夜半に自宅に帰る。で、あれば市民が帰宅し寝静まる──街に可能な限り市民が外出していない時間帯でなければ許可出来ない」


 この衛兵の言い分によると、アンデッドが何らかの原因で陽の元にまで逃げのびた場合、白昼の市民を襲う可能性がある。


 だから可能な限り市民に被害が出ない時間帯──つまり夜間の人が出歩かない時間ならば、万が一アンデッドが街にまで出没しても被害は最小限に抑えられる……という事らしい。


 いや……まあ、うん。


 分かる。分かりはする。分かりはするけど──


「アンデッドが仮に白昼に出ても、陽の光で行動不能になるのはご存知ですよね? ここから街まではそれなりに距離がある……。辿り着く道中で十中八九アンデッドは無力化されます」


「……天候が、曇ったらばどうなる?」


「──っ!!」


 ……ああ、なるほど。その可能性もあったか。


 先にも言ったように、アンデッドが陽の元に出れないのは太陽の光による属性の特性があるから。


 じゃあ仮に白昼でも空が曇っていたら? 


 曇天で、なんなら雷雨が降るような真っ黒な雲に空が覆われて一切太陽の光が射さなかったら?


 ……そう、アンデッドは無力化されない。


 何故なら重要なのは昼かどうかではなく、陽の光があるかどうかなんだから。


「し、しかし今日の空模様は見ての通り晴天っ! 雲はまばらにありはしますが、曇っているというほどでは……」


「ここモーカミルは、北西に連なる山脈の影響で天候が崩れやすい。加えて季節柄一度曇れば中々晴れず、高い確率で降雪になるような分厚い雲が空を覆うのだ。今は確かに晴れているが、最悪の場合十分後には太陽を遮るに足る天候へと変貌する事も有り得る」


「……」


「モーカミルの市民は雪と共に生きてきた者達だ。多少の降雪で日常は変わらん。もし降雪時にアンデッドが街まで出張れば被害は甚大だ。それを、理解して頂きたい」


「……分かりました」


 これは……仕方ないのか?


 衛兵の言っている事はもっともだ。


 他の街ならいざ知らず、ここモーカミルに関しては言われた懸念に賛同するしかない。


 ただそれはオレ達が敗走しても逃げ場が無いという意味だし、逆に逃げ出したアンデッドはどこまでも逃げてしまう。


 つまりやるなら取り漏らしなく殲滅させなきゃならず、まともに休む事もままならない不安定な戦闘は避けられないという事だ。


 たった一体の魔物相手ならまだそれでもいい。


 だけど今回の相手は屋敷に居たとされる男爵本人をはじめとした家族使用人達と、昨今犠牲になってしまった街の人や警察ギルドの人々……。


 どう考えても十人を超える相手が待ち受けている。


 しかも例の装置が屋敷内にあるなら、それぞれの個体はオレ達の調べて知っただけの能力より高い可能性があるんだ。


 そんな相手に休憩を挟めない連戦を強いられる……。ハードルがぐんと上がったな。









「──はぁ。参ったなぁ」


 帰路。ロセッティさんは道中で小さく呟いた。


「わたしが本格的に参戦出来るなら問題無いけど、今回の任務はキミたち二人による攻略を主として、わたしはあくまでも最低限のサポートのみ……。初の魔物討伐任務にしては、かなり厳しいよね」


 ──オレとミレーの布陣はシンプルな前衛後衛。


 オレが槌矛(メイス)と盾で前衛を張り、ミレーが魔術書で後方から魔術で牽制、援護を務める。


 まだまだ未熟で完璧なんて程遠い連携だけど、それなりに戦えるくらいには訓練してきた。


 ……だけど、正直な話自信は全くない。


 これが人間相手だったら、多分何とかなる。


 対人戦においてオレの《危惧》は最大の効果を発揮する。何せ自分や他人に害意がオレには全て筒抜けなんだからな。


 よっぽどの実力差や経験差が無い限りはコレで切り抜けられると思う。


 だけどアンデッドに関しては……意味をなさない。何故ならアンデッドは思考しないから。


 ──オレの《危惧》は思考と感情の両方を基にして害意を認識してる。


 だからこそ人間や、賢い動物や魔物なら《危惧》はその権能を存分に発揮出来る。オレのような未熟者でもある程度戦える。


 だがアンデッドは違う。ヤツらは思考しないし、感情も無い。


 ただ死体という物体に魔力が定着してしまって、流動する魔力が骨や筋肉、神経をただ機能的に動かしているだけ。


 そこに思考や感情は一切通わない。ボスが利用してる絡繰と同じだ。


 ただそう動くような機能を備えたものが、それを動かせるだけのエネルギーを流されて動いているに過ぎない。


 だからオレの《危惧》もアンデッド相手じゃ機能しない。言っちしまえば事故に遭うのと変わらないってことだからな。


 本当、肝心なところで使えない。


「だ、大丈夫でしょうか、本当にボク達二人だけで……」


 ミレーが弱々しく呟く。


 改めて見ると、本当に弱気なヤツだな。


 よく見たら少し震えてんじゃねぇか。小動物かよ。


「うん。大丈夫だよ」


 ピシャリ、とハッキリ言い切る。


 前を歩いていたロセッティがゆっくりと振り返り、オレ達を見遣った。


「わたしが居る限り、何も心配ないよ」


 強く、強く言い放った。












 ──ロセッティさんなら、この任務は一人で簡単にこなせる。


 ロセッティさんの得意とする広範囲制圧型の魔術は凄まじく、オレ達が初めて会ったあの盗賊討伐の時に展開してた吹雪のドーム……。


 あの時でさえ盗賊の棲家の一角をすっぽり覆うほどの範囲を制圧してたけど、今はあの時の比じゃない。


 この人なら屋敷を丸ごと凍り付かせることなんて朝飯前。それどころか屋敷を包む森の大半をも氷に包む事が出来るだろう。


 そうなれば昼夜の問題なんて関係ない。


 大した時間もかけず、ゆっくりと屋敷を制圧出来てしまうだろう。


 そんなロセッティさんが参加するっていうのはつまり、オレ達がこの任務で見限られたという事に他ならない。


 失敗そのものは確かにしないかもしれない。でもオレ達にとっちゃロセッティさんが手を下す自体が失敗と同義。


 だから、ロセッティさんを前には出さない。それがオレ達の前提条件であり絶対条件。


「ん? どうしたの? 緊張してる?」


「あ、いやなんでもっ!!」


 つい、色々と考えていたらロセッティさんの顔をまじまじと見つめてしまった。


 というか前歩いててんのに分かるのか──って、そりゃ分かるか。今ロセッティさんは森全体を掌握してんだから。


 ──時間は夜分。


 昼に話をした防護柵の衛兵と交代したと思われる別の衛兵に断りを入れて現在、屋敷のある森の中の簡素な道を歩いている。


 夜の森の中なんて普通なら灯りがあったとしても迷う事必至だけど、そこはロセッティさんに頼み、森全体を把握してもらってる。


 やる事は単純。ロセッティさんが得意な広範囲に展開する魔術で森を包んで、その中を彼女の魔力で感知する。


 勿論、魔術の威力──今回の場合は吹雪の強さ──は最低値。雪が降る今夜の気温を思えば一切意味をなさないような弱いものだ。


 これのおかげでオレ達はロセッティさん案内の元、真っ直ぐに屋敷に向かえてる。


 ──そして。


「……着いたね」


 目の前に現れたのは、少しだけ小ぢんまりとした印象のボロい屋敷。


 数年間まともに手入れなんてされてないからあちこちボロボロで、森の中なのもあって様々な植物に侵食されてる。


 いかにも何か出そうな──まさにアンデッドが出そうな典型的な廃屋敷って感じだ。


 ……アンデッドが出そうと言えば。


「結局、来る途中でアンデッド出会さなかったな」


「そ、そうだね……」


 当たり前だけど、夜にアンデッドが街まで来るって聞いてたから道中にアンデッドに遭遇する事を想定してた。


 だからオレ達はロセッティさんに案内と、アンデッドに奇襲されないように警告してもらうようにお願いしてたんだけど、まさか……。


「……ロセッティさんもしかして、アンデッド避けて?」


「え? うん」


 やっぱし……。


 森全体を掌握してるんだ。そりゃあ、アンデッドが森の何処で彷徨ってんのかも把握してるに決まってる。


 なら、アンデッドに会わずに屋敷に辿り着く道も簡単に導き出せる。だから──




『任せてくださいロセッティさんっ! 道中のアンデッドもオレ達がぶっ倒すんでっ!』


『が、頑張りますっ!!』


『う、うん。そうだね。じゃあ、お願い』




 なんか気持ち歯切れ悪かったのって、どうせ遭わないのに……って事だっ!


「本番は屋敷のアンデッドだからね。道中のアンデッドで下手に消耗したら出来るものも出来なくなっちゃうもの」


「そ、そうっスね……」


「うーん。でも改めて考えると、一体ぐらい遭遇してもよかったかも。屋敷から離れてる分、アンデッドも弱いだろうし、肩慣らしとかにはうってつけだったかなぁ。ごめんね、気が利かなくて」


「い、いやいやそんなっ!! 何も問題無いっスよっ!! なぁ!?」


「は、はいっ! 森のが弱いのと戦ったら、むしろ屋敷のアンデッドに油断しちゃいそうですし……。配慮してくれてありがとうございますっ!」


「そっか……。気遣ってくれて、こっちこそありがとうね」


 ロセッティさんがオレ達にやわらかく微笑む。


 ──ハッキリ言おうと、オレとミレーはロセッティさんに好意を抱いてる。


 でも何というか……恋とかとは、ちょっと違う気がするんだよな。


 ミレーは分からんけど、オレはそう。彼女の笑顔とかちょっとした仕草とか、そういうのをただ見るだけでオレの中の何かがくすぐられる。


 勿論、ロセッティさんがティールさんを好きなのは知ってる……というかボスの部下達は全員知ってる。


 態度とかかなり露骨だからな。アレに気付いてないのは本人とティールさんの当事者だけ……ってのも変な話だけど。


 そんな彼女の露骨な様子を見ても、不思議と不快感は無い。それがオレがコレを恋じゃないと断言出来る理由。


 むしろなんか色々頑張って欲しいし、幸せになって欲しい。そういう親心にも似た好意だ。


 だからこそ、オレ達はよりいっそう任務に気合いを入れる。


 オレ達が頑張ればロセッティさんのボスからの評価が上がって、褒められて、相応の報酬と言葉と期待が贈られる。


 そう。オレ達は単なるロセッティさんの部下じゃない。


 オレ達は、ロセッティさんが崇拝するボスからの格別の褒美を、ロセッティさんに捧げるために働く。


 少なくともオレは、そうしたくてロセッティさんの部下になったんだ。


「よしッ! そんじゃ気合い入れていきますかッ!」


「う、うんッ!!」


 屋敷の扉に手をかける。


 錆び付いたドアノブと蝶番が軋みを上げて、絡み付く蔦が千切れた。


 ──この時点で気付くべきだったのかもしれない。


 微かな違和感……それが積み重なってしまう前に……。





 ______

 ____

 __




「──不調──」


「不調法者、と罵る前に、幾つか私の疑問にお答え下さい」


「……随分と強引に手綱を握りたがる。……構わん、なんだ」


「では遠慮なく。……貴方方にはもう一人お子さんがいらっしゃいますよね? ティールの弟のカーター……。彼は今?」


「貴様に関係があるのか?」


「彼は今?」


「……隣町の魔術学校だ。そこの愚息と違い魔法の才は並以上にはあるのでな。学ばせている」


「左様で。ではそんな優秀な弟君に跡を継がせるという意向はお有りで?」


「無論、考えたとも。……しかしな」


「経営や運営の才はティールに分がある……そうですね?」


「……学院に送る少し前、一月程任せた事がある。最初こそ戸惑いはしていたが、一度要領を掴んでからは上手く運んでな。我々夫婦の固い頭では出んようなアイデアで経営を盛り上げ、領民を癒した。最近の中ではダントツの成果を挙げたな」


 ティールが隣で小さく「ちょっとした祭りを開いただけなんだけどな……」と呟く。


 少々うんざりそうなのは、それきっかけで自分を手放さなくなったというのと、その程度の事にも気付けず自分を評価した両親の頭のコリ具合に呆れているのだろう。


 これに関しては私としては彼等寄りの意見ではあるがな。


 どれだけ陳腐でありきたりな発想だろうと、思い付かず実行も出来ない現実に比べれば雲泥の差がある。


 真に価値を発揮するのは、いつだって自己より他人の場合が多いのだから。


「故に、我々はカーターでなくティールを次代に据える」


「私達の最善の道……他人の貴方に阻めるものではございません。どうかティールを置いてお引き取りを……」


 セオフィラスとミュエルはもう話す事は無いとばかりに立ち上がり、私達から目線を離す。


 そしてそのまま退室しようとし──


「ま、待てよっ!」


 声を張ったティールが二人を呼び止め、同じく立ち上がる。


 二人は互いに目配せした後、渋々といった具合に振り返り、ティールを見遣る。


「……なんだ」


「分かんねぇのか? このまま父さん達が俺を次代にする……その意味が」


「──? 要領を得んな。今お前が言った意味以上の事など何も無かろう」


「あるだろっ! コイツが──クラウンがどんなヤツか全く知らないってワケじゃねぇんだろっ!?」


「……国の英傑で、最高位魔導師の弟子。珠玉七貴族の一角を担う家柄の嫡男で、我が国の不遜なる国賊共を(あまね)く誅罰した功労者だ」


「でもだからなんです? 我々はそんな彼に手を出されるような悪逆も違反も犯していない。恥いる事など何一つありはしないのです。如何(いか)な者でも我々には一切──」


「違うっ! そこじゃねぇっ!! ……もう、詰んでんだよ……」


「……意味が分からんな。詰んでるとは?」


「……コイツが〝平らげる〟って言って、父さん達はそれを拒否した。その時点でクラウンはもうハッタード家(ウチ)を掌握した。そう言ってんだ」


 セオフィラスとミュエルの眉が歪む。


 そして改めて私を睨んだ。


「……説明しろ」


「……関係無いんですよ、初めから。ティールが次代を継ぐ継がないなど、意味がない」


 その言葉に、二人は訝しみで更に眉を深く歪めた。意味が分からない、と。


「どういう事だ? 貴様はティールに芸術なんてものをやらせる為に我々を説得しに来たのではないのか?」


「ええそうですよ? ですが説得の〝内容〟は、少し違いますね」


「なに?」


「私が今回しに来た説得は「ティールを次代にしないで私に渡すか渡さないか」ではありません。「ティールを次代にするかしないか」の、説得です」


「な、何を言って──」


「分かりませんか? 本当に頭が固いのですね」


 立ち上がり、歩み寄る。


 困惑を極めた二人の前に立ち、笑い掛ける。


「だって、そうでしょう? 貴方方がティールを次代に据える事と、ティールが私の元で芸術に勤しむ事……。これの何処に、相反する理由があるんです?」


「──ッ!?」


「今、貴方方はティールに芸術を辞めハッタード家次期当主になれと要求しているが、そんなものが通るのはセオフィラス殿、貴方が〝今〟当主である内だけだ」


「く……」


「仮にティールが貴方方の望み通りハッタード家次期当主になったとして、ではその後もティールは芸術を辞め〝続ける〟のか? 否、そんな義理はティールには無い。拘束力が無い。なら経営しながら芸術をやればいい」


「……誓約書を書かせる。それならば」


「書きませんよ。そんな強制力の無いものをティールが書く理由がどこにあるんです? 全く意味が無い。ただただ要求するだけで見返りの無い契約など契約とは呼ばない。……それは奴隷になれと言っているのと同義だ」


「わ、私はそんなつもりは──」


「ええ無かったでしょうね。しかしそれを歪ませたのは〝芸術を辞めさせたい〟という身勝手な思いを無理矢理に当主継承に結び付けた貴方方自身だ。……そして、そのツケが回ってきた」


 セオフィラスの肩に、そっと手を置く。


「継承しようがしまいがティールは芸術を辞めない。辞める理由が無い。なら残るはティールが継ぐ事で得るものの話だ、そうっ! ハッタード家の権力の、その全ての話」


「──ッ!!」


「ティールは経営をそつなく(こな)すだろう。しかし、彼はそこまで器用じゃない。芸術活動をするには暇が減ってしまう。ならばコイツはどうするか? ……頼れる〝友人〟に、手を貸して欲しくなるんじゃないですかね?」


「き、貴様ぁぁ……」


「言ったでしょう? 「さもなくばハッタード家丸ごと平らげる」……と。要は今回の説得内容……「私に権利を渡すか否か」。ただそれだけの話なんです」


「くッ!!」


 セオフィラスが勢い任せに私に向かって拳を振るう。


 しかしたかが壮年の男爵家当主の拳如き受けたところで、何ら痛痒にもならない。


「貴方方の選択は二つに一つだ。さぁ、選べ。ティールを継がせずハッタード家の権力を私に渡さないか、それともティールを継がせ権力を私に渡すのか……」


「く、そが……っ!!」


「ああ、別に私は構いませんよ? どちらでも。ただハッタード家をいつまでも貴方方が運営するワケにいきませんしねぇ。それともすぐにでもカーター君に経営を叩き込みますか? それもいいでしょうねぇ。才能ある〝お兄さん〟に、頼るかもしれませんがね? ふふふふふふっ」


「この……この若造めがッ!!」


「仕事、大好きなんだろう? 好きな事は守らなくちゃァなァ? セオフィラス殿」





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