第一章:四天王の華麗なる艱難-30
──ボクは……何の取り柄も無い根暗だ。
英雄譚の勇者や英雄よりもその敵役に魅力を感じてしまう程度の、普通より精神性が貧弱な男。
家柄も何の変哲もない王都中街の商業区画に店を構える呉服屋の次男坊で、強いて強みを挙げるなら、魔法の才能が少しあったくらい……。
でも個人的には、それはボクにとってある意味での呪縛のようになってしまった。
弱気なボクに魔法の才能がある事が、強気だけど才能のなかったヤツらにとっては大変に気に食わなかったらしい。
幼少の頃に両親に入れて貰った魔術学校だとそれでボクの事をバブいたり、口聞いてくれない事があった。当然、友達なんて出来やしない。
でも安くない学費を払ってくれたから頑張って通って……そのまま魔法魔術学院を受験。
ボクに《闇魔法》の適正があったから割とすんなりいってそこは良かったけど、今度はこの《闇魔法》を使えるからって学院でイジメられた。
同級生達からは妬みを。
上級生からは謂れない侮蔑を……。
ハントがボクを無害認定して友達になってくれてからはそれもマシになったけど、それでも完全になくなってはなくて。
ハントと別行動の時を狙いすますようになったりもして……。
だけど──
『……並びなさい』
『『『え……』』』
『 並 べ 』
『『『は、はいッッ!!』』』
ボクがボスの──クラウンさんの部下の部下になって少しした辺りで、ボスはボクをイジメていた連中を一つの教室に呼び出し。
《地魔法》で作り出した凹凸の激しい地面に並ばせて、そのまま正座させた。
『い、痛い……』
『……何故自分達がそんな目に遭っているか、理解しているな?』
『そ、れは……』
『鳥頭で覚えていないか? それとも幼稚だからと自分の愚行を制御も出来んか? ああ、異常者故に自身の醜さの自覚もないか?』
『ちょ、ちょっと言い過ぎ──』
『お前達がやって来たのは〝イジメ〟などとという軽忽な表現で済む行いじゃあない。……お前達がやっていたのは〝暴行〟と〝恐喝〟と〝脅迫〟……犯罪だ』
『──ッ!?』
『揃いも揃って雁首揃えて軒並みお前達は漏れなく、ただの〝犯罪者〟だ。良かったなぁ? お前達の浅い猿知恵に反してミレーが我慢強かったお陰で殺人や殺人未遂にならずに済んで。感謝の代わりに泣きながら鎖に繋がれて青春を過ごし未来の第一歩をドン底の汚泥の中から始めるんだな』
『ちょ……それって』
『お、オレ達を警察ギルドに突き付けんのかッ!? ほ、本気でッ!?』
『当たり前だろう? 犯罪者が居るなら通報し逮捕してもらわねば。常識だろう? お前達のような犯罪者が学院に居ては学生達にも悪影響だ。お前達のような腐ったミカンは早く取り除かねばな』
『い、いくらなんでも大袈裟すぎよっ!! そ、それに私たちの親が黙って──』
『ほう? お前達犯罪者に親が居るのか? それは初耳だ。まあ、権力者の親はたまァァに自分の息子娘を〝居なかった〟事にするからな。お前達も、多分親が〝居なかった〟事になるだろう。親の足を引っ張る子など、居ないに越した事はないだろうからな』
『そ、そんな……そんなわけ──』
『それに、だ。お前達は──』
──って具合にその場で連中を口撃で立ち直れないくらいにボコボコにして、二度と同じ愚行は犯さないと血判付きのかなりしっかりした契約書を書かせてた上でちゃんと各親にも連絡。
その親にまで似たような契約書を書かせた上で〝犯罪の隠蔽〟っていう各家の弱味を握った。
……正直、やりすぎだと内心思ってしまった。
そりゃあ、最初はいい気味だって思ったし、これがキッカケでボクをイジメようなんて人間は皆無になったけど。
たかだかボク一人の為に何人もの人間の人生が縛り付けられたって考えちゃうと、複雑な感情が湧いて来る。
自己肯定感が低いボクは思ってしまう。
本当に、ボクにそんな価値があるのか?
確かにボク世代で中位二属性の《闇魔法》を扱えるのは珍しい。
でも珍しいってだけで特別なんかじゃない。現にボスは当たり前に使えるし、直属の上司のロセッティさんだって使える。
探そうと思えば他の同級生に一人や二人は居るし、上級生ならもっと居る。
そんな逸材揃いの中でも弱気根暗なボクをこんな特別扱いする理由が分からない。
ただロセッティさんに偶然拾われたから? 彼女が部下として大切にしてるから?
でも、やっぱりそれだけじゃあ──
「オマエ……またブツブツ考えごとしてんのか?」
はたと、隣からの慣れ親しんだ声に内心で『ああ、またか』と嘆いてしまう。
自己肯定感が低過ぎるせいなのか、ボクは時々こうやって自分の立ち位置を自覚しとかないといられなくなってしまって、深く思考の沼に足を取られる事がある。
それだけならまだいいんだけど、殆ど無意識にやってるせいか、たまに思考が頭から漏れ出して口から出てしまう。
ボクがイジメられていた要因の一つでもある。
「何度も言うけど、オマエは別に卑下するほど弱くも暗くもねぇし。割と特別だよ」
ハントはそう言いながら、何となく物知りそうな……けれども中々心の扉が固そうな人に視線を送り、眉間にシワを寄せながら少しだけ念じるような素振りを見せる。
──今彼がやっているのは彼が持つ悪魔由来のスキル《危惧》を使って他者から情報を得ている。
最早普通の聞き込みじゃこれ本任務の情報は拾えないって事で、苦肉の策としてハントにとっては良い思い出のないそのスキルで情報収集する運びとなった。
「……何か分かった?」
「ああ……。昨日の晩、愛人と朝まで取っ組み合いだとよ。ったく。誰が好き好んでオッサンの不倫情事なんざ知らなきゃなんのか……」
「そ、そっか」
消費魔力自体はそう多くはない。
なんたって少し前までは常時無差別に権能を撒き散らしてたみたいだし、そこは心配してない。
ただ《危惧》で得られる情報っていうのは、必ず自身に対する〝害意〟に結び付きそうな……決して穏便になんてならないモノ。
さっきのオッサンの不倫っていうのも、本人が罪悪感を感じる隠し事があって、それがバレたくない故の警戒心から来る害意を受信した形だろう。
ボク達の狙いは、少なくとも王都に通報される程度には話が大きい筈の本任務の情報を微かな害意から探る事。
……ただ、この方法は当然ハントにかなりの負担を強いる。
「〜〜ッッ、ああクソッ! 久々に気分悪ぃ……」
人の害意を受信する……。それは普段見えなかったはずの潜在的な恐怖をその身に浴びるという事。
いつ、誰が、どこで、どうやって、その秘めたる害意を爆発させ、自分にその矛先を向けて来るのか分からない。
それは計り知れないストレスだ。
「少し休む?」
「……いや、まだ続ける」
「でも、顔色あんま良くないよ?」
「……実はよ。まったく手掛かり無いってわけでもねぇんだ」
「えぇっ!?」
さっきから何度か害意を受信してて芳しくない感じだったからてっきり収穫ゼロかって思ってたけど、どうやらそうじゃなかったらしい。
「ハッキリとはしねぇんだけど、今まで見た何人かの内一人だけ、害意の裏っかわに、なんか小せぇ気配を感じんだ」
「裏? 小さい、気配? どういうこと?」
「うーん……スゲぇ漠然としたイメージなんだけどな? 俺が見る他人の害意って、槍みてぇに尖ったのがどこに向いてるのか、どれくらい近いのかが見える感じなんだ」
……なんか想像してたより大分荒々しくて危なっかしい感じ方なんだな。そりゃそんなのが自分に向いたらストレス溜まるよ。
「でもなんか、さっきのその人はその害意の槍を意識的に裏に隠してるような……。それが害意になるって理解した上で必死に表に出ないようにしてる感じだ」
「え。でもそれってつまり、自分達で隠してるの? 通報したのに?」
「そうなんじゃねぇか? 理由は分かんねぇけど、多分通報した後に何かマズイ自体に発展しちまって、それを隠してんじゃねぇかな。推測だけど」
「マズイ自体に発展……」
「まぁ、なんにせよ、だ。意図して隠されたんじゃこれ以上《危惧》見るだけじゃダメだ。隠してるヤツ問い詰めて《危惧》使いながら反応見る方向に切り替えよう」
「うん。……問い詰める、か……」
正直苦手だ。
小さい頃から店番させられてたから人見知りとかはないけど、隠し事を喋らせるような話術なんて身に付けてないからなぁ。
「ひとまずは、隠し事してる人の顔を覚えてからロセッティさんに報告しよう。……まあ」
「うん?」
「その隠し事ってのが本任務関連かどうかは、まだまだ分かんねぇけどな」
「あ、うん……」
「──なるほど。それで、その怪しい人に詰問したいって話か」
一休みした後、ハントとボクはロセッティさんと合流した。
そしてハントのスキルの事も含め、さっきの調査結果を報告している。
「その……何か隠し事してる人っていうのはさ」
「はい」
「隠し方というか、雰囲気みたいなのは共通点がある感じなの?」
「あ、はい。普通その害意を自覚して隠すってなると、もっとこう……抑え込む、っていうんですか? その害意の槍をなるべく出さないようにって抱えるみたいになるんです」
「うん」
「でも今日オレが見た人は、その害意の槍の矛先が鋭過ぎるのか抱え込め切れてなくて、必死に自分の裏に隠してる……って言えば分かりますかね?」
……頑張れば想像出来そうな微妙に抽象的な話だな。
「つまり、隠してる案件が自分で扱い切れてないから、自分なりに最大限に誤魔化してる……感じかな?」
「そうっ! 多分大体そんな感じっスっ!!」
「ふぅん……。それは怪しいね、確かに」
ロセッティさんは少し思案気に空を仰ぐと、表情を難し気に変えてコチラに向き直した。
「でも詰問となると、ちょっと難しいよねぇ。コッチとしては盗み見ただけで問い詰められる正当な理由も証拠も無いわけで、わたし達がそれをやるのはちょっと越権行為になっちゃうよ」
そうなんだよなぁ。
ボク達は確かに特殊個体魔物討伐にあたって、ある程度の権限を与えられてる。勿論、魔物調査に関する事に限り。
だけど今回ハントが見つけた手掛かりは、あくまでもコッチが一方的に可能性を見出してるだけで、魔物案件と決定付ける証拠はまだ無い。
そうなると詰問っていうのは、少々その権限から逸脱しちゃうかもしれない。
最悪問い質した挙句まったくの見当違いだったら、魔物討伐ギルドに苦情が殺到するかもしれないし、そうなったらボスや「十万億土」の評判にも悪影響が及んじゃう。
それは……どうなっても避けなきゃならない。
「ならどうするんです? オレが見た感じじゃ、簡単な質問くらいじゃ絶対に教えてくんないっスよ」
「そう、だね……。ならさ」
「はい?」
「全力で、その抱え切れてない秘密の危機感を煽っちゃおう」
──やり方は、そう難しい事じゃなかった。
目星を付けてた隠し事をしてる人の近くにあくまで自然に行き、わざとその人に聴こえるような声量でこんな会話をする。
『いやぁ、ようやく掴めましたね。特殊個体魔物の正体』
『うん。最初は男爵家絡みがそれかもって疑ってたけど、まさかアレが隠れ蓑になってたなんてね。危うく出さなくていい案件にまで手を出すとこだったよ』
『でも無関係ってほどじゃないじゃないですか? ならそっちも?』
『まあ、状況次第だけどね。何にせよ特殊個体が優先だよ』
『ならまだ日は高いけど、今日はもう休んで明日に備えましょう』
『そうだね。なるべく温存しなきゃ特殊個体魔物なんて討伐出来ないからさ』
──内容は単純。今までボク達がしてた会話を中心に、特殊個体魔物の特定に成功した話をしただけ。
特殊個体魔物に関して本当に隠し事をしてるなら、この話を聞いてきっと居ても立っても居られなくなって、何かしらの露骨な行動に出るはず。
仮に全くの無関係なら無反応だろうしね。
それで、そんな露骨な行動に出たところを追跡して、言い逃れ出来ない状況の中で改めて確保。
そこで詰問を展開する……。その結果──
「ゆ、許してくれッ! ま、まさかこんな事になるだなんて思わなかったんだッ!!」
怪しかった中年の男──サムさんは案の定かなり狼狽えた様子になって、一人こっそりとあの男爵家の屋敷の方に向かおうとした。
ボク達はその道中で彼を捕え、問い詰めて、そうしたら彼は怒るでもなく、寧ろ助けて欲しいとばかりにボク達にぶちまけたんだ。
きっと、本当に抱え切れなくなってたんだろうな。
「……事情を伺っても?」
「お、俺は青果を扱う店やってたんだが……数ヶ月前、提携先の農園がウチとの契約を打ち切っちまって……。ほ、ホラ、エルフ絡みでよ……? 扱っちゃいけねぇヤツが混ざってんのに気付かなかったからってあんまりだろッ!?」
「同情はします」
「そ、それで立ち行かなくなっちまって……。苦し紛れに山に山菜採りに行ったんだ。……そしたら久々に入山したからか迷っちまって……途方に暮れて」
「はい」
「したらよ? なんか変な鉄の絡繰? を見付けてよ……」
鉄の絡繰……って、まさか例の魔力発生装置?
「なんか高く売れそうだったから持って帰ったんだ。ただ、店を立て直すキッカケになるかもしれねぇって……」
「……それで?」
「それで……なんとか下山は出来たんだけど、出たのが、その……例の男爵家の屋敷の裏手だったんだ」
「なるほど」
「あ、あの屋敷ってアンデッドが出るって話だったろ? 俺ビビっちまってさ……。なるべく迂回して帰ろうとしたんだけど……」
「……アンデッドに出会した?」
「あ、ああっ!! 街には出なかったらちょっと油断して音立てちまって……。んでアンデッドに襲われ掛けたんだ。したらその拍子にその絡繰を……」
「まさか……。屋敷に?」
「思わず投げちまったんだッ!! アンデッドに向かってッ!!」
あぁ……。そういう事か。
「あ、アンデッドからは何とか逃げ延びて……。でも少ししたらあ、アンデッドが街にまで来るようになっちまってッ!! 街の人も……犠牲に……」
「……」
「な、なぁッ!! 俺ぁどうなんだッ!? どうしたらいいんだッ!!」
──結局、サムさんを事件の発端として警察ギルドに引渡し、ボク達は改めて状況を整理する為に宿屋の一室で顔を突き合わせた。
つまるところ……。
「あのオッサンが山に設置してた魔力発生装置を偶然見付けて持ち帰っちまった。その結果屋敷に装置が転がり込んで、元々居たアンデッドが特殊個体化した……で、いいんですよね?」
「うん。そうだね。それで合ってると思う」
「なんだよもう……。人騒がせじゃ済まされないぞあのオッサン……」
「そんな偶然あるんだね……。流石のボスも、これは想定外だったんじゃないかな」
「でも結局は男爵家を解決するのが本任務で良かったんですね。何だかちょっと骨折り損っていうか……」
「そうでもないよ」
ロセッティさんが嬉しそうな口振りで口元にコーヒーが入ったカップを運ぶ。
その表情はスッキリとしてるというか……。憂いが晴れたように清々しいものだった。
「情報が全て出揃った上で任務を遂行する……。それでこそ完遂したって胸を張ってボスに報告出来るんだよ。百じゃなく、百二十の成果をね」
「そう、ですね。遠回りしてやれるだけやれたんなら、それも成果か」
「なら、後は屋敷に行ってアンデッドを討伐するだけですね」
「うんっ! ──じゃあ、今度こそもう休もう。明日は……アンデッド狩りだよ」
「「はいッ!!」」
──『まったく。面白い事になったな』
雪積もる山間……そこに隠された洞窟。
その奥には、氷によって覆われた凍てついた祠が佇んでいた。
『面妖な絡繰の元にあの愚者を誘導してみれば……。これなら崖下の街は混乱に陥っているやもな。ふふふふふふ』
僅かに漏れ出した〝感情〟の力が冷風に乗り、山颪として広がる。
少しずつ、少しずつ、侵食は始まっていた。
『さぁ、もう直ぐだ。もう直ぐ──
──我は復活を遂げるッ!!』
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──ティールの両親は、国内随一に品行方正な貴族だ。
不正はせず、誘惑に負けず。
冷静に物事を判断でき、民衆と従者には公平な態度と対価で一定の人気を獲得し。
然りとて功名心は薄く、本来なら伯爵以上に陞爵してもおかしくない程に、領地の運営と国への献身にだけ邁進している。
まさに貴族の鑑……そう、表層的な結果だけを見れば判断出来ただろう。
しかし、だからといって人間性までもが整っているかは……定かではない。
──ハッタード家の屋敷に家令の案内で招かれた我々は、そのまま応接室に通され、待機を願われた。
「……ふむ」
「な、なんだよ。応接室なんかじっくり見回して……」
「なんだ、知らんのか? 応接室はその家の〝鏡〟だ。飾られた調度品の趣向に燭台に刺された蝋燭の質。インテリアの配置や暖炉の管理状況……。家の主人が客人をどう見て、どう扱いたいのかがある程度は推測出来る」
「ま、マジか……。な、ならウチの両親は、お前の見立てじゃどうなんだ?」
「……仕事が趣味だと言うだけある。見窄らしくならない最低限の調度品を脇役に、自領の特産であるトゥインクルスターに関した表彰やトロフィーを強く際立たせている」
「そう、か……」
「しかし客人に過度に媚びず、然りとて敬意を忘れていない、応接室の手本のような内装だ」
「……なるほどな」
改めてティールも応接室を見回す。
身内からの視点では気付き辛い部分ではあるだろうからな。
そこを再認識するのに、この部屋はお誂え向きだろう。
「お前の芸術的センスも、案外遺伝だったりしてな」
「だから両親に感謝して跡継ますって? 冗談じゃ──」
「何が冗談なんだ?」
扉の向こうから唐突に声が響く。
そして間を置かず使用人によって開けられた扉の先には、壮年のいかにも厳格そうな硬い表情の男女が佇んでいた。
すかさず立ち上がり、腰を折る。
「お初にお目に掛かります。キャッツ辺境伯が嫡男、クラウン・チェーシャル・キャッツと申します。本日は我々の為に貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございます」
「……ハッタード家当主、セオフィラス・マドネス・ハッタード男爵である」
「同じくハッタード家男爵夫人、ミュエルですわ」
自己紹介を済ませた二人は、終始ティールを睨みながら入室し、私達の正面へと腰を下ろす。
「座りなさい」
「恐縮です」
「……それで? 本日の用件というのは……そこの礼儀知らずの愚息についてか?」
「──ッ!!」
「ええまあ、そうでもありますね」
「んむ? 曖昧な言い方だな。アポイントメントの際にはティールについてと聞いていたが?」
セオフィラスが訝しげに眉を顰める。当然だろう。何せ今回──
「私も愚かではないつもりですので。馬鹿正直にティールを私のギルドの芸術部門に招きたいと言ったところで話が平行線になるのは理解しています」
「そうか。で、あれば如何様にするつもりだ」
「……失礼千万な物言いにはなりますが……」
「──?」
「……ティールを寄越せ。さもなくばハッタード家丸ごと平らげる」
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