第九章:第二次人森戦争・後編-7
間に合った……!
……ふぅ。さてさて。
「ロリーナ」
「は、はい……」
「彼女達の遺体を丁重に包んであげなさい。布は……コレを」
「はい。その後はどうされますか?」
「私がポケットディメンションで運ぶ。今日の作戦が終了し前線拠点に帰還し次第、彼女達に死化粧を施してくれ。中央並びに彼女達の親へは私から報告する。構わないかい?」
「はい。問題ありません」
「ありがとう。では遺体を回収したら私が結界を解いたタイミングで君は周りの敵兵を頼むよ。ああ、一人だけ生かして捕縛してくれると助かる。その後は作戦通りに……〝例の準備〟、頼んだぞ」
「はい。了解しました」
「ありがとうロリーナ」
私が笑顔で礼を言うと彼女は軽く会釈し、渡した布を使って彼女達の遺体を迅速且つ丁寧に包んでいく。
……それにしても、ふむ。
私達が罠に掛かる事がエルダールを釣り出せた証明になるとはいえ、コチラのテレポーテーションの羊皮紙のアイデアを利用して私達を分散させてくるとはな。
幾つか罠の種類を想定はしていたが、衰え引退していたとはいえ腐っても英雄……。この土壇場の急拵えでこんな完成度の罠を仕掛けてくるとは正直想定外だ。
ここまでが順調だっただけに無意識の驕りや侮りが私の中にあったか……。深く反省せねば。
それと犠牲になってしまった彼女達に関しても、色々と考える必要がある。
状況から推察出来る限りではあるが、恐らく彼女達は身を挺してヴァイスを守ったのだろう。無謀な行動だった事は褒められないが、それを差し引いて余りある勇敢な行動を、私は正当に評価せねばなるまい。
彼女達の犠牲は本当に……本当に残念極まりないが、その犠牲を一縷も無駄にせぬよう、全力で努めよう。。
……。
……はぁ。それに引き換え──
「ち、がう……僕は……僕、は……」
「……ヴァイス」
「僕は、助け、たくて……。でもまた……僕が……」
「チッ」
しゃがみ込み、延々と鬱陶しく耳障りで癪に障る言い訳を呟くヴァイスの胸ぐらを掴み上げ、その辛気臭い顔面に拳を叩き込む。
「がっ!?」
数メートルほど後方へ飛び、受け身も取らず地面を滑る奴に歩み寄り、同じように掴み上げてからもう一発ぶち込む。
「ごぁっ!?」
更に数メートル飛び、一本の木に背中を強打したヴァイスはそこで漸く自力で立ち上がり、私を複雑な表情感情の籠った腫れた顔で見遣る。
「な、なにを……」
「何を? 気を遣ってやったんだ。余りにも殴られたそうにしていたからな」
「……」
「落ち込み、反省し、後悔し、自虐し、絶望するのは構わん。身近な人間を失って取り乱さん奴は寧ろ信用出来んからな。感情や欲望を失くした人間に興味など無い」
「…………」
「だがお前のそれは違う。お前のはただの〝現実逃避〟だ。向き合うべき現実に背を向け本当に為すべきを見誤る忌むべき悪手だ。見ていて不愉快極まりない」
「ち、違うっ……。僕はただ……」
「なら聞くが。お前の為に死んでいった彼女達に、お前は真っ先に何をした?」
「何って……。僕は彼女達を救おうと──」
「敵のど真ん中でか? 敵に囲まれ彼女達の仇が目の前に居る状況でか?」
「──ッ!?」
「……言っておくがお前は運が良い。奇跡と呼んでも差し支えない。コレだけの敵に囲まれる中で私が来るまでの間、無傷で彼女達の蘇生を試みていたのだからな。中々どうして豪運だ」
正直なところ、何故コイツに誰も斬り掛からなかったのか不思議で仕方がない。
理由はどうあれ戦地で取り乱す敵が居たらば即刻斬り捨てるのが普通だと思うのだがな。
同情を買い、多少の混乱と困惑が場に渦巻いていたのだとしても蘇生する様子を大人しく眺める事などあるか? 万が一蘇生に成功でもしようものなら、折角排除出来た敵をみすみす復活させる結果になるんだぞ?
ただ可哀想だから、惨めだからと放置したのだとしたらその意味が理解出来ん。
「……」
……はぁ、まったく。
「いいかヴァイス。先程も言ったようにお前は奇跡的に生きてはいるが、先のお前の愚行は命を賭してお前を救った彼女達の尊い行いを蔑ろにする最悪手だ。仮にあの時死んでみろ? あの世の彼女達も助けたお前とすぐに再会してしまっては死に甲斐が無かったと嘆く羽目になったはずだ。全くもって笑えない」
「く……」
「私が今朝お前に言った〝冷静さ〟とはつまりそういう事だ。どんな時でも最善手を見誤らない心構え……それがあるのか、とあの時私は訊ねたのだ。……まあ、このザマでは私の見込み違いだったと言わざるを得んがな。多少期待していただけに甚だ嘆かわしい」
「でも……僕は……」
「喧しい。……兎に角、お前はもう前線拠点まで退がれ。後日キャザレル侯にはお前の返還を申し出る。責任だけは取ってやるからもう大人しくしていろ」
「いや……でもそれじゃあ僕は──」
「意見、拒否、懇願その他一切を認めん。これ以上味方を死なせたくなければ帰って怪我人の治療の手伝いでもしていろ。この愚か者が」
私はヴァイスが何か喚く前に彼の肩に手を置きテレポーテーションで強制的に前線拠点へと転移させる。
……はぁ。何故私がこんなストレスを抱えねばならんのだまったく。
だがまあ、今日の事で然しもの奴も色々と考え方を改めるだろう。私の中の期待値は大きく目減りしたが、彼女達の犠牲で何かしら奴が成長するのであれば全く収穫が無いわけではない。
もしそうでなければぁ……。
「…………」
「クラウンさん」
「……む?」
ふとロリーナからの呼び掛けに気が付き彼女の方を振り向いて見れば、どうやら私がヴァイスを説教している間に三人の遺体を布で包み終えていた。
彼女の仕事が早いのか、はたまた私と奴のやりとりが思いの外長くなってしまっていたのかは判然としないが、まあ今はそんな事はいい。
「仕事が早くて助かる。ありがとう」
「いえ。それで、早速?」
「ああ。さっさとしないと下手をしたら姉さんがエルダールを倒してしまうかもしれんからな。そこは譲れん」
「ですね。では私は一人を残して周りを……」
「私は──」
私は結界越しで未だに私を睨む双子のエルフに笑顔を返し、徐に歩み寄った。
「少ぉおし、小生意気な若輩に灸を据えてやろうか。まぁ、実年齢では二人の方が上だがな」
右手を翳し、指を鳴らして周囲に展開していた《光魔法》の結界を解除。私達の空間が共有され、私と双子との間に独特な空気が広がる。
「『──ッ!?』」
双子の片割れ──ダムスはそんな空気に当てられたのか私を間近にした瞬間に額を冷や汗を額一杯に浮かび上がらせ、それと同時に姉であるディーネルの首根っこを引っ掴んで私との距離を取った。
「『ちょ、ちょっとダムスっ!?』」
「『……』」
「『あ゛ぁ、もうっ!!』」
唐突な弟の行動に戸惑う姉だったが、一人武器を構え臨戦態勢になるそのただならぬ様子に何も分からぬまま同じように私に対して身構える。
ふむ。どうやらダムスはしっかりと感じ取ったらしい。
かく言う私も彼に〝例の感覚〟をひしひしと感じている。まるで魂の奥底から湧くような得体の知れない〝敵意〟と、脳髄を焼かんばかりに沸くような計り知れない〝忌避〟……。
「魔王」と「勇者」でのみ起こる、この感覚を……。
──当然の話だが、私はこのダムスがエルフ族の勇者……「忍耐の勇者」である事を知っている。
アールヴ内の調べられる事柄は大体調査済みであり、その中にはダムスが「忍耐の勇者」である事も存在していた。
最近──この戦争の開戦前まではどうやら秘匿されてはいたらしく、恐らくはエルダールや当人が戦争に参戦するにあたり公開されたのだろう。私がアールヴの調査を始めた段階では既に国内に広まり、国民の話題にすら上がっていた程だ。
それ以前までに秘匿されていた理由は……まあ、隠居していたエルダールが嫌ったのだろう。可愛い孫を戦争の道具やその後の国の政に巻き込ませたくは無いだろうからな。
それが一体どういう風の吹き回しでこうなったのか……。エルダールや双子が参戦したお陰で私のスキル収集も捗りはするが、居ないなら居ないでもっと早く終戦していただろうに。
ユーリは本当に、私情で戦争を起こしているのだな……。
──だがまあ、そんな事よりだ。
「『ふふふ。そう緊張するな。強張り過ぎればパフォーマンスが落ちるぞ?』」
ダムスの露骨な反応に対し、私は敢えて一切関知していない素振りを見せながら笑って双子を煽る。
私はアーリシアと長い期間を近くで過ごした影響か例の不愉快な感覚が若干だが麻痺している。
流石に全く感じないわけではないが、少なくとも目の前でただならぬ形相を浮かべるダムス程に深刻な感覚には苛まれていない。
今の内にこういう細かな印象操作で私が「魔王」──それも「強欲の魔王」と「暴食の魔王」を内包した存在だという事実を悟らせぬようにして損は無いだろう。
──それにしてもこの双子……。
「『随分と静かになったじゃないか、えぇ? さっきまで結界の外ではあんなにキャンキャンと可愛らしく鳴いていたのになぁ?』」
結界があった時は騒がしさが伝わるぐらい血気盛んに私を睨んでいたクセに、いざ結界が解けた途端にこのザマである。
ヴァイスを相手に殺し切れないあたり、技術や才能はあっても感情や意志が未熟なのだろうな。将来有望と言えば聞こえは良いが……。
「『ハァっ!? 何よアンタさっきか──』」
「『……姉さん挑発に乗らないでッ!!』」
「『うぇっ!? いやでもあんな事言われて……』」
「『さっきまでの人族とは格が違う……。油断してたら殺されるよ』」
「『わ、分かってるわよっ!!』」
そう目配せもせずに確認し合い、双子は身体能力を向上させるスキルでも発動させたのか、その雰囲気を一新させる。
姉ディーネルは素直で直前的な性格をしているようだが、弟ダムスは存外に冷静で思慮深いようだな。
ではその能力、私に詳らかにして貰おうか? 《解析鑑定》、発動。
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人物名:ディーネル・トゥイードル
種族:エルフ族
年齢:百五十六歳
状態:健康、持久化、強靭化、強力化、剛力化、防壁化、集中化、無心化
役職:森精皇国アールヴ軍特別遊撃支援部隊
所持スキル
魔法系:《水魔法》
技術系:《剣術・初》《剣術・熟》《ナイフ術・初》《短剣術・初》《槍術・初》《弓術・初》《体術・初》《白兵戦術・初》《小盾術・初》《騎乗術・初》《二斬撃》《三斬撃》《瞬斬撃》《双瞬連斬》《飛墜閃》《背旋斬》《麻痺斬撃》《顎襲崩斬》《斬衝崩撃》《麻痺刺突》《螺旋突》《双刺突》《持久化》《強靭化》《強力化》《剛力化》《防壁化》《集中化》《無心化》《緊急回避》《森精の歩法》
補助系:《体力補正・I》《体力補正・II》《体力補正・III》《筋力補正・I》《筋力補正・II》《筋力補正・III》《防御補正・I》《防御補正・IⅠ》《抵抗補正・I》《敏捷補正・I》《敏捷補正・II》《集中補正・I》《集中補正・II》《斬撃強化》《貫通強化》《筋力強化》《脚力強化》《剣速強化》《持久力強化》《瞬発力強化》《俊敏生強化》《視覚強化》《跳躍強化》《反射神経強化》《動体視力強化》《闘争心強化》《気配感知》《殺気感知》《危機感知》《共感感知》《遠話》《夜目》《戦意》《猛毒耐性・小》《麻痺耐性・小》《痛覚耐性・小》《疲労耐性・小》《気絶耐性・小》《水魔法適性》
概要:森精皇国アールヴの英雄エルダール・トゥイードルの孫娘。ダムス・トゥイードルの一卵性双生児の姉。
物事に対して素直で直線的。裏表も無く正直者な性格は他者から好感を持たれ易く、快活な彼女の笑顔には誰もが癒やされている。
戦闘行為に対し積極的で、シンプルな直剣を扱い真正面からの白兵戦、攻防戦を好んでいるが、かと言って一対一での勝負には拘りはなく、敵わぬ相手ならば率先して弟のダムスからの援護を受けながらの戦闘に迷いはない。
「忍耐の勇者」であり祖父エルダールの弓術の才能を受け継いでいるダムスに小さな嫉妬心を抱いており、反面弓の才能が乏しく剣の才能も並みより上程度しか無い自分を自己嫌悪している節もある。
現在は森精皇国アールヴ軍特別遊撃支援部隊に仮入隊している。
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人物名:ダムス・トゥイードル
種族:エルフ族
年齢:百五十六歳
状態:健康、持久化、魔道化、魔導化、強力化、防壁化、鉄壁化、抵抗化、免疫化、集中化、無心化、命中化、照準化
役職:森精皇国アールヴ軍特別遊撃支援部隊
所持スキル
魔法系:《風魔法》《地魔法》《空間魔法》《磁気魔法》《重力魔法》《音響魔法》
技術系:《剣術・初》《ナイフ術・初》《短剣術・初》《槍術・初》《弓術・初》《弓術・熟》《弓術・極》《体術・初》《遠戦術・初》《遠戦術・熟》《投擲術・小》《投擲術・熟》《調理術・初》《調合術・初》《栽培術・初》《釣術・初》《騎乗術・初》《速射》《曲射》《豪烈射》《連牙射》《雨炸射》《貫通射》《空星射》《屠豪烈射》《震連牙射》《驟雨炸射》《全空星射》《集中射》《風制圧射》《土岩烈射》《荷重下射》《音幅撃射》《射程理解》《番理解》《風向き理解》《高低差理解》《ブレ理解》《甲矢理解》《乙矢理解》《弓理理解》《弓法理解》《弓器理解》《弓工理解》《騎射法》《歩射歩法》《巻藁前射法》《遠矢前射法》《差矢前射法》《要前射法》《緊急回避》《持久化》《魔道化》《魔導化》《強力化》《防壁化》《鉄壁化》《抵抗化》《免疫化》《集中化》《無心化》《命中化》《照準化》《森精の歩法》
補助系:《体力補正・I》《体力補正・II》《筋力補正・I》《筋力補正・II》《防御補正・I》《防御補正・IⅠ》《抵抗補正・I》《抵抗補正・II》《敏捷補正・I》《集中補正・I》《集中補正・II》《集中補正・III》《命中補正・I》《命中補正・II》《命中補正・III》《器用補正・I》《器用補正・II》《貫通強化》《射撃強化》《握力強化》《ピンチ力強化》《前腕筋群強化》《上腕三頭筋強化》《三角筋強化》《広背筋強化》《大胸筋強化》《集中力強化》《洞察力強化》《判断力強化》《持久力強化》《瞬発力強化》《遠近感強化》《視覚強化》《聴覚強化》《反射神経強化》《動体視力強化》《思考加速》《高速演算》《演算処理効率化》《魔力精密操作》《気配感知》《熱源感知》《殺気感知》《危機感知》《共感感知》《遠話》《夜目》《戦力看破》《直感》《弓愛者》《弓熟者》《弓兵の矜持》《疾風》《嶄巌》《弓神の加護》《忍耐》《猛毒耐性・小》《麻痺耐性・小》《痛覚耐性・小》《疲労耐性・小》《気絶耐性・小》《風魔法適性》《地魔法適性》《空間魔法適性》《磁気魔法適性》《音響魔法適性》《重力魔法適性》
概要:森精皇国アールヴの英雄エルダール・トゥイードルの孫息子。ディーネル・トゥイードルの一卵性双生児の弟。
物事に対して常に冷静沈着にあたり、周囲の状況や自身を俯瞰して見る事が出来る達観した性格をしており、嘘を吐くのが苦手な事も相まり中々に毒舌な一面もある。
戦闘行為に対しディーネルよりは消極的で、使命が無く回避が可能であればなるべく戦闘は避けようとする傾向にある。
祖父エルダール譲りの弓矢による弓術を扱い、後方からの援護、遠戦を好んで行い、ディーネルの白兵戦に合わせた戦法、援護を中心としている。
常に明るく努力を怠らないディーネルを心の底から尊敬しており、自分と違ってすぐに他者と打ち解けるコミュニケーション能力と当然のように弱者に手を差し伸べる優しさに深い羨望を抱いている。
七つの美徳スキルが一つ《忍耐》のユニークスキルを有する「忍耐の勇者」であり、あらゆる自身に降り掛かる負担や攻撃、災難を耐え抜く力を持つ。
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ふむ。成る程。
やはりエルダールの孫なだけあり、年齢の割にはかなり強力なスキルが揃っている。まあ、私が言えた話ではないがな。
だがどうだろうか? 概要にもあるようにダムスはしっかりとエルダールの才能を受け継いでる印象を覚えるが、姉ディーネルは比較的凡庸に思う。
勿論凡庸と言ってもそこら辺の兵士よりは数段強者ではあるし、なんなら我が二番隊の隊長であるファーストワンと戦っても問題無く勝利を収めるだろうな。
だがやはり弟ダムスのように一眼で分かるような才覚は感じられない。もしかしたらただ発展途上なだけで隠れた才能があるのかもしれんが……。
「『ちょっとっ!!』」
「『む?』」
「『なぁに余裕ぶってるワケっ!? 今から戦るんだから構えるぐらいしなさいよっ!!』」
──と、何やら喚き散らしているが、何を悠長にそんな忠告をしているんだ? 余裕ぶっていると判断したのなら攻撃の一つでも仕掛けてくれば良いものを。
それとも正々堂々とした勝負でも望んでいるのか? もしそうならば随分と愉快な話だが……私も随分と舐められたものだ。
「『……お前達相手に、私に構えを取れと?』」
「『はぁ? エルフ語話せんでしょ? そう言ってんのよ』」
「『そうか。成る程成る程……』」
思わず、私の口から嘆息を漏れる。
確かに二人は強い。エルフの兵士や隊長クラスと比べても強者の分類に入るだろう。
だが、だからと言って──
「『甚だ図々しい』」
《威圧》《覇気》《恐慌のオーラ》を発動し、二人にぶつける。
瞬間双子は表情を強張らせ、心臓の音がコチラまで聞こえてくる程に緊張を全身に駆け巡らせた。
「『お前達程度が私に構えを取れだと? 弁えろ愚か者共が。お前達が私と対等だとでも思っているのか? 驕りが過ぎるぞ』」
私は今、虫の居所が悪い。
二人に舐められた事もそうだし、ヴァイスに期待を裏切られた事もそうだが……。
「『……シンシア・イアハートは、詩集を書くのが好きだった』」
「『な、え?』」
「『な、え?』」
「『その才能も充分にあり、友人知人に請われて幾つか作品を手掛ける程だ。将来はきっと、素晴らしい詩集作家になっていただろう』」
「『な、何?』」
「『フォセカ・クーロンバークは運動神経がとても良く、その才能を戦闘に用いるのは苦手としていた。だがいつの日かスポーツが我が国で娯楽として日常化した際には、きっと目を見張る成績を残しただろう』」
「『何を……急に……』」
「『メラストマ・ジョンソン・カーマインは数学が得意で、本人もその研鑽を好んで努めていた。魔法の才は凡庸ではあったが、いつしか数学者として歴史に名を刻むような功績を打ち立てただろう』」
「『……』」
「『……』」
「『三人共、この戦争には関係無い類稀なる才能を秘めていた。いつの日か来る文化的な未来を明るく照らし、私を楽しませる可能性と期待を存分に内包した実に美しい未来の希望の光であった……。そう、だっただ』」
沸々と、怒りが湧いて来る。
彼女達三人には、実に素晴らしい未来があった。この戦争が終わり、私の立場が国で確立された暁には彼女達を将来的に支援し、私が楽しめるような数々の娯楽を提供して貰おうと密かに夢想していた。
ヴァイスはそんな彼女達の才能を伸ばすのに打って付けの優男であり、奴が彼女達の側に居るならば問題無くそれらの才能を絢爛に開花させていた……筈なのだ。
にも、関わらず、だ。
才も無いのに不釣り合いな戦争に参戦し、ヴァイスの愚かな正義感に感化され妙な使命感を宿し、実に笑えない最期を遂げた……。
もう二度と、彼女達が生み出すものを享受出来ない。もう二度と、豊かになる筈だった文化の一部が世間を賑わす事はない。もう二度と、同じ才能が生まれる事はない……。
嗚呼……本当に、本当に──
「『本当に口惜しい……勿体無い嗚呼ッ!! 実に……実に……不愉快だ』」
この世にある──生まれて来る全ての娯楽、文化、学問、芸術技術才能知識発展生産進化研鑽慈善宗教歴史倫理研究開発心理夢想論理──それら全ては私が……〝私〟が楽しみ愉しむ為に存在するのだッ!!
その……その原石を、この二人は……。
……。
…………。
………………。
「『──確かめねば、な』」
「『え?』」
「『え?』」
「『彼女達が死んで失われた才能や将来に、お前達が果たして釣り合うのかどうか……。その手で葬った尊い未来の犠牲に見合うだけの存在なのか、存分に測ってやろう』」
「『ぐっ……』」
「『ぐっ……』」
「『さぁ、掛かって来い。そして私に示してみせろ。この世から失われた才能より、自分達の方が価値があるという事をッ!!』」




