表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強欲のスキルコレクター  作者: 現猫
第三部:強欲青年は嗤って戦地を闊歩する
482/587

第八章:第二次人森戦争・前編-56

連続更新二日目!!


今回で前編が漸く終わりです。


次回は幕間を挟みいよいよ後編となります。


是非、ご期待下さい!!

 

 再び私が一人で監房室まで戻ると、それを見た残るオルウェ、エルウェ、ヴァンヤールの三人は何かを諦めたように気力が感じられない目で私を見遣る。


「『……殺した? テレリ』」


 そう聞いて来たのはここに来て漸く口を開いたオルウェ。


 軍団長達はそれぞれ特別仲が良かったわけでは無いと耳にしたのだが……。何百と年月を重ねればそれなりの情を抱くものか。


「『当然、殺した。死に顔を拝みたいか?』」


「『いや。別に……』」


 テレリの首だけは、実はポケットディメンションに仕舞ってある。


 理由は後々に偽装した脱獄騒動で死体が出ない事を指摘された際の牽制と、アールヴ軍の士気を下げる目的で見せ付ける為だ。


 テレリは軍団長達の中でも比較的公の場に出る機会が多かったようだからな。兵士達への知名度も相まって実に良い働きをしてくれる事だろう。


「『で、次は僕? やるんならさっさと──』」


 と、そこまで口にしてからオルウェは唐突に言葉を切り、何かを思い出したかのように苦々しい表情を浮かべると小さな溜め息を吐いてから私を見遣る。


「『……僕、アンタの役に立てると思うよ?』」


「『──ッ!? ちょ、オルウェッ!?』」


 オルウェの発言に私が反応するより先に、彼の双子の姉であるエルウェが血迷ったと言わんばかりに割って入り、鉄格子に限界まで顔を押し付け隣の坊の弟を(たしな)めるように声を荒げた。


「『あ、アンタ……アンタ何言ってんのよッ!? こ、この男は正真正銘のクソ野郎よッ!? コイツがアタシにどんな拷問したと思ってんのよッ!? そんな奴に……アンタなんでッ!?』」


「『姉さんは黙っててよ。ついでに姉さんも生かしてくれるようお願いするからさ』」


「『は、ハァッ!?』」


「『僕、別に国とか女皇帝陛下とかに忠誠心微塵も無いし。僕の才能が花開くならエルフだろうが人族だろうが関係無いよ』」


「『アンタ……。本気で?』」


「『うん。で? どう?』」


 エルウェとのやり取りを切り上げ、オルウェは改めて私に問い掛けて来る。


「『知ってるかもしれないけど、僕の専門は魔導書。色んな角度から旧約魔導書を研究して、新時代の新たな魔導書を作り出してる』」


「『ほう。例えば?』」


「『魔法の才能が無い人がたった一冊で魔法を使えるようになったり、技術が無い人がたった一冊で職に就ける』」


「『他には?』」


「『旧約魔導書の理解を深められるよ? 今まで発見されてない魔導書の真髄や未知の力──スキルなんかも発見出来るかもしれない。アンタならその可能性、垂涎ものじゃない?』」


「『ほぉう』」


「『ついでにその解明する技術を他の〝遺物〟何かに転用出来るかもしれないし、判明した知識を信頼出来る奴に売って儲けるのも悪くはないと思う』」


「『ほうほう』」


「『……アンタが将来どんな人間になりたいのかは知らないけど、僕をお抱えにすればそういった技術や知識、可能性を独占出来るのって、魅力的じゃない?』」


 ふふ。流石、自分の価値というものを充分に理解している。実に解り易く欲望を刺激してくれるプレゼンテーションだ。


 これもユウナの説得が良い感じに働いてくれたお陰だろう。彼女のデタラメな幸運の影響か、はたまた潜在的に他者へ影響を与え易い才能があるのかは判然とせんが、ここは後者であると勝手に受け取っておこう。


 そっちの方が魅力的だ。


「『分かった。オルウェ、お前は私が面倒を見よう』」


「『了解』」


「『ハァッ!? ちょっと待──』」


 交渉が纏まってしまい、ただ喧しい悲鳴を上げるしかないエルウェ。そんな彼女が何か続きを口にする前に私が口角を吊り上げて笑って見せてやると再び顔を青くし、そのまま圧し黙る。


「『……で? そっちのさっきから喚き声が(うるさ)いお前の姉は?』」


「『あー、姉さんは魔物専門だからね。人造魔物とか作るの得意だけど……』」


「『人造魔物か……。余り(そそ)られんな』」


 天然物なら標本や剥製にする関係で興味はあるが、人造は節操が無くなるからな。


 敵として目の前に立ち塞がるならばスキルや素材目的というモチベーションが出るが、わざわざ自分で作ってそれをやるのは……ロマンがない。


「『そう? なら単純に魔物についてはメチャクチャ詳しいよ。一眼見ただけでその魔物がどんな環境下で魔物化したか推察出来るし、逆にどんな環境にどんな性質やスキルを持った魔物が生まれるかもある程度は分かったりする』」


「『……ふむ』」


 それは……。興味が出て来たな。


 戦争終結の折、我等キャッツ家は珠玉七貴族として再び世に名を知らしめ、稼業もコランダーム公から引き継ぎ冒険者ギルドと魔物討伐ギルドを受け持つ手筈になっている。


 だが元々の稼業だったとはいえ何百年振りの業務に、父上は混乱を極めるだろう。


 勿論、コランダーム公からの多少の支援はあるだろうが、期待し過ぎは宜しくない。が、場合によっては運営が上手くいかず、そのまま破綻してしまう恐れもある。


 私も落ち着くまでは手を貸すつもりでいるし、そうならない為に色々と計画しているわけだが……。対策は多いに越した事はないかもしれんな。


「『エルウェ』」


「『ヒィッ!?』」


「『お前、ティリーザラの周辺環境と生息する魔物は調べているか?』」


「『あ、え、ええと……』」


「『どうなんだ』」


「『──ッ!! は、はぃぃッ……』」


 私が凄むとエルウェは身体を跳ね上げ、自分自身を抱き締めて(なだ)めるかのように両腕を(さす)る。


 余程私が施した拷問が応えているらしいな。途中で野菜の皮剥きの様に皮膚を剥ぐ方法に変えたのが良かったのだろう。


「『えっと……。調べて、るわよ……。一応……』」


「『帝国や公国は?』」


「『そこ、までは……。でも獣人族の国と、ドワーフの国は、少しだけ手を付けてる……』」


「『そうか』」


 ふむ。コイツは思いの外使えるやもしれんな。


 我が家の稼業が落ち着いたタイミングで素材収集や剥製作りの一助として迎えるのが妥当な所、だな。


「『判った。エルウェ、お前も私が面倒見よう』」


「『は、はひぃッ!?』」


「『なんだ? 不満か?』」


「『い、いやいやいやッ!! そ、そんな事微塵も無いわッ!! ありがとうございますッ!!』」


 む。少しイジメ過ぎたか? 情緒が乱れ過ぎてキャラクターがブレ始めているな……。致し方無い、これくらいでは止めてやろう。


 と、後は……。


「『……』」


「『……ヴァンヤール』」


 次にヴァンヤールに目を向けて見ると、彼は相も変わらず無気力に坊の壁に背中を預けながら俯くばかりでコチラに目線を向けようとはしない。


 ヴァンヤールとティールの会話を全て聞いていたわけではないし、芸術家でない私に二人の気持ちや感情は分からない。


 彼の来歴が……過去が、ティールや私の言葉を素直に受け取る事を拒否しているのは理解出来るし、軽々に頷ける程に簡単でも安くもないのも分かっている。


 だが……。


「『私は、友の望みを叶えたい』」


「『……望み?』」


 ティールを指した文言を口にすると彼は漸く反応し、私に流し気味に目線を向ける。


「『ああ。私がアイツを医療班に置いて来る際、譫言(うわごと)のように口にしていたぞ』」




『戦争終わったらよぉ……。先輩と二人で、ティリーザラの景色、描きに行きてぇ、なぁ……』




「『──ッ!!』」


「『……私は身内の望みは可能な限り叶えてやりたいと思っている。だがその望みだけは、私一人の力ではどう足掻いても叶えられん……』」


「『……』」


「『ヴァンヤールよ。ティリーザラは素晴らしい国だ。アールヴには無い景色は勿論、様々な動植物、人々、営みが数多く広がっている』」


「『……っ』」


「『それらを、好きに、好きなだけ描きなさい。誰にも強いられる事無く、ただ純粋にやりたい事を──描きたい絵を描きなさい。私の友と共に……』」


「『……はぁぁ。あぁ、たくっ!!』」


 ヴァンヤールは自分の中の何かを振り払うように髪を掻き毟ると、乱れた髪のままで私を睥睨(へいげい)した。


「『いいかいっ!? 僕はアールヴの宮廷画家だっ!! オルウェ達のようにお前の世話になるつもりも、ましてや部下になるつもりもないっ!!』」


「『……ああ』」


「『僕はっ!! あくまでっ!! アールヴの宮廷画家として新たなインスピレーションを得る為にっ!! 今後の我が身の為にお前達の言う事を〝一時的に〟聞くだけだっ!!』」


「『ああ、構わん』」


「『そして新たな私の作風が確立するまでっ!! あくまでも〝一時的に〟っ!! アイツを僕が〝利用〟してやるだけだからなっ!! いいか分かったかいっ!?』」


「『ああ、分かった』」


 私とて別に、全員を部下にしたいわけではない。


 ヴァンヤールのような芸術家はどちらかと言うと私の仕事面というより趣味の方向での活躍を期待したい所。


 それこそティールと切磋琢磨し合い、まだ見ぬ芸術で私を楽しませて欲しい。それこそが私がヴァンヤールという芸術家に望む願いだ。


 こんな所で腐られては私が困る。私の目と感性を肥やす為……。


 そして何よりティールの成長の為に……。







 ……ふぅ。コレで一通り済んだな。


 いやはや、《疲労耐性》を有していても流石に疲れるな。


「お疲れ様です。クラウンさん」


 そんな空気を察したのか、今まで邪魔すまいと静観していてくれたロリーナが労いの言葉を掛けてくれる。


「ああ。ありがとうロリーナ」


 形式的なものでも社交辞令的なものでも事務的なものでも無い彼女の労いは、本当に暖かみがありそれだけで疲れが癒えるようだ。


 私は本当に、幸せ者だな。


「……ねぇ」


「ん? なんだヘリアーテ」


「ずっと気になってたんだけど……。これ、私達居た意味あったの?」


 ……なんだ、今更そんな事を……。


「彼等を打ち負かし、捕虜としたのは君達だろう? ならばその顛末を見届ける義務があると、私は考える」


「は、はい……」


「君達は間違い無く、私の命令通りアールヴ軍の軍団長という大物達の手から何万という国民を救ってみせた。それは本当に、本当に素晴らしい偉業だ。国王陛下も、この働きにはさぞ満足されるだろう」


「へ、へー」


「だがどんな偉業だろうと、彼等の命運を決定付けたのは他でもない、君達自身だ」


「いや、でもそれは……」


「勿論、先にも言ったようにそれは私が命令した事だ。元凶は私であり、全ての責任、全ての罪禍は私に帰結する……。そう念頭に置いてもらって構わん。だが──」


 私が表情を固めると、ヘリアーテ達は私の雰囲気から緊張感を察し、真剣な面持ちとなって真横一列に並ぶ。


「私の言葉を信じ、守り、貫いた君達は知らねばならない。自分の意志、決定、行動の末に待ち受ける結果、未来を。その目、その感情で、しっかりと受け止めなければならない。それが、私という人間に着いて行く上で必要な〝覚悟〟であると、再認識して欲しい」


 私の進む道は荊の道などという生優しいものではない。


 言うなればそう、深海の底を歩くような苦しさが伴うだろう。


 常に周囲の重圧に晒され、一瞬の気の緩みで瞬く間に押し潰され、身を滅ぼしかねない……。そういう道に、私は自らの意思で進んで行く。


 そしてそんな道を歩む私に着いて行くと、彼等は自らの意思で決めた。


 勿論、そう誘導したのは私だし、決めさせたのも私と言っても過言ではない。


 だがそれでも、彼等は今でも私に着いて来てくれている……。ここまでの最中、幾度と離れる機会があったにも関わらず、だ。


 故に私は彼等の努力や成果を最大限に讃え、それに見合う見返りを与えるし、道中幾らでも、私に着いて来る事の意味と覚悟を再認識させる。


 それが、私が身勝手に彼等を巻き込んだ私なりの責務だ。


「……今更そんな事言われてもねー。ねー? ロセッティ?」


「……私達はもう、ボスと誓約を交わした時から、そういう覚悟はき、決めています。わ、わたしの手で命を奪ったその日から、一秒だって、忘れた事は、ありませんっ!!」


「うんうん。第一ボクなんかもう、ボスに着いてくしかマトモな道残ってないしー? 離れろったって離れてやんないよー?」


「……そうか」


 さて、私と《魂誓約》で誓約を交わした二人の答えは聞き届けた。


 やはり誓約の際私の記憶や感情の一部を垣間見ているだけあって理解度があって非常に助かる。


 ……。


「ヘリアーテ、君は?」


「……私そもそも、二人みたいにまだ願い叶えて貰って無いんだけど?」


「ああ、そうだな」


「ああ、そうだな──じゃないわよっ!! 私がこんだけ頑張ってアンタに着いて行ってんのはねぇっ!? 私の望みをアンタに叶えさせる為なんだからねっ!? 忘れてないわよねぇっ!?」


「忘れんよ、絶対。私は必ず、君の望みを叶える」


「わ、分かってんじゃないのよ……。いいっ? 最低でもアンタに私の望み叶えて貰うまで絶ッッッッ対に着いて行ってやるんだからアンタこそ覚悟しなさいよねっ!?」


「ふふふ。了解だ」


「……」


 ……何やらロリーナから視線を感じるが、コレはアレか?


「……一応(たず)ねるがロリーナ」


「はい」


「もしかしてだが、君も私に(たず)ねて欲しいのかい? 覚悟の再認識を……」


「しないのですか?」


「いや君は……」


「私は?」


「……君を生涯、離すつもりは無い」


「──っ!! 分かり、ました……」


 ふぅ、納得してくれたようで良かった。


 ……ん?


「またイチャついてるー」


「捕虜の前だってのに、緊張感無いわねぇ」


「う、羨ましい、です」


 ……はぁ。







 三人に弱めのゲンコツを下ろし、脱獄の偽装工作や口裏合わせを監房室長とした後に事の顛末を各所に報告。事情説明を終えて漸く解放された。


 流れとしては独居房の古くなった拘束具を壊したノルドールが檻を壊し脱走。隣の房からテレリを解放したタイミングで私達が出会し、コレを私が鎮圧。


 捕虜であったノルドールとテレリを〝致し方無く〟殺害する事で脱獄を阻止した……。


 中々に強引な状況であるし、死体は私が《闇魔法》を使った影響で消失してしまったという苦しい理由に、駆け付けた〝国防〟を司るモンドベルク公の配下達には訝しまれはした。


 だが現場である独居房には私とノルドールの二人が争った形跡が確かに刻まれていたし、監房室長も現場を見た事を証言した。


 それに加え死体の一部であるテレリの素っ首を見せた上で──




『私が彼等捕虜をわざわざこんな監房室長の目の届く場所で殺すわけ無いでしょう? 何一つメリットは無いし、寧ろデメリットしかありません。分かるでしょう?』




 そう説き伏せ、配下達は『翌日モンドベルク公直々に報告に行くように』という旨を私に伝え、この場は解散となった。


 解散後、三人には夕食の準備を終えているから部下達を呼んで指定の場所に向かうよう言い渡し、私はロリーナと二人で一度帷幄(いあく)へと足を運んだ。


「ふぅ。コレで漸く今日やる事の八割が終わったな」


 そう何気無く呟くと、それを聞いたロリーナが珍しい目を見開いて少し焦るように私の正面に立つ。


「ん? どうした?」


「まだ、働くつもりですか?」


 その声にはいつもより数段凄味が乗っており、私は思わずその声音の重さに軽く度肝を抜かれる。


「まあ、そうだな……。今日中にやらねばならない事がまだあるから、それを消化したい」


「今日、絶対にやらねばならない事ですか?」


「あ、ああ……。千変万化な戦況を可能な限り予定通りに運ばせる為には必須だ。それに戦後の私達の状況をより良くする為でもある。今日中には終わらせなければ……」


「……それ、絶対にクラウンさんがやらなければならない事、ですか?」


 な、なんだ? ロリーナは何が言いたいんだ?


 だが……。うーむ……。


「……一つは私でなくてはダメだ。私にしか出来ん事だからな」


「もう一つは?」


「それは……。一応、出来なくはない、か……」


 少々危険性は孕むが、やって出来ない事は無いだろう。


 内容自体は単純であるし、臨機応変な対応と正確な誘導、そして幅広い手段さえ取れさえすれば私以外でも充分可能だ。


 だが……。


「だからと言ってヘリアーテ達にはやらせられん。彼等の怪我や疲労は一朝一夕で癒えるものではないし、何よりディズレーが動けん以上は役割に差異が──」


「他にも居ますよね。クラウンさんの部下」


「……まさか君」


「はい。私達の部下──彼等十二名にやらせてはどうですか?」







 ロリーナから何故私ではなく他の者──ヘリアーテ達の部下である十二名の部下達にやらせる提案をして来たのか理由を聞き、私は思わず自身の目元に指を這わす。


「私の目の下に、(くま)が?」


「はい。薄らとですが、確かにあります」


 ううむ……。確かに最近は忙しくてまともに鏡で自身の顔など見ていなかった。


 だがまさか私の目の下に(くま)が出始めるとはな……。《睡眠耐性》と《疲労耐性》で問題無く動けてはいるが……。


「スキルの耐性を貫通する程に、今のクラウンさんの身体は酷使に酷使を重ねている証拠です。このままでは貴方の身体にどんな影響が出るか……」


「……ふむ」


 耐性系のスキルは確かに所持者に権能に応じた耐性を付与し、自身に降り掛かる影響を受け付けなくしてくれる。


 だがそれは〝蓄積するもの〟だと少し話が変わってくるのだ。


「睡眠や疲労は混乱や麻痺と違って肉体に蓄積し続けてしまう……。スキルの権能を使えている最中は問題無いが、一度切れば蓄積分が一気に降り掛かるだろうな」


 故に《睡眠耐性》や《疲労耐性》等の蓄積するものは、定期的に解除してその蓄積を無くさねばならない。


 でなければふとしたタイミングでそれが解除されてしまったりした時、大惨事になりかねないからだ。


「言っておくが私とて寝ていないわけではないぞ? 短時間だが定期的に仮眠は──」


「でも足りてないから(くま)が浮いているんですよね?」


「う……。まあ、確かに……。だがこの程度ならまだ私は動け──」


「私が心配で堪らないんです」


「う……」


 なんだろうか。そこはかとなく、ロリーナの目が怖い。


「……クラウンさん」


「は、はい……」


「こっち、来て下さい」


 そう言ってロリーナはベッドに歩み寄ると(おもむろ)に腰を掛け、綺麗に揃えた両膝を軽く叩く。


「寝て下さい」


「ん?」


「取り敢えずは数分で構わないので寝て下さい」


「だ、だが……」


「勿論、今日の最後にもしっかり寝て貰います。ですがまずは時間が許す限り休んで貰います。いいですか?」


「あ、ああ……」


 そうやって誘われるまま、私はロリーナの少し離れた位置に腰掛け、上体を真横に傾けて彼女の両膝に頭を乗せる。


 う、む……。これは……中々に……。


「寝辛く、ないですか?」


 気恥ずかしげに問い掛けてくるロリーナに、私まで面映(おもはゆ)くなる。


「……どんな寝具より、気持ち良く寝付けそうだ」


「なんです、それ……」


「ふふ。すまん……」


「いいですよ」


 そこからロリーナは私の頭に手を添え、ただただ静かに見守ってくれていた。


 気付けば私は微睡(まどろ)み、不思議な多幸感に包まれながら入眠する。


 こんな、心地の良い、睡眠は……今までに、な、い……。


 ______

 ____

 __


「……まったく。この人は……」


 ロリーナは自身の膝上で寝息を立てる愛しい人の頭をそっと撫でながら、呆れたように笑みを溢す。


「自分のワガママは最優先するくせに、人一倍自分に厳しいんですから、困ったものですね……」


 当然彼女は理解している。


 彼が自身を酷使してまで努力し、働くのは自分の為でもあるが、何よりロリーナ達身内が幸せである事を望んでいるからこそ。


 それもまた一つの、彼自身の〝強欲〟であると……。


「カッコ良過ぎますよ。本当に……」


 そう呟き、ロリーナは静かにクラウンの額にキスをする。


 彼女が知る限りの、労いと愛を込めたキスを。


 __

 ____

 ______

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 夢とロリーナって何か関係あったりします?
[気になる点] それを見た残るオルウェ、エルウェ、ヴァリノールの三人の部分、ヴァンヤールだと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ