第7話 群圧Ⅰ
「いったいなんだったの……」
最初に声を出したのは西園寺ルカだった。
吐瀉物が髪先に乾きかけている。
顔色は悪い。
口元を押さえていても、まだ吐き気を堪えているのが分かった。
「……めちゃくちゃだ」
久我亮は近くの木に手をつく。
いつもの軽口はもうない。
さっきまで自分が立っていた場所さえ、今は信用できなかった。
藤堂優斗は少し離れた場所で息を整えている。
表情は崩れていない。
だが、視線だけは森の奥を測るように動いていた。
鬼塚美鈴は立ったまま拳を握っている。
震えはある。
だが、それを見せまいとしていた。
佐伯真帆は地面に座り込んだまま動かない。
呼吸が浅い。
焦点の合いきらない目だけが揺れている。
まるで視界の奥で、何かを処理し続けているようだった。
森は静かだった。
⸻
しばらく誰も動かなかった。
風だけが葉を揺らしている。
西園寺が口元を押さえたまま言う。
「……また吐きそう」
髪先についた吐瀉物もそのままだ。
それを気にする余裕すらない。
さっき見たものは、それほどひどかった。
森が、
世界が壊れたような景色だった。
木が伸び縮みした。移動した。
地面が波打った。
久我が毒づく。
「なんなんだよこの森」
西園寺がようやく顔を上げる。
「私たちさ」
少し間を置く。
「本当に異世界に来ちゃったのかもね」
久我が眉を上げた。
「あれは冗談だって」
西園寺は首を横に振る。
「学校から森に瞬間移動してきてさ」
「意味わかんない能力渡されて」
そう言ってから、少しだけ久我を見る。
「亮のギフトだってそう」
「茶化してるけど、未来が見えるんでしょ?」
久我は肩をすくめた。
「一秒だけね」
「一秒でも未来は未来でしょ」
西園寺の声はまだ少し掠れていた。
「思ってる以上に、」
「ヤバい状況かもね。私たち」
風が揺れる。
誰もすぐには言葉を出さなかった。




