第122話 魔王VSジョーカー 2
カッ、カッ、カッ
冷たい靴音が、戦場の静寂を切り裂いた。
「……何をやっているのだ、ジョーカー」
その声は、アルガンド城の上階、城のバルコニーから響き渡った。
「この声は……」
レイカとリア、二人の視線が同時に上を向く。
そこには、帝国軍の最高権力者、皇帝ベインが冷然と立ち、隣には皇女ロゼーリア、そしてバスターズ隊長トップの姿。
風に揺れる皇帝のマントが重く揺らめいた。
「こ、皇帝様……!」
「……皇帝」
リアが緊張で喉を鳴らす。
ベインの鋭い眼差しが、下にいるリアを射抜いた。
「ジョーカー。この任務、失敗すればわかっているな」
「は、はい……」
リアの声が震える。
だがその拳は、まだ握られたままだ。
「お前……どういうつもりだ!!協定を破る気か!?」
レイカの怒号が、砂混じりの風に乗って響く。
ベインは鼻で笑った。
「協定?あれはお前の父、ガイルと交わしたものだ。ガイルが死んだ今協定は無効だ」
「そんな理屈、通るわけないだろ!!」
「言うなれば、魔王よ、三十年前のアルガンド城事件。あの時に協定を破ったのは……どこの誰だったかな?」
その言葉に、レイカの表情が凍った。
「……っ!!」
「どうした? その事件を、お前の口から説明してみろ」
ベインの声が、氷のように冷たく響く。
「……三十年前。当時の魔王、僕の祖父が、このアルガンド城で皇帝を暗殺した事件だよ」
レイカは唇を噛み締め、視線を落とした。
「そうだ。殺されたのは私の父上だ。しかも不戦協定を結ぶ直前にな……!」
皇帝の声が怒りで震え、拳が手すりを叩く。
「だけど、僕のお父様は違う!あの人は平和を望んで、お前と協定を結んだじゃないか!!それを破る行為は許されない!!」
「私はガイルを信じていただけだ。だがガイルが死んだ今、魔王軍は信用に値しない」
「ならせめて!魔王城のみんなを返して!!」
レイカの叫びが、空気を震わせた。
「それさえしてくれれば、報復なんてしない!」
「みんな?何の話だ?」
ベインの声に、一瞬、空気が張り詰めた。
「なに言ってんだ!!魔王軍のみんなのこ」
バシュッ!!
突如、紅蓮の火球がレイカを襲った。
レイカは咄嗟に手をかざし、それを吸収する。
「魔王!それ以上、皇帝様に口を利くな!!」
リアがレイカに手を向けながら叫んだ。
「お前……本当にそれでいいのか!!皇帝のやり方が正義だと思ってんのか!!」
「正義とか悪とか……そんな単純な話じゃない!! 私は……お前より考えてる!!」
「ハッ!!考えてる?そんな経験浅い小娘が笑わせるな!!」
「お前と議論するつもりはない!!」
リアはマントを脱ぎ捨て、地を蹴る。
砂塵が舞い上がり、戦場の熱気が一気に上がった。
「皇帝様!今度こそ終わらせます!!」
リアは両手を地に突く。
「ハアッ!!」
ドンッ!!
大地が唸り、レイカの前に巨大な土壁が隆起する。
そして、それは音を立てて倒れ込んだ。
「今さらこんなもので!」
レイカが拳を振るい、闇魔力を纏った腕で壁を殴る。
しかし、グニョンと腕が沈み込む感触がする。
「な、何だこれ!?」
「土魔法と水魔法を混ぜた粘土の壁だよ」
リアが冷たく言い放つ。
「粘土!?くっ、そういうことか……!」
地面は先の戦闘で濡れ、泥と化していた。
リアはその環境を利用した。
レイカの下半身が、じわじわと粘土に呑み込まれていく。
「くっ……動けない!!」
リアが両手を合わせ、ゆっくりと開く。
「終わりだよ魔王!!」
ジ……ジジジジ……
空気が震え、両手の間に四色の光が集まっていく。
「なっ……あれは……」
火、水、風、土。
それぞれの属性が螺旋のように渦を巻き、リアの手のひらに圧縮された魔力の塊が形成される。
ジジジジジジ!!
「ハアアアアァァァァァッ!!!」
リアが咆哮する。
辺りの草木がなぎ倒されるほどの魔力圧が炸裂した。
「あ、あれはヤバい!!」
レイカも闇魔法を両腕に集める。
リアが叫ぶ。
「これで終わりだ!!カタストロフィー!!」
ドドドドドドドドドドッ!!!
炸裂する光が一直線にレイカを貫かんとする。
「うおおおおおおお!!!」
レイカも全力で闇を放った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
大地が震え、空が歪む。
「ぐっ……ぐぐぐっ……!!」
レイカが押され始める。
「ハハハ!!私のカタストロフィーは四属性融合の究極魔法!!防げるはずがない!!」
リアの虹色の玉がが闇を侵食していく。
「くっ……なんて威力だ!!」
皇帝の声が遠くから響く。
「諦めろ、魔王!!ジョーカーの勝ちだ!!」
だが、レイカは叫んだ。
「僕は負けられない!!!」
瞳に、仲間たちの笑顔が浮かぶ。
(カエデ……リコ……コアネール……サイちゃん……ロイロイ……魔王城のみんな……)
「僕はみんなのために負けられないんだ!!!」
バシュウウウッ!!!
闇魔力が爆発的に増幅し、リアの虹色の玉を飲み込んだ。
「な、何!?」
ドガァァァァァァァァン!!!
大地を割る轟音。
闇の奔流がカタストロフィーを粉砕し、一直線にリアを貫いた。
「っ!!!」
眩い爆光。
そして、爆風が戦場を吹き荒らす。
砂煙の中、レイカが息を荒げて立ち尽くす。
「……僕の……魔力が勝った……」
バシャ……
粘土が崩れ、レイカの足が自由になる。
「ジョーカー……」
砂煙の向こう。
そこには、血に濡れ、片膝をついたリアの姿。
「ハア……ハア……」
それでもまだ、目の光は消えていなかった。
「もうやめなよ。命に関わるよ」
「ハア……ハア……リアは……負けられない……っ!!」
リアは吐血しながらも、立ち上がろうとする。
同時に、レイカもよろめきながら膝をついた。
「くっ……目眩が……」
「どうやら……そっちも限界みたいだね」
リアが震える手で立ち上がる。
「まだ……まだだよ!!」
レイカも翼を広げ、ふらつきながら立ち上がる。
その瞬間
「ジョーカー!! 早く片をつけろ!!世界の平和はお前にかかっているんだ!!」
皇帝ベインがバルコニーから叫んだ。
その声は、冷たい命令というよりも怒りと焦りの混じった悲鳴に聞こえた。
レイカは睨み上げた。
「……アイツ」
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