第10話 謎の変質者
カエデさんの尻を触った何者かはカエデさんの後ろに隠れ、俺を見ていた。
カエデさんは俺を痴漢の犯人だと思い、鬼のような形相をしている。いつもは天使なのに。
「ちょ、ちょっと待って!俺じゃな......」
「問答無用!!」
「ブギャッ!!」
カエデさんは俺に右ストレートを放った。
俺はそれをモロに受け、勢いよく吹っ飛び、倒れこんだ。
「い、いってー!ホントに俺じゃねーって!」
俺は横たわりながら言った。
なんで俺が殴られないといけないんだ!
いやお尻を触って殴られるなら本望だが触ってないのに殴られるのは真に遺憾だ!
「あんた以外誰がいるって言うの......よ?」
「いやー、お嬢ちゃん、いい尻じゃ」
カエデさんが振り返ると、カエデさんの尻を触る小さいジジイがいた。
なんだあのジジイ?
「お、おじいちゃん?」
「とてもいい尻じゃ!デカくてしっかりとしている!安産体型じゃ!」
ジジイはうんうんと頷きながら言った。
「う、うるさいわよバカ!!」
「ブフオッ!!」
カエデさんはジジイを蹴る。
ジジイは吹っ飛び、俺のすぐ横に倒れた。
「い、痛いのう......」
「痛いのうじゃねーよクソジジイ!テメー良くも!!」
俺は隣に倒れたジジイを睨みながら言う。
カエデさんはそれを見て、また赤くなった。
(ロイくん、あんなに怒って......ちゃんと私のこと考えてくれてるんだ)
カエデさんは何を思ったか少し笑った。
「どんな感触だった!?触り心地で言うと何に例えられる!?」
俺はジジイに聞いた。
それが気になって仕方がなかった。
カエデさんは背が高くスレンダーではあるがお尻は結構大きい。
「ア、アンタね......」
カエデさんは握りこぶしを握っていた。
明らかに怒っている。
「い、いや、カエデさん?これは冗談って言うか......」
「うるさいバカ!!」
カエデさんは俺に向かって小石を投げつけてきた。
「ぶえっ!!」
小石は俺の額に当たり、再び俺は倒れた。
「もう知らないんだから!そこで反省しなさい!!」
カエデさんははプイッと顔を反らすと、そのままどこかに歩いていってしまった。
ヤベー、完全に怒らせてしまった。
カエデさんは普段優しいけど、怒らせたら怖い、まるで鬼のようだ。
「ホッホッホ、ありゃオヌシが悪いのう」
ジジイは倒れた俺を見ながらそう呟く。
「っるせー!!確かにそうだけど元はと言えばテメーのせいだろうが!」
そうだ、確かに怒らせたのは俺のセクハラ発言だが、元はと言えばジジイのセクハラが原因である。セクハラと言うか痴漢か。
「って言うかテメー誰なんだよ!」
「ワシは美女の尻を触るために世界中を旅している、尻の冒険者じゃ!ヒップトラベラーじゃ!!」
ジジイは立ち上がり、胸を張りながらそう言った。
何だよヒップトラベラーって!!ただの変質者じゃねーか!!
でもちょっと羨ましい。
「オヌシの彼女の尻はなかなか良かったぞ。デカ尻ながら柔らかく、まるで美しい湖に畔で囀る小鳥のような繊細さがある尻じゃ」
「彼女じゃねーし!って言うか訳わからん例えすんな!!俺より先にカエデさんのお尻触りやがって!羨ましいぜ!」
「まあよい、それより小僧」
ジジイは俺の腰にぶら下げている剣を見た。
「なんだよ?」
「一丁前に剣なんぞぶら下げとるが、オヌシ剣が出来るのかの?」
そう聞いてくるジジイ。
正直今もらったばかりだからまともに操れる訳がないが、ここは腹立つし......
「あ、当たり前だ!!こう見えて地元じゃ有名な剣士なんだぜ!」
俺は立ち上がりながら言う。
「ほほう、ならワシと手合わせ願えんかの?しばらく運動しとらんから身体が鈍ってしまってな」
ジジイは身体を反らし、準備運動しながら言う。
はあ?なんで俺がジジイの相手しないといけねーんだよ。
「ヤダよ、大体俺がなんでテメーみたいなジジイの」
「なんじゃ負けるのが怖いのか?ダメじゃなそんなんじゃ、カエデちゃんもオヌシのような若いだけのヘタレよりワシのようなダンディーなイケオジを選ぶだろうな」
ジジイは笑いながら言う。
何がダンディーなイケオジだ!変質者が!!
まあいいや、このままヘタレと思われるのも癪に障るし軽くボコしてやれば満足して帰っていくだろう。
「わかったよいいぜ、軽く一捻りにしてやる」
俺は腰にぶら下げている剣アンヘルを一気に抜き、構える。
やべー、本当の剣士みたいでカッコいい。
「ほっほっほ、それでは始めようかの」
ジジイも両手を前に出し、構えた。
なんだ?もしかしてこのジジイ、なんか武術やってんのか?
でもまあ、相手は変質者のスケベジジイだ。
「よっしゃ!じゃあこれで終わり!!」
シュッ!!
俺は勢いよく走り出し、左足を軸に蹴りを放った。
いきなり剣で斬るのはあんまりだからな、まあこれでジジイも観念するだろう。
っと思っていたが......
「あれ!?」
蹴った先にジジイの姿がない。
俺の目には一瞬にしてジジイが消えたように見えた。
「え!?どこ行った!?」
「こっちじゃ」
「へ?ブハッ!!」
ジジイの声が聞こえた瞬間、頭を踏んづけられた。
俺はそのまま地面に倒れ込む。
「いててて......」
頭を押さえながら立ち上がる俺。
ジジイは俺の蹴りを跳んで避けて、そのまま俺の頭を踏んづけたようだ。
全く見えなかった......
「なんじゃ今の蹴りは?遅すぎて犬の小便する格好でも真似とるのかと思ったわ」
「うっせー!小便とか下品なこと言うなや!」
俺は剣を構える。
このジジイ、今の動きといいタダのジジイではないな。
そうなれば手加減は無用、俺も本気を出させてもらおうか!
「くらいやがれ!!」
ブンッ!!
俺は大きく踏み込んで剣を振り下ろした。
しかし、ジジイは身体を反らして避ける。
「あれ?」
「大振り過ぎじゃな、自分より小さい相手と戦う場合はコンパクトに素早くが基本じゃ」
そう言うと右足で俺の手を蹴った。
「いって!!」
俺は剣を離してしまい、剣は地面に落ちる。
「はっ!!」
「グエッ!!」
そしてジジイは掌底で俺の腹を殴り、俺は吹っ飛んで倒れる。
「よっと!」
ジジイは落ちている剣を拾い、マジマジと見つめた。
「ほほう、オヌシアホみたいに弱いのに剣だけは良い物を使っとるの」
「いててて......な、なんだよ、返せよ!」
「ほれ、返すぞ」
ジジイは俺の剣を投げつけて来た。
「うわっ!!」
ザクッ!!
俺の剣は俺の顔のすぐ横を通り過ぎ、地面に刺さった。
「ほっほっほ、勝負ありじゃな」
ジジイは余裕綽々と笑いながら言った。
なんだこのジジイ、強過ぎる......




