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先を越された。

 早朝、私たちは小さな町を出ました。とりあえず今日はアクト王国の首都近くまで行く予定です。昨日足を痛めたというジークさんは大丈夫でしょうか。

 普段、街の中ではゆっくりと歩き、外ではとても速く歩いています。どうして平凡な私がついていけるのか不思議に思う程の速さです。

 今日は街中より少し速いくらいで歩いています。

 太陽が遠くに見える山々から姿を現して、辺りが明るくなった頃、エドワードさんがのんびりとした声で言いました。

「いい天気だねー。緑が綺麗だねー」

「そうですねー」

 私の声ものんびりしています。

 今歩いている道の両脇に草木が生えているのですが、その濃淡様々な緑色がとても美しいです。さらに、鮮やかな赤や青、黄色などの花が所々に咲いていて、目を楽しませてくれます。

「そう言えば、ジークさんたちと会った林も緑が綺麗でした」

「へー。あ、マリアが『レイちゃんはとんでもない所にいたよ』って言ってたけど、どこにいたんだい?」

「死のは、むぐうっ」

 答えようとしたらジークさんに口を塞がれました。

「その地名は聖職者以外は言ってはいけないことになってる。それと、あそこの話がしたいのなら、教会の中か近くでするものだ」

 何ですかその決まりは。

「レイちゃん……本当にとんでもない所にいたんだね……」

 確かに恐ろしい名前の浜ですけど、別にとんでもない所だなんて思いませんでしたよ?

「その様子だとわかってないようだね。…………そこはね、その名にふさわしい場所なんだよ。その隣の林もね」

 どうして怪談でも話すかのように言うんですか、エドワードさん!

 ところでジークさん、そろそろ手を離してくれません? 足が止まってしまっていますよ、私たち。

 離して、と目で訴えてみると、ジークさんは気付いたようで、手を離してくれました。

 口を塞がれるというのは、嫌なものですね。昨日私に塞がれた彼女はさぞかし不愉快だったでしょう。



 すっかり日が暮れてから、そこそこ大きい町に着きました。

 宿で夕食をとりつつ、

「ジーク、足はどうだ?」

 心配そうにエドワードさんが尋ねると、

「痛くない」

 ジークさんは即答しました。

「明日、山に登れるか?」

「大丈夫」

「本当に? ケイが『ジークは強がりなんだ』って言ってたから心配なんだけど」

「……心配しなくていい」

「そうか。じゃあ、戦闘は?」

「できる」

 無理しないでくださいね、ジークさん。



 翌日。

 心配すべきはジークさんではなく私でした。何故って、山が険しいうえに、登山道が整備されていないから。

 エドワードさんとジークさんは、そんな悪路など関係ない、というようにどんどん進んでいきます。ときどき、立ち止まって私が追い付くのを待っていてくれます。

 ううう……足手纏いでごめんなさい……。

 前回、ニールグで登山をしたのは近道のためですが、今回は違います。この山の頂上に神の道具があるからです。エイミーたちは持っていないようでしたので、まだ誰にも取られていないだろうということで来たわけです。

 正午少し前に、ようやく山頂に着きました。いやー疲れた。よく頑張った自分。

「あれの中かな?」

 エドワードさんが指した方向を見れば、小屋がぽつんと建っています。

「誰かいるみたいだ」

 私には無人の小屋にしか見えないんですが。

「あの小屋の管理人か、どこかの勇者か。レイちゃんには隠れて欲しいところだけど……駄目だな」

 ここに生えている木は、細いうえにうねうねと曲がりくねっているのです。これでは到底身を隠すことなどできません。

 ガタガタッ

 突然小屋から音がしました。誰かが内側から戸を開けようとしているようです。

 ガタガタッ

 どうやら立て付けが悪いようですね。

 バコッ

 ……戸が、吹っ飛びました。

 小屋の中から長身の男性が出てきました。手には長い棒。棒の先端には刃がついています。あれは……薙刀でしょう。ここにある神の道具は武器だそうですが、あれがそうでしょうか。

「何者だ」

 彼は、私たちの姿を認めると、静かに問い掛けてきました。

「そっちこそ、何者だ?」

 エドワードさんが問い返すと、

「お前の同業者だろうな」

 と彼は答えました。

 この人、なんだか氷のようです。無表情で声に感情が無くてついでに美形なのはジークさんと同じですが、髪と目が透き通った水色なせいか、冷たい人に見えます。

「それは、神の道具なのか?」

 またエドワードさんが問うと、氷のような彼は、どこからかピンポン玉くらいの大きさの白くて丸い物を取り出し、

「そうだろうな」

 と答えると、丸い物を地面に叩きつけました!

 丸い物は叩きつけられて割れると、辺り一面に強烈な光を放ち、その眩しさに私は目を開けていられなくなりました。

 しばらくの間目をぎゅっと瞑っていると、

「逃げられたっ」

 エドワードさんの悔しそうな声が聞こえました。

「レイちゃん、もう目を開けても大丈夫だよ」

 恐る恐る目を開くと、もう眩しくともなんともありませんでした。

「逃げられたよ。まさか光が出てくるなんて思わなかった」

 エドワードさんの言う通り、小屋の前にはもう誰もいません。

「もっと早く来るべきだったな」

「……私が歩くの遅かったせいで……ごめんなさい」

 言葉と同時に頭を下げると、何故か頭にぽんとエドワードさんの手が載せられました。

「レイちゃんは真面目だね」

 エドワードさんはそう言うと、私の頭を優しく撫でてきました。

 ……高校生にもなって頭を撫でられるとは……なんだか私、幼くなった気がします。情けない……でも撫でられてちょっと嬉しいかも?

「謝ることはないよ。レイちゃんの事を考えなかった僕が悪いんだ。それにさ、もしあいつより早くここに来て、あれを手に入れてたとしても、荷物になって大変だったと思うよ」

「でも、あれは、昔の勇者の仲間が使った、聖剣くらいすごい物なんでしょう? それを持ってかれて……」

「いいんだよ。僕らは旅に出てから一ヶ月も経ってないのに、神の道具を五つも持ってるんだよ。今まで順調過ぎたんだ」

 確かに、エイミーという名の壁にぶち当たった時はあっさりと乗り越えることができ、国境も何事もなく越えました。「順調過ぎ」と言われればその通りでしょう。

「全て上手くいくなんて思っちゃ駄目だよね。まあ、こんなこと言っても、僕らはまだかなり順調だけど」

「どうしてですか」

「だって、あいつは僕らを襲って神の道具を奪おうとしなかったから」

 あ。

「そういう訳だから、自分のせいだなんて思わなくていいんだよ」

 いや、それはどうかと。

「俺のせいだ」

 いきなり何ですか、ジークさん?

「俺が着地に失敗しなければ、昨日あんなにゆっくり歩かなくて良かったんだ。……ごめん」

 ジークさんは頭を下げました。

「何でジークまで謝りだすかな……真面目な奴め」

 エドワードさんは呆れたように言って、嫌がるジークさんの頭をやや強引に撫でました。

「もういいや。三人とも悪いってことにしよう。あ、僕まだ謝ってなかった。二人とも、ごめん」

 エドワードさんが頭を下げたので、私とジークさんはお返しをしておきました。

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