反論してみる
あれから一週間経ちました。今、国境を堂々と越えたところです。
この国の名前はウラス王国。宗教は違いますが、アクトととても仲が良く、両国民は頻繁に行き来しているそうです。私たちはそのことを利用して越境した訳です。ニールグ人だとバレなければいいのです。私は日本人ですがね。
「随分あっさりと通してくれたね。いいよね、外国にこんなに簡単に来られるなんて。よっぽど仲がいいんだね」
エドワードさんはそう言って、はあ……、と溜め息を吐きました。
「ニールグにも仲がいいお隣がいればいいのに」
「どうして仲が悪いんですか」
「どうして、って言われてもな……宗教が違うからかな。あと戦争のせいかな」
「そうですか」
「うん。他にもいろいろあるのかもしれないけど、僕は知らない。陛下がどうにかしてくれるといいな」
二日後、ある大きな町の宿で、私たちは二度目の報告書を書きました。今回は自分で署名しましたよ。
「ケイたちはどれくらいで来るかな」
紙飛行機となり飛んで行く報告書を見送りながらエドワードさんが呟くと、同じように見送っていたジークさんが答えました。
「明後日か明明後日くらいだと思う」
「早いな。ケイって足早いだけじゃなくて体力もあるよな」
「ペガサスくらいあるだろうな」
よくわからないけど、ケイさんって、
「剣を持つと弱くなるのが残念だ」
……すごい人なのかな?
三日後。
「よっ! 三人とも元気か?」
今日も元気なケイさんが窓から部屋に入ってきました。少し遅れてお兄さんのアーサーさんも。
「三人とも、おはよう。元気そうでなにより。はいこれ、活動資金」
エドワードさんはアーサーさんから巾着を受け取ると、中を見て苦笑しました。
「またこんなに」
どうやら大金のようです。
「陛下に期待されてるんだよ。それに、無いよりある方がいいだろ? まあ、この事は置いといて、大事な話があるんだ」
「兄ちゃん、その話はオレがする。グウェンさんへのお土産買ってきたら?」
「そうか。じゃあまかせた。行ってくる」
アーサーさんは窓から出て行きました。そんな兄を見送るケイさんにジークさんが尋ねました。
「大事な話って何だ」
「んー、ジークとエドにはあんまり関係ないかな」
ということは私に関係あると?
「なあ、レイ」
振り返ったケイさんは日本について聞いてきた時のような真剣な顔をしていました。
「何ですか」
「お前は、人間、だよな?」
…………は?
「人間じゃないなら何だって言うんですか」
「お前がさ、異世界から来たってことを報告したらさ、やっぱり信じないやつが多かったんだ」
「それはそうでしょうね」
「オレ、大司教様だけじゃなくて陛下にまで報告したんだ。それで、陛下は何て言ったと思う?」
「何か変なことでも言ったんですか」
「『きっとあの人は人間によく似た別の生き物なんだね』って言ってた」
あの中学生ー! いや中学生じゃないけど。
「で、その意見に賛成するやつが多いんだ。異世界に人間がいることは信じられないけど、何か別の生き物ならいて当然だからな」
その考え方をぜひ変えて欲しいです。
「私は人間です」
「そうだろうな。でもな、お前は人間じゃないって思われても仕方ないところがあるんだよ」
「例えば?」
「ふわふわしてるとことか」
アンナさんが同じことを言っていましたね。
「どこがふわふわしてるんですか」
「どこがと言われても……レイは全体的にふわふわしてて、どことなく人間じゃない感じがするんだ」
ふわふわ……人間じゃない……つまりは、
「幽霊?」
この人たちには私がどう見えているのでしょうか。正しく見えていないことは確かです。それともおかしいのは私の方?
「幽霊は違うぞ。レイは生きてるようにしか見えない。…………ああもう、何て言えばいいかわかんなくなってきた。とにかく、普通じゃないってことだ」
普通じゃないって理由で人間じゃないって思われてるんですか、私は! 私からすればケイさんの方が人間じゃないですよ! 馬より速いってどういうことですか!
「レイ、怒ってるか?」
当たり前です。
「そうだよな。人間扱いされてないって知ったら普通は怒るよな。でもな、レイは見下されてる訳じゃないんだ。むしろ上に見られてる。何てったってレイは神使だからな」
今何かケイさんがすごいことをさらっと言った気がするのですが。
「私が、何ですか?」
「神使。陛下がそう決めた。大事な話っていうのはこの事だ」
えっと、つまり?
「レイは人間じゃなくて神使という生き物と認定されたんだ。五日前に」
「何ですかそれ!」
思わず大きな声が出ました。
「うおっ。レイも大声出すことあるんだな」
「人間ですから。私が神使ってどういうことですか?」
あの中学生、じゃなかった、国王は何を考えているのでしょう。
「オレたちがレイのことを知ったのは、神様が教えてくれたからだ。それならどうして教えてくれたんだ?」
「勇者の、エドワードさんのためじゃないんですか? 私がエドワードさんの助けになるから」
「じゃあ何でレイはエドの助けになるんだ?」
「えっと、神の道具の知識があるから?」
「魔力が強いからっていうのもあると思うよ。お陰で聖剣が簡単に手に入ったし」
「うん、そうだ。エドの言う通りだな。だったらどうしてレイは知識と魔力があるんだろうな」
魔力は知りませんが、知識があるのは私が平成の世を生きてきたからだと思います。
「陛下がそこで出した結論が、レイは神様の使いだ、ってことだな」
ええ……。
「そういう訳だから、これからは神使として頑張ってくれ」
「え、あ、はい……って、神使として?」
「ああ」
ケイさんは真面目な顔で頷きました。が、どこか面白がっているように見えなくもないです。
「無理です。私ただの人間なので」
「まあそんなこと言わずに」
言います。何度でも!
「私は人間です」
「はいはい、わかってるよ。文句があるなら陛下に言ってくれ」
あなたが少し楽しそうなことにも文句があるんですが。
お昼頃、アーサーさんが戻ってきました。いいにおいのする紙袋を抱えています。
「兄ちゃんおかえりー」
「ただいま。……どうしてレイは不機嫌そうなんだ? お前の仕業か?」
「何でオレのせいにするんだよ。陛下のせいだよ」
「そうか。ほらレイ。これでも食べて嫌なことは忘れるといいよ」
そう言ってアーサーさんは紙袋から、魚型のものを取り出しました。
「何ですか、これ」
「知らないのか? 鮎焼きっていうんだ。この辺りで一番美味しいって評判のを買ってきたんだ。食べてみなよ」
「いただきます」
ありがたく受け取って食べてみると、中にはあんこが入っていました。形と名前は違えど鯛焼きのようです。
「とっても美味しいです」
「それは良かった」
微笑むアーサーさん。
「陛下に、レイは人間だ、って伝えとくよ。でもできれば神使っていうのを受け入れてほしい。人間じゃないと思われるのは嫌だろうけど、そういう役職だと思えばなんとかならないか? あ、ほらケイ、お前も食べろ」
アーサーさんが鯛焼きならぬ鮎焼きを差し出すと、ケイさんは嬉しそうに受け取って食べ始めました。
こういう優しいお兄さんがいるのって、羨ましいです。私には生意気な妹と弟しかいません。
それにしても、役職っていう考え方はいいですね。別の生き物扱いは嫌ですが、職業としてなら受け入れられないこともないです。たぶん。




