この世界に
神様の見た目は、黒髪黒目の、二十歳くらいの男性でした。
エドワードさんが聖剣の柄に手をかけました。が、すぐに手を放しました。
……なんというか……普通です。日本の大学生が何かのコスプレでもしているかのように見えます。
「日本人ですか」
私が日本語で質問すると、
「今もそうだって言っていいのかわからないけど、昔は間違いなくそうだった」
神様も日本語に切り替えて答えました。
「本当は、さとうけんいちっていうんだ、俺」
さとうけんいち……
「こういちとは一字違いで」
佐藤神社の神主で神様の友達の佐藤康一さん?
「二人合わせて健康だ。別に兄弟とかじゃないからな。たまたまだ」
佐藤康一さんとは一字違いで、二人合わせて「健康」ということはつまり、神様の本名は、佐藤健一。……なるほど、K.Sで「ケーエス」なのですね。単純ですね。
いろいろ聞きたいことはありますが、まずは神様のことから質問してみるとしましょう。
「何があったんですか」
何がどうなって、日本人が別の世界の神様になったのですか。
「運が悪かったんだ」
神様は、ほんの少しだけ寂しそうな表情で、ずっとずっと昔の話を私にしてくれました。
佐藤健一さんと佐藤康一さんは、大学で知り合った友達同士でした。
二人が大学二年生になってすぐの、ある春の日のことです。
二人は、どういうわけかこの世界に来てしまいました。
後でわかったことですが、この世界とあちらの世界を繋げてしまった人がいたのです。
この世界には、ジークさんのお父さんのように、別の世界のことを研究する人が昔からいます。
普通は研究したところで自分の知識が増えるばかりで、何かができるわけではありません。ですが、ごくまれに、何かの偶然で別の世界を見る人がいます。ここはそういうことがある世界なのです。
研究者たちの見る世界はだいたい同じ世界で、そこに人は住んでいません。
さて、“その人”は素晴らしい頭脳と、圧倒的な運の良さを持っていました。もしかすると、何か特別な能力もあったのかもしれませんし、何かが手を貸したのかもしれません。ある時“その人”は、他の人とは違う世界を見ました。そして見るだけでなく、世界間の移動まで可能でした。それは本当に短い時間に狭い範囲で起きたことで、一度きりのことでもありました。
この世界と繋がった向こうの世界の、まさにその場所、その時間に、健一さんと康一さんは居合わせてしまったのです。
私や私のお母さんのように、誰かの手伝いをするため、なんてことは一切ありませんでした。ただの偶然でした。さらに運の悪いことに、向こうと繋がったこちらの場所は“その人”のいる所ではありませんでした。
目が覚めたら森の中にいて混乱した健一さんと康一さんの前に、当時のこの世界の神様が現れました。
その神様が、それまでこの世界に無かったものを追加しました。
今の神様が、私に文庫本を手渡してきました。日本の小説のようです。ジャンルはファンタジーでしょうか。
「百八十三ページ」
言われたページを開いてみました。挿し絵のページです。枠の中が空っぽの、表のようなものが描かれています。
「そこにな、架空の文字があったんだ」
ここに文字が? もしや、神主さんの辞書のように文字が抜けてしまったのですか。
「“余計なもの”の元だ。形はローマ字を元にして、読み方は日本語っていうのでな。あるだろ、ローマ字が並んでて英語書いてあるかと思ったら日本語だったっていうの。だからお前は魔物に手を突っ込むと言葉が浮かんでくるんだ」
魔法だけでなく魔物にまで日本語が関わっていましたか。
では、どうしてこんなことに。
「これのも神主さんの辞書のも、どうして抜けたんですか」
「……あいつは、ひげ生えたおっさんだったよ」
神様は続きを話し始めました。
何故なのか、それは神様にもわかりません。理由を想像するしかありません。
ふらりと現れた、ひげの生えたおじさん――当時の神様は、健一さんが持っていた本に書かれていた架空の文字を“余計なもの”に、康一さんが持っていた辞書に書かれていた文字を魔法の元に変えてしまいました。
もっとも、その時の健一さんと康一さんは魔法と魔物のことなど知らず、自分の持ち物から文字が抜けていく不思議な光景をただ見ることしかできませんでした。
この世界を変えてしまった神様は、運の悪い異世界の学生二人を憐れんだのか、二人にこちらの言葉を覚えさせてから姿を消しました。
その後、親切な人々に助けられ、健一さんと康一さんはこの世界での生活を始めました。
日本に帰れぬまま五年が経った頃、健一さんが死にかける出来事がありました。
苦しむ健一さんのもとに当時の神様が現れ、なんと「生かしてやるから、神になってみないか」ともちかけてきました。神様は、自分はそろそろ力尽きるから、と後継者を探していたのでした。
まだ生きていたい、友達をこんな所に一人きりにはしたくないと思っていた健一さんは、神となることを受け入れました。
そうして神様となった健一さんでしたが、十年くらいは魔力の強い人という程度でした。ですがそれで十分でした。
神様の力は、神様を崇める人が多ければ多いほど強くなります。
神様は、しばらくの間は人として生き、大勢の人からの尊敬を集めました。すると、魔法の仕組みを少しですが理解できるようになりました。それをきっかけに魔法陣を開発し、人々に広め、さらに多くの尊敬の念を獲得していくと、そのうちに“お告げ”という、いかにも神様らしいことができるようになりました。
「で、そのへんの宗教のいもしない神に成りすましたり、上司名乗ってみたりして、信者増やしてった。要するにどいつ崇めたって結局は俺の信者ってわけだ」
詐欺ではありませんか。
「宗教違うのにみんな神様のこと信じてるのはそれが原因ですか」
「そんなとこだ。だいぶ後になって全部俺だと理解させたんだが、まとまらなかった。まあ、俺のこと信じてればそれでよし」
はあ、そうですか。
あ、本お返しします。
「さて、ここからは他のやつにもわかるように言ってやろう」
神様はイリム語に戻し、にっと笑いました。
「まず、デューク、ジーク。お前たちはな、兄弟で、俺の子供だ」
え、えええええ!
「はあ!?」
「はいっ!?」
エドワードさんとエイミーが素っ頓狂な声を上げました。
ジークさんとデュークさんはお互いに顔を見合わせ、同時に少しだけ首を傾げました。あ、似てる。二人の様子を同じく見ていたらしいリヒトさんが「証拠かよ」と小さく呟きました。
「一応言っとくけど、デュークが兄だからな」
……はっ、そういえばジークさんが自分には兄と姉がいるらしいと言っていましたね。じゃあお姉さんはどこに?
「で、上にもう一人いて、そいつが前の勇者」
……お姉さんもう亡くなってた!
神様は、赤毛の勇者にまつわる話を始めました。
魔王が現れる少し前(といっても二十五年前)に、神様は近いうち(二、三十年)にとても強い魔物が現れることを察知しました。
人は決して弱くはありません。ですが神様は心配でした。
そこで、身体能力が高く、魔力が強く、その上で魔物に触ってもある程度なら大丈夫な(嫌な気持ちにはなるけれど怒ったり暴れたりしない)存在と、魔物に対して有効な武器を創りました。それがローズと、聖剣などの武器です。ローズが赤毛なのは神様の好みです。
人に手を貸し過ぎるのもよくないので、あとは人に任せたわけですが、ローズは優秀な剣士となりました。しかも、彼女はより強くなるために旅に出ました。
「それでもちょっと不安になってな」
神様がまた日本語になりました。
「こっちのやつに日本語覚えさせるのも考えたんだが、結局たか……みどりさんに来てもらったわけだ。強い魔力付けてな」
また「高橋」と言いかけましたね。
「どうして、私のお母さんなんですか」
「知り合いの中で手伝ってくれそうな人を五人選んで、その中からくじで決めた」
“私が来たのはくじ引きの結果説”は間違いとは言い切れないわけですか。
「どういう知り合いなんですか」
「高校の同級生だ」
そうでしたか。高校の……それじゃあ私の方が偏差値……。
「お前失礼なこと考えてるだろ」
うぐっ。
……まあとにかく「高橋さん」の理由がわかりました。高校生の時に呼んでいたように今も呼んでいるのでしょう。
「つ、続きお願いします……」
「まったく……」
神様はまたイリム語になりました。
賢者に魔法を教えてもらったことによって、無駄になりかけていた強い魔力もローズは活用するようになりました。
そんな強い存在が各地を回って魔物やら悪徳商人やらなんやらをぶっ飛ばしていったことは、人々の安心に繋がり、魔物の元になる負の感情をわずかですが減らしました。
ローズたちが魔王を倒したことによって、まるで魔物などいないかのようになりましたが、時が経つにつれて魔物が現れることが増えました。
そしてまた魔王が出ることがわかった神様は、またローズのような存在を創ろうとしました。そうして生まれたのがデュークさんなのですが、彼の魔力は想定より弱いものでした。
おかしいな、と思った神様は、余力があったのでもう一人創ってみました。そうしたら今度はもっともっと魔力の弱い子となりました。その子がジークさんです。
「ローズがうまくいきすぎたんだな。俺には魔力調整は難しかった」
「え、じゃあ私とお母さんにはどうして」
お母さんに強い魔力を付けたと神様は言いました。そして私の魔力はとてもとても強いです。
「ここのやつじゃないから、っていうか、俺と近いからだろうな。魔力が強いも弱いもないやつに魔力付けるのは結構簡単だ」
この世界の人だとうまくいかないけれど、あちらの世界の人に強い魔力を付けるのは思い通りにできる、というわけですか。ジークさんもデュークさんも自分が創った存在なのに、こちらの人だから難しいというのですか。
「俺が創ったっていっても、創り方はほぼ俺のじゃないからな。……ブロンテのあの速さとか、ルファットの燃費ちょっと悪いけどいろいろずば抜けてるのならいけそうなんだが、一代限りだな……」
神様の視線がエドワードさんに向けられました。
「一番わからないのはお前だ」
急に神様にそんなことを言われたエドワードさんはきょとんとしました。
「……はい?」
「身体能力と魔力ならできる。でもその治癒力は何だ。しかも全部遺伝するとか……!」
「そ、そんなこと聞かれても……。あの、僕のご先祖様は神様がお創りになったんじゃ……?」
「神が人を創ったのは間違いない。でも俺じゃない。俺の前のやつ」
「は、はあ……」
エドワードさんは困っているようです。話を変えてもらいましょう。
ジークさんとデュークさんを創った後のことを話すよう神様にお願いしてみました。
神様は、デュークさんもジークさんもローズ同様に人に任せました。残念ながらジークさんに魔法は無理でしたが、それでも二人は立派に育ちました。
ですから最初の予定どおり、デュークさんを武器回収を兼ねた旅に出させようかと思いましたが、他にも優秀な人はたくさんいます。ならばいっそ、あちこちから複数人を旅立たせて、より人が自分たちで頑張れるようにしようと神様は考えたのでした。
そういうわけで、各宗教のトップにお告げをして、好きな方法で勇者を選ばせました。ただ、エドワードさんとデュークさんは必ず選ばれるようにしました。
「な、何で僕まで?」
エドワードさんが神様に質問しました。
「能力的にはお前がいかにも勇者だし、本気出すとことか見たくてな。それで、できれば次の子の参考にしようかと」
次ですか。ジークさんにも弟か妹のどちらか、もしくは両方ができるのですね。
「まあ次も対魔王用とは限らないし創るかどうかも未定だけどな。で、話を戻すが」
さて、旅に出る人が決まったわけですが、どこの勇者もローズたちに比べると魔法の面ではいまいちだと神様には思えました。同じ魔法使いでも魔法語を理解しているのとしていないのとでは大きく違ってきます。そこで賢者のような存在、つまり私を誰かにつけることにしました。
私が一番うまくやっていけるのは誰かを考えた結果が、エドワードさんでした。だから私はエドワードさんのお手伝いをすることになったのです。
「でもさすがに不平等すぎかと思って、他のやつにも少しだけ手を貸した。それでもまあ、結局はこうなったわけだが……全員褒めてやろう。偉い偉い。特にエイミー」
「は、はいっ!?」
神様に名前を呼ばれたエイミーはビクリとしました。
「剣ぶん投げたのはいい判断だったぞ。結婚式には盛大に祝ってやる」
「……ふぇ、あ、えっと……あ、ありがとうございますっ」
エイミーは顔を赤くして嬉しそうにお礼を言って、ぺこりと頭を下げました。
すっと神様の視線が私に移りました。
「ところでお前、帰りたいか?」
また神様は日本語で話しました。
「はい。神主さんは、帰れるって言ってくれました。帰れますよね」
「二度と魔法が使えなくても?」
魔法が使えない……それでも……。
「…………はい」
船上でエドワードさんとジークさんに話をした時から今まで、気持ちに大きな変化はありません。
魔法が使えなくなるのはすごく嫌です。でも、それでも私は日本に、家に帰りたいのです。
「そうか。来月、ちゃんと返してやる。向こうの時間だとお前がこっちに来てから二時間半くらいが経ってるはすだけど、出かけるところだったからちょうどいいだろ」
……まあ! そんなに短いのですか! 図書館に行って帰ってきたとしてもおかしくない時間です。
「詳しいことはまた今度話すから、しばらくゆっくりするといいぞ」
そう言うと、神様はイリム語に切り替え、
「じゃ、今日はこの辺で。お疲れ」
なんとも軽い挨拶を残してふっと消えてしまいました。
「…………疲れた」
エドワードさんがそう呟いてその場に座りました。
「……なんか、気が抜けた。わかってたつもりだけど……本当にあんなで……」
すっかり疲れてしまった様子のエドワードさんに、ジークさんが言いました。
「さっきのがなくても疲れてて当然だ」
土砂降りの中で魔王と戦ったのですものね。
「それはまあ、そうなんだけどさあ……はあ……」
エドワードさんは視線を下に向けたきりになってしまいました。
「あんなのを揃って崇めてるとか……」
リヒトさんが呆れたようにそう言うと、
「ちょっとアンタたち、神様のことあんまり悪く言うものじゃないわ」
エイミーが腰に手を当てて少し怒りました。
そんな彼女の名前を遠くから呼ぶ声が聞こえました。
「エーイーミー! 怪我はー?」
声の方には、三人の女性らしき姿が見えました。エイミーの仲間が全員見つかったのですね。
「大丈夫よー!」
エイミーは叫んでそう返すと、魔王が倒れていた所に落ちていた竹刀を拾いました。
魔王はもう、すっかり消えていたのです。
……あ、そうだ。
「待って。武器じゃない神の道具持ってたら見せて。うちのだから」
仲間の元へ行こうとしたエイミーを呼び止めました。
「はあ?」
エイミーが、何言ってんのコイツ、という顔をしました。エドワードさんも顔を上げて私を不思議そうに見ました。
「私の家にあったものってこと」
賢者がこの大陸に連れてこられた時に巻き込まれた物があるということと、賢者は私のお母さんであることを説明しました。異世界云々は抜かしました。
「……アンタのお母様何百歳よ?」
「何歳だったかなあ……」
本当はちゃんと覚えています。四十三歳です。
「とにかく、何かあるなら見せて。ものによってはあげるから」
何かが記録されていそうなものであれば返してもらいます。
「……仲間が持ってるから、ちょっと待ってなさい」
エイミーは仲間の元へ走っていき、何かを受け取るとまた走って戻ってきました。彼女が持っているのは小さな木の箱で、その中には、修正テープが入っていました。ペルン村でもらったボールペンと同じように、誰もろくに触らず、どんなものか確認しないまま大事に大事に保管されることとなったのでしょう。
修正テープの使い方を説明して、約束どおりエイミーにあげました。
「……じゃあね」
「うん」
私に背を向け、数歩歩いたエイミーに、
「ロイさんとお幸せにー」
そう声をかけてみると、彼女は振り返りました。頬がほんのり赤くなっています。
「あ、アンタに言われるまでもありませんわっ!」
そう言い残して彼女は走っていきました。ふふふっ、変なの。
さようなら、エイミー。
「ふっ、ははっ、何今の」
エドワードさんが笑いました。彼もエイミーの庶民と貴族が混じったような言い方が面白かったようです。
「にゃあ」
デュークさんの足下のシロちゃんが鳴きました。
「……行くか」
デュークさんがシロちゃんにそう言うと、シロちゃんはリヒトさんの頭に飛び乗りました。
「まだ一緒、か?」
リヒトさんの言葉に答えるかのようにシロちゃんは「にゃ」と短く鳴きました。今のは「はい」なのでしょう。
「んじゃ、行くか」
「ちょっと待ってください」
「ん?」
リヒトさんにお見せしたいものがあるのです。
疲れていますが、集中できれば……。
まずは手のひら全体を光で覆われているようにして、集中して……丸く……。
手のひらの上の光が、丸くなりました。小さいですが、できました。
「練習しました」
これができるの、もうリヒトさんだけではないのですよ。
「無駄な努力したもんだな」
「いいんです、やりたかったんです」
「ふーん。……ほれ」
リヒトさんが、何でもないかのように、私のよりずっと大きい光の塊を作ってみせてきました。
「私、まだまだ、ですね」
わかってはいますけど。
「……もっと頑張れってことだよ」
リヒトさんはそっぽを向いてそんなことを言いました。
「……じゃあな」
リヒトさんは私たちにぼそっと挨拶を残して歩き出しました。頭の上のシロちゃんが「ばいばい」と言うかのように鳴きました。
リヒトさんとシロちゃんを追って、この場から立ち去ろうとするデュークさんの腕を、ジークさんが掴みました。
「…………兄さん」
そう小さく呟いたジークさんは俯き気味で、なんと顔が真っ赤になっていました。
デュークさんはというと、どう反応したらいいか困っているようです。
「その……お元気で」
「……」
何も返さないデュークさんに、エドワードさんがにやにやしながら言いました。
「何か言えよ“お兄ちゃん”」
デュークさんは、エドワードさんをギロリと睨んでから、ジークさんに向き直りました。
「…………」
しばらく何もせず何も話さずにいて、やがてジークさんの頭に、ぽんと手を載せました。そして「元気で」とだけ呟き、去っていきました。彼なりにお兄さんらしくしてみたのではないでしょうか。
「良かった、か?」
エドワードさんの質問に、
「……悪くはなかった」
と、少し嬉しそうにジークさんは答えました。
「俺、兄弟に憧れてたんだと思う」
ケイさんの影響でしょうね。アーサーさんとケイさんは仲良し兄弟ですから。
さて、「勇者」と呼ばれて旅に出された人はエドワードさんだけになりました。
「さて、僕らも……あれ?」
エドワードさんが首を傾げました。
「立てない。全然力が入らない……なんかもう、どうやって立ってたかわかんない」
おおう、相当お疲れのようです。
「もうしばらくはここにいるか」
ジークさんがエドワードさんの横に座って言いました。私も座るとします。
すっとエドワードさんの手が伸びてきて、頭を撫でられました。何でしょうか。
「……神様の髪の毛さ、すっごく濃い茶色って感じだったね。レイちゃんもそう?」
ええ、そうですよ。
私が頷くと、
「見てみたいなあ」
エドワードさんがそう言って、
「俺も」
とジークさんが頷きました。
「見せたいです」
「珍しいね、レイちゃんがそんなこと言うなんて」
そうですね。自分でもなかなか大胆な発言だと思います。
「唯一自慢できるものなんです。美容師さんも友達も誉めてくれるんです」
かわいくて女の子らしい妹にだって負けません。たぶん。
この世界の人の感覚ではどうだかわかりませんけど。
「……エドワードさん、ジークさん」
「うん?」
「どうした」
「私の思い出話、聞いてくれますか」
二人が頷いてくれたので、私は、ミール村の教会であったことと、そこで思い出したことの話をしました。