結婚式:指輪の交換-1
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「ここで、結婚の誓約の印に指輪の交換を致します」
近くに控えていた、指輪を預かっていた子供が、危なっかしい足取りで近づいてくる。
抱えている座布団のようなものの上には、彼らからひきはがされた指輪が1対載せられていて―― もう一度、これから互いの指に戻るのだ。
それに、カイトは少しだけほっとできた。
たかが指輪。
されど指輪。
はめる前までは、そんなチャラチャラしたものと思っていたのに。
一度はめてみると、会えない間も彼女の存在を感じさせてくれる、大事な物証に思えた。
指輪がある限り、彼女と結婚したという事実は、夢でも幻でもないのだと分かるのだ。
リハーサルの時と、この本番。
今まで2回、指輪を失った。
しかし、そんな強制もこれが最後だ。
「写真を取られる方は、前の方においでください」
進行の声が、そんなことを付け足した瞬間。
カイトの背筋には、ゾッとする冷たいものが。
そして、席の方からは一斉に何人かの男女が、カメラを片手に近づいてくる気配が分かった。
メイの方を向く必要があったので、身体を横の方に向けた時―― そのイヤな光景が、無理矢理視界に入ってくる。
今日はその役柄のせいで、所定の位置におさまっていなければならないはずのソウマでさえ、一眼レフ持参で現れたのだ。
興味もないはずなのに、何故かシュウさえいる。
べったり化粧を塗りたくった、母親の顔さえも見えた。
だらだら。
気色の悪い汗が、一気に背中に集中する。
見んな!
そう心の中で吠えたてたが、一向に彼らに通じる様子はなかった。
今か今かと、キラキラした視線で、カイトを打ち抜くのだ。
クソッ!
カメラになんか収まらないくらい速く、指輪をはめてしまえばいいのだ。
彼女の細い指に、するっとおさめるだけで終わりだった。
何も周囲に、サービスしてやる必要などない。
カイトは、そう決心した。
近くにあるリングの小さい方をがしっと掴むと、進行が「まず、新郎から新婦へ…」という言葉が終わらない内に、メイの手を捕まえていた。
そして、いざはめようとした時。
うっ。
カイトは、それが不可能であることを知ったのだ。
何故なら―― 彼女はまだ、手袋をはめたままだったのだから。




