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追放勇者とコップ一杯の水 -神様はアホなのか?-  作者: ねこ


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43/43

43話

「あっ、天人」


「ほう、珍しいな。あんな隊列を組んで飛ぶとは」


 小さな農村で一夜を明かした翌日も、昨日に聞き続き青空が広がっていた。

 その青空を見上げていたリナがつぶやき、ガストンが少し驚いたような声を上げた。

 視線の先、遥か高空を大きな翼をはばたかせた天使のような一団が、見事な隊列を組んで南の方へと飛び去っていく。


「天人……初めて見ました」


「まあ、地上に住む我々と生活圏が重なることは滅多にないからね」


 ガストンの言葉に、俺は首を傾げた。


「そうなんですか。なぜ?」


「あの大きな翼を見ただろう? どうしても地上の街ではあの羽が邪魔になってしまうし、万が一傷ついて飛べなくなれば彼らにとっては死活問題だ。体を軽くするためか、骨や皮膚の強度も我々ほど高くはなくてね」


「確かに、そう聞くと雑多な地上で一緒に過ごすのは難しそうです」


「とはいえ、交流がないわけではないよ。マリーダとの手紙のやり取りは、彼らを使っていたわけだしね」


「郵便配達員のような役割ですか。それなら街で見かけても良さそうなものですが」


「彼らが降り立つのは冒険者ギルドや兵舎の屋上にある専用の離着陸場だけだ。地上を歩くことはほぼないから、空を見上げている時に運良く目に入るかどうか、というところだね」


 なるほど、徹底して空の住人というわけか。


「ライラさんの講義で天人の存在は知っていましたが、てっきり魔法で飛んでいるのかと思っていました。普通に自前の翼で羽ばたいているんですね」


「うーん、それはどうかな。もしかしたら魔法を補助的に使っているかもしれないわよ」


 リナが人差し指を立てて補足する。


「どういうこと?」


「そもそも、魔法っていうのは精霊にお願いをして、その願いを叶えてもらうことだと言われているわ」


「それなら、精霊にお願いすれば誰でも使えるのか?」


「『お願い』ができれば、ね。その作法というか、精霊への語りかけ方は人によってニュアンスが違って、説明するのが凄く難しいの。訓練しても一生できない人もいれば、ある日突然コツを掴む人もいるわ」


「じゃあ、リナも明日から突然使えるようになるかもしれないんだ」


「どうかしらね。そういうケースは稀で、結局は毎日地道に語りかけ方を試行錯誤している人が、一番確実に使えるようになるみたいだけど」


 どうやら魔法というやつは、一朝一夕にはいかない奥の深い技術らしい。


「でね、魔法って使うと凄く『疲れる』のよ」


「疲れる?」


「そう。逆に言うと、私たちが日常的に『疲れた』と感じるのも、無意識に魔法を使っている証拠……とも言えるわね」


「考え事をして脳が疲れるのもか?」


「ええ。精神を精霊に捧げて、思考や行動を助けてもらっていると考えられているわ。例えば、長距離を歩いている時、筋肉にはまだ余裕があるはずなのに、精神的に疲れて動きたくなくなるでしょう?」


「あるな……確かに、足より先に心が折れる感じだ」


「それは、体を動かす補助に無意識に魔法(精神)を使いすぎて、器が空っぽになっちゃう状態なんだって。訓練でその器を大きくできるらしいけど……やっぱり専門の魔導師たちは凄いわよね」


「そうなんだ。そう考えると、もしかしたら俺たちがいた元の世界にも魔法はあったのかもしれないな。使い方も精霊の存在も知らなかっただけで」


「ふふ、そうかもね」


 リナの言葉を聞きながら、俺は手の中のコップを見つめた。


「そうすると、この『コップ一杯の水』はいくら作っても全く疲れないから、やっぱり魔法の定義からは外れてるんだな」


 掲げたコップには、相変わらず澄んだ水が満ちている。俺のその言葉に、手綱を握るガストンが心底感心したように声を上げた。


「……何度使っても疲れないとは。サトウ殿、それは魔法を越えた、まさに奇跡の力としか言いようがないな」


 精神の摩耗を伴わない『置換』の異質さを改めて実感しつつ、俺は心地よい揺れに身を任せ、西へと続く道を見つめた。

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