13話
帰り道、彼女たちの足取りは重かった。
意気消沈して歩く三人の背中に、俺は努めて冷静に、しかし厳しい言葉を投げかけた。
「……さて、反省会をしようか」
まずは準備不足。獲物の実際の大きさや個体差、群れを作る習性についての事前の調査が甘すぎること。
そして、何より彼女たちの心に刺さる言葉を選んだ。
「君たちの今日の行動は危なっかしすぎる。ミラ、君がリナを心配したように、今度は君たちがリナを心配させることになるんだ。あいつに、あんな思いをまたさせたいのか?」
その言葉に、三人はひどくショックを受けたように項垂れた。リナを大切に想っているからこそ、自分たちの無鉄砲さが親友を傷つける可能性に気づき、胸を痛めたのだろう。
「……でも、良かった点もある。あの状況で冷静に撤退を判断できたことだ。あれができなきゃ、今頃誰かが欠けていたかもしれない」
俺は少し声を和らげ、彼女たちの頭を軽く叩くようにして続けた。
「あとは自分たちの実力を正しく見極めて、大きな名声に飛びつかず、小さな依頼からコツコツと積み上げていこう。命あっての物種だ」
最後に少しだけ褒めると、彼女たちは「はい……」と消え入るような声で返事をした。多少は元気を取り戻したようだが、まあこれも経験だ。
冒険者ギルドに戻り、獲物の素材を提出する。
「サトウさんの取り分はどうするっスか?」とシャノに聞かれたが、俺は首を振った。
「俺の分はいらない。自分たちの装備のメンテナンスにでも使いな。頑張ったご褒美だ」
三人から何度も感謝の言葉を受け取り、俺は彼女たちと別れてギルドを出た。
即時撤退という判断のおかげで、空を見上げればまだ日は高い。アジトへの食糧調達のため市場へ寄ることにした。
活気ある市場を歩いていると、「よう、兄ちゃん! 依頼、ありがとよ!」と、革のエプロンをつけた職人風のガッチリした男から声をかけられた。
「……あ、いや。いや、あれは彼女たちが頑張ったんですよ……と胸を張っては言えませんが、それでも彼女たちの頑張りのおかげです」
彼女たちだけでは無理だっただろう。だが、行動し、発見し、そして素材をギルドに届けたのは間違いなく彼女たちだ。
「まあ、素材の状態は、解体が不慣れであまり良くないですが」
「ははっ、いいってことよ! ないよりは百倍マシだ。おかげで仕事が始められる、助かったぜ」
職人の男は豪快に笑うと、店先にあった串焼きを一本、俺の手へと押し付けた。
「ほれ、おごりだ。ありがとな。また頼むぜ、冒険者さん!」
男はそう言って、忙しそうに奥へと戻っていった。
手に残った串焼きからは、香ばしい肉の焼ける匂いとタレの香りが立ち上っている。
一口齧ると、凝縮された肉の旨みが口の中に広がった。
ブラック企業の殺伐とした人間関係や、王都の冷徹な空気とは違う、地に足のついた温かな人の繋がり。
(……しみじみと、良い街だな)
転生する前の自分がみたらなんて言うだろうな。
俺は少しだけ感慨にふけりながら、オレンジ色に染まりはじめる自由都市の景色を目に焼き付けた。




