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12話

 森に入る直前、俺たちは改めて自己紹介と互いの役割を確認することにした。


 活発な少女はミラ。このパーティーのリーダーで、腰の剣を使いこなすアタッカー。

 ちょっと内気な少女はルル。自分の体ほどもある大盾を担いだ守りの要、タンカー。

 そして猫耳の少女はシャノ。弓矢を手に周囲を警戒する偵察担当のサポーターだ。


「俺の役割は、全体を見守るサポーター兼、撃ち漏らしを叩くアタッカーってところだな」


そして俺は腰の業物を軽く叩いて見せた。


「俺はこの短剣で真空波のようなものを飛ばせる。離れた位置からでもモンスターを両断できるが、うちにはヒーラーがいないんだ。何より安全重視で行こう」


「真空波!? すっごい技術ね!」


 ミラが目を輝かせる。そんな中、シャノから「ところでリナお嬢様とはどういう仲なんスか?」とニヤニヤしながら聞かれたが、俺はしれっと無視して森へと足を踏み入れた。



 森に入ると、シャノが身軽に木に登り、辺りを見渡した。


「……見つけたっス! 巨大な獣が通った跡があるっスよ」


 彼女の指し示す方向には、地面が深く抉られた跡があった。目的の獲物の可能性が高い。俺たちはその足跡を慎重に辿っていった。

 すると、奥の方からガサガサと草木が揺れる音や、バキバキと太い枝を折る凄まじい音が響いてきた。


「……ッ、来たっス!」


 茂みから姿を現したのは、彼女たちの予想を遥かに超える巨体をもったグレートボアだった。それも一頭ではない、複数だ。


「いや、デカくない……?」


 ミラが呆然と呟く。


「あんなの無理だよぅ……」


 盾の陰でルルが泣き言をもらす。


「ヤバいっス! 撤退、即撤退っス!」


 シャノが即座に叫ぶ。


「そうね、撤退よ!」


 ミラの号令で、彼女たちは脱兎のごとく背を向けた。


 俺はその後ろ姿を見ながら、「なんだかなぁ」と思いつつも、無理をせず冷静に引き際を判断できた彼女たちに少しだけ安心した。


 だが、放っておけば追いつかれる。俺は殿を務めながら、獲物たちの周囲に能力を発動。広範囲の「濃霧」を発生させ彼女たちを追いかける。

 霧に巻かれた群れは混乱したが、その中から一頭、執念深い個体が霧を突き破って突進してきた。


(……ある意味、好都合か)


 一頭だけなら、彼女たちに「成功体験」を積ませるチャンスだ。

 俺は走りながら、獲物の体内と足の関節に極小の「置換」を仕掛けた。筋肉や神経の一部を水に置き換える。外傷はないが、確実に動きが鈍る。


 ある程度開けた広場まで逃げ切ったところで、俺はさらに一撃、前足の蹄の付け根をわずかに置換した。


「ギャンッ!?」


 獲物が何かに躓いたかのように盛大に転倒する。


「チャンスだ! 叩け!」


 俺の指示に、ミラたちが足を止めて反転した。

 だが、シャノの放った弓は厚い毛皮に跳ね返され、ミラの振るった剣も、少女の腕力では致命傷を与えるには至らない。


(ああ、そうなるのか。やっぱり、今の彼女たちには荷が重すぎるんだな)


 俺はやれやれと肩をすくめると、カモフラージュのために短剣をひと振りした。

 鋭い振りに合わせて、極薄の水刃を発生させる。

 シュンッ――という軽い音と共に、グレートボアの太い首が音もなく両断された。


「……え? 倒したの?」


 呆然とする少女たちを横目に、俺は周囲の警戒を続けた。


「とりあえず一頭は確保だ。他の奴らが来ないうちに、さっさと素材を回収してしまおう」


 俺は、彼女たちが四苦八苦しながら不慣れな手つきで解体を進める様子を黙って眺めていた。


 ――あんな無茶な依頼を受けたこと、そして戦い方の甘さ。

 説教は、この血生臭い作業が終わってから、安全な場所で、と考えふと思う。

 一人が好きだと言ったはずなのに、なんだかんだと彼女たちの面倒を見ている自分に、俺は少しだけ呆れた。


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