11話:三人娘とのはじめての冒険
2026年08月11日 主な変更
:12話と一部話を前後させる
ガストンの屋敷で手厚いもてなしと柔らかいベッドを堪能した翌朝。
一階へと続く階段を下りていると、階下のリナから明るい声がかかる。
「サトウさん、おはようございます。少しお寝坊さんですね」
「んん……ああ、おはよう」
そう返事をして、声のしたリナのほうに顔を向けようとすると、また別の元気な声が重なった。
「あなたがサトウさんね! リナを助けてくれたこと、それに私たちの依頼を手伝ってくれるってこと、本当に感謝するわ!」
一階の広間にはリナのほかに三人の人物が待ち構えていた。
そのうちの一人が快活な笑みを浮かべながら、素直な感謝の意を伝えてくる。
「ん……えーと」
「サトウさん、昨日話した私の友達です。今日はよろしくお願いしますね」
「え、あ、ああ。うん……」
その言葉の通り、そこに集まっているのは冒険者を目指しているという、リナの友達なのだろう。しかし、その友達というのはリナと同年代の、まだ幼さの残る三人組の少女たちだった。
この想定外の事実に、思考が一時停止する。
少女たちがそれぞれ武器を携えていることへの驚きもあるが、それ以上にリナを含む彼女たちの警戒心のなさに対してだ。
(……おいおい、リナ。俺が一応男だってことを忘れてないか?)
若い女の子たちのグループに男一人が混ざる状況に、俺は居心地の悪さを感じて気まずそうに視線を泳がせた。
すると、そのうちの一人と偶然目が合った。ぴんと立った三角形の耳、そして腰のあたりから伸びたしなやかな尻尾。いわゆる「獣人」の少女だ。
街で見かけることはあったが、いざ同じパーティーとして背中を預けるとなると、その珍しさからどうしても視線が吸い寄せられてしまう。
「……あたしの顔に、何か不自然なものでもついてるっスか?」
猫耳の少女が不思議そうに首を傾げた。リナがすかさずフォローに入る。
「ごめんね。サトウさんは王国から来たばかりなの。あっちではほら、獣人の人は珍しいからつい見惚れちゃったのよね?」
そう言われて、俺は王国に召喚され、そして追放された日のことを思い出す。確かに、あの日旅するための物資を調達する中で、人間以外の種族を見かける機会はなかった。
しかし、この都市国家では街の中でも、そして今こうして目の前にいる少女の姿を見ても、多様な種族が当たり前に存在しており、この土地の自由な風土を物語っていた。
「あっと、悪い。ちょっと珍しくてな。まあ、よろしく頼むよ」
「あっちの連中は排他的だって聞くっスからね。嫌がってるんじゃないなら、気にしなくともいいっスよ」
「あ、今起きたばかりってことは、サトウさん朝食はどうします?」
「これだけ集まってるってことは、もうこれから出発なんだろ? 何か歩きながら食べられるものとかはあるかな?」
「わかりました、ちょっと厨房へ行って聞いてきますね」
リナがそう言って給仕のいる場所へ向かっている間、再び彼女たちから丁寧な挨拶を受ける。
「本日はよろしくお願いいたします。私はミラと言います。このパーティーでリーダーと前衛を担当しております」
そう言って、ミラは腰に取り付けた剣の柄を軽く持ち上げてみせた。
「ルルって言います。よ、よろしくお願いします……」
続いてもう一人の少女が、背負っていた大きな盾を前に出し、身を隠すようにしながら「盾役をやっています」と控えめに告げた。
「あたしはシャノっス。斥候をやってるっス。武器は弓を使ってるっス」
「全体的なサポート役、といった感じか」
「そうっス。今日はよろしくっス」
一般的なゲーム感覚だと回復役が足りない印象を受けるが、そう都合よく人材が揃うものでもないのだろう。
とすると、俺の役回りは皆が怪我をしないように見守る立ち位置か。
「リナから話があったかもしれないが、サトウだ。俺の役目は全体を見守るサポーター兼、打ち漏らした相手を倒すアタッカーといったところかな」
「そうですね。サトウさんは日ごろから狩りを行っていると聞いておりますので、私たちが対応しきれなさそうであれば、フォローしていただけると助かります」
「わかった」
そんな自己紹介を交わしていると、リナが小さな籠を片手に戻ってきた。
「食堂で持ち運びやすいサンドイッチを作ってもらいました。すぐにお出かけですか?」
「ありがとう。どうする?」
「そうですね、わからないことばかりですので……」
「むしろ遅いくらいっス。冒険者の朝は早いっスからね」
「依頼もまだ残ってると思うんだけど……」
意見を総合すると、早く移動を開始したいということらしい。
「じゃあ、行こうか。ちょっと自分の装備品を取ってくるから、外で待ってもらえるかな?」
そう言って、俺は籠から取り出したサンドイッチを片手に、降りてきたばかりの階段を再び登り始めた。




