10話
数日後、アジトの倉庫には最高級の毛皮や魔石などの素材が山積みになっていた。
「……よし、これくらいあれば十分だろう」
俺はそれらを背負子に詰め込み、再び都市国家アイゼンへと向かった。
ベルモンド商会の査定室。運び込んだ素材を広げると、鑑定士の使用人とガストン氏は揃って絶句した。
「……サトウ君、これではあのアホみたいに格安で譲った望遠鏡の代金なんて、一瞬で回収できてしまうじゃないか」
ガストン氏は額を押さえ、苦笑いを浮かべた。
「お礼のつもりだったんだが、これじゃあ君に良い商売をさせてもらっているだけだな」
そんなやり取りの最中、奥からリナがひょっこりと顔を出した。
「サトウさん! 無事でよかった。……ねえ、一昨日のあの『爆発』、大丈夫だったの?」
彼女の話によれば、あの轟音と閃光は街にまで届いていたらしい。今や街では「最近見かけなくなったあの盗賊たちに、神様が最後の天罰を下したのだ」という噂で持ちきりなのだという。
「あ、うん。……まあ、なんか凄かったな」
言葉を濁す俺を、リナはじっと覗き込んできた。その瞳には、確信に近い光が宿っている。
俺は冷や汗を流しながら、空を指差した。
「……たぶん、アホな神様がちょっと張り切りすぎて、加減を間違えたんだよ。とんでもない大きさの天罰だったよな」
「……ふーん。神様のせい、ね」
リナはいぶかしげに目を細めたが、それ以上は追及せず、別の話題を切り出した。
「ところでサトウさん、これだけの腕があるなら『冒険者』にならないの? ギルドに入れば依頼も受けられるし、いろいろ利点もあるのに」
俺は首を振った。
「冒険者として有名になれば、あの王国から目を付けられる可能性があるからな。今は、この静かな生活が一番いいんだ」
俺がそう答えると、リナは少しだけ残念そうに肩を落とした。
「そっか。本当は、私の友達とパーティーを組んでほしかったんだけどな。あの子たち、いつも危なっかしくて」
「……まあ、冒険者としての登録はしないけど、『単なる助っ人』としてならいいよ」
俺の言葉に、リナがパッと顔を上げた。
「俺は一人が好きだけど、一人じゃ生きていけないことも知ってるからな。この街で知り合いが増えるのは、純粋に嬉しいよ」
それは、かつて孤独に、誰にも看取られず死んでいった俺の本音だった。
それを聞いたリナは、ひまわりが咲いたような満面の笑みを浮かべて飛び跳ねた。
「本当!? よかった! 早速友達に伝えてくるね、きっと喜ぶわ!」
嵐のように駆け出していく彼女の背中を見送りながら、俺は「一杯の水」から始まったこの奇妙な生活が、少しずつ賑やかになっていくのを感じていた。




