第8話「アイスと本音」
柊麗華と駅で別れ、俺は楓花と一緒に帰宅する。
しかし、今回の事を柊さんと計画していた事が不満なのか、楓花さんは不満そうな表情を浮かべながら黙っていた。
「そ、そうだ楓花、コンビニ寄って行くけど、なんかいるか?」
「――じゃあわたしも行く」
空気に耐え切れず俺がそう話を振ると、楓花はご機嫌斜めながらも一緒にコンビニへ行くと言ってきた。
どうやら、一緒にいるのが嫌な程怒っているわけでは無さそうだ。
「アイスでも買ってやるからさ、機嫌直してくれよ」
「――じゃあこれ。あと別に、機嫌悪く無いし」
俺はご機嫌取りのため、必殺の「アイス買ってあげる」を発動した。
しかしそれでも、今日の楓花さんの機嫌は治る事は無かった。
こうして俺は楓花のアイスを購入してコンビニを出ると、諦めて買ったアイスを楓花へと渡してやる。
「ほらよ」
「うん」
アイスを受け取った楓花は、すぐにアイスの袋を開ける。
そして、ゴミを俺に渡してアイスを取り出すと、アイスをパキッと二つに割る。
――そう、楓花が選んだアイスは、二つに分けて二人一緒にチューチュー吸う事が出来るタイプのアイスだったのだ。
だから俺は正直、楓花がそのアイスを選んだ時はなるほどなと思った。
素直に許せないから、こうしてアイスを分け合う事で仲直りをする落としどころを自ら作ってくれているのだと。
我が妹ながら、そんな不器用な所も可愛いよなと思いながら、俺は別に食べたくもないアイスを今日ぐらいは一緒に食べる――事は無かった。
なんと楓花は、その二つに折ったアイスの蓋を両方外すと、二つ同時にチューチューと吸いだしたのである。
そして、アイスを両手に掴み、二つ同時に咥えながらキリッと俺の顔を睨め付けると、
「ふんっ!いつからシェアするものだと錯覚していたっ!」
と言って、俺に見せつけるように目の前でアイスを二つ同時にチューチューと吸って見せてくるのであった。
そう、楓花は俺への当てつけにこれをするためだけに、わざわざ分け合えるアイスを選んだのである。
そうして完全に勝ち誇った顔をしながら、両手でアイスを掴みながら同時に咥える楓花。
だから俺は、無視するわけにもいかないのでそんな楓花に向かって一言だけ告げることにした。
「――食べ辛くないか?それ」
「ふ、ふんっ!すぐ食べるから平気だしっ!」
強がる楓花だが、腕にかけた鞄が邪魔そうだしアイスを持つ手も冷えてきたのか、さっきまでの余裕は無くなっていた。
そんな、策士策に溺れる楓花に呆れつつも、仕方ないからちょっとだけ手助けしてあげる事にした。
「――ほら、鞄持ってると食べ辛いだろ?」
「――あ、ありがと」
そう言って俺は楓花の鞄を代わりに持ってあげると、再び家に向かって歩き出す。
こうして家に着くまでの間、楓花は少し顔を赤くしながらも両手で掴んだアイスを頑張ってチューチューと吸っているのであった。
そして、アイスを吸いながら何か言いたそうにチラチラとこっちを見てきたのだが、結局楓花は最後まで何も言わなかった。
◇
家に着くと、楓花は急いで靴を脱ぎ捨てると、そのまま二階にある自分の部屋へと逃げるように駆け込んで行ってしまった。
仕方なく俺は、楓花の脱ぎ散らかした靴を揃えながら深いため息を一回つく。
そりゃ、黙って柊さんを会わせた事はあれだったかもしれないけど、別にそんな変な事をしたつもりもない。
それなのに、さっきから楓花の態度は何なんだと思いながらも、俺も部屋着へ着替えるため自分の部屋へと向かった。
俺は自分の部屋で、制服を脱ぐといつもの部屋着のスウェットへと着替える。
しかし着替えている間、隣の楓花の部屋からは何やらバタバタと騒がしい音が聞こえてくるのであった。
この音は、恐らくベッドの上でジタバタしてる音だなと、一体今度は何してるだろうなと思いながら俺はPCの電源を投入する。
とりあえず、今日も色々あったけどようやく一人の時間になったため、俺は晩御飯までの間vtuberの動画を見て時間を潰す事にした。
それから暫くvtuberの動画鑑賞を楽しんでいると、勝手に部屋の扉を開けられる音がした。
その音に少し驚きながら振り返ると、そこにはいつもの赤いジャージを着こんだ楓花の姿があった。
「――お前なぁ、部屋に入る時はノックぐらいしろって言ってるだろ」
「うるさい!今日はお兄ちゃんが悪いっ!!」
俺の注意も聞かず、怒りながらズカズカと部屋に入ってきた楓花は、いつも通り俺の本棚から漫画の続きを手にしてベッドにダイブする。
しかし、言葉通りまだ不機嫌な様子で、その頬っぺたはぷっくりと膨れたままなのであった。
「そんな怒る事かぁ?」
「いつからあの子と話すようになってたのよ?」
「いや、今日だよ。今日昼休み急に教室に来て頼まれたんだよ――」
「はっ!?」
俺が素直に答えると、楓花は信じられない事を耳にしたように驚いていた。
「いや、そんなに驚くところか?」
「いや、ありえないでしょ」
「だから何が?」
「だってお兄ちゃん、昼休みは絶対に教室来るなって言ったから、わたし泣く泣く一人でお弁当食べてたんだよ?それなのに、実はお兄ちゃんはあの子と会ってたってどう考えてもヤバイでしょ!」
そう言って楓花は、今度は思いっきり頬っぺたを膨らませて不満そうな表情を浮かべていた。
いやまぁ確かに昼休み来るなとは言ったけど、今回のは初対面の人からの相談だったんだし、それとこれとは別だと言いたい所だけど、とても今の楓花さんがそれを許してくれる感じはしなかった……。
「あー、成る程な。それはすまんかった――」
だから俺は、ここは穏便に済ませるためにも謝っておくことにした。
確かに楓花を来させないようにして、他の子と会ってたというのは悪い気もするから――って、なんか妹なのに束縛彼女みたいだな。
「じゃあ、明日からわたしがお兄ちゃんの教室行くから!」
「いや、それは本当に勘弁してください」
「何でよ!」
「何でって、高校生にもなって毎日一緒に弁当食う兄妹なんて可笑しいだろ」
そう俺が言うと、やっぱり不満そうに膨れる楓花は、「もうっ!お兄ちゃんのバカ!」と言って俺の布団の中にくるまってしまった。
「――一緒に登下校してるんだし、それで良しにしてくれよ」
「でも、帰りはあの子も一緒じゃん」
「まぁ、そうなるけど――楓花はそんなに柊さんの事嫌いか?」
「そんな事無いけど――もうっ!」
そう言うと、楓花は布団に包まりながら頭だけひょこっと出す。
「――じゃあお菓子とお茶取って来て。そしたら今日の事はチャラにしてあげる」
「――はいはい、分かったよ。ただ布団の中で食うなよ粉が散るから」
「――分かった。じゃあ隣行く」
楓花は布団から出ると、俺の隣にクッションを持ってきて隣にくっつくようにちょこんと座ってきた。
隣に来た楓花からは、見た目は相変わらずの干物女だけど、女の子らしい甘くて良い香りが漂ってきた。
「またvtuberだ。本当好きだよね」
「別にいいだろ?面白いんだよ」
「オタク」
「お前には言われたくないっての」
そう返事をして俺は、一階へ降りてお菓子とお茶を用意して部屋に戻ると、それから晩御飯までの間、楓花と一緒にvtuberの動画鑑賞をした。
楓花もちゃんと見るのは初めてだったようで、面白い場面では普通に笑って動画を楽しんでいた。
「ふーん、わたしもやってみようかな、vtuber」
「そしたらみんなビックリするかもな」
「どうして?」
「そりゃ、中の人がこんな美少女だって知ったら、みんな驚くだろ?」
そう俺が笑って答えると、楓花は顔を真っ赤にして下を俯いた。
「――顔見えないんだから、意味ないじゃん」
「ははっ、そういえばそうか」
そんな会話をしていると、一階から母さんにご飯の用意が出来たと言われたため、俺達は一緒に晩御飯を食べに一階へと降りたのであった。
そんな今日も色々あった一日だったけれど、明日からはもっと色々ありそうな予感しかしなかった。
だけど、気が付くと楓花もすっかりご機嫌な様子なため、まぁ何とかなるかと俺は前向きに考える事にした。
パ〇コを一人で食べる楓花ちゃんでした。
いつから分け合うアイスだと錯覚していたっ!!




