第7話「理由」
「それで、その四大美女だっけ?わたし達が同じだからって、どうしてわたしと仲良くなりたいの?」
すんなり自分が四大美女だという事を受け入れた楓花は、柊さんに向かって更に質問を続けた。
確かに楓花の言う事は一理あって、同じ四大美女だから仲良くするというのは理由として少し弱いと思うからだ。
話している感じ、柊さんは誰とでも上手くコミュニケーションを取れていそうだし、その上でわざわざ楓花と仲良くなりたいのには他にも理由があるように思えた。
当然その事には、楓花も勘付いているのだろう。
しかし、そんな四大美女同士が向かい合って話している今の構図は、やはりインパクトが物凄い事になっていた。
既に学校からは離れているのだが、同じく下校中の他校の生徒や通行人までも、そんな二人の姿に釘付けになってしまっているのだ。
中には二人が四大美女だと知っている人もいるようで、まるで物凄い現場に立ち会わせているかのように、驚きながらひそひそ話している声まで聞こえてきた。
「それは……」
楓花の問いに対して、言葉に詰まってしまう柊さん。
しかしその感じからして、やっぱり何か他に理由がありそうな気がしてならなかった。
そして柊さんは、意を決したようにゆっくりと口を開く。
「……それは、わたしずっと楽しみにしていたんです」
「楽しみ?」
「えぇ、わたしは幼い頃から、周囲からよく注目を浴びている子でした。それは中学生になってからも同じで、成長と共に周囲からは崇められるような扱いをされるようになっていて、年々学校という場所に対して居心地の悪さを感じておりました。そして、気が付くと人はわたしは『三大美女』だなんて呼ばれるようにもなっていて、最初は本当にうんざりしていたんです」
柊さんは、ゆっくりと自分の過去の事を話しだした。
「でも、よく考えたら他にもわたしと同じ境遇の子が二人も居るんだって思えたら、少しだけほっとしたんです。今思えば、それはわたしだけが特別なんじゃないんだって思えたからでしょうね。そして楓花さんが現れた事で、いつしか三大美女から四大美女と呼ばれるようになっていて、仲間が更に一人増えた事がわたしは嬉しかったんです」
恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに微笑みながら柊さんは言葉を続ける。
「ですから、そんな楓花さんにわたしは興味津々なんです。同じ扱いをされていたであろう楓花さんが、どんな容姿、考え方、それから振舞い方をしているのか、わたしはお会い出来るのをずっと楽しみにしていたのです」
柊さんは、仲良くなりたい理由を語ってくれた。
しかし、一通りその話を聞いて俺が思ったのは、「そんな雲上の話、俺にはよく分からんな」だ。
凡人からしたら、周囲から持て囃されるなんて事はただの夢物語であり、シチュエーション的に憧れる程きっと嬉しい事だ。
しかし、それが当たり前になっている人が一体どう感じるのかなんて、当事者じゃない俺にはよく分からない感覚だった。
ただ、想像するに――それは孤独なのかもしれないなと思った。
うちの楓花もそうだが、周囲にちやほやされる事で逆に人との距離が生まれて、本当に通じ合えるような友達って中々出来ないんじゃないかと思えた。
そう考えると、柊麗華も楓花と同じなのかもしれない。
他人との関わりに興味が無くそのほとんどを断っている楓花と、当たり障りなく表面上は上手く人と接している柊麗華。
一見真逆のようで、実際は同似た者同士なのかもしれないなと思った。
「――ふーん、まぁ、話は分かったよ。でも、仲良くするかどうかなんて、まだ分からないから」
柊さんの理由を聞き終えた楓花は、尚もあまり興味が無い素振りは見せるものの、仲良くなりたい理由については納得したようだった。
だから、仲良くするかはまだ分からないけど、一先ずは柊さんの事を受け入れたのだろう。
兄の俺からしても、こんな楓花は初めて見るんじゃないかという程、他人を受け入れる楓花なんて久しく見ていないように思う。
前の学校でも、その飛び抜けた容姿のせいで色々と周りから干渉される事の多かった楓花だが、そのどれも興味なさげに拒絶してきたのだ。
だから、今までの楓花なら「そんなの知らないよ、勝手にやって」と切り捨てていたはずだ。
しかし、今回の柊さんの申し出に対しては、その高い壁を少しだけ和らげて見せたのである。
――きっと、さっきの話しは楓花にも共感できる部分があったんだろうな
いや、もしかしたら楓花としても、同じ四大美女と呼ばれる柊麗華に多少なりとも興味が湧いたのかもしれない。
こうして、一言だけ返すと再び興味なさげに前を向いて歩き出す楓花と、そんな楓花を微笑みながら嬉しそうに見つめている柊さんという美少女二人に挟まれた俺は、一つ歳上の先輩として今回のやり取りに少しだけ干渉する事にした。
「じゃあ、こうしたらどう?明日から、二人一緒に帰ってみるとか?」
「「えっ?」」
そんな俺の提案に、美少女二人は驚きながら振り向いてきた。
四大美女に同時に見つめられるというのは、それだけで心臓が飛び上がりそうになる程悪いのだが、今はそんな場合ではないためぐっと堪えて言葉を続ける。
「同じ四大美女同士、水入らず二人だけで帰ってみなよ。クラスも違うんだし、そのぐらいしか話せる時間も無いでしょ?」
「そ、それはそうですが……」
まだ二人きりは気恥ずかしいのか、少し困った表情を浮かべる柊さん。
その困り顔も正直美しすぎて、俺は直視する事は出来なかった。
「――それ、良太くんはどうするの?」
そして楓花は楓花で、柊さん云々より俺の方が気になったようだ。
実はこうして、二人一緒に帰らせる事で俺は再び自由を手に入れようと企んでいたのだが、楓花はそれを許してはくれないようだ。
でも、俺は俺の平穏を勝ち取るため、ここで引くわけにはいかなかった。
「水入らずって言っただろ?俺は一人で帰るからさ」
「――却下です」
「は?」
「柊さんと一緒に帰る事は別に構わないけど、良太くんが一緒に帰らないなんて事は許さないから」
案の定楓花は、俺がこの輪から抜ける事を許さなかった。
少し膨れた顔をしながら俺の顔を睨みつけてくる楓花に、思わずたじろいでしまう俺。
「そ、そうですよ。わたしも良太さんが一緒でも構いませんよ?」
そして空気を読んだのか、柊さんまで楓花側についてしまう。
せっかくこの場を提供したというのに、裏切られた気分だぜチクショウ――。
「――分かったよ。二人が打ち解けるまでの間限定な」
そんな大天使様と大和撫子に挟まれ、まさしく蛇に睨まれた蛙状態になってしまった俺は、この場は一先ず降参するしか無かった。
こうして俺は、明日からも四大美女の二人と一緒に下校する事になってしまった。
これからの俺の学校生活、一体どうなってしまうんだろうという不安しか無かったが、なんだかそれももう今更な事のようにすら思えてきた。
どうやら俺は俺で、こんな美少女二人と距離を取るんじゃなくて、受け入れていかなければならないようだ――。
一緒に下校する事が決まりました。
これからどうなるんでしょうね!
続きます!次回、干物再び!!
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