第63話「大和撫子と委員長」
さっきの星野さんとの件が不満なのか、何故だかずっとご機嫌斜めな楓花と共に学校へ向かって歩いていると、丁度駅の前で柊さんと鉢合わせた。
「おはようございます、良太さん、楓花さん」
「ああ、おはよう柊さん」
「おはよう麗華ちゃん」
俺と楓花が返事をすると、柊さんは微笑んで応えてくれた。
GW明けに見るその姿はやはり大和撫子そのもので、俺は思わずその美しい姿に見惚れてしまう。
それに何だか、あの日の別荘で共に過ごして以来柊さんの雰囲気が少し変わったというか、より身近に感じられるのは気のせいだろうか。
そして、これまでの柊さんは必ず楓花の隣に並んでいたのだが、今日は何故か楓花の隣では無く俺の隣に並んできたことに少しだけ違和感を覚える。
「あ、良太さん肩の所に糸くずついてますよ?」
「え? マジで?」
「取ってさしあげますね」
はい、取れましたよと糸くずを摘まんで微笑む柊さん。
しかし、たったそれだけの事でも破壊力は凄まじく、至近距離でこんな美少女の微笑みを前にして平然としていられるわけがなかった。
「あ、ありがとう……」
「ふふ、どういたしまして」
そして俺がお礼を告げれば、また嬉しそうに微笑む柊さん。
なんだこれ……ちょっとヤバすぎないか……。
思えば一年生の入学式が行われたあの日、たまたま廊下で見かけた見知らぬ美少女。
そんな彼女が、今では俺のすぐ隣でこうして嬉しそうに微笑んでいるのだ。
それに周りを見渡せば、楓花含め絶世の美少女二人は今日も注目を集めており、男子達はほぼみんな二人の姿に釘付けになってしまっているのが分かった。
最近何だか当たり前になってきていたような気がするが、本来そういう存在なんだよなということを改めて思い知ったのであった。
「そうだ。この間は、ありがとうございました」
「あぁ、いや、こちらこそ楽しかったよ」
「ならよかったです。またみなさんで集まりたいですね」
「いいね! やろう!」
そう言って微笑む柊さんに、賛成する楓花。
しかし、前回の集まりで大分彼女達同士も仲良くなれたことだし、もう俺は必要ないだろう。
だから、そんな以前よりも気さくに打ち解けている二人に満足しながら、俺は口を開いた。
「もうみんなも仲良くなれただろうから、次は女子同士水入らずで楽しんでおいでよ」
「良太さん、それでは駄目ですよ」
「駄目?」
「ええ、駄目です。だって――」
「だ、だって?」
「良太さんも一緒だから、楽しいんです」
そう言って柊さんは、普段とは違う少し悪戯な笑みを浮かべる。
そんな初めて見る柊さんの姿はどこか妖艶で、俺はやっぱりドキドキとさせられてしまうのであった――。
◇
「今朝も四大美女連れて重役出勤かぁ? エンペラーさん」
「違うし、その呼び方止めろっての」
「けっ! 羨ましい!」
教室へ入るなり、晋平が嫌みったらしく話しかけてきた。
まぁ半分は冗談だと分かるから俺も軽くあしらっておくが、多分もう半分はガチな気がするから早々にこの話題は終わらせるに限る。
「それで、GWは何してたんだ?」
「あぁ、別になんもしてないよ」
「ってことは、大天使様とずっと一つ屋根の下か!?」
「おまっ! 言い方!!」
一つ屋根の下って、そりゃそうだ。
だって俺と楓花は兄妹なんだから。
しかし、物は言いようで、そんな晋平の声が教室中に響き渡ると、一斉に男子達の敵意の籠った視線がこちらへ向けられる。
「ちょっと男子ぃ? 今日もまた風見くんに寄ってたかって絡むんじゃありません! あ、おはよう風見くん」
「ああ、おはよう石川さん」
謎の視線攻撃に困っていると、クラスの委員長である石川さんが割って入って来てくれた。
するとそのおかげで、俺に集中していた視線は興味を失ったように散っていく。
「相変わらず、大変そうね」
「あはは、まぁね。なんだか石川さんには助けられてる事ばっかりな気がするね」
「い、いいのよ! だ、男子達が下らない事してるだけなんだしっ!」
「ありがとね。俺も石川さんの力になれる事があれば何でもするから、その時は声かけてよね」
そう俺が何気なしに感謝を告げると、何故か石川さんの動きがピタリと止まった。
「い、石川さん?」
「今、何でもって言いました?」
「え? いや、まぁ実際には出来る事と出来ない事とかはあると思うけどっていうか……」
「じゃ、じゃあさ、相談したい事があるので連絡先を交換してくださいっ!」
そして意を決したように、自分のスマホを取り出す石川さん。
元々断るあれもないのだが、そこまでされては連絡先を交換しないわけにもいかないため、お互いの連絡先を交換した。
「じゃ、じゃあ詳しくはメッセージで! そ、それじゃあ!」
俺の連絡先が確かに登録された事を確認した石川さんは、顔を真っ赤にしながらそれだけ告げると去って行ってしまった。
「……何だったんだ、あれ」
「良太、お前って奴は……」
「ん? なんだよ?」
「いや、いい。お前はもうそれでいいよ」
「それでいいってなんだよ」
そして一部始終を見ていた晋平には、何故か呆れられてしまうのであった。
委員長も動き出しました。
※すみません、体調を崩してしまい長らく執筆から離れてしまっておりました。。




