第6話「初対面」
そして、ついに約束の放課後がやってきた。
晋平含めクラスのみんなには、あの柊麗華と何を話したんだと尋問されたが、一応校舎裏に呼び出されたわけだし理由は知られたくないだろうから、何でも無いと誤魔化しておいた。
当然そんな説明ではみんな納得してくれなかったのだが、そもそも俺や柊麗華の事でみんなに納得してもらう必要も無い話だから、そっとしといてくれればそれで良かった。
とりあえず、俺と柊麗華の間に男女の云々的な何かがあったわけではないという事だけははっきりと伝えておいたため、それだけ確認出来れば良かったのか変な誤解だけはされずに済んでいる。
まぁそんな事はいいとして、問題はこれからである。
このあとついに、楓花と柊麗華を鉢合わせる事になるのだから。
まだ楓花には何も言っていないが、あいつの事だからどうせまた俺と一緒に帰ろうとして教室へ来るだろうと思っていると――
「あ、いたいた。帰るよ良太くーん」
と、教室の入り口からさも当たり前のように声をかけてくる楓花の姿があった。
しかし、四大美女というのは飽きるどころか見れば見る程どんどんと引き込まれてしまうようで、またしてもクラスの内外から視線を集めてしまっているのであった。
教室の中からは、まるで本当に天使を見たように「おぉ……」という感嘆の声まで漏れ聞こえてきた。
それ程までに、楓花の周囲に対する影響力には計り知れないものがあったのだが、俺も今日同じ四大美女である柊麗華を前にして痛いほどその感覚を味わったため、今ではその気持ちは正直よく分かった。
俺にとっての楓花が特例すぎるだけで、四大美女というのは本来そういう存在なのだと。
だから俺は、四大美女の残りの二人とは一体どんな美少女なのかちょっと気になってきてしまっていた。
この二人と同格な美少女があと二人もいると言われても、全く想像も出来なかった。
「良太くーん?」
「はいはい、行きます行きます」
催促する楓花に返事をして、俺は鞄を持って立ち上がった。
こうして今日も俺は、周囲からの嫉妬や憎悪の視線を全身に集めながら下校するのであった。
全く、いつまでこんな事続けないといけないんだろうな。
さっさと楓花も彼氏ぐらい作ってくれたら――いや、それはちょっとあれだな、うん。
そうだ!これから会う柊麗華と仲良くなって一緒に帰るようになってくれたら、それが一番丸いじゃないか!
そう思った俺は、自分の自由を掴むためにもこれからの展開にちょっと期待しながら廊下を歩いていると、そんな企む俺に気が付いたのか楓花は少し訝しむような表情を浮かべていた。
◇
そしてついに、俺達は校門の前へとやってきた。
校門の柱のところには、約束通り柊麗華の姿があった。
遠目に見ても、やはりその美貌は人の目を惹き付けるためすぐに柊麗華だと分かった。
そして俺は、やっぱりちょっと緊張しながらもそんな柊麗華に話しかける。
「あ、柊さんお待たせ」
「いえ、そんなに待っておりませんので」
なんとか自然な感じで話が出来たと思う。
そう思いながら、隣の楓花へ目を向けると――物凄い顔をしていた。
俺と柊麗華の顔を交互に見ながら、何故か戸惑ったように青ざめた表情を浮かべているのであった。
「――な、なに!?」
「あぁ、悪い楓花、こちらは柊麗華さんだ」
「初めまして、楓花さん」
戸惑う楓花に対して、俺は柊麗華を紹介した。
柊麗華も、楓花に向かって優しく微笑みながら一礼をするのだが、楓花の戸惑いは無くなるどころか更に加速してしまっていた。
「――えっ!?二人は、ど、どういう関係なの!?」
その一言で、俺はようやく楓花がとんでもない誤解をしている事が分かった。
「すまん楓花、多分お前の思っている事とは全然違うから安心してくれ。こちらの柊さんは、楓花と一度話をしてみたいそうだから俺が間を持っただけで、何の関係もないぞ」
「えぇ、すみません変な誤解をさせてしまったみたいで……」
柊さんも事態があらぬ方向へ向かっている事に気が付いたようで、一緒に誤解を解いてくれた。
そこまで話をして、ようやく楓花も勘違いだった事を理解してくれたようで、少し呆けたような表情を浮かべていた。
「も、もう!だったら最初からそう言ってよお兄ちゃん!!」
「悪かったって!とりあえず、お前と仲良くなりたいそうだから、一緒に帰りながら話でもしよう、な?」
「――えっ?お兄ちゃん?」
俺が楓花を宥めていると、今度は柊麗華の方が驚いていた。
あれ?そういえばまだ俺達が兄妹な事伝えてませんでしたっけ?
そう思った俺は、そもそも自己紹介すらしていなかった事に気が付き、一応しておくことにした。
「あ、そうか、自己紹介もまだでしたね。俺の名前は風見良太。一応こちらの楓花の兄です」
「――ご兄弟、だったのですね。わたしてっきりお付き合いしてるのか何かかと」
なんと、こちらにも勘違いしていた女性が一人。
四大美女というのは、何かと勘違いするように出来ているのだろうか?
……というか、やっぱり楓花とこうして行動している事で、あらぬ誤解をしている人はいるようだ。
少なくとも、今目の前の美少女がそうであったように……。
まぁ色々あったけれど、とりあえず自己紹介も済んだ事だし周囲からの視線も集めすぎているため、俺達は駅へと向かって一緒に歩き出した。
ちなみに、俺と楓花はそのまま歩いて帰れる距離なのだが、柊さんは駅から電車に乗って帰るため、途中まで一緒に帰るといった感じだ。
「すみません、私変な誤解をしちゃっていたようです。失礼かもしれませんが、お二人ともあまり似ていないですし、とても仲良さそうでしたので」
「あはは、よく言われます。って、今は俺じゃなくて楓花と話をしないとですよね」
「あ、そ、そうでしたね。あの、楓花さん改めまして柊麗華と申します。是非一度、お話しをしてみたくて――今回良太さんにご相談させて頂き、このような機会を与えて頂きました」
「――ふーん、何で良太くんなの?直接わたしじゃ駄目だったのかな?」
楓花の鋭いツッコミに、柊さんは少し言葉に詰まってしまったため、空かさず俺がフォローに回る。
「お前普段人と壁作ってるだろ?それで話かけ辛くて、まずは俺を介して仲良くなろうとしただけだろ」
「え、なんで良太くんが庇うの?それに、そんなにとっつき辛い相手と仲良くなりたい理由は?」
尚も鋭い楓花さんは、露骨に不機嫌でこの状況がお気に召さない様子だった。
一人不満そうな表情を浮かべながら、柊さんの事を警戒しているようだ。
「ごめんなさい、楓花さんの言う通りですね。最初から直接お話しに上がれば良かったですよね――。その、これは言い訳になってしまいますが、中々楓花さんと直接お話しするタイミングが無かったもので、考えた末今回このような場を設けて頂いたのです」
「――まぁ、話は分かったよ。それで、柊さんは何で私と仲良くなりたいの?」
柊さんが謝った事で、構えていた楓花も少しだけその構えを崩してくれた。
そして、ようやく話の本題に入る。
その理由については俺も聞いていないが、大方の予想はついていた。
「それはほら、同じだからですよ」
「同じ?」
「えぇ、わたし達、お互い変な呼ばれ方しているでしょう?」
「呼ばれ方?何のこと?」
「――えっ?」
直接言葉にしないものの、同じだからだと話す柊さん。
しかし、本当に何の話しか分からないと言った様子の楓花に、柊さんは目を丸くして驚いていた。
なんとやっぱり、楓花は自分が周りからなんと呼ばれているか本当に知らないようだ。
「えっと、楓花さんはご自身が周りになんと呼ばれているか、ご存じないのですか?」
「――え、私何か陰口言われてるの?――まぁ、あんまり周りの子達と接触しないようにしてきたから無理も無いけど、高校で知り合ったばかりの子にまで知られてるのはちょっとなぁ……」
そう言って、苦笑いを浮かべる楓花――駄目だこの子、やっぱり本当に気が付いていないようだ。
ここは兄として、自分の置かれている現状をちゃんと教えてあげるべきだろうかと迷っていると、突然柊さんが可笑しそうにクスクスと笑いだした。
「あはは、す、すみません。ちょっと可笑しくてあはは」
「な、何で笑うのよ!?」
「いえ、まさかとは思いましたが、本当に知らないだなんて思いませんでしたので」
「だから何をよ!?」
「わたしと貴女、この街では色々と有名人なんですよ?」
笑いを堪えながら柊さんが説明するものの、やっぱり楓花はよく分からないといった表情を浮かべているのであった。
本当に鈍感というか何と言うか、自分に興味の無い事にはとことん疎い妹なのであった。
そして、可笑しそうに笑う柊さんの姿もまた意外だった。
いつもは凛としていて華やかで美しい柊さんも、こんな風に笑うんだなと――。
「わたしと貴女、それから他二名の美少女を合わせて、この街では『四大美女』なんて呼ばれてしまっている事、ご存じないですか?」
笑いを堪えながらも、ついに同じく四大美女と呼ばれる柊さんの口から核心が語られた。
すると楓花は、「あっ」と一言漏れ出たように呟き、何か合点のいった表情を浮かべながら頷いていた。
「あー、なるほど。なんかこの街に来てからちらほら聞こえてきてたあれは、わたしの事だったのね」
そして楓花は、自分が四大美女と呼ばれている事にようやく気が付いたにしては、あまりにも薄いリアクションを取ったのであった。
兄である俺からしても、妹のそのあまりの大物ぶりに思わず笑ってしまった。
こうして楓花は、この街に来て初めて自分が四大美女と呼ばれている事を自覚したのであった――。
ようやく自覚した楓花さんでした。
続きます!
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