第53話「一番は」
時計を見ると、14時半を回った頃。
昼過ぎからBBQを楽しんでいる俺達は、色々食べては話をしながら楽しんだ。
BBQとはやはり偉大で、開放的な空間で一緒に同じものを食べているせいか、いつもの喫茶店以上にリラックスした状態で交流を深める事が出来たため、全員以前より打ち解けているように思えた。
まぁ元々四人は同じ高校一年生で、しかも四大美女なんて呼ばれている同じ境遇を背負った仲だから尚更なのだろう。
普段休日は干物している楓花でさえも今日は楽しそうに女子高生しているのだから、そんな四人の仲睦まじい様子に満足しながら、やっぱりBBQは凄いなと一人感心していた。
「みんな良い子ね。それに全員、麗華に負けないぐらい可愛いわね」
「はい、そうですね」
「うふふ、良太くんは、この中でどの子が好みなの?」
一人少し離れたところに座っていると、隣に柊さんのお母さんがやってきた。
そして楽しむ四人を一緒に眺めながら、一人昼からワインを嗜んでいたお母さんがそんな事を言ってきたのである。
もう二時間以上お酒を飲んでいるため、頬は赤く染まり明らかに酔っぱらっている様子だった。
すると、会話が聞こえたのかさっきまで楽しそうに談笑していた四人だけど、お母さんのそんな一言に反応すると全員クワッとこちらを振り返る。
「こ、好みってそんな」
「あらぁ、年頃の男の子なんですもの。こんなに可愛い子が揃ったら、気になる子の一人や二人、三人や四人全員いきたくなったりするわよねぇ?」
「そ、それは――」
それは、そうとも言えないし、無いとも言えなかった。
きっとどっちを答えても、この会話に聞き耳を立てている四人に聞かれたら何だか不味い気がしたから。
そして困った俺は、この場凌ぎの必殺技を繰り出す事にした。
「み、みんな勿論可愛らしいですけどね。僕、年上も好きなんですよ。だから、強いて言うならお母さんみたいな大人な女性が良いなって思いますよ」
「あら!?あらあらまぁまぁ!!やだもう、可愛らしいわね息子にしたいわ!」
必殺、リップサービス。
まぁ本当にお母さんは柊さんに似て物凄い美人なため、あながち嘘でも無いのだが。
そんな俺の回答に、酔ったお母さんは満足そうに喜んでくれた。
そして聞き耳を立てていた四人はというと、四人それぞれ何とも言えない反応をしていた。
そんな四人を前に、別に悪い事はしていないはずだけど、何だか居心地が悪く感じた俺は見なかった事にした――。
ちなみに、それから俺は酔ったお母さんの相手をずっとさせられた。
でも、大人の女性に頭を撫でられたりたっぷり愛でられるのは悪い気はしなかったし、唯一歳も性別も違う俺は四人の邪魔をしないで済むからと甘んじてそれを受け入れていた。
そう、あくまで甘んじてだ。
そんな状況に、柊さんはごめんなさいねと言いつつ実の母親に絡まれる俺を見て楽しんでいる様子で、星野さんと羽生さんもやれやれといった感じで酔っ払いに絡まれる俺を笑ってくれていた。
そして楓花はというと、四人で一緒にテーブルを囲いながらも、やっぱり一人だけ不満そうに眼を細めながら俺の事を睨んでくるのであった。
◇
そして夕方、もう流石にお腹いっぱいになった俺達は、暗くなる前にそろそろあと片付けをする事にした。
ちなみにお母さんは、よっぽど俺を気に入ってくれたのかそれからもお酒が進み、結果一人お先にソファーでスヤスヤ眠りについてしまっている。
それでも、俺達のために食材を用意し運転までしてくれたお母さんも楽しんでくれたようなので、それはそれで良かった。
こうして、お母さんに代わり柊さん主導のもと、俺達は手分けをしてあと片付けを進めて行くのであった。
あと片付けでも、勿論火の周りは俺の仕事となる。
とは言っても、もうほとんど灰になってしまった炭を火消し壺へ移すだけの簡単なお仕事なのだけれど。
柊さんと星野さんは二人仲良く洗い物をし、それから羽生さんは残った食材を取りまとめて冷蔵庫に閉まったりしていた。
その結果、やはり一人あぶれた楓花さんは、せっせと炭を移す俺の横に突っ立っていた。
そしてやっぱり不満そうな表情を浮かべながら、俺に向かって疑うような視線を向けてくる。
「良太くん、年上好きなの?」
「ん?ああ、さっきのお母さんのやつ?まぁそうだな、いいよな」
もう忘れかけていたネタをぶり返してくる楓花。
だから俺は、素直にそうだと答えた。
正直綺麗な人にされる頭なでなでは、中々に良いものだった。
「ふーん、そう」
「何だよ、今日ずっと不満そうにしやがって」
「別にそんなことないし」
「あるだろ」
「無いし」
「まぁ何でもいいけど、お前も仕事しろ。そこのテーブル拭くとかやる事あるだろ」
「言われなくても分かってるし!」
何故か逆ギレした楓花は、そう言って布巾を手にすると水で絞りに洗面台の方へと行ってしまった。
あいつが何をそんなにツンツンしているのかは謎だが、せっかくのBBQが勿体ないだろという気持ちになってくる。
――もしかしたら、構ってやれてないから拗ねてるのかもな
そう思った俺は、せっかく今日はこうして別荘へ遊びに来ている事だし、仕方ないからもう少し構ってやる事にした。
「――炭の処理終わったから、俺もやるよ」
「な、なによいきなり」
丁度炭の片づけを終えた俺は、余っていた布巾を片手に楓花のあとを追って洗面台へとやってきた俺は、一緒に布巾を絞りながら話しかける。
「楓花、楽しんでるか?」
「た、楽しいよ?みんなといるのは好きだし」
「そうか、なら良かった」
恥ずかしそうに答える楓花の頭を、俺は優しく撫でてやった。
「ちょ、手濡れてるじゃん!」
「あー、すまん。駄目だったか?」
「――だ、駄目ってわけじゃ、ないけど」
文句を言う楓花だが、その表情は嬉しそうにしていた。
本当に分かりやすい奴だなと思いつつも、やっぱりこんなでも俺にとってはたった一人の可愛い妹なのであった。
「――やっと、構ってくれた」
そして、そんな言葉をぼそっと呟く楓花。
薄っすらと頬を赤らめながらも嬉しそうに微笑む楓花の姿は、その二つ名通り確かに天使のように可愛らしく見えてくるのであった――。
やっぱり天使な楓花ちゃんでした。
そしてお母さん、お酒を飲むとちょっと駄目な人のようです。
大人のお姉さんからの頭なでなでには、流石の良太くんもニッコリ。




