第51話「到着」
目的地の別荘は、車で2時間ちょっと掛かる距離にあるらしい。
そのため俺達は、これから別荘へ着くまでこうして車に揺られ続けなければならないという事だ。
「わたし、お菓子買ってきたんです。良かったら良太さんも食べます?」
柊さんのお母さんに簡単な自己紹介を済ませると、隣に座る星野さんがそう言って嬉しそうに鞄からお菓子を取り出した。
「お、ありがとう。チョコだ」
「ええ、このチョコ好きなんですよ」
「へぇ、初めて食べるな」
「うふふ、美味しいですよ」
それは、コンビニとかでは見ないような上等なチョコレートだった。
それじゃあお言葉に甘えてと貰ったチョコを一口食べてみると、いつも食べてるチョコよりもとても美味しいチョコだった。
だから「本当だ、美味しいね」と伝えると、星野さんは嬉しそうにまた微笑んでくれた。
そんな星野さんと会話するのは純粋に楽しかったし、こんな美少女がすぐ隣で本当に嬉しそうに微笑んでくれているこの状況に、俺はドキドキとさせられてしまう――。
ただ俺が手放しに喜びを表に出せないのには理由があった。
それは、何が不満なのか前列に座る二人がそんな俺達の事をじーっと見てくるからである。
「――良太くん、楽しそうね」
「本当に、鼻の下伸ばしちゃって」
「べ、別に伸ばしてないだろ!」
普段楓花が言いそうな言葉を、まさか羽生さんに言われるとは思わなかった。
不満そうに一緒にジト目で見てくる二人を見ていると、やっぱりそういう所も似た者同士なのであった。
◇
「もうすぐ着くわよ」
暫く山道を走ると、柊さんのお母さんがそう教えてくれた。
どうやらこの山道の先に、目的地の別荘があるようだ。
確かに道中、別荘と思われる一戸建ての家が何軒も立ち並んでいるため、この辺は所謂避暑地ってやつなんだろうなと思いながら俺は窓から外の景色を眺めていた。
ちなみに星野さんはというと、ここまでずっとニコニコと楽しそうにお喋りしており、そして何かと後ろを振り返ってくる前の席の二人はというと、そんな無理な体勢で山道揺られたせいもあって二人とも車酔いでグッタリとしていた。
そしてそんな二人を見ながら楽しそうに微笑む柊さんという、車に乗っているだけでも個性豊かな四大美女達なのであった。
「はい、到着!」
そして一軒の家の前で、車が停止した。
それは白色の木造家屋で、自然に囲まれつつも綺麗な一戸建てだった。
うちよりも一回り大きいのでは?と思える程、それはとても立派な別荘だった。
車から降りた俺達は、早速持ってきた荷物を車から降ろして家の中へと運び込む。
当然柊さんは慣れているため、俺は柊さんに指示して貰いながら唯一の男手として力仕事中心に手伝えることを率先して手伝った。
そんな俺の働きに、柊さんだけでなくお母さんも喜んでくれていた。
どうやらこの働きのおかげで、お母さんにも好印象を与える事に成功しているようだと思うと、俺は俄然やる気が湧いてくるのであった。
「ありがとね良太くん、助かるわ」
「いえ、今日はお招き頂きありがとうございます」
「うふふ、良い子ね。それに男前よね。わたしももうちょっと若ければ、良太くんとお近づきになりたいぐらいだわ」
「もう、お母さん。良太さんも反応に困るでしょうから、そういう変な冗談言わないで」
文句を言う柊さんと、「あら?別に冗談じゃないわよ」と上品にコロコロと笑うお母さん。
そんな親子のちょっとした言い合いに、俺はアハハと笑って誤魔化す事しか出来なかった。
ただ一つ言えるのは、俺ももうちょっと歳を重ねていて、かつ柊さんのお母さんがフリーなのだとしたら、是非ともこちらからお願いしたい気持ちでいっぱいだった。
それだけ柊さんのお母さんは、滅多に拝めないレベルで美しい大人の女性という印象だった。
いつか柊さんも歳を重ねて行けばお母さんのように綺麗になっていくんだろうなと思うと、俺はそんな大人の柊さんの姿も見てみたくなった。
「ごめんなさいね良太さん。うちの母はあれでいて結構お調子者と申しますか」
「いや、全然大丈夫だよ。むしろそう言って貰えるのは光栄っていうか」
「光栄、なんですか?」
「うん、だってお母さん凄く綺麗だから驚いたよ。親子揃って美人なんだなって」
本当に美人親子だよなと、俺は思ったままを口にした。
そしてその言葉を聞いた柊さんはというと、薄っすらと頬を染めながら少し俯いていた。
「――親子揃って美人、ですか」
「うん、勿論」
「そうですか、面と向かって良太さんにそう言われると少し照れますね」
俺の言葉が嬉しかったのか、そう言ってはにかむ柊さんの姿からはこれまで見たことの無い愛嬌みたいなものが感じられた。
そのギャップというか何と言うか、美人の中に可愛さも兼ね揃えた柊さんの姿を前にすると、俺まで顔が熱くなってくる。
――え、なにこれヤバイかも
そんな微笑み一つで、俺は簡単に心を掴まれてしまう。
そこで俺は、ようやく一つの事を再認識した。
今一緒にいる彼女達は、四大美女と呼ばれる通常触れる事すら許されないような特別な美少女達なのであることを。
そんな彼女達の微笑み一つで心を奪われてしまいそうになるんだから、これから一緒に一泊なんてして本当に大丈夫だろうかと、俺は今更になって不安になってくるのであった――。
違った表情を浮かべるだけで見る人の心を奪ってしまう存在、それが四大美女。
ようやく良太くんは、とんでもない化け物クラスの美少女達と泊まりに来てしまったという異常事態を認識したのであった。




