第34話「Fランク」
俺がエンペラーになった日、初めての昼休みがやってきた。
――いや、誰がエンペラーやねん
全く、変なあだ名つけやがってと思いながらも今日も今日とて晋平と一緒に弁当を食べていると、そこへ最早当たり前のように俺達の教室へとやってきた楓花と柊さん。
「何で先に食べてるかなぁ?」
そして、先に弁当を食べる俺達を見て楓花は不満そうにそう言いながら、当たり前のように隣の席へと腰かけた。
一応ここは上級生の教室だというのに、こいつには恐れとか遠慮といった価値観は無いのだろうか。
「ここ、失礼しますね」
「あ、ああ、どどど、どうぞ!」
そして柊さんも晋平の隣に腰掛けると、晋平はそれだけで挙動不審になってしまっていた。
こうして今日も、四大美女の二人が弁当を食べに俺達の教室へとやってきたのであった。
何でわざわざ上級生の教室へ来るんだと言うと、二人きりだと食べ辛いからいいでしょとさも当然のように言う楓花。
食べ辛いって何だよと思ったが、一年生の教室で二人だけで弁当を食べている姿を想像すると――うん、まぁそれは確かに大変そうだな。
隣に俺がいる事で、丁度良い男除けにもなっているのだろう。
「いつもお邪魔してしまい、申し訳ありませんね。でもわたしも、こうしてみなさんと一緒にお昼を過ごせるのは正直に申しまして嬉しいです」
「あ、うん、柊さんがそう言うなら、まぁ別に構わないと言うか……な、なぁ晋平?」
「お、おう!おおお、俺はいいと思うでございますよ!」
ハハハハと笑い合う俺達。
別に柊さんのように言ってくれれば、俺達も構わないのだ。
そもそも、こんな美少女と一緒に弁当を食べられるだけで御の字だし、クラスのみんなからもこの二人が昼にやってくる事を必ず死守しろという圧力も感じるしな――。
すると、何故か楓花は不満そうに俺の事を睨んできた。
「な、なんだよ?」
しかし、楓花は不満そうにしたまま答えない。
そして答える代わりに、みんなから見えないように俺の足を踏んでくるのであった。
「い、いてーなオイ!なんだよ?」
「ふんっ」
全く聞く耳持たずといった感じでそっぽ向く楓花。
そんな、今日も下らない兄妹喧嘩をしていると、柊さんは俺達の事を見ながら面白そうに微笑んでいた。
「本当、お二人とも仲が良いですよね」
「いや、そうでもないけどね」
「は?何よそれ」
不満そうにまた足を踏んでくる楓花。
こうして俺は、この昼休みの間計5回足を踏まれたのであった。
◇
そして、下校の時間になった。
いつも通り、楓花と柊さんがうちの教室までやってきたのだが、今日は予定があるから一緒に帰れないと二人に断りを入れた。
何があるの?と楓花は不満そうに聞いてきたが、俺にだってプライベートの用事の一つや二つ入る事ぐらい普通にあるから、わざわざ答えてなどられない。
こうして適当にはぐらかした俺は、今日は二人とは別で帰宅する事となった。
何故なら、昼休みの終わり掛けに一つのメッセージが届いたからだ。
『今日の放課後、相談したい事があります』
それは、星野さんからのメッセージだった。
今俺が一番推しているVtuberからの相談と聞いて、それを無視なんてできるわけがなかった。
だから今日は、二人には悪いと思いつつも足早に落ち合う約束をしている近所のカフェへと向かった。
カフェに入ると、既に星野さんの姿があった。
俺に気が付くと、恥ずかしそうに小さく手を振りながら迎えてくれたため、俺は気恥ずかしさを感じつつも同じテーブル席へと向かった。
「すみません、今日はありがとうございます」
「いえいえ、何かありましたか?」
二日ぶりに見る星野さんは、やっぱり改めて物凄い美少女だった。
そんな星野さんの姿に、他のお客さん達からも視線が集まっているのは最早当然とも言えた。
男女関係無く注目を集めてしまう星野さんは、流石の四大美女といったところだった。
色白の肌は透き通るようで、サラサラの金髪ヘアーに綺麗な碧眼、そのどれをとってもただただ美しいのだ。
そんな美少女が一体俺に何の相談があるんだろうかと、俺はちょっとドキドキしてしまいながらも星野さんの言葉を待った。
「えっと、早速相談なのですが――っと、その前にこの間は本当に配信に来てくれていましたよね、ありがとうございます」
「え?ああ、うん。竹中とのやり取り面白かったよ。昆布オチは最高だった」
「そ、そうですか?なら良かったです」
今思い出しても、最後に竹中とお互い謝りながら諸悪の根源である昆布をマグマに投げ込むシーンは笑えてくる。
その部分の切り抜き動画は既に10万再生を超えており、SNSでもちょっとしたバズも起こしている程だった。
しかしその張本人が、まさかこんな美少女で、しかも配信の時のテンションが嘘みたいに物静かな子だなんて誰も思いもしないだろう。
「そういえば、何だか途中からたけのこさんのコメントが変わったような気がしたんですけど、気のせいでしょうか」
「ああ、そうだごめん、あれ途中妹が俺のパソコン勝手にいじってコメントしてたんだよ」
「え、妹さんと一緒に見てたんですか?」
「ああ、うん、あいつ勝手に部屋に来てさ」
俺がそう答えると、何故か星野さんは微妙な表情を浮かべた。
その理由は分からないが、何か思うところがあったのは確かだろう。
「それで、相談って?」
「あ、ああ、そうでした。えっと、その、大した事ではないのですが、今度事務所の集まりがあるんです」
「集まり?」
「ええ、今所属してるVtuber事務所のライバー達が集まってミーティングっていうんですかね、今後の活動をみんなで話し合うみたいな」
「な、なるほど」
今きらりちゃんが所属している事務所には、総勢20名のライバーが所属しており、ロリっ子キツネキャラから竹中みたいなオジサンまで幅広く所属している。
だから、そんなところにこの四大美女とも呼ばれる程の美少女が加わるというのは、正直俺でもどうなるかなんて全く想像できなかった。
「――わたし、もうご存じの通り対人スキルがFランクのクソ雑魚じゃないですか」
「いや、クソ雑魚ってそんな」
「いいんです、わたしが冒険者なら最低ランクな事ぐらい分かってます。だから、その、もし宜しければ風見さんにご協力頂ければなと思いまして――」
成る程、冒険者の下りはよく分からないけど、星野さんの言いたい事は大体分かった。
要するに、その集合の前に恐らく唯一の同世代の男性の知り合いである俺と、事前に会話の練習をしておきたいという事だろう。
しかし、配信ではあれだけ竹中にも体当たりで悪戯しまくるきらりちゃんが、裏ではこんなに人見知りというかおどおどしているなんて、ライバーのみんなでもきっと想像しないだろう。
まぁ確かに他の大手の箱にも、普段は明るいけど実際会うとコミュ障発揮して帽子が無いとお喋りできない子がいるみたいだし、裏と表で違う人って結構多いのかもしれない。
そういう意味では、うちの妹なんか良い例だな――。
「うん、まぁそういう事だったら、俺で良ければ協力するよ。正直何したら良いかは分からないけどね」
「ほ、本当ですか!?あ、ありがとうございますっ!!」
まぁ断る理由も無いし、正直星野さんとは趣味も合うしまた話してみたい気持ちもあったためオッケーすると、星野さんは本当に嬉しそうに微笑み、そして勢いよく頭を下げた結果そのまま机にゴツンと頭突きをしていた。
こうして俺は、事務所の集まりまで時間もあまりないという星野さんのため、今日からお互いの予定が合う日はこうして会って話しをする事になったのであった。
こうして、密する約束をしたエンペラーとFランク冒険者。
でも当然そんなもの、あの大天使が見過ごすはずありませんよね。
「エンペラーの俺が、Fランク冒険者と定期的に会うことになったのだが、大天使だけはそれを許してくれません」
続きます!




