第33話「変わらぬ日常?」
月曜日。
今日もちゃんと朝早起きした楓花と共に俺は家の玄関を出た。
正直なんでそんなに俺と一緒に登校したいのかと言いたくもなるが、諦めている俺は今日も仕方なくこうして楓花と一緒に登校するのであった。
そうして家を出た俺は、視界に映った一つの一戸建てに思わず視線が向いてしまう。
――あの家が、きらりちゃんの家なんだよな
思わずそんな事を思い出してしまう。
今までずっと応援していたVtuberが、まさかこんなに近くに住んでいたんだ。
改めてこうして気になってしまうのは、最早仕方のない事だろう。
――それに、あんなに美少女だなんてな
っと、これは完全に関係ない事だなと思っていると、隣で楓花が怪しむように俺の顔を覗き込んでいるのであった。
「何考えてたの?」
「ん?い、いや、何も考えてねーよ」
「ふーん、あっそ」
そう言って楓花は興味を無くしたのか、また何事も無かったかのように隣を歩いた。
そんな、相変わらずの妹のエスパーっぷりに朝からヒヤヒヤさせられるのであった。
◇
駅の隣を通過する際、突然声をかけられる。
「あ、楓花さん、良太さん。おはようございます」
そう声をかけてきたのは、四大美女が一人『大和撫子』こと柊さんだった。
金曜日ぶりに見る柊さんはやっぱり和風美人といった感じで、透き通るような白い肌と、一切痛みを感じさせないそのサラサラとした綺麗な黒いストレートヘアーは麗しく、今日もただただ朝から美しかった。
そして今日も駅の後ろには背後霊、もとい柊さんの美貌に釣られた男達が金魚のフンのようにぶら下がっているのであった。
「おはよう麗華ちゃん」
「あら?なんだか元気がありませんね?」
「だって、良太くんが嘘ついてるから」
「嘘、ですか」
「は、はぁ?何の話だよ?」
「良太さん、嘘は駄目ですよ」
やっぱりまだ気にしていた楓花のそんな言葉に、思わず変な反応をしてしまう。
すると、そんな俺の反応を見て柊さんは全てを悟ったかのように、苦笑いしながら楓花の味方をするのであった。
でも、そんな苦笑いする柊さんもやっぱり美しくて、俺は思わず見惚れてしまいそうになるのを必死に堪えつつも、確かに嘘ついているのは自分だから何も言い返す事は出来なかった。
まぁそんなこんなで、こうして柊さんのみならず同じ四大美女である楓花も現れた事で、今日も今日とて周囲の男達からの「おぉ」というどよめきが聞えてくるのであった。
きっと彼らは、今このとんでもない美少女が二人揃って何をそんなに楽しそうにお喋りしているのか気になって仕方がない事だろう。
だから、まさかこの二人の会話が「目玉焼きには醤油か塩コショウか」なんて朝から下らない内容で盛り上がっているとは思うはずもない。
「――で、良太くんはどっち?」
「え、どっちって?」
「だーかーらー、醤油派?それとも塩コショウ派?」
そしてやっぱり、その下らない論争の最後の終着点は俺なのであった。
しかしどっち派かと言われても、俺個人としては気分でどっちも食べるのは毎日同じ食卓についている楓花も知っている事だろう。
まぁでも、強いて一番好きなのを挙げるとすれば――、
「マヨネーズだな」
「は?」
「え?」
俺が素直に一番好きな食べ方を答えると、楓花は呆れたような表情を浮かべ、そして柊さんまでも困ったような表情を浮かべているのであった。
――え、そんなにマヨネーズ駄目?
なんなら、マヨネーズなら塩コショウも醤油もそれぞれ合うんだけどなぁと思っていると、一度溜め息をついた楓花が口を開く。
「まぁ、ここは引き分けという事で」
「ええ、そうですね」
どうやら今の反応は、別にマヨネーズが駄目なのではなく、引き分けで終わった事に対するものだったようだ。
だからここで俺が「二番目は塩コショウだけどね」とか言うとまた荒れそうなので、黙っておくことにした。
ちなみに、今回は醤油派が柊さんで、塩コショウ派が楓花だったようだ。
何となくイメージ通りの結果だなと思いながら、今日も俺はそんな二人の美少女の後ろを歩きながら登校するのであった。
◇
「――おはよう、エンペラー」
「エン、はぁ?」
教室へ入り自分の席へ座ると、朝から晋平及びその他クラスメイトが俺の席へとやってきた。
しかし、いきなり俺の呼び方が名前ではなく『エンペラー』になっているのはどういう事だろうか。
「惚けるなよ。今日も大天使様と大和撫子従えて登校してたろ!」
「従えるっていうか、後ろついて歩いてただけだけどな」
「まぁいい、それよりもだ。聞いたぞ?お前週末また別の四大美女と一緒に居たらしいじゃねぇか」
「は?えっ?ど、どうしてそれを!?」
「たまたま見かけた奴がいるんだよ」
しまったな、まさかあの現場を誰かに見られてるなんて思いもしなかったなと思ったら、どうやらあの時行った喫茶店は後ろにいる田山くんの家のお店らしい。
田山珈琲店――成る程な。
いくら地方だとは言え、世間狭すぎるだろ――。
「今度は『南中の聖女様』までお前と仲良くなって、一体どうなってんだよお前の周り」
「そんなの俺が聞きたいよ。それに彼女とは、普通に友達になっただけだ」
「と、友達だと!?」
俺の友達という一言に、飛び退くように驚く晋平とその他男子達。
何でそんなに驚くのかと思っていると、震える晋平が理由を教えてくれた。
「いいか?聖女様はな、誰とも交わろうとしない事で有名なんだよ。大天使様も孤高の存在として有名だが、それでも話はしてくれるから最低限のコミュニケーションは取れるんだけど、聖女様に至っては男女関係無く完全に距離を取っているせいで、仲良くなるだけでも至難の業だって聞くぜ」
「――そうか、じゃあそれは完全に誤解だな」
「誤解?」
「そう、彼女はそういう女の子じゃない。彼女じゃなくて、周りが彼女をそうさせてるだけだ。――それは、お前らがそうやってよく知らない相手の事を、そんな噂話とかイメージで決めつけるのも同じ話だ。それで彼女自身困ってるんだからな」
何の話かと思えば、本当に何の話だって感じだった。
楓花の事もそうだが、こうして噂やイメージばかりが先行して、勝手に近づき辛い印象を広められているのは可哀そうだと思った。
彼女はそんな周囲を拒絶するような子じゃないし、むしろもっとみんなとコミュニケーションを取りたいと思ってる普通の女の子なんだ。
だからこそ、Vtuberという活動を通してあんなに楽しそうに人との交わりを楽しんでいるんだから――。
「――そ、そうか。いや、そうだな。すまん」
「いや、俺もそう思っちゃう事あるから人の事言えないさ。お互い気を付けないといけないところだよな」
そう、こういう話は今回に限らず、結構そこら中にありふれた話なのだ。
例えば、SNSの炎上とかも良い例だろう。
人は事情は知らない事でも、得られた情報から自分の価値観を照らし合わせて物事を判断するしかないのだから。
ただ、今回の星野さんの件のように、それが真実と異なる場合が厄介なのだ。
彼女はただ容姿に恵まれたというだけの普通の女の子なのに、周囲から聖女様と崇められて勝手に噂が一人走りして印象付けられてしまうような事もあるから、俺達は気を付けなければいけないだろう。
それから俺は、趣味やVtuber活動の事は秘密にしつつも、星野さんがどんな女の子かを晋平及びその他クラスメイト達に説明した。
すると、みんな思っていた印象とは異なっていたようだが、それは実際にクラスへやってくる楓花や柊さんという実際に印象と異なっていた四大美女を目の当たりにしているため、意外とすんなり納得してくれたのであった。
「成る程、良太の言う事は分かった」
「そうか」
「ああ、だがその上で問題が一つ生まれた」
「問題?」
「ああ。その話が本当なら――可愛すぎんか?」
真顔でそう言う晋平に、「本当に聖女様だ」とか言いながら賛同するクラスメイト達。
どうやら、星野さんが普通にコミュニケーションを取れるという事実が、彼らをそう思わせているようだった。
そんな、俺は普通で当たり前の話しかしていないにも関わらず、ここまで人に影響を与えてしまう辺り、星野さんも楓花達と同じく四大美女の一人なんだなという事を実感させられるのであった。
こうして、結局俺の二つ名は『エンペラー』という事に変わりはないようで、この際だから最後の一人とも仲良くなっちまえよと何故かみんなから応援されてしまうのであった。
エンペラー良太、誕生である。




