第2話「大天使様」
始業式を終え教室へ戻ると、今日は新しいクラスでの初めてのホームルームのみで、午前中いっぱいで授業は終了となった。
俺はさっさと帰り仕度を済ませると、それから帰宅するため席を立ち上がる――。
「おい、良太!今日お前ん家に遊びいっても――」
「駄目だ。魂胆バレバレ」
「ちくしょう、駄目かぁー」
しかし、帰ろうとする俺に向かって晋平が話しかけてきた。
これまで一切言わなかったのに、急にうちに遊びに来たいとか言い出したのは勿論、楓花の存在を知ったからだろう。
だから勿論、俺もそんな魂胆バレバレな申し出はお断りさせてもらった。
正直別に遊びに来るぐらい全然良いのだが、どちらかと言うと俺より楓花が困る事になりそうだから、気軽にオーケーは出来ないのであった。
「にしても、生で見たら確かにとんでもない美人だったな。ありゃ一回見ただけで恋に落ちるなんて言われているのも頷けるな――」
「おい、人の妹に発情すんなよ。言ったろ?あれはやめとけって」
「不可抗力だよ。ていうか、お前と楓花ちゃん全然似てないよな。いや、良太も中々のイケメンだと思うけどさ――」
「ん?あぁ、まぁ楓花は所謂義妹だからな。親の再婚で妹になったんだよ」
似てないって、それもそのはず楓花は俺の義妹なのだから似てなくて当たり前なのだ。
と言っても、親が再婚したのはまだ幼い頃の出来事だし、俺は楓花の事を本当の妹だと思ってこれまで接しているからそんなものは関係無い。
形はどうであれ、楓花は俺にとって大事な大事な妹。それだけの話なのだ。
だが、そんな俺の言葉を聞いた晋平は、またしても目を丸くしながら驚いていた。
「――この、ラブコメ主人公め」
「は?ラブコメ?」
「そうだろっ!なんだよそれ!どこのラブコメだよチクショー!」
晋平は何故か泣いたフリをしながら、そんな謎すぎる訴えをしてきたのであった。
すると、そんな俺達の話を聞いていたのであろう他の男子達も、晋平に賛同するようにうんうんと頷いていた。
「いいか、お前らがなんと思おうと自由だ。だが俺にとって楓花は妹であって、それ以上でもそれ以下でもないって事だけは分かってくれ」
何だか少しややこしくなってきていたので、この際俺ははっきりとそう宣言した。
楓花はただの妹であって、それ以上でもそれ以下でもないと。
だから、今後ありもしない事をあれこれ言われても困るから、ここでしっかりと釘を刺しておいた。
そんな俺からのマジレスに、流石に晋平も納得してくれたようで「あぁ、分かったよすまんな」と一応謝ってくれた。
まぁ分かってくれればいいさ。
と、無事丸く収まったところで、俺は晋平に「おう、じゃまた明日な」とだけ告げて、今度こそ帰るために鞄を手にした。
「あ、いたいた。一緒に帰ろ?」
しかし、教室から出て行こうとしたのだが、教室の扉のところには何故かたった今話題になっていた楓花の姿があった。
こうして突然現れた楓花の姿に、クラス全員の視線が一瞬にして集まってしまう。
それはこのクラスだけではなく、教室の外にはここへ来るまでに引き連れて来たのであろう人集りまで出来ていた。
男も女も関係無く人の目を惹き付けてしまっている楓花の姿に、成る程確かに四大美女の一人なんだなと俺も分からされてしまう。
「――なんでここに来てんだよ」
「え?良太くんと一緒に帰ろうと思ったから?」
「良太くんって――あーもう分かった、とりあえず帰るぞ楓花」
せっかく丸く収まったと思ったら、今度はまさかの本人登場である。
しかも、何故かいつものお兄ちゃん呼びでは無く、良太くんとか呼んできてるのは完全に狙って言っているのだろう。
俺は頭を掻きむしると、とりあえず面倒ごとは全部後回しにしてこの場から逃げ出すように帰る事にした。
後ろから「やっぱラブコメじゃねぇか!」という晋平の不満の声が聞こえてきたが、全部明日の自分に任せて今日は完全無視をして帰る事にした。
◇
こうして俺は、楓花と一緒に下校する事になった。
しかし、廊下、昇降口、そして校門と、すれ違うほぼ全ての生徒達から向けられる視線がとにかく痛かった。
そりゃ『西中の大天使様』とも呼ばれる四大美女様が、入学初日に知らない男の人と歩いているんだから、みんなが戸惑うのも無理はないだろう。
――でもごめん、ただの兄なんですごめんなさい
一人一人に説明して回るわけにもいかないから、俺は心の中で誤解なんですと謝罪しながら急いで帰る事にした。
「どうしたの?良太くん?」
「お前なぁ――とりあえずその、良太くん呼びは変な誤解生むから止めてくれ」
俺が止めるように言うと、楓花は悪戯な笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込んでくる。
「これは、朝わたしを置いて行ったお兄ちゃんへの罰だよ」
「それは、いつまでもだらだら寝てるお前が悪い。それにもう高校生だ。一緒に登校するのも下校するのも今後ナシの方向で」
「えっ!?なにそれ?信じらんない!無理!冷たっ!」
「冷たくない。この歳になっても兄妹仲良く登下校とか普通に恥ずかしいだろ」
「恥ずかしくないしっ!それに――」
「は?なんか言ったか?」
「何でもないっ!じゃ、じゃあわたしも決めたから」
「今度は何をだよ……」
「今日から外では良太くんって呼ぶし、聞かれたら彼氏って答えてやるからっ!」
「なっ!?お、お前それは流石にやり過ぎだろ!」
何故か怒った楓花は、そんなとんでも無い事を言い出したのであった。
俺が止めても、最早聞く耳を持たずといった感じでプンプンと怒る楓花。
こんな面倒で我儘な妹が、中学ではクールな大天使キャラで通ってるなんて世の中絶対におかしい。
「……ごめんって、謝るからそれだけは勘弁して下さい」
そして結局、根負けした俺がこうして謝るまでがセットなのであった。
この度々勃発する意味不明な兄妹喧嘩だが、楓花は絶対に譲らないからいつもこうして俺が謝る事でようやく収まるというのが、お決まりのパターンなのであった。
だから俺は、流石に今のは洒落にならないし早々に謝る事にした。
こうして謝れば済むんだから、頭の一つや二つ下げるぐらい安いもんだ。
――だが楓花は、いつもはしょうがないなと勝ち誇りながら許してくれるはずなのに、今回は何故か更にご機嫌斜めになってしまうのであった。
「……は?なにそれ?そんなに嫌ってこと?」
「いや、言っておくけどこれお互い様だからな?兄妹で変な事噂されたらお互い面倒なだけだぞ」
そう、どうやら楓花は気付いていないようだが、これは俺だけじゃなく楓花だって同じ話なのだ。
だから正直脅しにもなっていないのだが、それでもされて困ることには変わりはないから、本当に楓花が周りに変な事を言い出す前にちゃんと釘を刺しておいた。
「……分かった」
「うん、分かってくれればいいよ」
「……分からせるから」
「ん?分からせる?」
謎の言葉を発した楓花は、完全に機嫌を損ねたのかそれから家に帰るまでずっと無言になってしまった。
そんな楓花を前に、最近いよいよ妹が何を考えているのか分からなくなってきたなと思いながら、俺はやれやれと呆れながらも一緒に帰宅したのであった――。




