第1話「四大美女」
俺の名前は風見良太。
自分では、どこにでも居るような普通の高校生の一人だと思っている。
世の中、陰キャだの陽キャだの二つのタイプにカテゴライズされがちだが、俺は多分そのどちらでも無い。
例えば、クラスの中心にいるような奴とも友達だけど、だからと言って別にうぇーいと盛り上がる事が好きな訳でも無い。
まぁそんな、俺という人間は本当にどこにでも居るような普通の高校生だ。
そんな俺も、今日から高校二年生になる。
つまりは、この高校生活において今日から初めての後輩が出来るわけだ。
別にだからと言って何があるわけではない事ぐらい、自分でも分かっている。
けれど、それでもちょっとだけ期待してしまっている自分がいたりするのだ。
――もしかしたら可愛い後輩の女の子に好かれちゃったりして
とか、ただのご都合主義な妄想してしまう事ぐらい、きっとみんなにもあるはずだ。
――まぁ実際は、別に部活に所属しているわけでも無い自分が、後輩の女の子と接点を持つ事なんて多分無いだろうことぐらい分かってはいるが、それでも思うのは自由だ。
そんな事を考えながら、なんだかワクワクして早起きしてしまった俺はいつもより早い時間に登校したのであった。
ちなみに、今日からうちの妹も晴れて同じ高校へ入学する事になっているのだが、この年になっても兄妹で一緒に登校するとか流石に恥ずかしいから、朝の弱い妹は置いてさっさと先に学校へとやってきたのであった。
そうして昇降口へ着くと、そこには既に真新しい制服を着た初々しい様子の生徒達の人集りが既に出来ていた。
どこからどう見ても、あれは新一年生だろう。
今日から始まる高校生活、自分のクラスに知り合いがいるかどうかなど、早く登校してきた彼らは友達同士でワイワイしながら張り出されたクラス表を確認していた。
そんな様子を見て、俺も一年前の事を思い出す。
俺は高校入学と共にこの町へとやってきたから、そもそも友達なんて最初から誰も居ない事が分かりきっていたから、なんの感情も無くクラスだけ確認するとさっさと自分の教室へ向かった事を思い出す。
中学三年の時に親の転勤が決まって、中学まではギリギリ同じ中学に通わせて貰ったのだが、高校からは親の転勤先のこの街へ引っ越してくる事になっていたため、受験は友達みんなとは遠く離れたこの町の高校を受けていたのだ。
正直未だに寂しいし、またみんなに会いたいなと思っている。
けれど、この高校でも沢山の友達が出来た今の俺は、別に今の生活や環境に不満があるわけでもなかった。
住めば都とはよく言うけれど、本当にその通りだと思う。
だって前の街でも今の街でも俺は、本当に良い友達に囲まれてきたよなって思えるから。
だから大事なのは、どこにいるかじゃないんだ。
例え離れ離れになっても友達は友達だし、そんな周りの環境以上に自分がそこでどう過ごすか、そして周囲に対してどう振舞うかがきっと大事なんだ。
そんな事を考えながら、俺は一年生の人集りを横切ると、隣に張られた二年生用の新しいクラス表に目を向ける。
「二年は三組か――」
そう俺はぼそっと呟きながら、ここに立っていても仕方ないのでさっさと新しいクラスである二年三組の教室へと向かう事にした。
こうして廊下を一人歩いていると、たまたますれ違った一人の女の子に俺は思わず目を奪われてしまったのであった――。
制服からして新一年生だろうか、中々街でも見ないレベルのとても綺麗な女の子だった――。
今年は物凄い美人が入学してきたもんだなと思いながら、単純な俺はそれだけで少し楽しい気分になりながら自分の教室へと向かったのであった。
◇
「よっ!良太!二年も同じクラスだなっ!」
「お、晋平か。だな、二年もよろしくな」
教室へ入るや否や話しかけてきたのは、一年の時から同じクラスで親友である新木晋平だった。
晋平と言えば、ちょっと背は低いけれど整った顔立ちをしており、一年の時からクラスの中心になっているようなザ・お調子者だ。
そんな晋平と俺は一年の早い段階で仲良くなり、それ以降こうして一緒につるむ事の多い仲になっていた。
正直、この街へ一人でやってきたばかりの頃の俺にとって、こんな晋平と仲良くなれた事は俺にとって本当に有難い事だった。
無駄に顔の広い晋平のおかげで、俺は一年の早い段階から人付き合いに困る事無く楽しく過ごす事が出来ているのだ。
「そうそう!良太知ってるか?なんとうちの高校に、あの四大美女の内二人が入学してきたらしいぜ!」
「よ、よんだい?え、なんだそれ?」
「あー、そっか。良太は引っ越してきたから知らないのか。いいだろう、優しい俺が説明してやろう」
そう言うと、晋平はちょっと得意げな表情を浮かべながら、その四大美女とやらについて説明してくれた。
「この街には東西南北の中学が存在するのは知っているよな?実は俺達の一つ下の代は『奇跡の世代』って呼ばれててな、その東西南北の中学に一人ずつ女神とも天使とも大和撫子とも呼ばれているような圧倒的な美少女が存在するんだよ。元々は三大美女だったんだけど、去年西中にもそのレベルの女の子が引っ越してきたらしくてな。それで晴れて東西南北みんな平等、四大美女の出来上がりってわけだ」
そんな晋平の有難い話を、俺はへぇと思いながらただ聞いていた。
とりあえずその奇跡の世代だかってのは、まるでどこかの有名スポーツ漫画みたいな事になってるなと思いながら。
でもそれじゃあ、さっき廊下でたまたま見かけたあの女の子も、もしかしたらそのうちの一人なのかもしれないなと思った。
確かにあんな美人、一日中歩き回っても多分見つからないレベルだったよなと、俺はさっき見かけた美少女の事を思い出した。
――でもまぁ、流石にあのレベルの女の子に期待するだけ無駄ってもんだろうな
あんな美人が付き合う相手って、一体どんな男なら釣り合うんだろうなと思いつつ、俺には関係の無い話だなと思った。
「それでだ、肝心のこの高校に来た二人なんだがな、実は既にリサーチ済みだ。一人は、『北中の大和撫子』こと、柊麗華ちゃんだ。彼女はその二つ名通り、誰が見ても大和撫子と言うような見た目をした和風美人で、色白で綺麗な黒髪ロングが特徴的なザ・高嶺の花だ」
へぇ、『北中の大和撫子』ねぇ。
晋平の話を聞く限り、恐らく俺がさっき見かけたのは、その『北中の大和撫子』こと柊麗華で間違いないだろう。
晋平の言う通り綺麗な黒髪は確かに印象的で、すれ違っただけで思わず目を奪われてしまった程その存在全てが美しかった。
正直あんな美少女を一度見せられてしまえば、成る程確かに四大美女と呼ばれるだけの事はあるなと納得せざるを得なかった。
「それからもう一人は、『西中の大天使様』こと風見楓花ちゃんだ。彼女は去年転校してきたらしいから俺も詳しくは知らないが、その天使のような容姿は一度見ただけで相手は必ず恋に落ちるとまで言われる程麗しく、クールで物静かだけど時たま天使のように微笑むその姿は正しく天使――いや、大天使そのものだって話だ。――って、あれ?そういや良太と同じ苗字だな?それに去年転校って――」
「ん?あぁ、だって多分それ、同姓同名じゃない限りうちの妹だからな」
二人目はどんな子かと思えば、まさか自分の妹の事だとは思いもしなかった。
確かに楓花は、兄の俺から見ても可愛い。というか、めちゃくちゃに可愛い。
でも俺からしたら、やっぱり妹は妹なのだ。
だから俺は、二人もその四大美女がこの学校へ来たのかとちょっとだけ期待してしまっていたのだが、二人目を聞いて正直期待外れに終わってしまった。
だってそれは、腐っても妹だから。
そもそもそういう対象にすら成りえないのだから、こればかりは仕方がない。
しかし、そんな楓花が俺の妹だと知った晋平はというと、目を丸くして驚いたまま固まってしまっていた。
「もしもし?晋平さん?」
「あ、あぁ、悪い。ちょっと驚いて固まってた――。いや、そう言えばお前、妹がいるって言ってたもんな」
「うん、でもまぁ、先に言っておくけどうちの妹は悪い事言わないからやめとけ。あれはそこいらの人間に相手出来る存在じゃない」
「なんだそれ?あっ!まさか本当に天使なのかっ!?」
「そんなわけあるかっての」
まぁ詳細を話すのは楓花にも悪いから黙っておくが、とにかくうちの妹に過度な期待するのはやめた方が良い事だけは確かだから、俺は楓花に対して変な気を抱く前に親友にはそうはっきりと伝えておいた。
――そして始業式。
体育館へと移動した俺達は、朝から校長先生の長話を聞かされた。
そして次に、新入生代表の挨拶が行われる。
新入生代表として檀上に上がったのは、なんと今朝見かけたあの美少女だった。
改めて見てもやっぱり超が付くほどの美人で、俺に限らずこの場にいる男子全員がそんな彼女の姿に釘付けになってしまっていた。
「新入生代表、柊麗華です。この度は―――」
おっとりとした綺麗な声で、しっかりと新入生代表の挨拶を務める柊麗華。
その堂々とした立ち振る舞いも相まって、退屈な始業式のはずがずっと話を聞いていたくなる程本当に素晴らしい代表挨拶だった。
そんな『北中の大和撫子』こと柊麗華の挨拶が終わると、暫くして始業式も終了となった。
こうして無事に始業式が終わると、一年生から順に教室へと戻っていく。
俺はなんとなく、そんな今日から出来た後輩達の去り行く姿を目で追った。
まだ制服も真新しくて、どこか緊張したような表情を浮かべる新一年生達の事を、初々しくてちょっと可愛いなと思いながら。
すると、その一年生の中に一人だけ明らかに異質な存在がいる事に気が付いた。
良く見なくても、俺はそれが誰なのかすぐに分かった。
それは、この学校へ入学してきたもう一人の四大美女であり、そして自分の妹でもある風見楓花だった――。
やはり楓花は、こんな人集りの中にいてもとても目立っていた。
茶色のふわふわとしたロングヘアーに、白く透き通った肌。
目鼻立ちはくっきりとしており、特徴的なその大きな瞳は少し青みがかっている。
そんな、どこか日本人離れしたような見た目をしている楓花は、確かにこうしてみんなに紛れて黙って歩いていれば圧倒的とも言える美少女だった。
それこそ、あの柊麗華にすら負けていないと思える程に――。
だから案の定、周りの男子達、それに女子達までもがそんな楓花の姿を見てざわついていた。
『うわ!何あの子めちゃくちゃ可愛くない?』
『え、モデルかなんかだろ?』
『いや、あれが有名な西中の大天使様だよ』
『やばい俺恋しちゃったかも……』
そんなコソコソ話があちこちから聞こえてくる。
しかし、自分の妹が本当に『西中の大天使様』だなんて呼ばれているのはやっぱりちょっと可笑しかった。
あの楓花が大天使って、いくらなんでもそれは天使様に対して失礼すぎるでしょと。
そんな楓花はと言うと、同じく二年生の中に俺が居る事に気が付いたようで、俺と目が合うと少しだけ不満そうな表情を浮かべながら、こっちを睨んでくるのであった。
だが、そんな楓花の多少の変化でもすぐに周りに気付かれ、その表情の変化だけでまた周囲をざわつかせているのであった。
こうして、二人の四大美女はこの始業式だけでも俺達に大きな印象を残していったのであった――。
という事で、新作書き始めました。
まずは3話まで投稿したいと思います。
宜しくお願い致します。




