第16話「一目ぼれ」
俺の名前は上田龍平、今年から俺は高校一年生になった。
しかし、俺の気持ちは全く晴れなかった。
何故なら、俺が一目ぼれしたあの子はもう同じ学校では無くなってしまったからだ。
俺は物心ついた頃から、とにかく女の子にモテてきた。
毎年バレンタインには沢山のチョコを貰えたり、クラスの女の子から告白される事だって何度かあった。
そんな俺も中学へ上がると、急激に背が伸びた事もあり更に人からモテるようになっていた。
昔は告白された人数を数えていたりしたが、指で数えられる数を超えた辺りから、そんな事を数える事すらも馬鹿馬鹿しくなってしなくなった。
まぁそんな、自分で言うのもなんだがどんな女の子でも落とす自信のある俺にとって、一つだけ不満な事があったのだ。
――それは、うちの中学だけ美女がいないという事だ
正確に言えば、うちの学校にも普通に可愛い子は沢山いる。
この街では俺達の年代は奇跡の世代なんて呼ばれており、確かに他の学年に比べて可愛い子の数は多いように思えた。
けれど、他の中学にはいてうちの中学にだけいないものがあるのだ。
――それが、三大美女である
他の中学には、聖女だの大和撫子だの呼ばれる圧倒的美少女が一人ずつ存在しているというのに、うちの中学だけそのクラスの美少女が存在しなかったのである。
だから俺は、そのことだけが唯一の不満だった。
でも同時に俺は、こうも考えていた。
――三大美女って、本当かよ
そう、俺はその三大美女なんて存在を、正直信じてなどいなかったのだ。
皆はそう言うけれど、実際見てみれば実は大したこと無くて、別にうちの学校の美少女と大差無いんじゃないかと。
だから俺は、俺の通う西中以外の北中、東中、そして南中へ行き、まずはこの目でその三大美女とやらを一人ずつ品定めする事にした。
そしていけそうなら、そのまま口説いてやればいいとさえ思った。
こうして、まずは北中へ行った俺は校門前で、その三大美女が出てくるのを待った。
すると、他校の俺が立っているだけで目立つのか、校門から出てくる女の子達は俺の存在に気が付くと、皆キャーキャーと騒いでいた。
そんな女の子達の様子を見て、俺は他校でも余裕だななんて思いつつ、お目当ての三大美女が出てくるのを待った。
そして、暫く待っているとついに出てきた。
何故分かったのかと言うと、確かに一人だけその身に纏うオーラがまるで違っていたのである。
そして面白い事に、そんな彼女の後をついて行くかのように、何名かの男子達が彼女の後ろを歩いているのであった。
だが、実際そんな三大美女を前にしても、俺はこれならなんとかなるなとしか思わなかった。
あの子が三大美女だというなら、俺は自分の事を三大美男子だと思っていたのだ。
つまりは、性別が違うだけで俺とあの子は同格。
どちらも浮世離れした存在として、仲良く出来ると思っていた。
しかし、すぐに俺はその考えが甘すぎた事を痛感させられる――。
校門へ近付き、次第にはっきりと見えてきたその女の子の美しさは、俺の予想なんて軽く超えて来たのであった。
綺麗な黒髪を靡かせながら、凛とした佇まいで優雅に校門へ向かってくるその美少女は、成る程確かに大和撫子という言葉がしっくりくる程美しかった。
俺はあんな美少女に、これから話しかけようとしてたのか――!?
そう思うだけで、己惚れていた自分が途端に恥ずかしくなった。
俺のモテると、彼女のモテるとでは、きっと根本的なレベルで違ったのである。
だから俺は、そのまま校門から出ていく彼女の姿をただ見送る事しか出来なかった。
これが三大美女かと、俺はこの一瞬で現実を分からされたのであった。
それから俺は、一応東中と南中へも足を運び、他の三大美女も確認した。
でももう、話しかけようとかそんな己惚れた考えは無くなっていた。
ただ興味本位で、他の三大美女がどんな存在なのかとこの目で確認しておきたかったのだ。
そして目の前に現れた他の二人はというと、噂通り大和撫子と同じく手の届かないレベルの美少女達だった。
だから俺はもう、そんな手の届かない美少女が3人もいることに笑うしかなかった。
そしてそれと同時に、むしろうちの学校に三大美女なんて居なくて良かったとさえ思えた。
――彼女達は、毒だ
一度目にしてしまえば、ほとんどの男はきっとその心を奪われてしまうだろう。
そしてそうなったが最後、惚れ込んだ男達は決して叶わぬ恋に焦がれないといけなくなってしまうのだ――。
人よりモテる俺でもこう思うのだから、本当に末恐ろしかった。
だから俺は、もうそれ以来三大美女には関わらないように生きていく事を決意した。
しかし、そんな決意も長くは続かなかった。
何故なら、ついにうちの中学にも彼女達と同格と呼ばれる女の子が転校してきたからだ。
三年生になって暫くした頃、一組に転校生がやってきたと学年中で話題になっていた。
最初は、何をそんな転校生ぐらいで騒いでるんだと思った俺は、クラスの友達と一緒にその転校生がどんな人か見に行く事にした。
するとそこには、転校初日のせいかクラスの外にまで野次馬の山が出来ており、それがただ事ではない事を思わせた。
そして俺も、ついにこの目でその転校生の姿を確認する。
するとそこには、天使のような美少女が一人ぽつんと座っていた――。
俺はその子を見た瞬間、全てを悟った。
――あぁ、ついにうちの中学にも現れたのか
そう、その天使のような彼女からは、他の三大美女と呼ばれる彼女達と同じものが感じられたのだ。
それは、俺達平民では決して辿り着く事の出来ない高み。
そして彼女達と同じように、一目見るだけで侵されてしまう毒を帯びているということを――。
それから彼女が有名になるのに時間はかからなかった。
すぐに人は、三大美女から四大美女と呼ぶようになり、彼女は『西中の大天使様』という異名を持つと共に、周囲から崇拝される存在になっていた。
そして俺も、あれだけ警戒していたというのに気が付くと彼女の毒に侵されてしまっていた。
廊下や集会などで彼女を見かける度、ついその姿を目で追ってしまうのだ。
そうして気が付いた時にはもう、俺は彼女に恋をしてしまっていた。
人は彼女の事を、一目見るだけで好きになってしまうなんて評していたが、全くもってその通りだったから笑えてくる。
あれだけ警戒していた俺でも簡単にこうなってしまったのだから、他の手放しの男達からしてみれば無理も無かった。
だが、そんな当の天使様はというと、いつも静かに自席に座っているだけで、まるで他人には興味が無いような儚げな存在だった。
その雰囲気も相まって、彼女が天使――いや、大天使様であるという印象を強めていた。
――彼女は一体、何を考えているんだろう
俺はつい気になってそんな事を考えてしまう。
それはきっと俺だけではなく、この学校全ての男子が知りたいはずだった。
プライベートは全くの不明で、誰とも仲良くしようともしない彼女はその全てが謎に包まれていたのである。
でも、別に不愛想なわけではなく、時たま見せる微笑みは本当に天使そのもので、あの微笑みを一度でも見たが最後、例え相手が女子であっても心を奪われてしまうのであった。
それ程までに、突如うちの学校へやってきた四大美女の一人は凄まじかったのだ。
だが俺は、結局最後までまともに彼女――風見楓花さんと会話をする事すら出来ないまま、中学を卒業したのであった。
幸いうちの高校には、四大美女は一人もいなかった。
だからもう、誰かに心を奪われる事は無いと安心したのだが、それも全て後の祭りであった。
何故なら俺はもう、既に彼女に心を奪われてしまっているのだから――。
だから、彼女のいない学校というのはとにかく退屈だった。
そして俺は、また彼女に会いたい、そんな事を考えながら今日も一人休日の街を出歩くのであった。
だが、休日彼女の姿を見た人なんて誰もおらず、こんな事をしてもきっと無駄な足掻きだよなと俺は力なく笑うと、さっさと諦めないとなと思いながら家に向かって歩き出した。
すると、目の前で女の子の腕を男が引っ張っている光景が目に入った。
最初はカップル同士の喧嘩か何かかと思ったが、俺はその光景を見てとても驚いた。
何故なら、その腕を引かれている女の子は、俺がこうして街を彷徨う原因でもある風見さん本人だったのだ。
そんな探し求めていた風見さんが、何故か目の前で知らない男に腕を掴まれており、そして声は聞き取れないが離して欲しそうにジタバタとしているのだ。
その光景を見た俺は、自然に体が動きだしていた。
――助けなきゃ
そう思った俺は、何も考えず二人の間に割って入っていた。
「おいお前、嫌がってるだろ。風見さんから手を放せよ」
男に向かって俺は、そう言い放った。
普段は全く姿を現さないはずの彼女が、今日は何故かここにいて、そして見知らぬ男に襲われながら助けを求めているのだ。
だからこれはきっと、神様が俺にくれたチャンスなんだと思いながら――。
上田くん視点でした。
なるほどと思いつつ、これから現実を知るであろう上田くんはどうなってしまうのでしょうか。。
続きます。




