第15話「外出」
家を出て、街中の方へと歩いて向かう。
外は雲が無く綺麗に晴れ渡っており、春風が心地よかった。
桜はほとんど散ってしまっているが、これから夏に向けて温かくなっていくんだなと思うと、それだけでなんだかワクワクとしてきてしまうのだから不思議だ。
「――疲れたぁ。もう歩きたくないー」
しかし、そんな清々しい休日だというのに、隣の干物人間にとっては全く関係無いようだ。
強引についてきたくせに、早くも楓花は休日に表を歩いている事を後悔しているのかげっそりとした様子だった。
「帰ってもいいんだぞ?」
「無理、お兄ちゃんおんぶしてー」
「それこそ無理だわ」
「――ちっ、ケチ」
ケチじゃない。何が悲しくて休日に妹を負ぶって街中を歩かないといかんのだ……。
そんな無理な願いを却下しつつ、それから暫く歩き続けていると中心街へと着いた。
ここまで来ると、休日な事もあり道行く人も多く、都会では無いが田舎でも無いこの丁度良い感じの街が俺は実は結構気に入っていたりする。
この街へ来て一年とちょっと経つが、大方どこに何があるのかはもう把握しているし、一年の頃はよく晋平と駅前のハンバーガーショップとか行ったりしたものだ。
そんな事を思い出しながら俺は、今日は楓花を連れて映画館を目指して歩いていると、そこでようやく自分達が置かれている状況ってものを理解した。
辺りを見渡すと、街行く人のほとんどが俺達の方をジロジロと見てきているのだ。
――そう言えばそうだった
慣れてしまったわけではないが、今日の楓花はオシャレとお化粧までしており、普段にも増して大天使様をしてるんだった――。
突然現れた美少女を前に、道行く人はみんな一目見て驚き、それからまるで憑りつかれた様に楓花に目を奪われてしまっているのであった。
それは彼女連れの人でも同様で、普通ならそんな彼氏に対して彼女が怒ったりするものだろう。
しかし楓花の場合、そんな事にはならなかった。
何故なら、怒るどころかその彼女まで一緒に驚いてしまっているから。
それから、都会ならこんな楓花に対して芸能事務所のスカウトとかされるのかもしれない。
しかし、ここは地方都市だ。
そもそもこの街に、芸能スカウトの人なんてほとんど居ないに等しいから、そんな事は通常起き得ない。
「あ、あの!私こういうものです!も、もし興味がお有りでしたら連絡貰えませんかっ!」
だが、楓花の場合はそんな通常なんてものは通用せず、それでもスカウトされてしまうのであった。
怪しがりながらも、声をかけてきた男が名刺を差し出してくるので一応受け取ると、その名刺には誰でも知っているような大手芸能プロダクションの名前が書かれていた。
――いやいや、流石に偽物でしょ
そう思いながらその名刺を良く見ると、所属が企画部になっており、その上ちゃんと役職もついている事に気付いた。
声をかけてきた男はというと、中年過ぎといった感じでしっかりとした身なりをしており、とてもスカウトをしているような雰囲気ではないなと思っていると、
「いやぁ、休日だから実家に用事があってたまたま帰って来てたんですが、驚いて思わず声をかけてしまいましたよ。昔は私もスカウトしていたんですが、今はもう昇級して社内の仕事しているんですけどね、流石にこれは逃してはならないなと思いまして」
そう男性は、苦笑いしながら事情を説明してくれた。
成る程、言っている事が本当かどうかは判断つかないが、その説明については納得が出来た。
要するに楓花は、こんな地方都市でもたまたまいた芸能プロダクションの人が思わず声をかけてしまう程、人の目を惹き付けてしまっているという事だ。
とりあえず名刺だけ受け取りその場を立ち去ったが、街へ着いてすぐにこれだ。
やっぱり余所行きモードになった楓花は、否が応でも目立ってしまっているようだった。
「――ふんっ」
しかし当の本人は、先程一枚ずつ受け取った名刺を見ながら鼻で笑うと、全く興味無いのかそのままその名刺を俺に差し出してきた。
「なんだ?いいのか?」
「興味も無いし、どのみち面倒だから無理。わたしがそんな活動出来るわけないでしょ」
胸を張って自信満々にそんな事を言う楓花に、俺はたしかになと思った。
単純だけど、これ以上ない納得の説明だった。
このダメ人間に務まるわけがない。
だがこうして、ただ街を歩いているだけでも芸能人のように周囲から注目を浴びてしまうのは、流石は四大美女といったところだった。
「あっ!お兄ちゃんあそこ寄っていい?」
しかし楓花は、やっぱりそんな周囲の事なんて微塵も気にしない。
そんなマイペースな楓花は、たまたま通りかかったアニメグッズのショップに興味を示すと、キラキラした目でそこへ行こうと俺の腕を引っ張ってくるのであった。
別に行っても良いのだが、時計を見ると次の映画上映時間まであと30分ちょっとしか無かった。
それを逃すと次は3時間後とかになってしまうため、楓花には悪いが今寄り道をしている余裕は無かった。
「いや、次の映画まで時間が無いから後にしてくれ」
「え、これから映画観るの?」
「あれ?言ってなかったか。まぁ俺は元々そのつもりだったから」
「まぁいいけど、お兄ちゃんと映画か――うん、それはいい」
「ん?まぁいい、そういう事だから先に映画館行くぞ」
何かに納得したように、楓花はニヤつきながら一人でうんうんと頷いていた。
よく分からないが納得してくれたようなので、それじゃあと改めて映画館へ向かおうとするのだが、それでも楓花は動こうとはしなかった。
「でも、ちょっとだけならいいでしょ!」
そう言って、勝手にそのお店へ入ろうとする楓花。
だが、俺は知っている。
こういう時の楓花のちょっとは、決してちょっとでは済まないという事を――。
だから俺は、仕方なくそんな楓花の腕を掴む。
「ダメだ。お前のちょっとはちょっとじゃない」
「やだ!ちょっとだけ!わたしのディスティニーがきっとあそこで待ってるのっ!」
「あーもう!我儘言うなっての、置いていくぞ」
腕を掴まれながらも尚も諦めない様子の楓花に、俺が呆れながら声をかけたところで事件は起きた――。
「おいお前、嫌がってるだろ。風見さんから手を放せよ」
突然そんな声をかけられた俺は、驚いて声のする方を振り返る。
するとそこには、見た事の無い男が立っており、そして楓花の腕を掴む俺の事を強く睨んできているのであった――。
――え、なにこれ?
おっとこれは?
次回、謎の男の子視点になります。




