第14話「初めての休日」
高校二年になってから、初めての土曜日がやってきた。
つまり、初の休日である。
この一週間、思い返せば本当に色々あった。
なんでも、一つ下の世代は奇跡の世代なんて呼ばれており、そしてその中でも東西南北の中学に一人ずつ、四大美女と呼ばれるとんでもない美少女がいる事を知ったのだが、なんとそのうちの二人がうちの高校へ入学してきて、しかもその一人は妹の楓花の事であったのだ。
そして今では、もう一人の四大美女である柊さんとも一緒に帰る関係になっており、俺の周囲の環境はこの一週間で大きく変化しているのであった。
正直、この短期間で色々ありすぎて俺もパンク寸前のため、ようやくやってきたこの週末、俺は自分のための時間に当ててリフレッシュしようと思っている。
だからとりあえず、土曜日の昼から家でグダグダ過ごすのも勿体ないなと思った俺は、丁度見たい映画もあったし一人で映画鑑賞へ出かける事にした。
誰かと遊びに出かけてもいいのだが、今日は何も気を使う事無く自分のためだけに時間を使いたかったのだ。
そう思い立った俺は、とりあえず余所行きの服に着替え、一階へ降りて歯を磨いて身支度をしていると、俺が使用中だというのに突然扉が開けられた。
「――あれ?お兄ちゃんだおはよう」
驚いて振り返ると、そこにはいつもの赤いジャージを身に纏い、髪の毛は寝ぐせでぐしゃぐしゃになっている楓花がまだ眠たそうに眼を擦りながら立っていた。
「――おはよう。とりあえず今、俺が使ってるからちょっと待ってくれ」
「――あれ?お兄ちゃん出掛けるの?」
「ん?あぁ、ちょっとな」
「ふーん、どこに?」
「いや、だからちょっとな」
「言えないところ行くの?怪しいなぁー」
「怪しくないから。いいから出てけって」
まだ寝ぼけている様子の楓花は、ぼけーっとしながらも俺がどこに行くのか気になったのか、俺が出てってくれと言っても扉の所から動こうとはしなかった。
「――じゃあわたしも一緒に行く」
「はっ?」
「もう決めたから」
「いや、お前家から出ねーじゃん」
そう、いきなり一緒に行くとか言いだしたが、楓花はこれまで学校以外で家を出る事なんてほとんどなかったのだ。
あるとすれば、アニメグッズとかゲームの発売日に出掛けるぐらいだが、それも親に送迎して貰っているから基本的に休日楓花が外を歩く事なんて皆無に等しいのだ。
だから中学時代、楓花の私生活は謎に包まれており、その結果大天使様なんて呼ばれていたわけだが、実際は極度の面倒臭がりなだけで、ずっと家に引きこもってアニメを見たりゲームをしているだけのただの干物女なのだ。
「高校生になって、わたしも変わったんですー」
しかし楓花は、そう言って俺の隣に立つと、並んで一緒に歯を磨き出した。
そして、どうやら楓花は本気で一緒に出掛けるつもりのようで、俺を逃がさないように空いた手で服の裾をぎゅっと掴んできた。
「離してくれないか?」
「はわわまふぇーん」
「あのなぁ……」
「むうぃふぇーす」
ダメ元で頼んでみたが、楓花はやっぱり服を離してはくれなかったため、せっかく着た服が伸びてしまっても困るので仕方なく楓花が歯を磨き終えるのを隣で待つ事にした。
こうして歯を磨き終えた楓花は、歯を磨いてスッキリしたのかもう目も覚めたようで、俺の手を両手でぎゅっと握ってきた。
「10分!――いや、30分だけ待ってて!」
「なんで増えてるんだよ……」
「女の子の準備には、色々と時間がかかるものなの!30分と言わず1時間!」
「――あーはいはい、分かったからさっさと済ませてこい」
「らじゃー!!」
ビシッ!と一回敬礼をした楓花は、それから急いで自分の部屋へと駆け込んで行った。
ここで俺は、楓花を無視をしてこのまま出かける事も出来るのだが、流石にせっかく支度をする妹の事を放って先に出掛けるなんて鬼畜な真似は出来ないため、仕方なく楓花の事を待ってやる事にした。
それから、俺は部屋で一人楓花の支度が終えるのを待っていると、きっちり1時間が経過した頃、ようやく楓花の部屋の扉が開かれる音がした。
――やれやれ、本当に一時間かかったな
心の中でそう愚痴りつつも、やっと出かけられると思って俺も立ち上がると、勢いよく部屋の扉が開かれた。
「おっまたせー!さ、行こう!」
「本当だよ、結構待ったん――」
少しも悪びれない楓花に、俺は呆れながら返事をするのだが、部屋へ入ってきた楓花を見て思わず俺は固まってしまった――。
楓花は、一体いつ買ったのか白地に青い花柄のワンピースを着ており、肩には花柄の色と合わせた青の可愛らしいショルダーバッグを下げていた。
そして、元々整いすぎているその顔には化粧が施されており、その結果ただでさえ四大美女なんて呼ばれている楓花は、更に綺麗になっているのであった――。
「ん?どうしたのお兄ちゃん?――あっ、もしかして見惚れちゃったかなー?」
そんな楓花を前に、驚いて固まってしまっている俺に気が付いた楓花は、そう言って面白がるように俺の事を茶化してきた。
だが、今回ばかりは楓花の言う通りだったため、こんな時俺はなんてリアクションしたら良いのか分からなかった。
「――あぁ、そうだよ。お前ちゃんとしたら本当ヤバイな……」
結果、俺は素直に感想を告げた。
本当にヤバイと思ったから、ヤバイのだ。
こんなにちゃんとした楓花なんて、ここ数年で初めてなんじゃないかってぐらい久しぶりに見た。
すっかり成長した楓花がおめかしをすると、ここまでとんでもないことになるのだという事を、今日俺はこの目ではっきりと分からされたのであった。
「えっ?そそそ、そっかなぁ」
すると楓花は、俺の返事を聞いて恥ずかしかったのかさっきまでの勢いはどこかへ消え去り、恥ずかしそうに横を向いて頬をポリポリと掻きながら、ニヤっと変な笑みを浮かべていた。
そんな分かりやすい妹にちょっと笑ってしまいながらも、時間も勿体ないし早速出かける事にした。
「ふぅ、まぁいい。さっさと出掛けるぞ」
「えっ?う、うん!行くっ!!」
こうして俺は、元気良く手を挙げながら返事をする楓花を連れて、今日は一日休日を満喫する事にした。
ナチュラル状態で、四大美女と呼ばれる楓花ちゃん。
それがちゃんとオシャレして、お化粧までしたら――!?
休日編、続きます!
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