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Chance!  作者: 我堂 由果
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初対面

 リクの通っている高校は二期制で、五月末から六月初めにかけて中間考査がある。その少し前からリクは自室に籠って勉強している時間が多かったので、家庭教師の時間は減りキースやチャンスの手を殆ど煩わせなかった。

 この間、リクはキースが多少でも家で休めるといいと考えていた。しかしいつもキースは仕事をしようとチャンスを誘って、二人で部屋に籠っていた。


 翌日から考査が始まる夜、リクは遅くまで勉強をしていて、そろそろ寝ようと十二時半頃電気を消し毛布を被った。外は梅雨の走りか弱雨が降っていて、パラパラサラサラと窓や建物の壁を叩く雨の音がしている。その音を聞きながらうつらうつらしていると、リクの部屋のドアが勢い良く開けられる音がした。落ちかけていた意識が一気に浮上する。目を開けて飛び起きたが、同時に部屋の電気が点けられた所為で、眩しくてまた目を閉じた。

「な……に……?」

 やっとそう一言発し、薄目を開ける。段々と目が明るさに慣れてきて、ようやく部屋の中で何が起きているのかを認識できた。

「キース、手を離せ」

 リクの布団の横には二人の人物。一人はキース、もう一人は知らない金髪の少年だった。少しアクセントと発音のおかしい日本語で少年はキースにそう言った。

「そのナイフをどうするおつもりですか? ウィル様」

 少年はナイフを右手に持って振り被り、キースはその右手首をしっかり握っている。

「俺はバカではない。今これを殺すつもりはない。どれ位の力か試したかっただけだ。でもこの鈍さ、本当にフォレスターの者か? トーチを利用できないのか?」

「ナイフを渡してください」

 キースはそう言ってゆっくりとナイフを取り上げて、握っていた手首を離した。更にいつの間に入って来たのか、リクの部屋のドアの外には数人の人間の気配がしていて、聞き取れないが何やら話している。その内の一人がリクの部屋に入って来た。スーツを着た二十代半ばに見える金髪に青い瞳の男性。身長も高くラグビーやアメフトの選手のようながっしりとした体格をしている。その人物はウィルと呼ばれた少年の前に立って口を開きかけ、何か言おうとしたようだが。

「ニューヨークからスティーブの迎えか」

 ウィルに先に話され、遮られた。

「ウィル様、いつの間に日本語を勉強されたのですか?」

 スティーブと呼ばれた男性はウィルが日本語を話せないと思っていたのだろう。かなり驚いているようにみえる。

「キースやスティーブは俺に日本語を教えるのを禁止されていた。お前達に見付からないように日本語の教師を雇って勉強した。日本に何があるのか、大人達が俺に隠すからだ。いつか一人で日本に行って調べてやろうと思ったら、日本人がチャンスと株分けしたトーチを横取りした。横取りした奴の顔を見に来たら、今こうなっている」

「見に来たにしては随分と物騒ですね。夜中にナイフとは」

 スティーブはそう言うと顔を顰めた。

 取り敢えず、リクは聞きたいことがある。話真っ最中の二人には悪いが。

「キース、ちょっと聞きたいんだけど」

 リクは小声でキースに声を掛けた。キース、ウィル、スティーブの三人の目が、一斉にリク一人に注がれた。リクにとっては六つの目に注目される程の大した質問ではないのだが……

「この中に入って来ている人達って、皆、何者?」

「お前!!」

 ウィルが顔を真っ赤にして声を上げた瞬間。

「うわっ!」

 リクには何が起きたのかわからなかった。突然強烈な突風が部屋の空気をかき乱し、机の上の学校のプリント類が吹き飛ばされて何枚も宙を舞った。ノートや薄めの教科書や問題集が、机からバサバサ落下する。壁のフックに掛けてあった制服もハンガーごと吹っ飛んで別の壁にぶつかった。窓がガタガタと音を立てて振動する。キースはリクを抱えて一瞬にして布団から机の脇に移動し、キースが自分の体を盾にしてリクを庇ってくれていた。そしてウィルは、スティーブと残り二人のスーツ男達に布団の上で取り押さえられている。ウィルの拳の向かったであろう先は先程までリクの居た場所で、ウィルはリクを殴るつもりだったようだが、その拳は軽々とスティーブに受け止められていた。

 今のは何だったのか、殴っただけでこんな風が起きるか、それに五人共動きが異常に速い、人間離れしているというか、何だこの人達、特にウィル以外の四人の連携はセキュリティーのプロか何かか。リクがそんなことを考えながら呆然としている間に、宙を舞っていたプリントが一枚ずつはらはらと床に落ちていった。


「あの少年はウィリアム=フォレスター。社長とその奥様との間の御子息です」

 リクに怪我がないか確認してから、キースはそう告げた。リクはキースの言葉を理解し、リクとウィルとの関係を頭の中で整理するのに数十秒掛かった。確かに、ウィルと呼ばれる少年は、リクとウィルの父エドに瓜二つだ。髪の色、瞳の色、顔立ち、体型。エドがティーンエイジャーの頃はこんな外見だったのではないかと思える程よく似ている。

「スティーブ達は許可なく日本へやって来たウィル様を迎えに来た、社長の部下達です」

 取り押さえられたウィルは興奮した様子で、スティーブ達に英語で何か喚き散らしている。しかし大男三人に取り抑えられたウィルは、全く動けない。

「リチャード様」

 ウィルが喚くのを無視し、スティーブが話し掛けてきた。

「ウィル様は明日の飛行機で帰国させます。社長は勝手に日本へ行った件で、厳しくウィル様を叱責なさるでしょう。当分表向きは護衛という監視が付くと思います。ここには来させません。それでお願いがあります。ウィル様がリチャード様にナイフや拳を向けられたと、社長には報告しないでもらえないでしょうか。社長は一族同士の暴力沙汰を嫌います。ウィル様がリチャード様を傷付けようとしたなどと社長が知ったら……。こちらの都合のいいお願いとはわかっていますが、ここには現れただけという話にしていただけないかと……」

「わかったよ」

 リクは即答した。当然即答できた。なぜならリクは父の連絡先を知らない。数日のうちに父と話なんてできない。夏休みに会えるのかもしれないが随分と先だ。ウィルが何をしたかなんて言い付けるつもりもない。

「でもキースはどうする?」

 これはリクではなくキースにする話だろうとリクはキースに尋ねた。父の連絡先を知っているのはキースだ。しかもキースは毎日のように仕事の連絡を取っていると言っていた。

「本来は社長に報告すべきことですがリチャード様は無事ですし、リチャード様自身が構わないなら連絡内容には入れません」

 キースの言葉にスティーブはホッとしたようだった。息を吐いた。

「済まない、恩に着る」

 スティーブはウィルを軽々と肩に担ぐと、玄関に向かう。その間もウィルはこいつに借りなど作りたくないと日本語で騒いでいたが。

「これ以上夜中に騒ぐと、いくら日本でも警察に通報されます。これ以上厄介事は御免です」

 スティーブがそう言うと、別の男がウィルの額の真中を右手人差指でトンと突く。何故か急にウィルは騒ぐのを止めて大人しくなった。ただ目だけはギラギラさせて、リクを睨み付けていた。

読んでくださってありがとうございました。

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