表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Chance!  作者: 我堂 由果
3/427

機械の召使 チャンス

「私の名前はチャンス、あなたが私のマスターになる方ですね?」

 作業中の古いパソコンのような機械音を鳴らしながら、ロボットは機械らしくなく、かなり人間に近い音声でそう話した。もっと子供っぽい音声を想像させる外見だが、声は成人男性の物だ。でもどこか優しそうで心地よくてホッとさせるイケボだと感心しながら、リクはロボットの青く光る目を覗き込んでいた。

「返事がない。違う言語か?」

 そうロボットが独り言を言うのを聞いて、リクは焦った。

「日本語のままで頼む!」

「わかりました。それで、あなたは私のマスターになる方ですね?」

 マスターってあのゲームとかで聞く御主人様ってやつかと、リクは暫く考え込む。

「わからない。そもそもお前が何でここに送られてきたのかも、俺は知らない」

 それだけ言うとリクは黙った。ロボットも黙った。お互い沈黙が続く。


「そうだ、手紙!」

 リクは箱と共に置いてあった手紙を拾い上げると、中の四つ折りの紙を広げロボットに突き付けた。

「お前読める?」

「読めますが」

 そう言うとロボットは、ネイティブな発音で手紙を読み始める。

「スト――ップ!」

 突然の大声に、ロボットは読むのを中断した。

「言い間違えた。翻訳できる? え・い・ご・か・ら・に・ほ・ん・ご・へ」

 リクはロボットに訂正した。

「できます」

 ロボットは間髪を入れずに答えた。


「リックへ。前回会ってから一年以上経つが元気にしているか? お前に会いたいが、仕事が忙しくて今、日本へ行けそうもない。残念だ。同封の取り扱い説明書とバースデーカードをよく読んでおいて欲しい。近々会えると思う。それでは元気で。父より。以上です」

「は? それだけ?」

「はい」

 発泡スチロール製のロボットが入っていた箱には取説なんてない。という事は外箱に入っていたのだ。

 リクはあの日の行動を思い返す。宅配の届いた日、外箱の中身は緩衝材ごとザーッと豪快にごみ袋に……そしてその邪魔なごみ袋は翌日の可燃ごみへ。


「ハハハ、詰んだ」

 乾いた笑いが漏れる。

「ところで、あなたが私のマスターですね?」

 ロボットはまたそう問うてきた。リクの窮状にはお構いなしである。リクは手紙とロボットを何度も見比べた。そして手紙の内容から推察してリクは判断した。仮に間違いだったとしても、マスター変更なんて簡単に出来るだろうと勝手に決めた。それにあんな薄情な父親の為に、よく考えてやる必要などないと考えた。

「バースデーカードが入っていたっていうことは、俺へのプレゼントだよな。俺がお前の持ち主になるみたいだな」

「では、あなたを登録します」

 ロボットはしばらく黙って、何か作業をしている。

「あなたを何とお呼びすれば?」

 一通り作業を終えたらしいロボットはそう尋ねてきた。

「リク」

 リクは幼小時代に名乗っていた名前を選んだ。リチャードなんて名前は嫌いだったし、毎日ロボットにその名で呼ばれたくなかった。

「言語は日本語ですね? 日本語の『り・く』で宜しいですか?」

「うん」

「では、リク様。あなたが私のマスターです。よろしくお願い致します」

 マスターが決まったからかロボットは嬉しそうな声でそう言った。

「俺こそよろしく」

 リクはロボット相手に律儀に返してやる。

「これから私の事はチャンスとお呼びください。マスターの御命令に対しては、私の最大の能力を使ってお力添えをします。株の売買から暗殺まで、なんなりと御命令ください」

「え、えっと?」

 聞き違いではない。リクの耳は今確かに素通り出来ない単語を拾った。

「ハハハ、チャンスは面白い冗談言うね」

 アメリカ人の父はきっとこういう冗談が好きで、ロボットに教えて言わせているのだとリクは自分を納得させた。

「冗談? 何がですか?」

 あくまで真面目に返答してくるチャンスに、リクは言葉が返せない。


「先にマスターはこれについて、指示をしていただかなければなりません」

 チャンスはマイペースを崩さず、一方的に話し続けた。そしてカシャッという音がしたと思うと、チャンスの頭のパーツの一カ所が開いて、そこから直径三センチ位、厚さ一センチ弱位の透明な物体が出てきた。一見丸くカットされた厚めガラス板のようだが、中は空洞にみえて、その薄っぺらい空間の中で小さな火が燃えている。本当に火が燃えているのではなくそのように見える何か仕掛けがあるのかもしれないと、リクはその物体に顔を近づけると上下左右からそれを観察した。

「何これ」

「私のマスターに渡される、力の源のとなる大事な火です。あなたの物なので鎖を通して身に着けられてもいいですし、確か他にも持ち歩く方法があったと思います。当面は私に預けたままにされてもいいですよ」

 そのガラス板を目の前にして、更にリクには訳がわからない。

「ごめん、実はチャンスの取説を失くしてさ、俺よくわかんないんだ」

「取説?」

 チャンスは聞き返した。リクはチャンスが取説という略語の意味がわからないのかと説明した。

「取扱説明書の略であることはわかります。でも火と私の取説は関係ない筈です」

 チャンスとの噛み合わない会話に、リクはもう駄目だと溜息を吐いた。火はチャンスに持っていてもらうようにした。そしてチャンスとのこれに関するこれ以上の会話を諦めた。


 家にロボットがいるからといって生活サイクルが変わる訳ではない。朝起きて、学校へ行って、帰宅して、宿題やって、寝る。ただ、一年振りに挨拶を交わしたり会話をしたりする相手が出来たのは、リクの生活に張りを与えた。

 朝起きるとおはようございますと言ってくれる。

 学校へ行く時はいってらっしゃいと言ってくれる。

 帰宅するとお帰りなさいと言ってくれる。

 宿題を手伝ってくれる(チャンスは賢い)。

 寝る時はおやすみなさいと言ってくれる。

 リクにとっては家族ができたのと一緒だった。学校では笹本がよく話し掛けてくれて、お互いのこともわかってきた。笹本は日本で生まれ育って海外生活の経験がなく、英語嫌いで英語はリクと同じレベルの教室にいたが数学や理科系科目は得意で、理数系科目はトップクラスの授業の教室にいた。父親が医者で、一応医学部希望だ。

「帰国、英語得意で羨ましいよな、狡いよな」

 なんて言っているが、英語平均以下他科目平均そこそこのリクから見れば、笹本の成績はそれで十分羨ましい。


「桜井ってさ、部活どうするの?」

「考えてない。笹本は?」

「俺運動あまり得意じゃないから、中学の時は化学部だった。高校もその流れでいいかなと思って。中学の化学部の先輩も何人かいるし」

「化学好きなのか?」

「他に選択肢がなかったからかな。理系文化部ってしぼったら、いくつかしかないだろ?」

 昼休みに学食でうどんを啜りながら、二人は部活の話をしていた。

「高二の先輩なんてもう俺が入部するの前提に話してんの。俺に一年生勧誘して来いって。お前どう?」

「う~ん」

「因みにお前は中学の時は何部だったんだよ」

「えっ?」

 一瞬箸が止まってリクがそっぽを向いて押し黙っていると、笹本は身を乗り出してきて、興味ありげにリクの顔を覗き込んだ。

「何、何、言えないの? 何あった?」

「科学部だよ。笹本と違って『化』じゃなくて『科』の方」

 リクはぶっきらぼうにそう答えた。

「お前科学に興味あるの? じゃ、化学部入らねぇ?」

「違うよ。気になる女の子が科学部に入るって聞いて、それで。部活なんて興味なかったから、どこでもよかったし。部活の間はその子と一緒にいられるし。力仕事がある時率先してやってあげると感謝されるし」

 笹本はニヤニヤしている。

「告った?」

「無理無理!」

 リクはうどんを盛大な音を立てて啜って、食事に集中しているふりをした。が、笹本は目が輝いている。

「で、どんな子?」

 食事を中断し、リクは溜息を吐いた。

「小柄で、ストレートの髪の綺麗なかわいらしい感じ。本当は生物部があれば入りたかったんだって。動物大好きって言っていた」

「桜井の好み清楚系? この学校清楚系少ないんだよな。教室見回しても、気の強い肉食女だらけだろ?」

 確かに、近寄り難い雰囲気の女子が多い。とはいえ彼女達も、『イケメン』と言われるような男子生徒の前では、刺々しいオーラは出していない。

「プライド高い女子多いんだよなぁ。でもさ、水野は納得だよな」

「水野って、クラスのあの一番目立つ女子?」

「そうそう、美人、帰国でしかも成績上位」

 水野の容姿は完璧だった。モデルのようなスタイルと顔。外見は向かうところ敵なし。

「成績もいいんだ」

「全科目上位クラスだろ? あいつ中二の時に海外から帰国して、この学校に編入してきたんだ。家も凄い金持ちだって」


「笹本、桜井、ポテト食うか?」

 先日の笹本の友人三人が、自販機で買ったフライドポテトを持って話し掛けてきた。川原がポテトの入ったケースを突き出してきた。礼を言って、リクと笹本は一本ずつポテトを引き抜く。

「まさかお前らも部活の勧誘?」

 笹本がもぐもぐとポテトを短くしながら三人に尋ねた。

「そう、俺達も中学からそのまま同じ部活に入るから、高二の先輩達に新入生の勧誘を頼まれた」

 川原はそう言うと、雨宮と田端を見る。

「俺は剣道部。初心者歓迎」

 雨宮が売り込みを始めた。

「俺は空手部」

 田端はそう言うと空手部の部活体験のチラシを渡してきた。

「吹奏楽部、楽器の初心者にもちゃんと教えるよ」

 川原がポテトを口に放り込みながら言う。

「俺部活は……その、まだ考えてなくて」

 リクが下を向いて小声で答えるとドッと笑い声が聞こえた。

「な……何?」

 顔を上げると、四人は互いの顔を見合わせて笑っている。突然の四人の揃いも揃った反応に、リクは戸惑いながら四人の顔を窺う。

「ごめん、ごめん」

「悪気はないんだ」

「この学校自己主張激しい奴が多いから」

 笹本以外の三人が口々に言って両手を振っている。

「ここの学校さ、帰国やハーフ多いだろ? イエス、ノーをはっきり言わないと付け込まれるぞ」

 笹本が笑いを落ち着ける為か、水を一口飲んでから言った。予鈴が鳴る。

「やば、授業五分前だ。行こうぜ」

 そう言った川原がケースの底のポテトのかすを、ざっと口に流し込んだ。

読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ