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Chance!  作者: 我堂 由果
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一族の医者2

 次にリクが目を覚ました時、真っ先に目に入って来たのはチャンスの姿だった。チャンスはリクの頭の上からリクを覗き込んでいる。リクの目には逆さまの姿のチャンスが映っていた。

「チャンス?」

 左腕が少し寒い気がした。見てみると左腕が毛布から出されて、点滴の針が刺さっている。そこでやっとリクは自分が点滴を受けているのだと気付いた。針を刺された時の痛みは記憶にない。ぐっすり眠っていた。窓の外を見ると、もうかなり暗い。今の時刻が知りたかった。

「リク様が目を覚まされました」

 リクの部屋のドアは開けっ放しになっていて、チャンスの声の後、リビングからポールとキースが部屋へ入って来た。

「あ、確か、ポールさん?」

 リクはぼんやりとした頭で、金髪の男性が先程ポールと紹介したのを思い出した。

「覚えていてくれたか。体はどうだ?」

「さっきよりは熱くないです。けどまだ怠いです」

 確かに先程よりも体が楽だった。あの苦しい程の熱さが無くなり、怠さもかなりマシになっていた。

「君が眠っている間に、俺の能力で診察と治療をしたんだ」

 能力で治療をしたなんてとても信じられない。ポールの話が本当なら、この世界に病気を治せる人間がいるということになる。でも確かにリクの体は楽になっている。

「それとキースのパソコンを借りて、スカイプでエドと話し合いをした」

 スカイプならインターネットを使ってビデオ通話ができると、先日チャンスが教えてくれた。リクはもう一年以上父の姿は見ていない。声も聞いていない。先程までここで父と話が出来ていたのだと思うと残念だった。寂しいからではない。リクには言いたいことが山のようにあるのだ。

「君の体の状態を話し合ったんだ。向こうは夜中だがエドは寝ないで心配している」

 体の状態? 心配? 父が寝ないで心配していると言われて、リクの中に山のようにあった言いたいことが引っ込んだ。

「エドの話と俺が君を診察した結果からの推測なんだけど、ウィル様が居なくなって彼を探す為にキースが支社でチャンスをかなり酷使しただろう。君は気付いてなかったみたいだけど、それが君の体には負担だったようだね。チャンスは君を通してトーチの力を利用して人工知能として高い能力を発揮しているから」

「トーチの力? 能力を発揮って、よく意味がわからないんですが」

「まだ聞いてなかったのか。フォレスター家の血縁の人間はほぼ全員、地球上のどこに居てもエドの守っているトーチの力を借りて特殊な能力を発揮できる。例えばウィル様が君を襲った時の能力とか、俺が君の病気の治療をした能力とか」


 あの異常な出来事を見た夜のことは、時間が経つにつれ現実感がなくなり、夢だったのではと思えていた。でもリクは今ポールの力は体験したばかり。これらがトーチの力だというのか。初めてキースにあった日に言われた、


『これから不思議な現象を、沢山目の当たりにするからね』


 という言葉が頭の中に蘇る。

「君にはトーチの力を借りる能力がないとエドが言っていた。でも一族であっても能力のない人間は何人もいるから別に君が珍しいという訳ではない。普段キースはチャンスを使って仕事をしているし、チャンスを酷使するだけなら然程君には影響は出ないんだが、今回は特殊な状況で」

「特殊な状況?」

「ウィル様が現れただろう。翌朝はスティーブが君を傷付けた」


 スティーブが翌朝現れた話をポールが知っているのは父が話したからであろうが、どうやって父に届いたのかリクは不思議だった。でも真面目なスティーブが自ら父に白状した可能性が一番高そうだと思う。

 あの時リクはスティーブを放り出して校内に逃げ込んでしまった。心配してくれていたスティーブに対して、今となっては少し悪かった気がしていた。


「株分けされたトーチも大元のトーチも守護者候補としての君を気に入っている。株分けされたトーチには守護者の君の目や耳を通した情報は入って来るんだ。キースからは守護者としての君を一族が拒否する話を聞かされた。ウィル様には襲われスティーブはウィル様を庇うことしか考えていない。株分けしたばかりのトーチは、まだ不安定。このままではいずれ君を奪われると怯えて、君に執着するようになった。その所為で君には肉体的にも精神的にもかなりの負担が掛かっている。結果チャンスの酷使とトーチの執着が重なって体が悲鳴を上げたのが、今回の発熱だ。君は毎晩トーチを持つチャンスと一緒に寝ているよね。それは、トーチが君に執着している影響の一つだと思う。昼間君が学校へ行ってしまっている間トーチは置き去りにされて不安を感じているから、夜中は君にへばり付いていたいんだろう」

 点滴が終わった。ポールはそれを片付ける。

「エドは株分けされたトーチを安心させたいと言っていた。キースは君の体調が戻るまでチャンスの酷使はしないし、通常業務も君の体調を見ながら調節していこうとエドとキースで話し合った。あまり君の体調が芳しくないようなら俺と華で君を引き取る事も華が提案してくれている」

「そうですか……ありがとうございました」

 ポツリとリクは礼を言った。リクにはただの風邪だとしか思えないし、あのちっぽけなトーチの所為なんて信じられないのだが。ポールは薬とポールの携帯番号を書いた紙をリクの枕元に置く。

「無理はしないように。何かあったら連絡をくれ。また見に来る」

 ポールはそう言って帰って行った。リクはトイレに行こうと立ち上がった。その途端ふらついて倒れそうになったところをキースが素早く支える。

「ありがとうキース。キースがお父さんに連絡して、ポールさんと華さんを呼んでもらったんだろう?」

 リクはキースに礼を言う。

「え? 当たり前だろう? あの状態を放っては置けない。次期当主をやたらな医者に見せる訳にはいかないから、先生に連絡して医者を呼んでもらったんだ」

 華は用事があるので、キッチンで日本の病人食だけ作って先に帰ったとキースは教えてくれた。華は親切にも英語でレシピも書いて置いていってくれたので、明日以降も体調が悪ければキースが病人食を作ると申し出てくれた。

「華がお粥とか饂飩とか作って置いていってくれた。何か食べられそうか?」

「少しなら食べられそう」

「饂飩を温めておく」

 リクがトイレに入るのを、また倒れないか心配なのかキースが見届けていた。


読んでくださってありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ∑(゜Д゜)ウィル登場で、リクの普通じゃない日常が、さらに普通じゃない日常に!! さらに謎めいたチャンスの中身に、こんごどうなるんだろう∑(゜Д゜) と、ハラハラです!! でも、リクの周りに…
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