表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼紅天使のマスカレード   作者: GT
第1章 Heavens Knight Online
43/80

第15話(紅)





 クレナ達が地下水道から飛んで入り込んだ穴の先は、事前の調査通り王城の地下室へと通じていた。

 浄化の炎によって焼き払われたことで今はその機能を失っているが、ここは入室者の魔力を削ぐ「封魔の間」か。神巫女の監禁場所としては力不足に思えるが、機能としては打ってつけだろうとクレナは未来知識からこの部屋の記憶を引っ張り出してそう分析した。


 そしてその部屋では、地下水道から上がって来たクレナ達を出迎える一人の少女の姿があった。


 少女の足元では何人かの衛兵たちが横たわっており、全員意識は無い。

 しかしあれはクレナの炎に焼かれたのではなく、目の前に立つ彼女によって捻じ伏せられたのだろう。

 おしとやかな見た目に反してかなりアグレッシブな少女だというのは、彼女と接したことのある未来のクレナの経験則だった。


「お待ちしておりました。ルディアの民と紅の騎士よ」


 ロラ・ルディアス――金髪碧眼の見目麗しい少女は、間違いなく聖地ルディアの神巫女そのものだった。

 未来のクレナが持っている記憶よりもややあどけなさの残る若い顔で、彼女とクレナ達は対面した。


「姉上!」

「ロラ様ぁ!」


 救出対象であるロラ・ルディアスとの対面。

 聖地から拉致されて以来、ようやくそれを果たせたことで居ても立っても居られないとばかりに彼女の弟であるロアが真っ先に彼女の胸へと飛びつくと、他の男達もまた涙を流していた。

 感動の姉弟対面という奴だろう。クレナがそれに対して感涙することは無かったが……悪い気はしない光景だった。

 白石兄妹の兄妹愛を間近に見てきたからか、こう言った純粋な絆はクレナにとっても尊いと思えたのだ。


「よしよし、頑張りましたね、ロア……怖いお姉さんと一緒で大変だったでしょう。心配かけてごめんなさい」

「姉上ぇ……!」


 聖母のような穏やかな表情で弟の頭を撫でるロラに、歳相応の顔で涙するロア。

 それは部外者には不可侵に思えるほど美しい光景だったが、クレナはあえてその雰囲気を壊すように足を踏み出す。

 騎士団の服や賢者のローブと言った出で立ちをしている救出部隊の中に居て、中学校の制服を纏っているクレナの格好はさぞ目立つことだろう。作戦前にはマキリスから戦闘用のローブに着替えてみてはどうかと奨められたものだが、クレナはそれを頑なに断ったのだ。

 強化魔法を使えば服の強度など大して変わらないし、因縁深いあの召喚師とは「地球人」として戦いたかった。

 故にクレナは、一見戦闘には不向きに見える那楼学園中等部の制服で戦いに来ていた。尤も作戦前は次元幻馬で一旦自宅に戻り、スカートの下に見えても大丈夫なものぐらいは履いてきているが。


 閑話休題。


 そんな目立つ格好をしたクレナが前に出てきたことで神巫女ロラの紺碧の眼差しが、弟の元からクレナの姿へと移された。


「紅の騎士よ、この度はありがとうございます」

『……その無駄にカッコつけた呼び名は、私のことか?』

「ええ、未来で受けた恩義の下、王子様を守ろうとする貴方には相応しいと思いまして」

『…………』

「もちろん、敬意を表した呼び名ですよ?」


 聞き慣れない呼び名でクレナのことを呼びながら、ロラが礼の言葉を言う。

 しかし、クレナが返したのは沈黙だ。今彼女は、クレナにとって聞き捨てならないことを口にした。

 彼女が今語った王子様とは、白石勇志のことを指しているのだろうとわかる。

 彼女はフォストルディアのフィクス帝国、その王城に居ながらも、明らかにクレナの事情を知っている口ぶりだったのだ。


「創造神ルディアの神託により、私ことロラ・ルディアスは以前から貴方のことを存じておりました。誰よりも強く厳しく、寂しげな勇者であったと」

『……私のことを、どこまで知っている?』

「この時代より六年半後の未来で命を落とした勇者であること……そしてその魂がこの世界の神によって導かれた、「転生者」の一人というところまででしょうか」

『やはり、貴方は……』


 彼女、ロラ・ルディアスは――このクレナが未来のクレナから記憶を受け継いだ者であることを知っているのだ。


 クレナはここで彼女に会う前から、その可能性は想像していた。

 フォストルディアの創造神ルディアとつながりの深い彼女ならば、クレナのことも既に把握しているのではないかと。


 ――だからこそクレナは、聖堂騎士団らによる彼女の救出に参加したのだ。


 神巫女である彼女ならば、自分のことを知っている。そして、アカイクレナの記憶がこの時代の自分に宿った理由を知っていると思ったから。


『ずっと、気になっていた。未来のアカイクレナの記憶が、何故この時代の紅井久玲奈に宿ったのか……これが神の……創造神ルディアの意志によるものだと言うなら、私は彼の真意を知りたい』


 紅井久玲奈が未来のアカイクレナの記憶を受け継ぎ、今ここに居る紅井クレナになった理由――それについて何も気にせずここまで来たほど、クレナは能天気に生きていない。

 現代社会にタイムマシンのようなものは存在しないが、このフォストルディアには時間に関する魔法や「C.HEAT」の存在はある。流石に人の記憶を別の時間軸に送り飛ばすような能力はクレナも聞いたことが無いが、それが出来そうな存在には心当たりがあったのだ。


 その一つが、この世界の創造神であるルディアだ。


 そしてかの神に最も近しい立場に居る彼女――ロラ・ルディアスならば、クレナがこうして「転生者」になった理由を知っていると思った。

 だから、それを聞きたかったのだ。あの男と決着をつける前のついでとしては、大きすぎる理由だった。


『私がこの時代に「転生」したのは、貴方の神ルディアの意志なのか?』


 答えてくれ、と――クレナは彼女の紺碧の瞳から目を逸らさず問い質す。

 仮にここに居るクレナがこの世界の神の意志によって成り立ったものなのだとしても、クレナが定めた今後の行動指針には何ら影響も無いだろう。しかし彼女とここで会えたのならば、聞いておく必要があった。

 ロアから彼女の名前を聞くまでは、こんなにも早く会えるとは思ってもみなかった。


 未来のクレナが初めてロラ・ルディアスと会ったのはこの時代よりも数年後のことで、場所はここでも聖地ルディアでもない、ラストダンジョンの如く魔王領の真ん中に位置する「魔王城」の中だったのだから。



「当たらずとも遠からず、と言ったところですね。貴方の転生に創造神ルディアの関わりが無かったとは言えませんが、直接的に関わった神は別に居ます」

「なに?」


 クレナの質問に対する彼女の答えは一部を肯定しつつも明言はしない、曖昧なものだった。

 その返答に眉をひそめたクレナは、自分の推測が間違っていたのかと問い詰める。

 その言葉に、ロラは答えようとして――やめた。


「死を司る邪神フィアルシア……いえ、この話はまだ、するべきではないようです」

『フィアルシア……? 話が出来ないとは、どういうことだ?』

「たった今、「今はまだ教えるな」と、ルディアから告げられたのです。申し訳ありません」

『無能神め……』


 勿体つけておきながら要領の得ない答えにクレナは不服な目で彼女を睨むが、ロラはどこ吹く風の涼しい顔でクレナの視線をさらりと流し、弟の肩にポンと手を置きながら救出部隊一同へと向き直った。


「皆様、私の為にここまでお越しいただきありがとうございました。共に帰りましょう、聖地ルディアに」

「姉上……っ」

「私共に感謝していただけるとは……!」

「ロラ様の為ならば、地の果てまでも着いていきます!」


 ロラが彼らに対して救出の礼を言うと、彼女の肉声に対して大の大人達が一斉に涙ぐんだ声を上げて恐縮する。その様子は控えめに言って気持ちが悪かったが、それだけ彼らにとって彼女が大切な存在だということがわかる。


『……貴方にはまだ聞きたいことがある。貴方がロアに渡した妙に地球臭い(・・・・)あのカードのことも、「魔王」のことも』

「ええ、承知しています。ですがその前に、貴方にはやらなければならないことがあるのでしょう?」


 ロラの問いかけに、クレナは無言で頷く。

 クレナの求めた質疑応答は不完全な形に終わったが、彼女との会話はここで切り上げ、一先ずは彼女をここから脱出させることにしよう。

 尤も今のクレナが優先するのは彼女の脱出ではなく、「元凶」の抹殺にあった。しかしそんな心理を訳知り顔で言い当てる彼女の言葉が、クレナにはどこか癇に障る。

 未来の記憶を持つクレナの事情すら把握していた彼女には、何から何まで手のひらで動かされているように錯覚してしまうのだ。しかし彼女の人となりが善性に溢れていることは、この頭に宿る未来の記憶からある程度理解している。

 掴みどころはないが、クレナにとって目的の障害になる人物ではないのだ。少なくとも、今はまだ。


『どの時代でも、貴方は私の心に踏み込んでくる』

「それはおそらく、似た者同士だからでしょう。貴方からは、何か私に近しいものを感じるのです」

『……だろうな。貴方ほど恐ろしい女を私は知らない』


 未来のクレナは未来の彼女と、それほど仲が良かったわけではない。言葉では何とも表現しにくい奇妙な関係だったと記憶している。

 しかし未来のクレナが白石勇志に対して依存にも似た執着心を持っていたように、ロラ・ルディアスもまたある人物に対して凄まじい情念を抱いていたという記憶が深くこの心に残っている。


 ……その果てに、自らの命を落としたことさえも。


『ロア、神巫女は任せる』

「クレナさん?」

「クレナ様、ご武運を!」


 ロラ・ルディアスの力が並大抵のものではないことは、クレナがよくわかっている。

 逃走経路さえ残っていれば、クレナ抜きの救出部隊でも脱出することはそう難しくないだろう。

 だから彼らとの共同戦線も、ここで終わりだ。


『オーディスを殺しに行く』


 そう言って、クレナは倒れ伏した衛兵達の身体を踏み越えながら上階へと向かっていく。

 クレナがこの城に入ってから、これ見よがしに魔力を高めて待機している存在が上に居るのだ。

 ロラもそうだが、未来ではあの男もまた何もかも知ったような態度で自分をイラつかせていたものだ。

 この不気味なまでの沈黙さえ彼の策略の一部のように思えるのは、おそらく気のせいではないだろう。


 彼は確実に、この紅井クレナの到着を待ち構えている。



「……何故人は、そうまで人を憎むのでしょうね……」


 階段を昇っていくクレナの後ろから、クレナに対するものと思われる神巫女の呟きが聴こえてくる。

 クレナはその問いに応じることもなく、決戦の舞台――王城の「謁見の間」へと向かった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ