04、初日犠牲者
セイギノミカタ「さて、何か質問は?」
全員何も言わない。
だが、命懸けの人狼ゲームなどをやることを認めたわけではないはずだ。
九十九「……では聞きたい」
セイギノミカタ「九十九さん、何だい?」
九十九「占い師は初日占いありなのか?」
セイギノミカタ「おっとごめんよ。
そこ伝えてなかったね。
えーこのゲームで、占い師は夜にならなければ占えません。
役職が決まってすぐ占って、初日に結果を公表出来るルールもあるけど、このゲームではそれはない。
ゲームが始まって誰か処刑して、そこで夜のターンが来て初めて占えます!」
九十九「初日占いなしか。なるほど。
あと役欠けはあるのか?」
セイギノミカタ「えー役職の欠けもなしです。
絶対に占い師1、霊能者1、騎士1、狂人1、人狼2、村人3、この配役固定だよ」
九十九「わかった。
最後に、ゲームの進行をするゲームマスターは君でいいんだな?」
セイギノミカタ「もちろん!
このゲームには進行を行うゲームマスターが必須だからね。
ゲームマスターは僕ことセイギノミカタが行わせていただきます。
あ、あとひとつ言っておくと
もしもゲームマスターである僕が死んだりして、ゲーム続行は不可能となれば、皆さんにはお帰りになってもらおうと思います。
残念だけど、続行不可能になれば仕方ないからね。
一応ちゃんと伝えておくよ」
九十九「ほう。君が死ねばか……」
殺人鬼はそう言い、手元のメモに何か書き始めた。
積極的にゲームをやるということなのだろうか?
あと自分のテーブルにもメモとペンがあることに気づく。
セイギノミカタ「他に何かある?
あとから質問されても受け付けないからね。
なければ早速始めたいけど」
日菜々「……灰ちゃん」
セイギノミカタ「え?」
日菜々「確かに。確かに私は親友を助けられず、見殺しにした大罪人だよ。
認めるよ。
でも灰ちゃんは違う。
灰ちゃんは真っ直ぐな努力家で、悪とはほど遠い人だよ!
灰ちゃんを……どうしたの?」
静かに語ってたはずが、最後語尾が強くなってしまった。
しばし沈黙。
セイギノミカタとやらはこの質問にすぐには答えなかった。
セイギノミカタ「……くくく。
だよね。友達が心配だよね?
ゲームには関係ないけど、答えてあげるよ。特別に、ね」
大きな機械音の後に、座っている椅子ごと横にスライドする。
日菜々「わ!え?」
織田「うお!」
牧村「きゃ」
私だけではなく、他の8人もスライドしている。
円卓ごと回転しているのだ。
まるでメリーゴーランドのように。
そして2周ほど回り、ある地点でゆっくり静止した。
結局初めの位置から、90度ほど移動しただけ。
私の真後ろから少しズレた位置に、口の閉じた狼の牙と呼ばれた装置がある。
何がしたかったんだろうか?
疑問に思うと同時に、背後の狼の牙が稼働音を上げた。
そしてゴゴゴとシャッターが上がるような鉄擦れの音。
背後の音のみの情報に不安を感じる。
織田「……な、なんじゃと」
私の対面に座っているヤクザ織田が最初にそれを見た。
全員の視線が私の背後へ向いていくのがわかる。
そして背後から何かが徐々に近付いてくる音。
牧村「え?何あれ?」
山井「あ、あ、いやあああ!」
皆もそれを認め、驚愕していく。
縛りつける椅子のせいで背後を振り向けず、私にはまだ見えない。
……何?何なの?
と思いつつ、どこかで、
心のどこかで、この先何が起こるか確信していた私がいた。
桐生「う、うそでしょ」
九十九「……ほほう」
羽賀「ああ!?何で?」
背後に音は迫る。
そしてその何かはゆっくりと私の左の空席まで来て、止まった。
私は真横を向き、後ろの装置から近付いて来たそれをついに認知する。
そこには……
日菜々「……え?」
私達が座っている物と同じ椅子に座らされている
全身血塗れの清水灰司がいた。
「日菜々!泣かないでよ!
日菜々は僕が守る。日菜々をいじめるやつは僕がみんなやっつけてやるんだ!
なぜなら僕は……」
一番古い幼少期の記憶。
顔を赤らめ、目をそらす可愛らしい彼。
「日菜々おはよう!」
「日菜々!それはダメだ。
校則を破るのはよくない」
「友達なのに見殺しにしてしまった?
日菜々、思いつめるな。
何があったか俺に話してくれるか?」
「死にたい?
それこそ友達への侮辱だろ。
明日香の分まで生きろ!」
灰ちゃんはかっこよかった。
自分を曲げないところも魅力的だったし、何より弱い私をいつも助けてくれた。
そう、彼のことが好きだった。
彼の真っ直ぐな性格。
心配してくれる声。
繋いでくれる手。
その全てが胸を躍らせるものだった。
そんな彼の亡骸は、生気を感じさせぬ白い顔色と、真っ赤な血がぐちゃぐちゃに混ざっていた。
日菜々「ああああああ」
自分が悲鳴を上げていたことに気づく。
日菜々「灰ちゃん!灰ちゃん!!」
叫び、隣の彼に手を伸ばす。
朝、握りしめたその手へ。
届かない。
その手から絶えず血が滴り落ちている。
セイギノミカタ「いやーびっくりさせてごめんよ。
でもやっぱり見せしめって大事じゃない?
事件の詳細説明してから口数少なくなってぽかんとしてる人いたし、これからちゃんとゲーム出来るか心配だったもんね」
聞こえない。
何も頭に入って来ない。
セイギノミカタ「あとやっぱ人狼ゲームの性質上、犠牲者が出て初めて人狼がいるって演出も大切だしさ。狼の牙の動作確認もしたかったし、何よりうっとうしかったんだそいつ。
日菜々には手を出すなーって、拉致する時も邪魔してきたしさ。
でもこれでわかってもらえたんじゃない?
……僕は本気だよ。
正義に逆らう奴は容赦しない」
全員何も言わない。
もう逆らわない。
心のどこかで、冗談の類と思ってた甘い考えはここで消えたようだった。
日菜々「……私のせい?」
つぶやく。
恐ろしく静かな声が出た。
日菜々「私が拉致されるのを助けたから?
私のせいなの?
また私が……殺したの?」
セイギノミカタ「あ、そうそう。
桃山さんに伝言ね。
そこの灰司くんが狼の牙に入れられる直前のね」
伝言?
セイギノミカタ「日菜々。お前は生きろ。俺の分まで。
だってさ!ひゅー、かっこいい」
耳に残り、心に染みる。
その言葉は間違いなく彼の言葉だった。
灰ちゃんは、最期まで私のことを考えていたのだ。
涙が溢れた。
もうとっくに泣いてはいたが、さらに溢れた。
灰ちゃん……
セイギノミカタ「さて、質問タイムはもう終わりね!
もうここからは質問は受け付けませんから、悪しからず。
そろそろゲームを始めたいと思います!」
灰ちゃん……ごめん……
セイギノミカタ「さあじゃあいよいよ始めちゃうからね!
ふふふ、楽しみだなぁ!
勝つのは村人か人狼か?
どっちが正義なのか?
この目で見届けさせてもらうよ」
灰ちゃん。
ごめん、私生きるよ。
灰ちゃんにいつも助けてもらった。
だから生きること、がんばる。
こんな状況でも諦めない。
ありがとう、灰ちゃん。
人狼ゲームスタート。
1、前島康隆
2、羽賀亮也
3、牧村芽衣子
4、織田武臣
5、山井小百合
6、九十九一
7、桐生星華
8、斉藤章三
9、桃山日菜々
全員生存。残り9人。
僕はセイギノミカタ。
このゲームの主催者。
ふう……
静かに息を吐く。
とりあえずここまでは予定通り行えた。
機械、諸々をフルオートにした。
さて今から役職を決めに入るが、実はここは完璧なランダム。
僕も誰が人狼かわからないし、ゲーム終了まで知るつもりもない。
なぜかって?
だって自分も推理していったほうが一緒に卓を囲み参加している感じが深まり、おもしろいからだ。
日菜々の顔を見る。
まだ泣いているが、何かを決意した顔をしているようだ。
簡単に戦意喪失してくれるなよ?
だからこそ伝言を伝えたのだから。
ベストな伝言だったろ?
さあここからはゲームマスターとしてではなく、一人の観覧者として見させてもらうよ。
くくく。
この短時間で既に嘘をついたやつが数人いたことに僕は気付いている。
面白いゲームを見せてくれることを心より期待しているよ。
僕は笑いそうになる顔を堪えて、参加者全員の顔を見直したのだった。