32、エピローグ
「いやああ!助けて!誰かあああ!」
「や、やめろ!ぎゃああああ!!」
「お前はまた罪を重ね、それを1日も忘れることなく、人を殺した自覚を持ち、生涯苦しみ死んでいけ!
お前は紛れもない大罪人だ!」
「な、何で!!
い、いやあ!殺さないでえええ!!」
「わしを……
わしを裁いてくれるんか……」
「私に……私に、今度こそ人を救うチャンスをくれ……」
「やだな。死にたくないな……」
「俺らを殺したことを生涯忘れんな!
そして、いつかまた別の人狼に食われるのを震えて待ちやがれ!」
……やめて。
やめてやめてやめてやめて、やめて!!
目を見開いた。見慣れた天井。
汗びっしょりの体。目には涙。
日菜々「はぁ、はぁ」
よかった……夢だった。
目を再度閉じて、荒い息を整える。
怖かった……
でも、大丈夫。もう、大丈夫だから。
震える両手を顔の前に持って来る。
目を開き、それを見つめながら、大丈夫と唱えた。
母「日菜々!そろそろ起きて用意しなさい!灰司君、待たせちゃうわよー」
母の声が部屋の外から届き、はっとした。
そうだ、早く準備しないと。
日菜々「……はーい!もう起きてるよ!」
震えていた手を固く握り、ベッドから出た。
日菜々「じゃあ行ってきます!」
母「はいはい、行ってらっしゃい」
ドアを開く。
そこには見慣れた顔がある。
灰司「おはよ、日菜々」
日菜々「灰ちゃん!おはよー」
灰司「ちょっと今日遅れてるぞ、急ごう!」
日菜々「うん」
母「灰司君、いつもありがとう。今日もよろしくね」
灰司「いえいえ、行ってきます」
母「2人とも行ってらっしゃい」
見送る母を背に、少し駆け足で見慣れた通学路を今日も辿る。
日菜々「ごめん、待ったよね?」
灰司「少しだけ走れるか?遅刻はよくない」
日菜々「大丈夫!」
灰ちゃんは自然と私の手を引く。
灰司「ふう、こんだけ走ればもう大丈夫だろ、お疲れさん!」
日菜々「うん!」
ひと気のない道で、歩を緩めた。
時計に目を落とす。間に合いそうだ。
灰司「今日一限何だっけ?」
日菜々「英語だよ」
舗装も曖昧な道。
ひと気はない。
フルスモークの車も止まっていない。
灰司「なあ……日菜々」
灰ちゃんが急に歩を緩めた。
日菜々「?……どうしたの?」
灰司「言い忘れてたけど……」
日菜々「うん?」
灰司「俺も……」
静かで不気味な風が吹き抜けた。
灰司「俺も人狼なんだ……」
独白
『正義の大罪』
幼い頃、この世界の悪は正義の裁きで根絶やしにされていると思っていた。
ヒーロー戦隊が戦う悪者など、画面の中だけの存在。
それが当然だと思っていたし、そんな恰好いいヒーローになることが俺の憧れだった。
しかし現実の世界は悪党によって支配されていると知り、俺は絶望した。
だから俺は決めた。
この世界の悪者共に正しい正義の裁きを与えてやろうと。
子供の頃の心のまま。
……そう僕は、正義の味方だ!
円卓から立ち上がり、勝者へ拍手する。
「うそ……」
日菜々は驚愕している。当然だろう。
「おめでとう!
そして改めてまして、お疲れ様」
「……」
「見事だよ。ゲームマスター、セイギノミカタとして卓を囲み考察していたけど、全然人狼だと気づかなかったよ。
さすが日菜々。……さすが、成績優秀者」
「……」
「ずっと、見ていたよ。
このゲームが始まってから終わるまでずっと。
占い師と嘘をつき仲間の桐生を殺しにかかった初日も。
無実の霊能者、前島に黒出しして、見事その命を奪った2日目も。
全員生還出来る道筋を命懸けで説いた九十九を無視して、ゲームを続けた3日目も。
計算通りのパワープレイが起こり、笑うのを堪えていた最終日も。
……ずっと俺は、日菜々の左隣からそれを見続けていたんだ。
本当によくやったよ、日菜々。
俺の遺言、生きろってのをしっかり聞いてくれてありがとうな」
"日菜々!泣かないでよ!
日菜々は僕が守る。日菜々をいじめるやつは僕がみんなやっつけてやるんだ!
なぜなら僕は……正義の味方だから!"
「……灰ちゃん」
「そう、俺だよ。
犯罪者達を集めて、このゲームを主催したセイギノミカタはこの俺、清水灰司さ」
「う、うそでしょ……」
「どうしても自分の主催したゲームを生で体感したくてね。
おかげで日菜々が夜に笑ってたことも隣の俺は感じられた。
これは全部血のりだよ。
本当に死んでるように見えたかい?
……人を見た目で判断しちゃダメだって、日菜々自身も言ってたじゃないか」
「だ、だって……
セイギノミカタは最初に映像が出て、ずっとカメラで見てて放送を……」
「放送と映像は、予め録画録音していたものさ。
誰が死んだとかを判定し自動で流れる設定を組み込んでいた。
ゲーム進行の言葉、朝になりました。とか、桃山日菜々さんの投票だよ。とか毎回同じ言葉だと、気づかなかった?
そう、俺が直接話してたのは、俺の死体が出る前だけ。狼の牙の中でな」
もっとも、日菜々のことを桃山さんと呼び直すことは苦労した。
いつものように日菜々と呼んでしまえば、顔見知りだとバレる可能性がある。
日菜々と呼ぶのは、心の中だけに留めていたんだ。
「……何で?」
「何で?それは何に対してだい?」
「……」
「俺はちゃんと犯罪者どもが信頼し合い結託して、生き残れる方法も用意してたんだよ?
九十九が言った騎士ガードを使い、狼の牙の使用回数を限界に迎えさせる方法がひとつ」
「……」
「あと俺自身にも投票出来るというシステム。
俺が死ねばゲーム続行は不可能。
九十九はどちらにも届いていたね。
彼くらいさ、全員生存の望みを捨てなかったのは」
「……」
「だから俺も円卓に座っていた。
一緒に円卓を囲み、考えたかったってのもあるけどね」
「……何で?」
「ん?ほしい答えはこれじゃなかったかい?
なら動機か?どうして犯罪者達を集めて、こんなことしてたのか、かな?」
「……」
「俺が正義感の強い男だって日菜々が一番よく知ってるだろう?
そして警察上層部の父さんの存在。
父さんは、金や世論、証拠不十分などから警察が捕まえるに至れない犯罪者達が野放しになっているのを悩み、うんざりしていた。
だから父さんと一緒に、決めたのさ。
そんな奴らを裁く正義の味方になろうって。
父さんもそのカメラで全部見ていたんだよ」
「……」
「それとも怖いのかい?日菜々。
もう安心していいよ。
俺はセイギノミカタ。自分の正義は守る。
……日菜々、正義って何だと思う?
俺は知ってる。
正義って勝利のことなんだ。
正義は勝つってよく言ったもんだよね?
だって自分が悪だと思って行動してるやつなんていない。
正義は勝つんじゃない。逆さ。
勝った者が正義になるのさ。
俺は犯罪者を皆殺しにしたかったわけでは断じてない。
罪人達が何を正義として選ぶのか見たかったんだ。
罪人仲間同士、全員生還を目指すのか?
はたまた殺し合うのか?
どんな結果になっても彼らの正義を受け入れよう。父さんとそれは最初決めていた。
つまり結果こそ正義さ。日菜々は生き残ったから正義だよ」
「……」
「どうしたんだい日菜々?
そんなにショックかい?」
「……違うの。ただ嬉しいの」
「ん?」
「灰ちゃんが……生きてて、よかったって……」
ボロボロと泣いていた。
それは紛れもない嬉し涙だろう。
「はは、可愛いな日菜々。
さあ、もう安心していい。
一緒に帰るぞ、いつもの日常へ」
「……うん」
俺の大罪、正義。
それは、悪を認知した時、どんな相手でも裁こうとする一方的な信念。
日菜々「いきなり何?
灰ちゃんも……人狼?」
冗談のような言葉だが、灰ちゃんの顔は真剣だった。
灰司「七つの大罪には、八つ目があると言われている。
それは正義。
正義こそが隠された八つ目の大罪なのさ」
日菜々「……」
灰司「俺の正義も、誰かから見れば悪なのかもしれない。
そこで、俺の正義となった日菜々にひとつ聞きたいことがある。
日菜々が人狼として、自分の仲間も含めて全員殺そうとしてた理由。
それは自分の過去を今後知り得そうなやつの一掃という目的もあったはずだと俺は思ってるんだが……」
日菜々「……」
灰司「で、俺は日菜々の大罪を全部知っている。
俺のことも、殺すつもりなのかな?」
日菜々「……」
灰司「……」
日菜々「……」
灰司「……」
静かで不気味な風が吹きやむ。
……灰ちゃん、もういい加減気付いてよ。
日菜々「……好きなの」
灰司「……ん?」
"日菜々!叶わない恋なんて誰が決めた!
あたしだったら、叶わなくても気持ちは伝えるよ!"
明日香、私に力を貸して。
日菜々「……私は灰ちゃんが好きなだけ。
例え私のことを殺そうとした後でも、私……灰ちゃんが大好きなのは変わらないよ」
灰司「……」
言った!言い切れた!
直接伝えたのは、これまでで初めてだった。
心臓が高鳴る。
灰司「……そうか」
日菜々「ま、まあそれより、灰ちゃん!」
灰司「ん?」
日菜々「全部知ってたんでしょ?
私のもともとの大罪とかも……」
灰司「……ああ、父さんと調査して全て知っていた」
日菜々「なら私のこと……」
灰司「……」
日菜々「私のこと……き、嫌いになってない?」
灰司「……ふふ、ははは」
日菜々「?」
灰司「嫌いなもんか。
日菜々はゲームに勝った正義だって言ってるじゃないか!
これからもいつも通り。全然嫌いになんかなってないよ」
日菜々「……よかったぁ」
灰司「むしろ日菜々はもう大丈夫なのか?」
日菜々「うん……罪悪感はまだあるよ。
だけど……」
灰司「だけど?」
もう、大丈夫。そう、私は大丈夫なんだ。
日菜々「私には灰ちゃんがいてくれるから!
灰ちゃんが隣にいてくれるなら、私どんなことも乗り越えられるよ」
満面の笑み。
それは好きな人に向ける最高の笑顔だった。
灰司「そうか、安心したよ」
日菜々「うん!」
灰司「……さて、そろそろ学校に行かないと」
日菜々「……うん!」
自然に手を繋ぐ。
灰ちゃんのおっきな手。
顔が赤くなる。
なんか上手くはぐらかされたような……
あーあ……
片想いはまだまだ長くなりそうだなー。
灰司「一限英語か、宿題やったか?」
人狼。
人狼が恐ろしいと言われている最大の理由は……
日菜々「したよー、もちろん」
あなたの前では、まともな人間のように振る舞っているところ。
灰司「さすが成績優秀者」
あなたは隣にいる人が人狼でないと言い切れますか?
日菜々「普通でしょ」
それともあなた自身が……
『人狼ゲーム −八つ目の大罪−』完
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ここまで読んでいただけたことが本当に、本当に嬉しいです!
正直、物語を書くことは好きなのに、人に見せるということが怖くて、頭の中で構想して終わるということを繰り返していました。
ただ、人からこのサイトを教えていただき、自分も人に見てもらいたいなって思えたことが、この小説を形にし始めたきっかけでした。
「人狼ゲーム -八つ目の大罪-」は、そんな僕の人生最初の作品です。
初めて人に見てもらえたもので、拙い部分も多かったと思います。
あと、人狼ゲーム自体大好きです。
理由は、騙したり騙されたりというものを簡易的に体感出来るゲームだからです。
つい二度見してしまうようなどんでん返しの展開が好きな僕は、出来る限りこの物語にもそういった要素を混ぜていこうと思いました。
読んで下さったみなさんに少しでも、この楽しさが伝わっていればより嬉しいです。
また人狼ゲームというものは、まだまだ認知が高い方ではないので、微力ながらも人狼ゲームを広めたいという思いもあった次第です。
(すみません、なんか固い文しか書けなかったです。笑)
この一ヶ月、正直大変でしたが、みなさんが見てくれていることが、何よりのモチベーションでした。
おかげで1日1話投稿出来ましたし、完結させることも出来ました。
長かったようで今思えばあっという間でした。
しかし何より、すごく楽しかったです!
もし、この物語を最後まで読んだ感想、評価、アドバイスなどありましたら、いただきたいと思っています。
率直な内容で構いません。
是非教えて下さい。
よろしくお願いします。
改めまして「人狼ゲーム -八つ目の大罪-」を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
心の底から、感謝しております。




