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パラレルIF~ラインバルド学園生徒会~

もしも、の話。

※くれぐれも本編とは関係ありません。パラレルワールドその2。

 ここは、某国某所にある、ラインバルド学園。

 一般の学校より広範囲に亘って生徒の自治が認められているのが特徴の学園だ。

 生徒の代表である生徒会役員は、もちろん民主的に選挙で選ばれる。

 だから、現在の生徒会長と副会長が二人とも理事長の息子で、その上1年生だった時から3年間対抗馬無しの無投票当選だったとしても、そこには如何なる不正も入る隙間は無い。



           ***



 定例の生徒会会議。今日の議案は2学期最後の締めくくりとなる恒例行事について、だ。

 生徒会長ヴァイスは唐突な宣言をした。

 「今年のクリスマスは、仮装パーティーを開こうと思います」

 「…仮装?」

 副会長アスワド、庶務リュイ、会計キャメル、の3人は、そろって首を傾げた。

 それもそのはず、ここラインバルド学園では、昨年までは至って普通のクリスマスパーティーを開催していたからだ。

 一人、今年入学した1年生の書記ロザヴィーだけが、そんなものなのかと受け入れて、会議室の黒板に『仮装パーティー』と板書している。


 「ハイハイ!会長、質問、質問!仮装ってどんなやつですか?」

 2年生の会計、キャメルが物怖じせずに挙手をした。

 ヴァイスは笑顔で回答する。

 「いい質問ですね、キャメル。勿論ドレスコードはあります。今回の規定は、『獣耳けものみみ』です」

 「けっ…!?」

 普段無口な副会長アスワドは思わず珍妙な声を漏らし、慌てて自分の口を押さえた。同じく驚いた様子の2年生庶務リュイと、お互いに顔を見合わせる。

 「まあ!動物コスプレですか!萌え♪」

 キャメルのテンションは高い。

 むしろ、彼女のテンションは常に高い。365日高い。動きを止めると死んでしまう回遊魚のように、テンションが低いと生きていけないのであろう、おそらく。これくらいは通常運転だ。


 「そうです。衣装は自由、常識の範囲内であればね。ですが獣耳は装着必須とします。耳のある動物であれば種類は問いません。種族によっては角、尻尾等もオプション可にします」

 「仮装ですか……ハロウィンみたいで楽しそうですね?」

 ロザヴィーの言葉に、我が意を得たりと、ヴァイスは大きく肯いた。

 「ちょうどハロウィンの時期は、学園祭だの、中間テストだので多忙でしたからね。企画はしていたのですが、立案にまでは至りませんでした。くっ、返す返すも残念で……げふんげふん。いえ、仮装を10月だけに限定するのも発想が貧困というものでしょう。たまにはクリスマスに趣向を変えてみるのも良いのではないでしょうか」

 居並ぶ生徒会メンバーを眺めながら、ヴァイスはにこやかに提案した。


 いや、お前。

 それただコスプレやりたかっただけだろう。

 時期を外したからって無理矢理こじつけてくんなよ。

 副会長アスワドはそう思ったが、賢明にも沈黙を守った。

 こういう時、彼の鉄面皮は真価を発揮する。


 「たまたまサンプルを幾つか取り寄せてみましたので、我々で試着してみませんか?」

 何やら茶袋を取り出し、会議のテーブルに載せるヴァイス。


 しかもブツ入手済みとか、どんだけ手回しいいんだろう、この人…。

 その時アスワドは、この兄にだけはなるべく逆らわないでおこうと心に決めた。


 「え―――!」

 良くも悪くも素直な性格のリュイが叫ぶ。

 「会長!ぶっちゃけ女の子の獣耳は見たいですが、男はイタイ気がします!!」

 「リュイ……君はもう少し、本心をオブラートに包んで発言する技量を覚えた方がよさそうですね?」

 ひゅうううう。

 室内なのに、氷点下の風が吹いた。

 リュイの残存HPは0である。


 リュイは青ざめた顔でヴァイスから離れ、半泣きでふらふらとアスワドに近寄った。

 「副会長……会長の笑顔が黒いんですけど……」

 「諦めろ。ああなったヴァイスはもう誰にも止められない」

 もう、走り出すしか、ないんだ……。


 その隙に、ヴァイスは全員に獣耳を配った。カチューシャにデフォルメされた動物の耳が付いている、よく見る?タイプのものだった。


 まさかカチューシャと呼ばれるものを男である自分達が手にする日がこようとは……。在りし日の希望に燃えた生徒会役員登録時には、思いもよらなかった現状だった。

 ――何してんだろう、俺達。

 アスワドとリュイは再び顔を見合わせたが、お互いに力無く目線を逸らした。


 考えたら負けである。


 「アイテムは行き渡りましたね?はい、では装着して下さい」

 ヴァイスの指示で全員、一斉にカチューシャを頭部に付ける。


 ヴァイスはライオンの耳。

 良く似合っている。

 プラチナブロンドの髪がまるでたてがみの様だ。

 アスワドは黒狼の耳。

 カチューシャ部分が黒髪にうまく隠れ、まるで本物の狼の様だ。

 リュイは犬耳。

 少し曲がった垂れ耳具合に愛嬌がある。

 キャメルは猫耳。

 ピンと尖った三角形は彼女のキュートさを良く引き立てていた。

 そしてロザヴィーは………


 「バ、バニーちゃん!!」

 本人以外の全員の視線が釘付けになった。

 純白のウサギ耳を頭に乗せたロザヴィーが、凶悪なまでに可愛かったからである。


 「萌え!!ロザヴィーのバニーちゃん、ちょお萌え!!カワユス!!」

 何故かその場で一番騒いでいるのは、同じ女性であるはずのキャメルだった。

 「や、やめてください、キャメル先輩……」

 真っ赤になってオロオロするロザヴィー。可憐である。

 しかし美しいものを愛でる時のキャメルの辞書には、『遠慮』という文字は無い。彼女はこれでもか、と言わんばかりにロザヴィーを褒めちぎり、写メに撮り、存分にでまくった。

 その時男性陣はと言えば。


 口をぽかんと開けたまま真っ赤な顔をしているリュイ。

 無表情の仮面の下で穴が開くほどロザヴィーを見つめるアスワド。どうも呼吸が止まっているようだ。

 言い出しっぺのヴァイスは、耳まで赤くして、掌で顔の下半分を覆っていた。


 「これは……」

 ヴァイスが指の間から無理矢理言葉を押し出すと、

 「―――なしだ」

 アスワドも停めていた息を漸く吐き出して、呼吸を再開した。

 危ない所だった。

 「なしですね」

 リュイも同意した。

 架空の尻尾が千切れんばかりに振られているのが見えるようだ。

 「なし!!勿体無さ過ぎです!」

 キャメルも口を揃える。


 ……やってよかった。

 己のSAN値を極限まで削りながらこなしたミッションではあったが、その甲斐は十二分にあった。

 アスワドとリュイは生徒会長ヴァイスに一生ついていくことを誓った。


 企画した当の本人は優雅な微笑を湛えながら、机の下でこっそりガッツポーズをしていた。


 「え?ええ?」

 一人、ロザヴィーだけが置いてけぼりだった。

 恥ずかしい思いをしてまで獣耳コスプレしたというのに、どうやら仮装パーティーは計画倒れになりそうだ、と―――それだけが新人生徒会役員ロザヴィーに分かった事実だった。



           ***



 『不特定多数にロザヴィーの可愛い姿を晒すのは、ナシの方向で!!』

 その日、約一名を除いた生徒会役員全員の間で、厳正なる秘密協定が締結された。

 キャメルの撮影したウサ耳ロザヴィーのお宝画像は、本人には内密で生徒会役員共有財産となり、クラスSの機密情報として永久保存が決定されたという。



 ラインバルド学園生徒会に不正は存在しないが、私情は介在するのである。

 

本編PV10万突破記念の小話です!

読んで下さった皆様、有難うございます!!


※2/13、一部改稿、増筆しました。

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