1話 わたくし恋なんてしていませんわ!
「恋は戦い!恋せよ乙女!」がモットーの恋華女子高等学園。
その校門前は登校する令嬢たちの香水の香りで満ちている。
そこへ、隣の男子校の制服を着た猛と、咲希、そして親友の結菜が並んで現れた。
「猛、その寝癖。だらしないですわよ」
「うっせーな。お前が朝起こしにくるのが遅いせいだろうが」
「2人ともいつも仲良しだね。」
学園の校門前で猛と別れる。
「明日はちゃんと起こせよな咲希!じゃあな」
「ふん!まったく自分でちゃんと起きればいいものを…。」
二人のやり取りに、校門付近がざわつき、一人の令嬢が、豪華な扇子を広げて立ち塞がる。
「ごめんあそばせ。朝から男性と連れ立って登校……。これ見よがしに『愛』を見せつけてくれますわね、咲希さん?」
現れたのは、少女漫画のヒロインを自認する2年生、可憐。
「なっ?!あいつはただ、家が隣なだけですわ! わたくし、恋なんてしていませんわ!!」
咲希の否定がトリガーとなり、周囲の空間が歪みだした。
『――LOVE BATTLE 確認。闘技場を展開します――』
瞬時に周囲が中世ヨーロッパ風の闘技場へと変貌し、観客席には野次馬(生徒たち)がぎっしり。
「ラブ・ドレスアップ(武装開放)!!」
可憐の武装:『乙女ゲー・プロトコル』
背景に常にキラキラしたトーンが飛び交い、背後には「顔のないイケメンヒーロー」の幻影。
咲希の武装:『拒絶する鉄仮面』
ピンクのフリルがついたアイアン・メイデン。
「ちょっと!? わたくしは恋愛してないのに、なんでまたこの鉄の棺桶に入らなくてはいけませんの!?」
特設ブースには、既に準備万端の二人が陣取る。
実況 「さあ始まりました! 朝一番の恋愛バトル! 相手は『脳内恋愛は義務教育』がモットーの可憐さん。『鉄仮面』咲希さんに、その妄想の刃は届くのでしょうか!?実況は私、新聞部部長 ミミ子と」
解説 「文学部部長 花園が解説しますわ。嗚呼……。可憐さんの武装は、乙女ゲーの王道。対する咲希さんは、徹底した自身の恋への否定。これぞまさに、フィクションとリアリズムの激突ですわ……!」
可憐が、指を空中に滑らせてポーズを決める。
「お聞きなさい! 運命の彼とのシチュエーションを! きっと彼は……わたくしが転びそうになった瞬間、そっと腰を抱き寄せ、耳元で『危ないよ、子猫ちゃん』と囁くはずですわ!!」
ドォォーン!
ピンク色の衝撃波が鉄仮面に直撃。
実況「出ました! 可憐さんのスキル『脳内ヒーロー』! 観客席の1年生たちが共感で気絶し始めています!」
解説「素晴らしい……。乙女ゲーのテンプレをそのまま具現化するそのパワー、まさに妄想の極みですわ!」
しかし、咲希は棺桶の中から「ふう」とため息をつきながら言う。
「……猛は普通に転びそうになったら支えてくれますわよ?」
シュビー!!
鉄仮面の目からピンクの衝撃波が放たれる。
「なっ!? ならばこれならどうかしら! きっと彼は……わたくしがテストで落ち込んでいる時、屋上に呼び出して、黙って頭をポンポンしながら特製のマカロンをくれるはずですわ!!」
ドガガガガッ!
キラキラしたマカロン型の弾丸が鉄仮面に降り注ぐ。
実況「『放課後のご褒美』の追撃!観客の 共感がレッドゾーンを突破しました!」
解説「文学的にもこの『頭ポンポン』は破壊力が高い。咲希さん、耐えられるかしら!?」
咲希は少し猛を思い出しながら返した。
「…猛なんて。わたくしがテストで落ち込んでいたら、『俺の方が点数悪いから気にするな』って励ましにもならないこと言うだけですわ。」
無数の25点のテスト用紙が可憐の身体を包みこむ。
バキィィィィィィィン!!
「えっ……嘘……!? 想像もつかないほど『地味』で『無神経』な思い出なのに……この圧倒的なパワーは、何ですのー!?」
可憐の乙女ゲー武装が、咲希の「無自覚なリアル・エピソード」に耐えきれず、粉々に砕け散った。
「赤点のテストにわたくしのヒーローが負けるなんて…。ガクッ…。」
実況「決着ゥー!! 朝一番のバトルは、猛くん渾身の『励ましの赤紙』が炸裂!如月咲希さんの圧倒的勝利で幕を閉じました! 可憐さんの『甘いマカロン』を、猛くんの『低い点数』で叩き潰すという、抗いようのないリアルの暴力! 恐ろしい子……!」
解説「……素晴らしい。実に素晴らしいですわ。可憐さんの妄想は、いわば『磨き上げられた硝子の靴』。対する咲希さんのエピソードは、泥にまみれても決して壊れない『履き潰したスニーカー』。文学的に言えば、高慢な騎士物語を民衆のリアリズムが打ち負かしたのです。あの鉄仮面がピンク色に輝いた瞬間、わたくし、恋の神髄を見た気がいたしました……」
実況「現場からは以上です! さあ、皆様、授業に遅れないように! 次の恋のバトルでお会いしましょう、ごきげんよう!」
『――WINNER:如月 咲希――』
闘技場が消え、普通の登下校の風景に戻った。
「恋してないのに、いっつもなんなんですの!それに、なんでわたくしの武装はあんな武骨なんですの?!」
「まったく…。咲希は無自覚なんだから…。」
結菜は隣の男子校にそっと目を向けた。
学園内の一室。
「会長、如月さんがまた恋愛バトルに勝利したようです。」
「ふふふ。今年の恋華祭が楽しみね…。ねぇ副会長。」
二輪の百合の花が、静かに見つめ合っていた。
――ここは恋華女子高等学園。
恋する乙女達が、自らの胸に秘めた想いを「武装(力)」に変えて戦う、愛の修羅場。
恋をしていないと入学できないこの学園で、自分の恋を否定し続ける咲希の運命や如何に…。




